40 / 89
北方動乱
第三十九話 王都ハフニアにて ジークとカリン
しおりを挟む
--ゴズフレズ王国 王都ハフニア 王城
ハロルド王率いるゴズフレズ王国軍が勝利し、カスパニアから北部の城塞都市ティティスを奪還した事は、フクロウ便によって即日、ゴズフレズ王国の王都ハフニアに知らされる。
そして、『ゴズフレズ王国軍勝利、ティティス奪還』の報は、王都ハフニアにいるジークの耳にも入る。
ジークは、王城を訪れてカリンに謁見する。
カリンは、出征中の父ハロルド王の代理として玉座に座り、ジークに謁見していた。
「この度のゴズフレズ王国軍の勝利により、ティティス奪還に成功したとのこと。お慶び申し上げます」
「ありがとうございます。帝国の御助力があればこそです」
互いに形式的な儀礼を取っているが、ジークに会うとカリンは照れて頬が赤く染まる。
ジークが続ける。
「つきましては、カリン王女の主催ということで『祝勝会』を開きたいと思います。必要なものは全てこちらで用意しますので、また、城のホールをお借りしたいのですが」
「ホールでしたら、どうぞ。ご自由にお使い下さい。お心遣い感謝します」
カリンは、微笑みながら答える。
カリンの答えを聞いたジークは、自分の乗艦である飛行戦艦ニーベルンゲンに戻ろうと謁見の間の入り口の方へ振り向く。
「それでは、これで失礼致します」
「あの! ジーク様!!」
「はい?」
カリンがジークを呼び止め、ジークはカリンの方を振り向く。
「・・・また、踊って頂けますか?」
カリンからの問いに、ジークは笑顔で答える。
「もちろん。喜んで」
カリンは、顔だけでなく耳まで赤くなってジークにお礼を述べる。
「・・・ありがとうございます」
ジークは、ゴズフレズに滞在するに当たり、ゴズフレズ王国の貴族や政府役人、外国の大使達を招いてバレンシュテット帝国の力を見せ付けるように、適当に理由を作って頻繁に豪華な舞踏会や晩餐会を開催していた。
その甲斐あって、ゴズフレズ王国の貴族や政府役人達は、宗主国であるスベリエ王国よりも、有り余る富と力を誇示するバレンシュテット帝国に肩入れして、次代の皇帝であるジークにあやかろうとする者が増えていた。
--夜。
カリン王女主催の祝勝会が開催される。
宮廷舞踏会と同様に主催者のカリンによる開催の挨拶によって、祝勝会が始まる。
「ゴズフレズ王国とハロルド王の勝利に!」
「「乾杯!!」」
乾杯の後、オープニングセレモニーとしてジークとソフィアがファーストダンスを務める。
ジークがソフィアの手を取り、二人がホールの中央に歩み出ると、ホールの片隅に陣取る楽団が演奏し始める。
奏でられる円舞曲に合わせて、ジークとソフィアの二人が踊る。
二人が一曲踊り終えると、次はジークとカリンが踊る順番になる。
ジークはカリンの手を取ると、手の甲にキスしてホールの中央へエスコートする。
ジークとカリンがホールの中央に揃ったところで、二曲目の円舞曲の演奏が始まる。
ジークは、カリンをリードしながらダンスを踊る。
カリンは頬を赤らめ、うっとりと長身のジークの顔を見上げながら、ジークのリードに合わせて踊っていた。
二曲目が終わると、他の参加者も踊ることが出来るダンスタイムとなり、踊らない者はテーブルに座り、食事やお酒を楽しみながらダンスを鑑賞し始める。
頻繁に開催される舞踏会や晩餐会の度に二人はダンスを踊っており、その様子を知るゴズフレズ王国の貴族や政府役人達にとって、今やカリンの初恋の相手がジークであることは『公然の秘密』となっていた。
参加者たちは、祝勝会に用意された豪華な料理や帝国各地から取り寄せた果物を食べながら、会場のあちこちに数人で集まり、ゴズフレズ王国の国内外を取り巻く昨今の情勢について、まことしやかに囁き始める。
「・・・この分だと、年を越す前にカスパニアをゴズフレズから撃退できるのでは?」
「我が国はスベリエに従属するのを改め、帝国と組んだ方が良いのではないか?」
「あの超大国バレンシュテット帝国が、我が国など相手にするはずが無かろう!」
「だが、有り余る富を持つ豊かな帝国ならば、我々が従属したところで重税を課してくる事も無いだろう」
「・・・どうやら、カリン王女の初恋の相手は、ジークフリート殿下のようだ。卿らはどう思う?」
「・・・いっその事、御二人が一緒になられたら良い。王女の婚姻の相手として皇太子殿下は、この上ない相手だ。王女と皇太子。家柄的にも身分的にも申し分無い。良縁だと思わないか?」
ジークが繰り返し開催する晩餐会や舞踏会などの催事の度に、貴族や政府役人などのゴズフレズ指導層の世論は『スベリエ寄り』から『帝国推し』に傾いていった。
祝勝会の会場の片隅で、ジークとソフィア、カリンの三人の周囲に人集りが出来て愉しげに歓談している、その光景を苦々しく見ている人物が居た。
スベリエ王国ゴズフレズ駐在大使ヒッター子爵であった。
ヒッター子爵は、一人で酒を飲みながら焦燥に駆られていた。
(マズい。マズいぞ。・・・このままでは、ゴズフレズが帝国に併呑されてしまう)
(ゴズフレズ海峡を失えば、我がスベリエ王国は内海に閉じ込められ、列強の座から降りざるを得なくなる。国家存亡の危機だ)
(皇太子め! 武力を用いず、帝国の経済力と文化力を見せ付け、国の指導層である貴族や役人達を籠絡するとは。あの若さで・・・、侮れん)
(・・・もはや強行手段もやむを得まい)
ヒッター子爵は祝勝会の会場を後にすると、スベリエ本国に書簡をしたためた。
ハロルド王率いるゴズフレズ王国軍が勝利し、カスパニアから北部の城塞都市ティティスを奪還した事は、フクロウ便によって即日、ゴズフレズ王国の王都ハフニアに知らされる。
そして、『ゴズフレズ王国軍勝利、ティティス奪還』の報は、王都ハフニアにいるジークの耳にも入る。
ジークは、王城を訪れてカリンに謁見する。
カリンは、出征中の父ハロルド王の代理として玉座に座り、ジークに謁見していた。
「この度のゴズフレズ王国軍の勝利により、ティティス奪還に成功したとのこと。お慶び申し上げます」
「ありがとうございます。帝国の御助力があればこそです」
互いに形式的な儀礼を取っているが、ジークに会うとカリンは照れて頬が赤く染まる。
ジークが続ける。
「つきましては、カリン王女の主催ということで『祝勝会』を開きたいと思います。必要なものは全てこちらで用意しますので、また、城のホールをお借りしたいのですが」
「ホールでしたら、どうぞ。ご自由にお使い下さい。お心遣い感謝します」
カリンは、微笑みながら答える。
カリンの答えを聞いたジークは、自分の乗艦である飛行戦艦ニーベルンゲンに戻ろうと謁見の間の入り口の方へ振り向く。
「それでは、これで失礼致します」
「あの! ジーク様!!」
「はい?」
カリンがジークを呼び止め、ジークはカリンの方を振り向く。
「・・・また、踊って頂けますか?」
カリンからの問いに、ジークは笑顔で答える。
「もちろん。喜んで」
カリンは、顔だけでなく耳まで赤くなってジークにお礼を述べる。
「・・・ありがとうございます」
ジークは、ゴズフレズに滞在するに当たり、ゴズフレズ王国の貴族や政府役人、外国の大使達を招いてバレンシュテット帝国の力を見せ付けるように、適当に理由を作って頻繁に豪華な舞踏会や晩餐会を開催していた。
その甲斐あって、ゴズフレズ王国の貴族や政府役人達は、宗主国であるスベリエ王国よりも、有り余る富と力を誇示するバレンシュテット帝国に肩入れして、次代の皇帝であるジークにあやかろうとする者が増えていた。
--夜。
カリン王女主催の祝勝会が開催される。
宮廷舞踏会と同様に主催者のカリンによる開催の挨拶によって、祝勝会が始まる。
「ゴズフレズ王国とハロルド王の勝利に!」
「「乾杯!!」」
乾杯の後、オープニングセレモニーとしてジークとソフィアがファーストダンスを務める。
ジークがソフィアの手を取り、二人がホールの中央に歩み出ると、ホールの片隅に陣取る楽団が演奏し始める。
奏でられる円舞曲に合わせて、ジークとソフィアの二人が踊る。
二人が一曲踊り終えると、次はジークとカリンが踊る順番になる。
ジークはカリンの手を取ると、手の甲にキスしてホールの中央へエスコートする。
ジークとカリンがホールの中央に揃ったところで、二曲目の円舞曲の演奏が始まる。
ジークは、カリンをリードしながらダンスを踊る。
カリンは頬を赤らめ、うっとりと長身のジークの顔を見上げながら、ジークのリードに合わせて踊っていた。
二曲目が終わると、他の参加者も踊ることが出来るダンスタイムとなり、踊らない者はテーブルに座り、食事やお酒を楽しみながらダンスを鑑賞し始める。
頻繁に開催される舞踏会や晩餐会の度に二人はダンスを踊っており、その様子を知るゴズフレズ王国の貴族や政府役人達にとって、今やカリンの初恋の相手がジークであることは『公然の秘密』となっていた。
参加者たちは、祝勝会に用意された豪華な料理や帝国各地から取り寄せた果物を食べながら、会場のあちこちに数人で集まり、ゴズフレズ王国の国内外を取り巻く昨今の情勢について、まことしやかに囁き始める。
「・・・この分だと、年を越す前にカスパニアをゴズフレズから撃退できるのでは?」
「我が国はスベリエに従属するのを改め、帝国と組んだ方が良いのではないか?」
「あの超大国バレンシュテット帝国が、我が国など相手にするはずが無かろう!」
「だが、有り余る富を持つ豊かな帝国ならば、我々が従属したところで重税を課してくる事も無いだろう」
「・・・どうやら、カリン王女の初恋の相手は、ジークフリート殿下のようだ。卿らはどう思う?」
「・・・いっその事、御二人が一緒になられたら良い。王女の婚姻の相手として皇太子殿下は、この上ない相手だ。王女と皇太子。家柄的にも身分的にも申し分無い。良縁だと思わないか?」
ジークが繰り返し開催する晩餐会や舞踏会などの催事の度に、貴族や政府役人などのゴズフレズ指導層の世論は『スベリエ寄り』から『帝国推し』に傾いていった。
祝勝会の会場の片隅で、ジークとソフィア、カリンの三人の周囲に人集りが出来て愉しげに歓談している、その光景を苦々しく見ている人物が居た。
スベリエ王国ゴズフレズ駐在大使ヒッター子爵であった。
ヒッター子爵は、一人で酒を飲みながら焦燥に駆られていた。
(マズい。マズいぞ。・・・このままでは、ゴズフレズが帝国に併呑されてしまう)
(ゴズフレズ海峡を失えば、我がスベリエ王国は内海に閉じ込められ、列強の座から降りざるを得なくなる。国家存亡の危機だ)
(皇太子め! 武力を用いず、帝国の経済力と文化力を見せ付け、国の指導層である貴族や役人達を籠絡するとは。あの若さで・・・、侮れん)
(・・・もはや強行手段もやむを得まい)
ヒッター子爵は祝勝会の会場を後にすると、スベリエ本国に書簡をしたためた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる