毒が効くまで長すぎる

ねね

文字の大きさ
上 下
10 / 20

10 お誘い

しおりを挟む
 「俺は、先生のことを領主に報告して、両家の話し合いを見届けようと思うんだが。

 良かったら、あなたも来ないか。特に予定は無いんだろう?」

 おお、可愛い子に誘われちゃったよ。

 君、本当に正気?
 こちとら死体に巣くう魔物なんだけれど。

 「私は問題ないよ。でも、君は私のこと怖くないの?」

 青年は据わった目でニッと笑った。

 「どんな理由であるにせよ、あなたは一度、俺の命を助けてくれた。

 言葉も通じるし、すぐに危害を加えられるとは思えない。」

 「むしろ危ないのは、人間だ。この館には明日から、"赤熊"と"白鳩"の主だった者が集まる。

 話し合いと言っても平和なものじゃないだろう。何しろ双方とも、あわよくば相手に一矢報いるために出て来るだけなんだからな。

 俺は立回りは得意じゃない。流れ弾に当たることもあり得る。

 出来れば一緒に来て、俺を助けて欲しい。」

 まあ。率直なお申し出ですね~。

 そういうのは嫌いじゃないよ。お姉さんは頼られると嬉しくなるからね。

 「わかった。それじゃ私もお邪魔するよ。」

 「ありがとう。俺はサルマだ。あなたの名前は?」

 「私はアズサだよ。よろしく、サルマ。」

 「よろしく。」

 わーい。人間の連れが出来たぞ。

 夜中に館を訪れるのはまずいということで、その夜は館の脇で野宿となった。

 この館に入るには、やっぱり、上から縄で引っ張り上げてもらうしかないらしい。

 だから館の者が寝ている夜に入って来るのは不自然なんだってさ。

 「なんでこんな不便なお館を建てたの?」

 「ここは、領主が普段住んでるところじゃない。元は隠者の館で、それをご領主が買ったんだ。

 外界からは切り離された場所だけど、"赤熊"と"白鳩"の話し合いにはちょうど良い。

 ここなら、外からお互いの手の者が乱入して殺し合う展開は避けられるだろ?」

 なるほどね。しかし血の気の多い奴らだな。

 そんで、空を飛んで来ましたと正直に言わないってことは、サルマは私の素性を誤魔化すつもりなんだろう。
 
 まあね。魔物の被害が酷いって話をする席に当の魔物が参加してたんじゃ、話がカオスになるもんね。

 私としては正体をバラして、どうなるか見てみたい気もするけれど。ここはお行儀よくサルマの仕切りを尊重しておこう。

 一発、君のストーリーで踊ってやるよ。
 面白いことになるといいな~。

 「アズサは俺の仲間で、外国の魔術師だってことにする。」

 「私は魔術とか知らないよ?」

 「見習いだって言えばいい。ともかく、魔術師でもないのに呪語が喋れるのは不自然だ。」

 「呪語?」

 「今、喋ってる言葉のこと。知能の高い魔物が話す言葉なんだ。」

 ほー、そんなものがあるのね。誰に習った訳でもないのに私にわかるこの言葉。不思議だな。

 「サルマは魔術師なの?」

 「俺は薬学が専門だ。魔術もかじってみたけど、適性が無かった。

 だから専ら薬を作るしか出来ない。」

 「魔術の適性があったら、魔術師になりたかった?」

 「ああ。ここが地元だからな。争いから自分たちを守れる力くらい、欲しかったさ。

 もう寝よう。明日はきっときつい……。」

 はい、おやすみなさい。

 サルマは人間だから、眠らないとね。私は朝までどうしよう。

 その辺の草でもかじって、この体の消化機能を動かす練習をしておくか。

 生きてる人間のフリって、人間じゃない者には案外大変なんだよな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...