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第七章 天覧試合

第百二十六話 小隊対抗模擬戦トーナメント

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 アレク達が久々に士官学校に登校すると、入り口には『奉祝 皇太子殿下 御成婚』という横断幕と帝国旗が掲げられ、士官学校内は祝賀ムードで一杯であった。



--昼休み。

「はぁ~」

 アレクは、教室の窓際の席に座りボーッと窓の外を眺めながら、ため息をつく。

「どうしたの? ため息なんかついちゃって」

 アレクが声のした方を向くと、声の主であるナディアがアレクの元にやってくる。

 ナディアは、前の席に座ってアレクの方を向くと、話し掛ける。

「青春のため息の原因を当ててあげようか?」

 ナディアからの問いにアレクは力無く答える。

「んん?」

 ナディアが悪戯っぽくアレクに告げる。

「アレクの『憧れの美人の年上お姉さん』が皇太子殿下と結婚しちゃったんで、落ち込んでいるんでしょ?」

「いや・・・そんなんじゃ・・・」

 アレクは否定したが、ナディアの言葉は図星であった。




 兄のジークが三人の妃と結婚した。

 正妃がソフィア、第二妃がアストリッド、第三妃がアレクが憧れるフェリシアであった。

 ジークと結婚後のフェリシアは、アレクの『義理のお姉さん』という事になるのだが、アレクとしてはフェリシアの幸せを願う一方で、自分以外の男のものになってしまうという悔しさもあり、複雑な心境であった。

 頭では理解できても、心が付いていかない。




 ナディアはそう言うと、ボーッとしたままのアレクの頬に両手で触れながら、耳元に顔を近づけて囁く。

「アレク。お姉さんが慰めてあげようか?」

 次の瞬間、エルザの叫び声が聞こえる。

「ああっ! ナディア、ズルい! 抜け駆けしてる!!」

 そう叫ぶと、エルザはアレクとナディアの元に駆け寄って来て、ナディアから取り返す様にボーッとしたままのアレクの頭を自分の胸に抱く。

「アレクは、エルザちゃんのおっ●いが良いんだもんね~」

 抱き締められたアレクは、エルザの胸の谷間に顔をうずめる。

「・・・」

 アレクが何かを呟くが、エルザの胸の谷間に顔をうずめているため、周囲には聞き取れなかった。

 エルザが聞き返す。

「ん? どうしたの? アレク??」

 アレクは、エルザの胸の谷間から顔を起こして呟く。

「く・・・苦しい」




 アレク達三人のところに、アルや他の小隊メンバー達がやって来る。

 アルが呆れたようにアレクに告げる。

「・・・アレク。昼間っから乳繰り合ってるのかよ?」

 アルの言葉にアレクは苦笑いする。

「そうじゃないよ」

「まぁ、いい。・・・これを見ろよ!」

 アルは一枚の羊皮紙を取り出すと、小隊の皆に見せる。

 小隊の皆が羊皮紙に掛かれた見出しを読み上げる。

「「皇太子殿下 御成婚記念 小隊対抗 模擬戦トーナメント?」」

 アルが説明し始める。

「そうさ。この度、皇太子殿下の御成婚を記念して、この士官学校で小隊対抗の模擬戦トーナメント戦が開かれるんだ! 『天覧試合』ってことだから、皇帝陛下や皇妃殿下、皇太子殿下も見に来るぞ!!」

 アレクの顔が真剣な表情になる。

(父上と母上が・・・。兄上も見に来るのか・・・)

 トゥルムが口を開く。

「皇帝陛下の御前で武芸を披露するとは! 我が一族の武名を上げる好機だな!!」

 ドミトリーも口を開く。

「うむ。拙僧も修行の成果を披露したいものだ!」

 ナディアがアレクを冷やかす。

「皇太子殿下も御覧になるなら、御妃様達も来るんじゃない? ・・・アレクの『憧れの美人の年上お姉さん』も来るかもよ??」

 ルイーゼが可愛らしくアレクに告げる。

「皇帝陛下や皇太子殿下、それに『』の前で無様に負ける訳にはいかないわよ~。頑張ってカッコいいところを見せるしかないわね。アレク」

 ナタリーも続く。

「そうよ! カッコいいところを見せなきゃ!!」

 苦笑いしたアレクは、皆の前でガッツポーズを取る。。

「良し! 頑張るぞ! カッコいいところを見せないとな!!」

 女の子達は互いに顔を見合わせると、口元に手を当ててクスクスと笑う。



--放課後。

 一日の授業が終わり小腹が空いたアレクは、小隊の仲間達と補給処に買い出しに寄る。

 補給処には、ルドルフが居た。

 アルがルドルフに話し掛ける。

「お? ルドルフじゃね~か。お前も買い出しか?」

 ルドルフが答える。

「まぁな」

 ルドルフが続ける。

「それより、小隊対抗模擬戦トーナメントの件は聞いたか?」

 アルが答える。

「聞いた、聞いた」

 ルドルフが真剣な顔でアレク達に告げる。

「今度の小隊対抗模擬戦トーナメント、オレは優勝を狙うつもりだ」

 ルドルフの言葉にその場に居る皆が驚く。

 アルがルドルフを冷やかす。

「おおっ!? 帝国騎士十字章に輝くオレ達がいるのに、優勝狙い宣言とは、大きく出たね~」

 ルドルフがルイーゼの方を見て告げる。

「・・・オレはこのトーナメントで優勝して名を上げ、父を探すつもりだ」

 ルイーゼがルドルフに尋ねる。

「お父さんを探しているの?」

 ルドルフが答える。

「ああ。母は、父の名前を明かさず、父は『至高にして最強の騎士』とだけ教えてくれた。天覧試合のトーナメントでオレが優勝したら、名が上がって父を探しやすくなるだろ?」

 ルドルフの言葉を聞いたルイーゼは、こめかみに指を当てると、少し考える。

(『至高にして最強の騎士』・・・? どこかで聞いた事があるような・・・)

 ルイーゼは、少しの間考えたが、思い出せなかった。

 ルイーゼがルドルフに尋ねる。

「お父さんを探して、どうするの?」

 ルドルフが答える。

「まず、殴り倒してやりたいな。・・・母は、働きながらオレを育て、苦労していた。父が母とオレを捨てた理由が知りたい」

 ルドルフは、アレクの胸に拳を当てて告げる。

「天覧試合で勝負だ。優勝は、グリフォン小隊が頂く」

 アレクもルドルフの胸に拳を当てて返す。

「ふふ。最強の座はオレ達、ユニコーン小隊が頂く。勝負だな」

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