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第五章 霊樹の森
第九十六話 睦事のあと、大空のデート
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アレクは、二人の部屋を後にしたあと、もう一度、入浴して自分の部屋に戻った。
部屋ではルイーゼがアレクの帰りを待っていて、アレクの行動を怪しんでいたが、深い追及はしなかった。
その晩、アレクは、ルイーゼを抱いて寝た。
--翌朝。
アレクとルイーゼの二人が起きてラウンジに行くと、既に他の小隊メンバー達がラウンジの入り口に集まっていた。
ナディアとエルザがアレクとルイーゼの元にやってくる。
いつもならアレクやルイーゼをからかったり、冷やかしたりするエルザが、上目遣いでアレクをチラッと見ると、真っ赤な顔で照れて俯く。
ナディアは、アレクの目の前に歩いて来ると、アレクの制服の襟とネクタイを直し、アレクの耳元で囁く。
「また、抱いてね」
ナディアは、微笑みながらアレクにそう告げると、ラウンジの中に入って行った。
エルザが小隊のメンバーに大きな声で告げる。
「さあ、朝ごはんにしましょ!!」
そう告げると、エルザはナディアの後を追っていく。
エルザとナディアの豹変した態度に小隊のメンバーは訝しむ。
アルがアレクに尋ねる。
「・・・お前、あの二人と何かあったのか?・・・急に、女らしくなったというか、しおらしくなっちゃって」
アレクがしどろもどろに答える。
「いや、オレは、二人の相談に乗っただけ・・・」
ルイーゼとナタリーの女の子二人は、アレクとナディア、エルザの関係に勘づいたようであった。
ラウンジの入り口にカルラが駆け込んで来る。
「おはようございま~す! すみません、遅くなりました!!」
ルイーゼがアレクにチクリと告げる。
「アレク。四人目の奥さんが来たわよ」
「え!?」
カルラは、笑顔で小隊メンバーに挨拶すると、ラウンジの自分の職場に向かって行った。
拗ねていたルイーゼだが、機嫌を直すのにそう時間は掛からなかった。
バレンシュテット帝国は、一夫多妻制であった。
--飛行空母 艦橋
ジークとヒマジンは艦橋に居た。
ヒマジンが笑顔で口を開く。
「殿下。あと半日ほどで帝都です。帝都に戻ったら凱旋式ですな」
ジークが答える。
「今回の遠征では、すっかり伯爵の世話になったな。礼を言う」
「いえいえ。今度の勝利は、殿下の尽力と、陛下、それにソフィア様のお力が大きいかと」
「謙遜だな。鼠人の討伐とトラキア連邦の制圧における帝国機甲兵団の活躍、見事であった」
「・・・お褒め頂き、光栄です」
ジークはヒマジンを労うと艦橋を後にする。
ジークには帝都に戻ると帝国軍の凱旋式があり、その後は士官学校を飛び級で卒業、妃達との結婚式と、様々な行事が予定されていた。
ジークは、フェリシアの部屋に向かう。
ジークがフェリシアの部屋のドアをノックすると、中からフェリシアの声がする。
「どうぞ」
ジークは、ドアを開けてフェリシアの部屋の中に入る。
「失礼する」
部屋に入ってきたジークを見たフェリシアは、座っていた椅子から立ち上がって、ジークに一礼する。
「殿下」
ジークは、頭を下げるフェリシアに向けて右手をかざすと、部屋の奥に歩みを進め、椅子に腰掛ける。
フェリシアが続ける。
「如何されましたか?」
ジークは、微笑みながら告げる。
「部屋の中で退屈しているのではないか、と思ってな。顔を見に来た」
フェリシアは照れたように答える。
「まぁ」
ジークが口を開く。
「貴女は、空を飛んだ事はあるか?」
突然のジークからの質問にフェリシアは驚く。
「え?」
ジークは、少し気不味そうに言葉を改める。
「聞き方が悪かったな。飛空艇に乗ったことはあるか?」
フェリシアは、改めて答える。
「いいえ。ありません」
ジークは、笑顔で答える。
「そうか。なら、飛空艇に乗ってみないか? ずっと部屋に閉じこもっていると気が滅入るだろう。どうだ?」
ジークからのデートの誘いであった。
フェリシアは、ジークからの誘いを受ける。
「はい」
ジークは、傍らの監視役の女性士官に命じる。
「飛空艇と彼女の飛行服を用意しろ。それと、着替えを手伝ってやれ」
「畏まりました」
程なく女性士官はフェリシアのサイズの飛行服を用意し、フェリシアは女性士官に着付けを教わりながら飛行服に着替える。
ジークは、着替えたフェリシアを連れて、格納庫に向かう。
格納庫でジークとフェリシアの二人の姿を見た将校が、ジークの元へ駆け寄って来るとジークに尋ねる。
「殿下、どちらへ?」
「飛空艇で、ちょっと出てくる」
「では、護衛を・・・」
「無用だ」
「は?」
ジークは、軽く握った右手の親指で自分の後ろに居る飛行服姿のフェリシアを指差しながら、将校に告げる。
「彼女と二人で飛ぶ。・・・野暮な事はするな」
デートだと理解した将校は、慌ててジークに頭を下げる。
「これは・・・失礼致しました」
畏まる将校を尻目に、ジークとフェリシアは飛空艇に乗り込む。
ジークが飛空艇の傍にいる整備員に告げる。
「出るぞ」
「了解しました!」
整備員は、同僚と共にジークとフェリシアが乗る飛空艇をエレベーターに押して乗せると、同僚の整備員に向かって叫ぶ。
「殿下が出る! エレベーターを上げろ!!」
整備員が動力を切り替えると、飛行甲板に向けてジークとフェリシアが乗る飛空艇は、エレベーターで上昇していく。
程なく、二人が乗る飛空艇は、飛行甲板に出る。
上空の冷たい風が二人の顔を撫でる。
ジークは、伝声管でフェリシアに告げる。
「行くぞ」
「はい」
ジークは、自分一人で飛行手順を実施する。
「発動機始動!」
ジークは、掛け声と共にエンジンの起動ボタンを押す。
魔導発動機の音が響く。
「飛行前点検、開始!」
ジークは掛け声の後、スイッチを操作して機能を確認する。
「発動機、航法計器、浮遊水晶、降着装置、昇降舵、全て異常無し!」
フェリシアは、ジークの飛行前点検を珍しそうに眺めている。
ジークは、浮遊水晶に魔力を加えるバルブを開く。
「離陸!」
ジークの声の後、大きな団扇を扇いだような音と共に機体が浮かび上がる。
「きゃっ!!」
驚いたフェリシアが軽い悲鳴を上げる。
「発進!」
ジークは、クラッチをゆっくりと繋ぎ、スロットルを開ける。
プロペラの回転数が上がり、風切り音が大きくなると、ジークとフェリシアの乗る機体は、加速しながら飛行甲板の上を進む。
やがて飛行甲板の終わりまでくると、二人の乗る機体は大空へと舞い上がった。
「3,000、・・・3、500、・・・4、000」
高度計を読み上げるジークの声が伝声管を伝って、フェリシアに聞こえてくる。
フェリシアは、地上の景色を見た。
眼下には、帝国東部の開拓地、畑と防風林が織りなす畑作地帯の農村風景が広がる。
地平線に視点を移すと、はるか向こうに帝国とトラキアの国境の山脈と森林が連なる。
フェリシアは、思わず感嘆の声が漏れる。
「・・・綺麗」
フェリシアは空を見上げる。
太陽。
そして、どこまでも続いているであろう澄んだ青空。
(空がこんなに広いなんて。)
フェリシアは、今まで自分が居た『トラキア連邦』という狭い世界の外に、広大な世界が広がっている事に改めて気が付く。
ジークは、フェリシアに語り掛ける。
「・・・どうだ? 飛空艇は? 空は心地良いだろう? 気に入ってくれれば良いが」
ジークの優しい心使いにフェリシアは素直に感謝する。
「はい。ありがとうございます」
「そこから見えるだろう、地上が。・・・ここから見渡せる土地の全てが、我がバレンシュテット帝国の領土だ」
ジークの言葉にフェリシアは驚いて地上を見回す。
地平線から山脈まで続く、緑の広がる豊かな耕地。
その耕地を潤す河川の豊かな水。
そこで暮らす人々。
「・・・見渡す限り・・・全ての土地が・・・」
フェリシアの眼下に広がっている緑豊かな耕地は、全てバレンシュテット帝国の領土であった。
部屋ではルイーゼがアレクの帰りを待っていて、アレクの行動を怪しんでいたが、深い追及はしなかった。
その晩、アレクは、ルイーゼを抱いて寝た。
--翌朝。
アレクとルイーゼの二人が起きてラウンジに行くと、既に他の小隊メンバー達がラウンジの入り口に集まっていた。
ナディアとエルザがアレクとルイーゼの元にやってくる。
いつもならアレクやルイーゼをからかったり、冷やかしたりするエルザが、上目遣いでアレクをチラッと見ると、真っ赤な顔で照れて俯く。
ナディアは、アレクの目の前に歩いて来ると、アレクの制服の襟とネクタイを直し、アレクの耳元で囁く。
「また、抱いてね」
ナディアは、微笑みながらアレクにそう告げると、ラウンジの中に入って行った。
エルザが小隊のメンバーに大きな声で告げる。
「さあ、朝ごはんにしましょ!!」
そう告げると、エルザはナディアの後を追っていく。
エルザとナディアの豹変した態度に小隊のメンバーは訝しむ。
アルがアレクに尋ねる。
「・・・お前、あの二人と何かあったのか?・・・急に、女らしくなったというか、しおらしくなっちゃって」
アレクがしどろもどろに答える。
「いや、オレは、二人の相談に乗っただけ・・・」
ルイーゼとナタリーの女の子二人は、アレクとナディア、エルザの関係に勘づいたようであった。
ラウンジの入り口にカルラが駆け込んで来る。
「おはようございま~す! すみません、遅くなりました!!」
ルイーゼがアレクにチクリと告げる。
「アレク。四人目の奥さんが来たわよ」
「え!?」
カルラは、笑顔で小隊メンバーに挨拶すると、ラウンジの自分の職場に向かって行った。
拗ねていたルイーゼだが、機嫌を直すのにそう時間は掛からなかった。
バレンシュテット帝国は、一夫多妻制であった。
--飛行空母 艦橋
ジークとヒマジンは艦橋に居た。
ヒマジンが笑顔で口を開く。
「殿下。あと半日ほどで帝都です。帝都に戻ったら凱旋式ですな」
ジークが答える。
「今回の遠征では、すっかり伯爵の世話になったな。礼を言う」
「いえいえ。今度の勝利は、殿下の尽力と、陛下、それにソフィア様のお力が大きいかと」
「謙遜だな。鼠人の討伐とトラキア連邦の制圧における帝国機甲兵団の活躍、見事であった」
「・・・お褒め頂き、光栄です」
ジークはヒマジンを労うと艦橋を後にする。
ジークには帝都に戻ると帝国軍の凱旋式があり、その後は士官学校を飛び級で卒業、妃達との結婚式と、様々な行事が予定されていた。
ジークは、フェリシアの部屋に向かう。
ジークがフェリシアの部屋のドアをノックすると、中からフェリシアの声がする。
「どうぞ」
ジークは、ドアを開けてフェリシアの部屋の中に入る。
「失礼する」
部屋に入ってきたジークを見たフェリシアは、座っていた椅子から立ち上がって、ジークに一礼する。
「殿下」
ジークは、頭を下げるフェリシアに向けて右手をかざすと、部屋の奥に歩みを進め、椅子に腰掛ける。
フェリシアが続ける。
「如何されましたか?」
ジークは、微笑みながら告げる。
「部屋の中で退屈しているのではないか、と思ってな。顔を見に来た」
フェリシアは照れたように答える。
「まぁ」
ジークが口を開く。
「貴女は、空を飛んだ事はあるか?」
突然のジークからの質問にフェリシアは驚く。
「え?」
ジークは、少し気不味そうに言葉を改める。
「聞き方が悪かったな。飛空艇に乗ったことはあるか?」
フェリシアは、改めて答える。
「いいえ。ありません」
ジークは、笑顔で答える。
「そうか。なら、飛空艇に乗ってみないか? ずっと部屋に閉じこもっていると気が滅入るだろう。どうだ?」
ジークからのデートの誘いであった。
フェリシアは、ジークからの誘いを受ける。
「はい」
ジークは、傍らの監視役の女性士官に命じる。
「飛空艇と彼女の飛行服を用意しろ。それと、着替えを手伝ってやれ」
「畏まりました」
程なく女性士官はフェリシアのサイズの飛行服を用意し、フェリシアは女性士官に着付けを教わりながら飛行服に着替える。
ジークは、着替えたフェリシアを連れて、格納庫に向かう。
格納庫でジークとフェリシアの二人の姿を見た将校が、ジークの元へ駆け寄って来るとジークに尋ねる。
「殿下、どちらへ?」
「飛空艇で、ちょっと出てくる」
「では、護衛を・・・」
「無用だ」
「は?」
ジークは、軽く握った右手の親指で自分の後ろに居る飛行服姿のフェリシアを指差しながら、将校に告げる。
「彼女と二人で飛ぶ。・・・野暮な事はするな」
デートだと理解した将校は、慌ててジークに頭を下げる。
「これは・・・失礼致しました」
畏まる将校を尻目に、ジークとフェリシアは飛空艇に乗り込む。
ジークが飛空艇の傍にいる整備員に告げる。
「出るぞ」
「了解しました!」
整備員は、同僚と共にジークとフェリシアが乗る飛空艇をエレベーターに押して乗せると、同僚の整備員に向かって叫ぶ。
「殿下が出る! エレベーターを上げろ!!」
整備員が動力を切り替えると、飛行甲板に向けてジークとフェリシアが乗る飛空艇は、エレベーターで上昇していく。
程なく、二人が乗る飛空艇は、飛行甲板に出る。
上空の冷たい風が二人の顔を撫でる。
ジークは、伝声管でフェリシアに告げる。
「行くぞ」
「はい」
ジークは、自分一人で飛行手順を実施する。
「発動機始動!」
ジークは、掛け声と共にエンジンの起動ボタンを押す。
魔導発動機の音が響く。
「飛行前点検、開始!」
ジークは掛け声の後、スイッチを操作して機能を確認する。
「発動機、航法計器、浮遊水晶、降着装置、昇降舵、全て異常無し!」
フェリシアは、ジークの飛行前点検を珍しそうに眺めている。
ジークは、浮遊水晶に魔力を加えるバルブを開く。
「離陸!」
ジークの声の後、大きな団扇を扇いだような音と共に機体が浮かび上がる。
「きゃっ!!」
驚いたフェリシアが軽い悲鳴を上げる。
「発進!」
ジークは、クラッチをゆっくりと繋ぎ、スロットルを開ける。
プロペラの回転数が上がり、風切り音が大きくなると、ジークとフェリシアの乗る機体は、加速しながら飛行甲板の上を進む。
やがて飛行甲板の終わりまでくると、二人の乗る機体は大空へと舞い上がった。
「3,000、・・・3、500、・・・4、000」
高度計を読み上げるジークの声が伝声管を伝って、フェリシアに聞こえてくる。
フェリシアは、地上の景色を見た。
眼下には、帝国東部の開拓地、畑と防風林が織りなす畑作地帯の農村風景が広がる。
地平線に視点を移すと、はるか向こうに帝国とトラキアの国境の山脈と森林が連なる。
フェリシアは、思わず感嘆の声が漏れる。
「・・・綺麗」
フェリシアは空を見上げる。
太陽。
そして、どこまでも続いているであろう澄んだ青空。
(空がこんなに広いなんて。)
フェリシアは、今まで自分が居た『トラキア連邦』という狭い世界の外に、広大な世界が広がっている事に改めて気が付く。
ジークは、フェリシアに語り掛ける。
「・・・どうだ? 飛空艇は? 空は心地良いだろう? 気に入ってくれれば良いが」
ジークの優しい心使いにフェリシアは素直に感謝する。
「はい。ありがとうございます」
「そこから見えるだろう、地上が。・・・ここから見渡せる土地の全てが、我がバレンシュテット帝国の領土だ」
ジークの言葉にフェリシアは驚いて地上を見回す。
地平線から山脈まで続く、緑の広がる豊かな耕地。
その耕地を潤す河川の豊かな水。
そこで暮らす人々。
「・・・見渡す限り・・・全ての土地が・・・」
フェリシアの眼下に広がっている緑豊かな耕地は、全てバレンシュテット帝国の領土であった。
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