冥界の愛

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渡し守 カロン

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冥界の秘密の一つじゃな



「またミノの悪い癖が出たな。
お嬢さん すまなかったなぁ。何の事なのか、わからないだろう?みんなそうだ。
このミノスは遠い未来を見て来た事があるらしいんだ。その話をするから自分の中ではとても納得するし、繋がってる話しなんだろうが わしらにはさっぱりわからなくてな。
まぁ お嬢さんも気にしなくていい。話し半分ぐらいに聞いておけば良いから。」


「あー良かった。」
あまりにも何言ってるかわからなくてビビったわ

「私 自分の名前も忘れてしまって。
他にも随分記憶が無いのかと心配しました。わからないのは私だけではないんですね。
やっぱり初めて聞く話なんですね」


「ああ 大丈夫じゃよ。
ミノの話しがわかる者は居ないが、おもしろい話しじゃから みんな真似して言ってるだけじゃな。」

「ところで やっぱりお嬢さんは何も覚えてないのかい?どこから来たのかも?」

「はい 倒れていたところを ミノスさんに助けて頂きました。
記憶がないのは 忘却の河の水を飲んだのかも?と話しでしたけど、どうしたら思い出すんでしょうか?」

「そうさなぁ。わしが見える感じでは。いや、
川の水を飲んだんじゃないだろう。ボーっとしとりゃせんな。しっかりとしてるし困った顔も笑顔もあるからな。

川に浸かっただけならそのうちに思い出すだろう。

それより その手に持っているのはヒガンバナ科の花じゃな?
力を失っておる。
お嬢さんはその花と一緒にこっちに来たのかい?」


驚いた。

ミノスさんには自分が持って帰ると言われたけど、ミノスさんのお家に着くまで この子の元気を取り戻してあげれないかともう一度力を流そうと貸してもらっていた。
しかも 手の中に入ってて見えなかったはずなのに。


「お爺さんはこの花が何の花なのか知ってるんですか?
どうしたら元気になるかわかりますか?」


カロンのお爺さんは、 「その花、ヒガンバナ科の事なら少しは知っておる」
そう言って、河岸に咲き乱れてる彼岸花を見つめながら話し始める。







「天界、地上界、ここ冥界とそれぞれの役割があると言われてる。そしてその役割が有るからこそ、簡単にあちこちに行き来が出来ない様に越えられない結界がある。

普通 高位の神がその界の主に断りを入れて初めて往来ができる。
それでも、特に冥界は滅多にある事でなく、よほどの事情があっての事だと聞いてる。

そんな結界が張ってる他の世界の事でも、全く世間の様子がわかってなければこちらも対処が追いつかない時があるんじゃ。 
例えば 先の「神の気まぐれによる戦」とかじゃな。たくさんの地上界の人間の魂が死者となり、ここ冥界にやって来た。
その時も、もしも何の情報も無く いきなりあの数の死者をこの入口で待たせてしまうと大変な事になる。溢れ出て地上界に亡者として彷徨う事になるやも知れぬ。

だから地上界、ひいては天界まで何が起こってるのか?知らせてくれる目と耳が必要になってくる。
そこで作られたのが、どこにあっても不自然にならない花の姿をした目と耳じゃな。

最初は 色んな花を試してみたらしいが、ある時どうしてもあちらの世界からこっちに送りたい物があってな。
見たり聞いたり出来るだけでは、充分でなくなって来たんじゃ。
その時に、この河の辺りにたくさん咲いてる彼岸花が、地上界にも特に思いの強い者の側に咲いてるという話を聞いてな、ひょっとするとこいつは結界を超えてしまうんじゃないか?と。
それから色んな事を試したり花を枯らしたりと、試行錯誤ってやつじゃな。


花の中でもヒガンバナ科という話なら、またその花の仲間なら 結界を超えられるとわかったんじゃ。
もちろん、花にかなり力を流さないと作用しないがな。

見たり聞いたりするだけじゃなく、いざとなったらその花でこっちにやって来れる。そんな特別な花だと。


冥界の秘密の一つじゃな。

お嬢さんはそれに巻き込まれてしまったんだろう。力を流したんじゃろ?覚えてないのかい?それもその花の作用だろう。
その花から離れると徐々に思い出すはずじゃよ。心配せんでもええ。」

渡し守のカロンのお爺さんは 静かに舟を漕ぎながら 私に優しく笑いかけてくれた。
やっぱり私、不安そうな顔してたんだなぁ



「そして、ここから帰る時には ここでの事は全て忘れて帰るんじゃよ。」

そう言われると





何故だか涙が流れて仕方なかった。




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