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御守り
しおりを挟むコレーの日常
(時間は少しさかのぼる)
眩しい。あぁ もう朝なのね。こんなに日が上ってしまったわ。最近はお寝坊になってしまった。いつも朝日の一番のおはようのキスと共に、起きていたのに。でも身体がだるくて、また眠ってしまいそう。 いいえ、起きないと。
家に帰ってきてしばらくは、寝る間もなく働いてた。大地に種を撒き、小さな草の芽を見つけては祈りを込める。畑や果樹園に牧草地に木や森にみどり豊かな山々に元に戻すようにと、いいえ、それ以上でないといけないと思い頑張ったわ。お母様と二人で。日が出ている間は、少しでも草木が伸びる様に、暗くなってからしっかりと根が水を吸って成長して早く実がなるようにと、東から西に南から北まで走り回って、飛び回ったわ。
だって、これは私達のせいだもの。
それから少しして 一度、全知全能であるゼウス王神が地上にお越しになったわ。私の顔を見て「無事で良かった」と仰ってた。
一応、あの方も父親としてお越しになったのかしら?相変わらずお母様は仏頂面をしていたけど。
ただ、
「もう地上界は大丈夫の様だな。ありがとう」
と、仰った。お母様はやっと安心されたのだろう、泣きそうな顔をしていた。
そして、その後にお母様が、
「コレー。ありがとう。もうこれからは母一人でも大丈夫よ。あなたは少し休んで頂戴。帰ってきてすっかり痩せてしまってるし、ほぼ寝てないでしょう?」
と、お母様は、強制的に私を家に連れ帰ってベッドに寝かしつけた。
あれは子守唄に乗せる眠る呪文だわ。だってあれからまるまる3日間私、目が覚めなかったらしい。
それからは、1日の仕事終わりは遅くとも日の入りまでにと、決められてしまった。朝は必ずしっかり眠ってからと、誰も起こしにいかない様にとニンフ達にも話された。
こうしてすっかりと怠け癖がついてしまったわ。もうお母様は祈りの神殿へとお仕事に行ってるわね。
眠気の残る顔を洗い、鏡を見ると目の下に明らかな隈がいてる。夜中によく夢をみる。でも起きたらどんな夢かだったのか全く覚えて無い。
ただ、目の下の隈に、瞼が腫れてるから、きっと夢で泣いてるんだと思う。最初の頃は夜中に起きて、その夢が悲しくて泣いてしまった。だけど、だんだん夢の何が悲しいのか、わからなくなってきた。夢の最後では(忘れて生きていくの)って思って(何を忘れるの?)って自分でツッコミながら。あんまり夢の事や、記憶の無い期間の事を思い出そうとすると強い眠気がする。だから昼間は出来るだけ考えない様にしている。
鏡に向かって百面相。洗っても寝ぼけた顔が映ってる。慣れ親しんだ顔を見て何故か違和感を感じる。何が違うと感じるのかしら?髪が短くなったから?そこし痩せたから?きっとそうね。そんな短い時間で、顔が変わるとかあり得ないしね。
後は変わった事と言えば、いつものにお友達が部屋にいないことかしら?
もちろん、赤ん坊の頃から面倒見てくれるお姉さんみたいなメンテは、今まで通りに側にもいてくれて部屋にも入ってくる。
だけど、可愛い小さな小さな身体の妖精🧚♀️ニンフ(私はチビニンフって呼んでいた)はこの部屋には入って来なくなった。私が唯一向こうから持って帰った鉢植えが怖いらしい。きっと私が「冥界に落ちた時の事を思い出して怖がっているんでしょう」ってメンテは慰めてくれる。部屋から出たら、前と同じように肩や左右の耳にブラブラとぶら下がっては悪戯してくる。私には遊びにくるみたいだから。初めは部屋に入った途端に、白い可愛い白い花を抱えている私を見て逃げ出していった。その後も、私がその花を見つめていると、まるでどこか遠い所にいるみたいで怖かったとか、まるで違う人みたいに見えたとか、小さなニンフが怯えていた。確かに前は何か大切な物が見えた気がする。でも、最近は他の花達と反応が違った。何か見ようとしても話しかけても全く反応してしてくれなくなった。ただ萎れたり元気がない様子ではなく、俯きかげんで黙っている風だった。それじゃあ無理に聞き出すのは可哀想に思ってそのままにしていた。
それに、起きてる時間が少ないから昼間はお仕事が忙しくて、ついつい部屋に戻る時間もほぼ無くて、そのままにしてしまっていた。
そんなある日、急に胸が締め付けられる様な苦しみと一緒に悲しみがきて何故か涙が溢れた。 そんな自分に驚いていると、チビニンフが飛んできた。
「大変大変、窓からの風でカーテン揺れて鉢植え落ちて割れたってメンテ姉様がコレーに知らせてって」
《 私の花が!あの人との唯一の繋がりなのに。私のこれからの忘れて生きて行けるように御守りなのに。 あぁ 何故もっと大事にしておかなかったのか? 》
うちまですぐに走って帰ろうとした。いいえ、『〇〇なら、念じれば迷う事なく行けるだろう』って言ってくれた。界越えは無理でも同じ地上界ならば大丈夫。
そう信じて私の部屋に!っと念じたら、もうすでにお家に帰っていた。目の前に割れた鉢植えと触ってもいいのかと迷ってるメンテの姿があった。
「私がするわ」って声をかけると
「コレー様!いつの間に?」って驚いていた。
鉢植えは割れていたが根は土についたままだった。良かったと一旦落ち着いて見ると、メンテが持っていた他の入れ物を借りてとりあえず移した。
そうして少しずつ安心すると、さっきからの自分の考えや行動にビックリする事ばかりだった。
この花がダメになったかもと聞いて、咄嗟になんて考えた?御守り?唯一の繋がりって?私、そんな事思っていたのね。
だから、どんなにチビニンフ達に嫌われてもこの花を側に置いて寝てたんだ。
毎日、綺麗な水をと思って森の泉まで行って水を汲んで来た。その為にも泉のある森に随分と力を使って回復させたわ。お母様にとっても思い出のある森で、よく考え事をする時に来る湖だったから、二人で本気の力を注ぐと元通りになるのは割と早かった。
私はその花をそっと撫でながら、
「わがままだったわ。ごめんなさいね。」
そう言って花を持って家を出た。
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