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第五章 霊樹の森
第八十五話 霊樹の森
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--少し時間を戻した 霊樹の森 奥深く
霊樹の森の奥深く。
樹齢千年は越えているであろう大木の樹冠をいくつも跨るようにその城は築かれていた。
木の上に築かれている城は、魔法により不可視化され通常ならば人目に触れることは無い。
その城の中央にある豪華な居館の『謁見の間』に十人程の者達が集まっていた。
いずれの者も人間ではない。
玉座に座っているのは、褐色の肌に尖った耳、意匠を凝らしたミスリルの鎧を身に付け、レイピアを腰から下げている。
ダークエルフの魔法騎士、シグマ・アイゼナハトであった。その傍らには、同じくダークエルフの二人の従者が控えている。
その三人の前に七体の鼠人達が平伏しており、いずれも鼠人の族長達であった。
それぞれ族長達は、動物の革の衣服をまとい、動物の骨、あるいは人間の頭蓋骨などのアクセサリーで自分を飾り立てている。
鼠人の族長の一人が口を開く。
「ご命令通り、七氏族全ての軍勢で帝国と戦いましたが、帝国軍は極めて強力で我々の軍は壊滅しました。もはや、我々には帝国軍に抗う術がありません。シグマ様、なにとぞお力添えを・・・」
玉座に座るダークエルフのシグマは、足を組み、玉座のひじ掛けに右肘をつくと右手の上に顎を乗せ、族長達に冷たく告げる。
「ほう? たかが鼠人の分際で、我々の手を煩わせるつもりか? 『女王陛下に忠誠を誓う』と言ったのは嘘か?」
族長の一人が必死に答える。
「滅相もありません! 我々、鼠人の七氏族は、ドロテア女王陛下に忠誠を誓っております! 合成獣を作れる錬成陣も、このような新天地も与えて頂き、感謝しております!!」
シグマは歪んだ笑みを浮かべる。
「フン。・・・なら、良い。すぐ軍勢を立て直して攻撃しろ」
別の族長が口を開く。
「只今、鼠合成獣を錬成して軍勢を立て直している最中です。なにとぞ、時間の猶予を頂きたく。帝国軍は、飛行戦艦に蒸気戦車、飛竜などを使い、帝国騎士は重武装で士気も練度も高く、トラキア軍とは比べ物にならないほど強力です。・・・我々だけでは、まるで歯が立ちません」
シグマは、意見を述べた族長に対して侮蔑の視線を向けると呟く。
「フン。・・・雑魚が」
ダークエルフと鼠人の族長達が会談していると、突然、大きな地鳴りと共に城が揺れ始める。
鼠人の族長達がうろたえる。
「「地震!?」」
「「地震だ!!」」
シグマは玉座に座ったまま、傍らのダークエルフの従者に話し掛ける。
「何事だ?」
「調べて参ります」
従者は一礼して答えると、謁見の間を後にする。
シグマは族長達に告げる。
「落ち着け。この城は、地震があろうと、地上がどうなろうと問題無い」
ほどなく従者が戻ってきて、シグマに耳打ちして報告する。
「なんだと!?」
そう言うとシグマは、組んでいた足を直し驚いた顔をして従者の顔の方を振り向く。
シグマは、嫌味たっぷりに鼠人の族長達に告げる。
「お前たちの地下都市が帝国軍に攻撃されたとの事だ。街中が炎上しているらしいぞ」
驚いた鼠人の族長たちがざわめく。
シグマは、動揺する鼠人の族長達に冷たく言い放つ。
「人間ごときに嗅ぎつけられるとは、ドジを踏んだな。我々はここを引き払う。後はお前達で好きにしろ」
鼠人の族長達は、懇願し始める。
「「シグマ様!」」
「「シグマ様! お助け下さい!!」」
「「我々を見捨てないで下さい!!」」
シグマとその従者たちは、懇願する鼠人の族長達を横目で一瞥すると、謁見の間を後にする。
謁見の間から出て廊下を歩くシグマが付き従う従者に告げる。
「・・・霊樹の森を動かすぞ」
「判りました」
--地下都市から地上へ出る地下道 ユニコーン小隊
アレク達は、地下道から急いで地上に出る。
地下道から地上に出た順番は、アレク、ルイーゼ、アル、ナタリー、ナディア、エルザ、トゥルム、最後がドミトリーであった。
最後に地上に出て来たドミトリーは、汗だくで息切れしていた。
ドミトリーが口を開く。
「はぁ、はぁ、呼吸しなければ。呼吸しよう。呼吸を。・・・はぁ、はぁ、ドワーフは、短距離型だ。・・・はぁ、はぁ、長距離は苦手なんだ」
トゥルムが肩で息をしているドミトリーの背中をさすりながら話し掛ける。
「・・・大丈夫か?」
ドミトリーが答える。
「・・・すまぬ。」
地上に出たアレク達は、皆、呼吸を整えていると、大きな地震が襲ってくる。
アルが軽口を叩く。
「今度は何だ!?」
ナタリーが口を開く。
「木が・・・動いている!?」
アレクが叫ぶ。
「皆、木から離れろ!!」
大きな地震と共に、森の中の樹齢千年を超えているであろう大木は、少しずつ動き出すと、一本、また一本と次々に空に浮かんでいく。
大木の根の中心に魔法の青白い光を放ち続ける巨大な六角柱の魔力水晶の塊が見える。
アレクが口を開く。
「まさか!? 木が・・・飛んだ??」
トゥルムも口を開く。
「どうなっているんだ!?」
次々と空に浮かんでいく大木を見上げながらルイーゼが呟く。
「これが・・・霊樹の森」
ナタリーも次々と空に浮かんでいく大木を見上げて口を開く。
「木の根元に魔力水晶がある。きっと、あれの魔力で浮かんでいるのよ!」
エルザが口を開く。
「『空飛ぶ木』なんて、初めて見たわ!!」
ナディアも口を開く。
「空に浮かんでいる木の数から言うと、『木』というより『森』ね」
大木が空に浮かぶと、その大木があった地面には大穴が空き、中から黒い煙が地上に立ち昇って来る。
黒い煙は、森の至る所から立ち昇っていた。
鼠人の地下都市が炎上する黒煙であった。
アレクが口を開く。
「そうか! 鼠人の地下都市の天井で光っていた巨大な六角柱の水晶は、あの空飛ぶ大木の魔力水晶だったのか!!」
空に浮かぶ無数の大木の森、『霊樹の森』がアレク達の目の前に現れる。
霊樹の森の奥深く。
樹齢千年は越えているであろう大木の樹冠をいくつも跨るようにその城は築かれていた。
木の上に築かれている城は、魔法により不可視化され通常ならば人目に触れることは無い。
その城の中央にある豪華な居館の『謁見の間』に十人程の者達が集まっていた。
いずれの者も人間ではない。
玉座に座っているのは、褐色の肌に尖った耳、意匠を凝らしたミスリルの鎧を身に付け、レイピアを腰から下げている。
ダークエルフの魔法騎士、シグマ・アイゼナハトであった。その傍らには、同じくダークエルフの二人の従者が控えている。
その三人の前に七体の鼠人達が平伏しており、いずれも鼠人の族長達であった。
それぞれ族長達は、動物の革の衣服をまとい、動物の骨、あるいは人間の頭蓋骨などのアクセサリーで自分を飾り立てている。
鼠人の族長の一人が口を開く。
「ご命令通り、七氏族全ての軍勢で帝国と戦いましたが、帝国軍は極めて強力で我々の軍は壊滅しました。もはや、我々には帝国軍に抗う術がありません。シグマ様、なにとぞお力添えを・・・」
玉座に座るダークエルフのシグマは、足を組み、玉座のひじ掛けに右肘をつくと右手の上に顎を乗せ、族長達に冷たく告げる。
「ほう? たかが鼠人の分際で、我々の手を煩わせるつもりか? 『女王陛下に忠誠を誓う』と言ったのは嘘か?」
族長の一人が必死に答える。
「滅相もありません! 我々、鼠人の七氏族は、ドロテア女王陛下に忠誠を誓っております! 合成獣を作れる錬成陣も、このような新天地も与えて頂き、感謝しております!!」
シグマは歪んだ笑みを浮かべる。
「フン。・・・なら、良い。すぐ軍勢を立て直して攻撃しろ」
別の族長が口を開く。
「只今、鼠合成獣を錬成して軍勢を立て直している最中です。なにとぞ、時間の猶予を頂きたく。帝国軍は、飛行戦艦に蒸気戦車、飛竜などを使い、帝国騎士は重武装で士気も練度も高く、トラキア軍とは比べ物にならないほど強力です。・・・我々だけでは、まるで歯が立ちません」
シグマは、意見を述べた族長に対して侮蔑の視線を向けると呟く。
「フン。・・・雑魚が」
ダークエルフと鼠人の族長達が会談していると、突然、大きな地鳴りと共に城が揺れ始める。
鼠人の族長達がうろたえる。
「「地震!?」」
「「地震だ!!」」
シグマは玉座に座ったまま、傍らのダークエルフの従者に話し掛ける。
「何事だ?」
「調べて参ります」
従者は一礼して答えると、謁見の間を後にする。
シグマは族長達に告げる。
「落ち着け。この城は、地震があろうと、地上がどうなろうと問題無い」
ほどなく従者が戻ってきて、シグマに耳打ちして報告する。
「なんだと!?」
そう言うとシグマは、組んでいた足を直し驚いた顔をして従者の顔の方を振り向く。
シグマは、嫌味たっぷりに鼠人の族長達に告げる。
「お前たちの地下都市が帝国軍に攻撃されたとの事だ。街中が炎上しているらしいぞ」
驚いた鼠人の族長たちがざわめく。
シグマは、動揺する鼠人の族長達に冷たく言い放つ。
「人間ごときに嗅ぎつけられるとは、ドジを踏んだな。我々はここを引き払う。後はお前達で好きにしろ」
鼠人の族長達は、懇願し始める。
「「シグマ様!」」
「「シグマ様! お助け下さい!!」」
「「我々を見捨てないで下さい!!」」
シグマとその従者たちは、懇願する鼠人の族長達を横目で一瞥すると、謁見の間を後にする。
謁見の間から出て廊下を歩くシグマが付き従う従者に告げる。
「・・・霊樹の森を動かすぞ」
「判りました」
--地下都市から地上へ出る地下道 ユニコーン小隊
アレク達は、地下道から急いで地上に出る。
地下道から地上に出た順番は、アレク、ルイーゼ、アル、ナタリー、ナディア、エルザ、トゥルム、最後がドミトリーであった。
最後に地上に出て来たドミトリーは、汗だくで息切れしていた。
ドミトリーが口を開く。
「はぁ、はぁ、呼吸しなければ。呼吸しよう。呼吸を。・・・はぁ、はぁ、ドワーフは、短距離型だ。・・・はぁ、はぁ、長距離は苦手なんだ」
トゥルムが肩で息をしているドミトリーの背中をさすりながら話し掛ける。
「・・・大丈夫か?」
ドミトリーが答える。
「・・・すまぬ。」
地上に出たアレク達は、皆、呼吸を整えていると、大きな地震が襲ってくる。
アルが軽口を叩く。
「今度は何だ!?」
ナタリーが口を開く。
「木が・・・動いている!?」
アレクが叫ぶ。
「皆、木から離れろ!!」
大きな地震と共に、森の中の樹齢千年を超えているであろう大木は、少しずつ動き出すと、一本、また一本と次々に空に浮かんでいく。
大木の根の中心に魔法の青白い光を放ち続ける巨大な六角柱の魔力水晶の塊が見える。
アレクが口を開く。
「まさか!? 木が・・・飛んだ??」
トゥルムも口を開く。
「どうなっているんだ!?」
次々と空に浮かんでいく大木を見上げながらルイーゼが呟く。
「これが・・・霊樹の森」
ナタリーも次々と空に浮かんでいく大木を見上げて口を開く。
「木の根元に魔力水晶がある。きっと、あれの魔力で浮かんでいるのよ!」
エルザが口を開く。
「『空飛ぶ木』なんて、初めて見たわ!!」
ナディアも口を開く。
「空に浮かんでいる木の数から言うと、『木』というより『森』ね」
大木が空に浮かぶと、その大木があった地面には大穴が空き、中から黒い煙が地上に立ち昇って来る。
黒い煙は、森の至る所から立ち昇っていた。
鼠人の地下都市が炎上する黒煙であった。
アレクが口を開く。
「そうか! 鼠人の地下都市の天井で光っていた巨大な六角柱の水晶は、あの空飛ぶ大木の魔力水晶だったのか!!」
空に浮かぶ無数の大木の森、『霊樹の森』がアレク達の目の前に現れる。
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