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第百三十九話 西方協商会議
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-- カスパニア王国 王都セビーリャ 王宮
カスパニア王国は、バレンシュテット帝国から遥か南西に位置する半島に位置していた。
歴史のある古い王城の一室に、『西方協商』を形成する国々の王や代表達が集まっていた。
盟主たるカスパニア国王フェリペ二世を上座に、その左右に国王達が長テーブルを囲んで席に並ぶ。
この会議には、西方協商に参加する様々な中小国の王や代表が参加していたが、発言権を持っているのは、列強と呼ばれる主要国家だけであった。
司会を務めるカスパニアの王太子カロカロが口を開く。
「国際情勢と世界大戦の戦況を踏まえ、我等が西方協商の方針と列強各国の戦況について、盟友である諸国と情報を共有したいと思う。・・・まず、我がカスパニアの戦況から」
カスパニア王立騎士団の騎士レイドリックが大きな世界地図を部屋の壁に貼り出す。
カロカロが世界地図を指し示しながら続ける。
「・・・我がカスパニア王国は、北部同盟の盟主であるスベリエ王国を正面の敵として見据え、この氷竜海全域を戦場として戦っている。製鉄を主産業とする軍事国家スベリエの軍事力は、北部同盟最強といって良い。・・・だが、弱点もある」
参加者の王の一人が尋ねる。
「スベリエの弱点とは?」
カロカロが答える。
「スベリエの弱点とは『食糧』だ。国が寒冷地に位置するため、スベリエは自国民を養えるだけの食糧を自給することができない。海路での輸入に頼っている」
カロカロが続ける。
「以前、我がカスパニアが、スベリエの外洋への出入り口であるゴズフレズ海峡を抑えようと出兵したが、バレンシュテット帝国の介入によって失敗した」
フェリペ二世が口を開く。
「バレンシュテット帝国を大戦に介入させてはならん!彼の帝国は強大だ」
カロカロが答える。
「父上、それは判っております」
ヴェネト共和国のアノーテ・デ・ザンテが尋ねる。
「それで。現在の戦況はどうなのだ?」
ヴェネト共和国は、通常の国家とは異なった『有力商会の集合体』であり、ヴェネト共和国では、商人達の社会的立場は高かったが、軍人達の社会的立場を低く見ていた。
アノーテ・デ・ザンテは、有力商会の一つ『あのて珍品堂』の代表であり、ヴェネト共和国の代表として会議に参加していた。
カロカロが答える。
「スベリエとの現在の戦況は、六:四で我がカスパニアが優勢に戦を進めている。我がカスパニアは、スベリエの食糧調達基地であるアルビオン諸島の攻略を計画している」
アルビオン諸島。
氷竜海の北方に位置する五つの島からなるスベリエ王国領の諸島であり、同国の外洋貿易の中継港であるだけでなく、同国が冬季の食糧を調達する北洋漁業の母港でもあった。
カロカロが口を開く。
「次にヴェネト共和国の戦況を聞こう」
カロカロが席に着くと、アノーテ・デ・ザンテが世界地図の前に立ち、地図を指し示しながら戦況を話し始める。
「我がヴェネト共和国は、ソユット帝国を正面の敵として位置付け、南大洋全域を戦場として戦っている」
アノーテ・デ・ザンテは、世界地図を指し示しながら、苦々しい顔をして続ける。
「我等は、戦略的要衝に位置する自治領・空中都市イル・ラヴァーリを制圧しようとしたが、失敗した。・・・自治政府はバレンシュテット帝国に支援を求め、彼の帝国が空中都市イル・ラヴァーリを保護下に置いたためだ」
アノーテの説明に部屋中に動揺が走る。
「なんと!?」
「帝国が空中都市を保護下に・・・」
「彼の帝国は、南大洋まで進出してきたのか・・・」
アノーテが続ける。
「空中都市を巡る戦いで我がヴェネトは、一個傭兵団を失った。・・・だが、南方大陸に軍を上陸させ、南大洋と南方大陸を主戦場としてソユット帝国と継戦中だ」
カロカロが尋ねる。
「ソユットは、南大洋の小国メフメトに上陸して、バレンシュテット帝国とやりあったと聞いたが?」
アノーテが答える。
「・・・その通りだ。ソユットは、メフメト王国の占領だけで満足せず、バレンシュテット帝国領トラキアへ侵攻。手痛い返り討ちにあったようだ」
アノーテの説明に、室内に含み笑いが漏れる。
「・・・愚かなことを」
「・・・狂信者どもが。見たことか」
アノーテが続ける。
「この失策によってソユットは守勢に回り、戦況は我がヴェネトに優位に推移している。それでも、六:四と言ったところだ」
カロカロが口を開く。
「最後になったが、ナヴァール王国の戦況を聞こう」
カロカロから促され、ナヴァール王国のブルグント王が世界地図の前に歩み出る。
「我がナヴァール王国は、グレース王国を正面の敵として位置付け、巨大洋北部域で戦っている」
ブルグント王は、世界地図を指し示しながら続ける。
「アスカニア大陸と新大陸の間に広がっている、この広大な巨大洋。その北部域を主戦場として戦っているが、戦闘は散発的で決定打を欠いている。・・・戦場が広すぎるのだ。戦況としては五:五で、優勢でも劣勢でもないといったところだ」
カロカロが総括を口にする。
「西方協商全体を鑑みるに、戦況としては、我々の側が優位に世界大戦を進めている。各国とも、このまま順調に進められたい」
カスパニア国王フェリペ二世が口を開く。
「・・・各国とも、くれぐれもバレンシュテット帝国を世界大戦に介入させないように。百万の軍勢を擁する彼の帝国に介入の口実を与えてはならない」
アノーテが口を開く。
「バレンシュテット帝国は、我々が行っている奴隷貿易や麻薬取引を完全否定している。我等、西方協商とは、相容れない国家だ。・・・だからといって、百万の軍勢を擁する彼の帝国を敵に回すのは得策ではない。このまま、中立でいさせることだ」
西方協商各国は、重商主義政策を取り、奴隷貿易や麻薬取引を肯定し、主要な国策産業として位置付けている国々が参加していた。
重商主義とは、商工業を重視し、国家の産業を保護・発展させ、国内の富を充実させようという思想である。
カスパニア王国は、バレンシュテット帝国から遥か南西に位置する半島に位置していた。
歴史のある古い王城の一室に、『西方協商』を形成する国々の王や代表達が集まっていた。
盟主たるカスパニア国王フェリペ二世を上座に、その左右に国王達が長テーブルを囲んで席に並ぶ。
この会議には、西方協商に参加する様々な中小国の王や代表が参加していたが、発言権を持っているのは、列強と呼ばれる主要国家だけであった。
司会を務めるカスパニアの王太子カロカロが口を開く。
「国際情勢と世界大戦の戦況を踏まえ、我等が西方協商の方針と列強各国の戦況について、盟友である諸国と情報を共有したいと思う。・・・まず、我がカスパニアの戦況から」
カスパニア王立騎士団の騎士レイドリックが大きな世界地図を部屋の壁に貼り出す。
カロカロが世界地図を指し示しながら続ける。
「・・・我がカスパニア王国は、北部同盟の盟主であるスベリエ王国を正面の敵として見据え、この氷竜海全域を戦場として戦っている。製鉄を主産業とする軍事国家スベリエの軍事力は、北部同盟最強といって良い。・・・だが、弱点もある」
参加者の王の一人が尋ねる。
「スベリエの弱点とは?」
カロカロが答える。
「スベリエの弱点とは『食糧』だ。国が寒冷地に位置するため、スベリエは自国民を養えるだけの食糧を自給することができない。海路での輸入に頼っている」
カロカロが続ける。
「以前、我がカスパニアが、スベリエの外洋への出入り口であるゴズフレズ海峡を抑えようと出兵したが、バレンシュテット帝国の介入によって失敗した」
フェリペ二世が口を開く。
「バレンシュテット帝国を大戦に介入させてはならん!彼の帝国は強大だ」
カロカロが答える。
「父上、それは判っております」
ヴェネト共和国のアノーテ・デ・ザンテが尋ねる。
「それで。現在の戦況はどうなのだ?」
ヴェネト共和国は、通常の国家とは異なった『有力商会の集合体』であり、ヴェネト共和国では、商人達の社会的立場は高かったが、軍人達の社会的立場を低く見ていた。
アノーテ・デ・ザンテは、有力商会の一つ『あのて珍品堂』の代表であり、ヴェネト共和国の代表として会議に参加していた。
カロカロが答える。
「スベリエとの現在の戦況は、六:四で我がカスパニアが優勢に戦を進めている。我がカスパニアは、スベリエの食糧調達基地であるアルビオン諸島の攻略を計画している」
アルビオン諸島。
氷竜海の北方に位置する五つの島からなるスベリエ王国領の諸島であり、同国の外洋貿易の中継港であるだけでなく、同国が冬季の食糧を調達する北洋漁業の母港でもあった。
カロカロが口を開く。
「次にヴェネト共和国の戦況を聞こう」
カロカロが席に着くと、アノーテ・デ・ザンテが世界地図の前に立ち、地図を指し示しながら戦況を話し始める。
「我がヴェネト共和国は、ソユット帝国を正面の敵として位置付け、南大洋全域を戦場として戦っている」
アノーテ・デ・ザンテは、世界地図を指し示しながら、苦々しい顔をして続ける。
「我等は、戦略的要衝に位置する自治領・空中都市イル・ラヴァーリを制圧しようとしたが、失敗した。・・・自治政府はバレンシュテット帝国に支援を求め、彼の帝国が空中都市イル・ラヴァーリを保護下に置いたためだ」
アノーテの説明に部屋中に動揺が走る。
「なんと!?」
「帝国が空中都市を保護下に・・・」
「彼の帝国は、南大洋まで進出してきたのか・・・」
アノーテが続ける。
「空中都市を巡る戦いで我がヴェネトは、一個傭兵団を失った。・・・だが、南方大陸に軍を上陸させ、南大洋と南方大陸を主戦場としてソユット帝国と継戦中だ」
カロカロが尋ねる。
「ソユットは、南大洋の小国メフメトに上陸して、バレンシュテット帝国とやりあったと聞いたが?」
アノーテが答える。
「・・・その通りだ。ソユットは、メフメト王国の占領だけで満足せず、バレンシュテット帝国領トラキアへ侵攻。手痛い返り討ちにあったようだ」
アノーテの説明に、室内に含み笑いが漏れる。
「・・・愚かなことを」
「・・・狂信者どもが。見たことか」
アノーテが続ける。
「この失策によってソユットは守勢に回り、戦況は我がヴェネトに優位に推移している。それでも、六:四と言ったところだ」
カロカロが口を開く。
「最後になったが、ナヴァール王国の戦況を聞こう」
カロカロから促され、ナヴァール王国のブルグント王が世界地図の前に歩み出る。
「我がナヴァール王国は、グレース王国を正面の敵として位置付け、巨大洋北部域で戦っている」
ブルグント王は、世界地図を指し示しながら続ける。
「アスカニア大陸と新大陸の間に広がっている、この広大な巨大洋。その北部域を主戦場として戦っているが、戦闘は散発的で決定打を欠いている。・・・戦場が広すぎるのだ。戦況としては五:五で、優勢でも劣勢でもないといったところだ」
カロカロが総括を口にする。
「西方協商全体を鑑みるに、戦況としては、我々の側が優位に世界大戦を進めている。各国とも、このまま順調に進められたい」
カスパニア国王フェリペ二世が口を開く。
「・・・各国とも、くれぐれもバレンシュテット帝国を世界大戦に介入させないように。百万の軍勢を擁する彼の帝国に介入の口実を与えてはならない」
アノーテが口を開く。
「バレンシュテット帝国は、我々が行っている奴隷貿易や麻薬取引を完全否定している。我等、西方協商とは、相容れない国家だ。・・・だからといって、百万の軍勢を擁する彼の帝国を敵に回すのは得策ではない。このまま、中立でいさせることだ」
西方協商各国は、重商主義政策を取り、奴隷貿易や麻薬取引を肯定し、主要な国策産業として位置付けている国々が参加していた。
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