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北方動乱
第四十五話 ゴズフレズの内諾
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--時間を少し戻した 帝国軍総旗艦 ニーベルンゲン 艦内
アレクとルイーゼがジークの私室から応接室に戻ると、侍従から、来賓用の貴賓室に移るように伝えられ、アレク達は、貴賓室に移って寛ぐ。
ティティスまで五時間ほどの航行だが、「ゆっくり休めるように」とのジークからの計らいであった。
貴賓室の中は、寝室、応接室、浴室の三部屋に区切られており、それぞれが広く、皇宮のような豪華な内装であった。
貴賓室の豪華な内装を見て、エルザとナディアは大喜びであった。
浴室を見たエルザが口を開く。
「ちょっと! ナディア! ここのお風呂、バスタブ大きいわ! 二人でも楽に入れるわよ!?」
寝室を見たナディアが口を開く。
「寝室も凄い! ベッドに天蓋が付いてる! しかも天蓋の内側に絵画が描いてある! このベッド、一体、いくらするの!?」
あちこち見て、はしゃぐ二人を他所に、他のメンバーは、広い応接室の窓際に置かれている大きなソファーに座って寛いでいた。
両手を広げてソファーにもたれ掛かりながらアルが呟く。
「なんつーか。・・・こういう豪華なところに来ると、育ちが出るな」
アルの呟きを聞いたナタリーが口元に手を当ててクスリと笑う。
「そうね」
トゥルムがぼやく。
「・・・何だか、豪華過ぎて、かえって落ち着かないぞ」
ドミトリーもトゥルムに追従する。
「・・・拙僧もだ。この船は、まるで宮殿だ」
アレクが口を開く。
「さすがは『皇帝座乗艦』というだけある。・・・とは言っても、今、この船に乗っているのは、皇太子殿下だけどね」
ルイーゼが口を開く。
「ゴズフレズのカリン王女も乗っているみたい」
アレクとルイーゼは、ジークとした話を小隊の仲間達にも話す。
二人の話を聞いた小隊の仲間達は、納得したようであった。
やがて食事の時間になる。
飛行空母ではラウンジに行き、カウンターで注文した食事を受け取り、席に持って行って食べるのだが、ここニーベルンゲンの貴賓室では、侍従が部屋まで食事を持ってきて、給仕をしてくれるのであった。
食事の時もエルザとナディアは大喜びであった。
侍従が尋ねる。
「デザートは、如何致しますか?」
エルザが答える。
「私はフルーツパフェで!」
「畏まりました」
ナディアも答える。
「私は、・・・そうね。フルーツはあるかしら? マンゴーで」
「畏まりました。後ほど、御持ち致します」
小隊の面々にデザートを訪ねた侍従は、一礼すると貴賓室を後にする。
半時ほどの後、侍従がデザートを持ってきてアレク達に給仕する。
エルザがフルーツパフェを頬張りながら、アレクに話し掛ける。
「ねぇ、アレク。エルザちゃんに買ってくれるメイドと執事付きのお屋敷は、ここみたいな部屋が良いわ!」
ナディアも追従する。
「私も。・・・何たって、『至れり尽くせり』が良いわね」
アルが二人を冷やかす。
「・・・お前ら、どんだけ贅沢なんだ?」
ナディアとエルザは、夢に描いていた暮らしの一端に触れる事ができたため、ニーベルンゲンでのひとときを満喫していた。
アレクとルイーゼは皇宮育ちであるため、侍従に傅かれる事にも慣れていた。
小隊の面々の会話を聞きながら、アレクは食後の紅茶を飲み、皇宮の事を思い出していた。
(母上は、元気にしておられるだろうか・・・)
物思いに耽るアレクに、食事を終えたエルザが話し掛ける。
「ア・レ・ク。 一緒にお風呂に入りましょ! 凄いのよ、ここの石鹸! バラの香りがするのよ!!」
アレクは苦笑いしながら、やんわりと断る。
「いや、遠慮しておく。・・・悪いけど風呂は、一人の方が落ち着くから」
エルザは、残念そうに口先を尖らせる。
「ちぇ~。つまんないの。・・・せっかく、おっ●いでサービスしてあげようと思ったのに」
二人のやり取りを眺めていたアルがエルザを冷やかす。
「・・・お前って、いつも発情してるのな。年間を通して発情期なのか?」
エルザが反論する。
「違うわよ! ・・・いいこと? 愛し合う男女の『愛の営み』って、凄く気持ち良いのよ」
頬を赤らめ右手を頬に添えて語るエルザに、アルが呆れたように答える。
「へぇ~。そうなのか?」
エルザがムキになってアルに食って掛かる。
「ふ~んだ! アルは童貞だから判らないのよ! どうせ、夜な夜な自分でオチ●●ンしごいて、自慰しているんでしょ! 寂しい奴ね!!」
「違うもん!!」
エルザの言葉に反論したのは、ナタリーだった。
「え?」
「ナタリー??」
ナタリーが反論した事にアルとエルザが驚く。
エルザにアルが言われている事に、ナタリーが思わず口にした言葉であった。
しかし、言葉を口にした直後に「しまった」という表情を浮かべ、両手を口元に当てる。
エルザは、ニンマリとした笑みを浮かべると、ナタリーに詰め寄る。
「んんん~? ナタリー。違うって、何が違うの? 毎晩、ナタリーがアルのオチ●●ンを口で咥えているから、アルは自慰していないって事? それとも、ナタリーがアルの童貞を奪っちゃったから、アルはもう童貞じゃないって事? エルザちゃん、そこら辺の事を詳しく聞きたいなぁ~」
ナタリーは、口元に両手を当てたまま、恥じらいから頬を赤らめて俯く。
アルがエルザとナタリーの間に割って入る。
「エルザ! ナタリーを苛めるなよ」
「苛めてなんていないわよ。さ、お風呂入ってこよっと!」
鬱憤を晴らしたエルザは、一人で入浴しに浴室に向かって行った。
--五時間後。
夜の帳が降り、辺りが暗くなった頃、ニーベルンゲンはティティスに到着する。
アレク達は、飛空艇に乗り込み、ニーベルンゲンの後部甲板から飛び立ち、飛行空母ユニコーン・ゼロへと帰投する。
ジークと三人の妃達、カリンと老執事は揚陸艇に乗り込み、上空で滞空するニーベルンゲンからティティスの市庁舎前に降下して着陸する。
着陸した揚陸艇が跳ね橋を降ろすと、礼装に身を包んだ帝国軍の兵士達が降りてきて、跳ね橋の中央に赤い絨毯を敷き、両脇に分かれて整列する。
揚陸艇の中からジークがカリンの手を取ってエスコートしながら赤い絨毯の上を歩いて降りてくる。
ジークの後にはソフィア達、三人の妃が続く。
カリンは、揚陸艇から降りるとハロルド王に駆け寄って抱き付く。
「父上!!」
「おおっ! カリン!! 無事だったか」
「ジーク様が助けて下さいました」
ハロルド王は、カリンを抱き締めながらジークに深々と頭を下げる。
「皇太子殿下。娘を守って頂き、感謝のあまりに言葉もない。このハロルド、深く感謝している。なんと礼をしたら良いか・・・」
ジークは、考えながらハロルド王に告げる。
「礼など・・・。そうだな・・・。『我々がゴズフレズからカスパニアを駆逐した暁には、スベリエと手を切り、我がバレンシュテット帝国と組む』というのは?」
ジークの言葉にハロルド王が目を白黒させて驚愕する。
「なんと!?」
ジークが言葉を付け加える。
「今すぐという訳ではありません。近い将来ということで、御一考下さい」
ジークの言葉を聞いたハロルド王は、天を仰ぐように見上げる。
「バレンシュテット帝国。・・・彼の超大国が、我がゴズフレズのような小国に。・・・ありがたい申し出です。殿下」
ハロルド王がジークに苦しい胸の内を語り始める。
「・・・余にも殿下のような聡明な息子が居れば、右腕となってくれる息子が居れば、心強く在れるだろう。我が国の三倍以上の軍勢を率いる『北方の獅子王』を相手に戦う腹も決まる。・・・だが、カリンは一人娘だ。・・・女なのだ! ・・・戦には向いておらん。・・・我が国は貧しく、民は飢え、列強の間での戦に兵は疲れている。国を想えば、一人娘を想えば、代々続くスベリエへの屈従を断ち切るのは、容易ではないのだ。・・・余は、殿下のような息子を持った皇帝陛下が心底羨ましい」
統治者として、娘を持つ父親として、胸の内を吐露したハロルド王がジークの方を向く。
ジークが呟く。
「・・・陛下」
カリンに仕えている老執事が口を開く。
「・・・陛下。良い方法がございます」
ハロルド王が答える。
「何だ? 申してみよ??」
老執事が続ける。
「カリン王女に皇太子殿下の元へ輿入れして頂けば良いのです。これで陛下は、皇太子殿下の『義理の父親』ということになります。我らがゴズフレズ王国とバレンシュテット帝国は姻戚関係となり、強固な同盟関係となります」
老執事の提案にハロルド王は驚く。
「おおっ! それは名案だ!!」
老執事とハロルド王の言葉を聞いたジークは目が点になる。
「・・・え?」
ジークがゴズフレズを訪れる前に、皇宮でラインハルトとハリッシュからも同様の事を言われていたからであった。
ハロルド王は、思い出したように抱き締めているカリンを離すと、カリンに尋ねる。
「ところでカリン。お前はどうなのだ? 皇太子殿下の元へ嫁ぐ事に対する、お前自身の気持ちは??」
カリンは、頬を赤く染めながら答える。
「・・・私もジーク様をお慕い申しております」
カリンの気持ちを確かめたハロルド王は、上機嫌でジークに話す。
「カリン自身もこう申している。・・・殿下。この縁談、受けて頂けるだろうか?」
ジークは、言葉を選んで答える。
「喜んでお受けしたいところですが、私には既に三人の妃が居ります。四人目の妃という事になりますが。・・・それと、事は国家間の取り決めです。私も皇帝である父上の裁可を仰がねばなりません。それに現在、ゴズフレズはカスパニアと戦争中です。・・・慶事を執り行うには、まずゴズフレズの戦乱を終わらせねば。・・・国民も納得しないでしょう」
ハロルド王が尋ねる。
「超大国であるバレンシュテット帝国と、小国である我がゴズフレズとの両国の立場を考えれば、カリンが四人目の妃でも仕方あるまい。『婚約』ということでお受け頂けるか? 正式な『輿入れ(婚姻)』は、皇帝陛下の裁可と、カスパニアとの戦争が終わった暁にということで」
ジークが答える。
「判りました」
こうしてジークは、ゴズフレズ王国が従属するスベリエ王国と手を切り、バレンシュテット帝国側に寝返る内諾を得ることが出来た。
アレクとルイーゼがジークの私室から応接室に戻ると、侍従から、来賓用の貴賓室に移るように伝えられ、アレク達は、貴賓室に移って寛ぐ。
ティティスまで五時間ほどの航行だが、「ゆっくり休めるように」とのジークからの計らいであった。
貴賓室の中は、寝室、応接室、浴室の三部屋に区切られており、それぞれが広く、皇宮のような豪華な内装であった。
貴賓室の豪華な内装を見て、エルザとナディアは大喜びであった。
浴室を見たエルザが口を開く。
「ちょっと! ナディア! ここのお風呂、バスタブ大きいわ! 二人でも楽に入れるわよ!?」
寝室を見たナディアが口を開く。
「寝室も凄い! ベッドに天蓋が付いてる! しかも天蓋の内側に絵画が描いてある! このベッド、一体、いくらするの!?」
あちこち見て、はしゃぐ二人を他所に、他のメンバーは、広い応接室の窓際に置かれている大きなソファーに座って寛いでいた。
両手を広げてソファーにもたれ掛かりながらアルが呟く。
「なんつーか。・・・こういう豪華なところに来ると、育ちが出るな」
アルの呟きを聞いたナタリーが口元に手を当ててクスリと笑う。
「そうね」
トゥルムがぼやく。
「・・・何だか、豪華過ぎて、かえって落ち着かないぞ」
ドミトリーもトゥルムに追従する。
「・・・拙僧もだ。この船は、まるで宮殿だ」
アレクが口を開く。
「さすがは『皇帝座乗艦』というだけある。・・・とは言っても、今、この船に乗っているのは、皇太子殿下だけどね」
ルイーゼが口を開く。
「ゴズフレズのカリン王女も乗っているみたい」
アレクとルイーゼは、ジークとした話を小隊の仲間達にも話す。
二人の話を聞いた小隊の仲間達は、納得したようであった。
やがて食事の時間になる。
飛行空母ではラウンジに行き、カウンターで注文した食事を受け取り、席に持って行って食べるのだが、ここニーベルンゲンの貴賓室では、侍従が部屋まで食事を持ってきて、給仕をしてくれるのであった。
食事の時もエルザとナディアは大喜びであった。
侍従が尋ねる。
「デザートは、如何致しますか?」
エルザが答える。
「私はフルーツパフェで!」
「畏まりました」
ナディアも答える。
「私は、・・・そうね。フルーツはあるかしら? マンゴーで」
「畏まりました。後ほど、御持ち致します」
小隊の面々にデザートを訪ねた侍従は、一礼すると貴賓室を後にする。
半時ほどの後、侍従がデザートを持ってきてアレク達に給仕する。
エルザがフルーツパフェを頬張りながら、アレクに話し掛ける。
「ねぇ、アレク。エルザちゃんに買ってくれるメイドと執事付きのお屋敷は、ここみたいな部屋が良いわ!」
ナディアも追従する。
「私も。・・・何たって、『至れり尽くせり』が良いわね」
アルが二人を冷やかす。
「・・・お前ら、どんだけ贅沢なんだ?」
ナディアとエルザは、夢に描いていた暮らしの一端に触れる事ができたため、ニーベルンゲンでのひとときを満喫していた。
アレクとルイーゼは皇宮育ちであるため、侍従に傅かれる事にも慣れていた。
小隊の面々の会話を聞きながら、アレクは食後の紅茶を飲み、皇宮の事を思い出していた。
(母上は、元気にしておられるだろうか・・・)
物思いに耽るアレクに、食事を終えたエルザが話し掛ける。
「ア・レ・ク。 一緒にお風呂に入りましょ! 凄いのよ、ここの石鹸! バラの香りがするのよ!!」
アレクは苦笑いしながら、やんわりと断る。
「いや、遠慮しておく。・・・悪いけど風呂は、一人の方が落ち着くから」
エルザは、残念そうに口先を尖らせる。
「ちぇ~。つまんないの。・・・せっかく、おっ●いでサービスしてあげようと思ったのに」
二人のやり取りを眺めていたアルがエルザを冷やかす。
「・・・お前って、いつも発情してるのな。年間を通して発情期なのか?」
エルザが反論する。
「違うわよ! ・・・いいこと? 愛し合う男女の『愛の営み』って、凄く気持ち良いのよ」
頬を赤らめ右手を頬に添えて語るエルザに、アルが呆れたように答える。
「へぇ~。そうなのか?」
エルザがムキになってアルに食って掛かる。
「ふ~んだ! アルは童貞だから判らないのよ! どうせ、夜な夜な自分でオチ●●ンしごいて、自慰しているんでしょ! 寂しい奴ね!!」
「違うもん!!」
エルザの言葉に反論したのは、ナタリーだった。
「え?」
「ナタリー??」
ナタリーが反論した事にアルとエルザが驚く。
エルザにアルが言われている事に、ナタリーが思わず口にした言葉であった。
しかし、言葉を口にした直後に「しまった」という表情を浮かべ、両手を口元に当てる。
エルザは、ニンマリとした笑みを浮かべると、ナタリーに詰め寄る。
「んんん~? ナタリー。違うって、何が違うの? 毎晩、ナタリーがアルのオチ●●ンを口で咥えているから、アルは自慰していないって事? それとも、ナタリーがアルの童貞を奪っちゃったから、アルはもう童貞じゃないって事? エルザちゃん、そこら辺の事を詳しく聞きたいなぁ~」
ナタリーは、口元に両手を当てたまま、恥じらいから頬を赤らめて俯く。
アルがエルザとナタリーの間に割って入る。
「エルザ! ナタリーを苛めるなよ」
「苛めてなんていないわよ。さ、お風呂入ってこよっと!」
鬱憤を晴らしたエルザは、一人で入浴しに浴室に向かって行った。
--五時間後。
夜の帳が降り、辺りが暗くなった頃、ニーベルンゲンはティティスに到着する。
アレク達は、飛空艇に乗り込み、ニーベルンゲンの後部甲板から飛び立ち、飛行空母ユニコーン・ゼロへと帰投する。
ジークと三人の妃達、カリンと老執事は揚陸艇に乗り込み、上空で滞空するニーベルンゲンからティティスの市庁舎前に降下して着陸する。
着陸した揚陸艇が跳ね橋を降ろすと、礼装に身を包んだ帝国軍の兵士達が降りてきて、跳ね橋の中央に赤い絨毯を敷き、両脇に分かれて整列する。
揚陸艇の中からジークがカリンの手を取ってエスコートしながら赤い絨毯の上を歩いて降りてくる。
ジークの後にはソフィア達、三人の妃が続く。
カリンは、揚陸艇から降りるとハロルド王に駆け寄って抱き付く。
「父上!!」
「おおっ! カリン!! 無事だったか」
「ジーク様が助けて下さいました」
ハロルド王は、カリンを抱き締めながらジークに深々と頭を下げる。
「皇太子殿下。娘を守って頂き、感謝のあまりに言葉もない。このハロルド、深く感謝している。なんと礼をしたら良いか・・・」
ジークは、考えながらハロルド王に告げる。
「礼など・・・。そうだな・・・。『我々がゴズフレズからカスパニアを駆逐した暁には、スベリエと手を切り、我がバレンシュテット帝国と組む』というのは?」
ジークの言葉にハロルド王が目を白黒させて驚愕する。
「なんと!?」
ジークが言葉を付け加える。
「今すぐという訳ではありません。近い将来ということで、御一考下さい」
ジークの言葉を聞いたハロルド王は、天を仰ぐように見上げる。
「バレンシュテット帝国。・・・彼の超大国が、我がゴズフレズのような小国に。・・・ありがたい申し出です。殿下」
ハロルド王がジークに苦しい胸の内を語り始める。
「・・・余にも殿下のような聡明な息子が居れば、右腕となってくれる息子が居れば、心強く在れるだろう。我が国の三倍以上の軍勢を率いる『北方の獅子王』を相手に戦う腹も決まる。・・・だが、カリンは一人娘だ。・・・女なのだ! ・・・戦には向いておらん。・・・我が国は貧しく、民は飢え、列強の間での戦に兵は疲れている。国を想えば、一人娘を想えば、代々続くスベリエへの屈従を断ち切るのは、容易ではないのだ。・・・余は、殿下のような息子を持った皇帝陛下が心底羨ましい」
統治者として、娘を持つ父親として、胸の内を吐露したハロルド王がジークの方を向く。
ジークが呟く。
「・・・陛下」
カリンに仕えている老執事が口を開く。
「・・・陛下。良い方法がございます」
ハロルド王が答える。
「何だ? 申してみよ??」
老執事が続ける。
「カリン王女に皇太子殿下の元へ輿入れして頂けば良いのです。これで陛下は、皇太子殿下の『義理の父親』ということになります。我らがゴズフレズ王国とバレンシュテット帝国は姻戚関係となり、強固な同盟関係となります」
老執事の提案にハロルド王は驚く。
「おおっ! それは名案だ!!」
老執事とハロルド王の言葉を聞いたジークは目が点になる。
「・・・え?」
ジークがゴズフレズを訪れる前に、皇宮でラインハルトとハリッシュからも同様の事を言われていたからであった。
ハロルド王は、思い出したように抱き締めているカリンを離すと、カリンに尋ねる。
「ところでカリン。お前はどうなのだ? 皇太子殿下の元へ嫁ぐ事に対する、お前自身の気持ちは??」
カリンは、頬を赤く染めながら答える。
「・・・私もジーク様をお慕い申しております」
カリンの気持ちを確かめたハロルド王は、上機嫌でジークに話す。
「カリン自身もこう申している。・・・殿下。この縁談、受けて頂けるだろうか?」
ジークは、言葉を選んで答える。
「喜んでお受けしたいところですが、私には既に三人の妃が居ります。四人目の妃という事になりますが。・・・それと、事は国家間の取り決めです。私も皇帝である父上の裁可を仰がねばなりません。それに現在、ゴズフレズはカスパニアと戦争中です。・・・慶事を執り行うには、まずゴズフレズの戦乱を終わらせねば。・・・国民も納得しないでしょう」
ハロルド王が尋ねる。
「超大国であるバレンシュテット帝国と、小国である我がゴズフレズとの両国の立場を考えれば、カリンが四人目の妃でも仕方あるまい。『婚約』ということでお受け頂けるか? 正式な『輿入れ(婚姻)』は、皇帝陛下の裁可と、カスパニアとの戦争が終わった暁にということで」
ジークが答える。
「判りました」
こうしてジークは、ゴズフレズ王国が従属するスベリエ王国と手を切り、バレンシュテット帝国側に寝返る内諾を得ることが出来た。
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