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第一章 ホラント独立戦争

第十八話 潜入、カスパニア領ホラント、ゾイト・ホラント港

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 性交を終えたナディアとエルザは、アレクのベッドに横たわり、アレクは自分のベッドの縁に腰掛ける。

 船の一等船室のベッドは狭く、女の子二人が横になると一杯であった。

 アレクがベッドの縁に腰掛けて荒い息を整えていると、食事を終えたルイーゼが食堂から部屋に戻って来る。

 ルイーゼがドアを開けて部屋に入ると、アレクのベッドに全裸で横たわるナディアとエルザの二人の姿と、全裸でベッドの縁に腰掛けて呼吸を整えるアレクの姿が目に入る。

 ルイーゼは、三人の状況を瞬時に理解した。

 ルイーゼがアレクに尋ねる。

「アレク、二人と・・・してたの?」

 アレクはバツが悪そうに答える。

「・・・うん」

 ナディアがアレクのベッドに寝転がったまま、悪びれた素振りも見せず、ルイーゼに告げる。

「一緒にどう? 気持ち良いわよ。

 エルザもナディアに続く。

「エルザちゃんも気持ち良かったわ~。孕んじゃうわ~」

 ナディアもエルザも、アレクとの『夜の営み』をほとんど独占しているルイーゼに対して含むところがあった。

 ルイーゼは、二人の言葉に対して表情一つ変えずにアレクの元へ行く。

「アレク。汗だくじゃない。・・・ちょっと待っててね」

 そう言うと、ルイーゼは部屋から出て行き、お湯の入った洗面器とタオルを手に戻って来る。

 部屋に戻って来たルイーゼは、ベッドに腰掛けるアレクの前に跪いて洗面器のお湯に浸したタオルを絞り、アレクの顔を拭くとアレクの身体の汗を拭き始める。

 身体を拭われているアレクが呟く。

「ルイーゼ・・・」

 ルイーゼは、バツが悪そうにしているアレクに微笑み返す。

「どう? 気持ち良いでしょ?」

 健気に自分に尽くしてくれるルイーゼに、アレクは別の女を抱いていたという負い目を感じ、ますますバツが悪くなる。

 自分ではない女を抱いていたアレクに、怒ったり妬いたりするのではなく、健気に尽くすというルイーゼの振る舞いは、他の二人より一枚上手であった。

 アスカニア大陸では一夫多妻制の国がほとんどであり、どの妻を抱くかという決定権は、男の側にあった。


 


-- 夕刻。

 アレク達の乗る船は、カスパニア領ホラントのゾイト・ホラント港に到着する。

 夕映えに映し出される中世の港町の佇まいは、バレンシュテット帝国港湾自治都市群の中核都市であるデン・ヘルダーとは比べるべくもないものであったが、カスパニア領ホラントでは代表的な港町であった。

 アレク達は、接岸した船の甲板から埠頭のへタラップを降りながら、帝国とは趣の異なる中世の街並みを眺める。

 ルイーゼがアレクに話し掛ける。

「アレク、見て。ホラントよ。・・・敵地ね」 

 アレクが呟く。

「これが、カスパニアか・・・」



 船から降ろした荷物を積んで運ぶ牛車。

 女性達が集まって水を汲む井戸。

 石畳の無い凹凸のある道路。


 

 街の様子を見たアルが呟く。

「なんか、二百年前の街みたいだな」

 アルの傍らのナタリーが答える。

「そうね。帝国じゃ見られない風景ね」

 エルザも口を開く。

「何か・・・街中、すすけた感じね」

 ナディアがエルザに答える。

「カスパニアには魔導石を扱う技術が無いのよ。石炭や薪を燃やして暖を取っているから、そのすすね」






 埠頭に降り立ったアレク達に、通関のカスパニア兵達が話し掛けてくる。

「お前。身分証を見せろ」

 アレクが用意しておいた偽造身分証をカスパニア兵に見せる。

「どうぞ」

 カスパニア兵は、手にした偽造身分証を眺めながら、アレク達をチラチラと見て、読み上げる。

「お前が・・・アレクサンドロフ・ポロリンスキー。職業、奴隷商人。・・・で、こっちが、その妻のルイゼリィーヤ・ポロリンスキー」

 偽名を読み上げられたルイーゼは、カスパニア兵に作り笑顔を浮かべて見せる。

 次にカスパニア兵達は、アルとナタリーの方を見る。

「で、こっちが用心棒のアルジャーノンと、メイドのナターリャ」

 偽名を呼ばれたアルは、肩に担いだ斧槍ハルバードを動かして見せ、メイド服姿のナタリーも作り笑顔を浮かべながら会釈する。

 黒い鎖帷子と黒い胸当てを身に付け、肩に斧槍ハルバードを担いだアルの姿を見たカスパニア兵がたじろぎながら呟く。

「お前・・・、まさか!? 『黒い剣士』か!?」

 カスパニア兵が間違えるほど、アルの顔や背格好は、アルの父ジカイラに似ていた。

 アルは、おどけながらカスパニア兵に答える。

「おおっと!? 『大陸の英雄』に間違えられるとは、光栄だねぇ~」

 アルの答えを聞いたカスパニア兵は短く舌打ちする。

 次にカスパニア兵達は、奴隷役のナディア、エルザ、トゥルム、ドミトリーの四人を見る。

 カスパニア兵が呟く。

「そして、この四人が所有する奴隷達・・・」

 カスパニア兵の隊長らしき人物は、奴隷役の四人を一瞥すると、アレクに向かって告げる。

「良し、行って良いぞ」

「ありがとうございます」

 アレク達は足早にその場から立ち去ろうとすると、アレクはカスパニア兵の一人に呼び止められる。

「おい、お前! ちょっと待て!!」

「はい?」

「奴隷達は鎖でつないでおけ。放し飼いにするな」

 カスパニア兵の言葉に、アレクは一瞬、キレそうになるが、傍らのルイーゼがアレクの腕を取って目配せすると、アレクは冷静さを取り戻す。

 アレクはカスパニア兵に頭を下げる。

「申し訳ありません。以後、気を付けますので、お手柔らかに・・・」

 そう言ってカスパニア兵の手に銀貨一枚を握らせる。

 カスパニア兵は、自分の手のひらの中にある銀貨を確かめると、勝ち誇ったような笑みを浮かべながらアレク達に告げる。

「判れば良い! 行け!!」

「失礼します」

 埠頭を後にしたアレク達は、ゾイト・ホラント港から市街地を目指して進む。

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