暖炉が好きなシンデレラ

ねね

文字の大きさ
上 下
17 / 29

17 縁をつなぐ

しおりを挟む

「え。それ本気ですか?」

 少年は思わず遠い目をしました。

「もちろん本気だよ。」

 ポンポン、と王子さまは本を叩きます。

「パンプキンポタージュにカボチャの煮付け……いろいろ調べてはみたけれど、あのカボチャを料理してしまうのは、やはり友好的でない。

 ここはひとつ、うちの野菜畑にアレをお招きする方向で進めたいと思う。」

「はあ。」

「シンデレラは私が引き付けておく。君はそれを持ってカボチャのところへ行き、お城の畑に奴を定植するんだ。」

「ええええっ!」

 渡されたのは肥料と、黒い畑の土です。

「それを持ってシンデレラのカボチャにアピールしろ。なんなら綺麗なカボチャも連れて行くと良い。」

「カボチャの美醜って何ですかー!?」

「さあな。ともかくやってみてくれ、上手く行けば彼女を城に足止めできる。」

「足止めしてどうされるんです?」

「私が、家まで送る。それでシンデレラの家がわかる。」

 にっこり。王子さまは良い笑顔です。

 ひょっとすると王子さまは、舞踏会でものすごく疲れてしまったのかもしれません。

 お側仕えの少年は、王子さまのお顔と肥料袋を、何度も往復してガン見したのでした。

☆ ☆ ☆

 その頃、シンデレラのお屋敷では。

 舞踏会最後の夜に向けて、継姉たちのお支度が過熱しておりました。

「今日は本気出すわよ!」

 継母が吠えています。

「いい、あなた達はね。学校を出たばかりのお子さまだって思われてるの。平凡な格好じゃ、垢抜けない小娘と見なされる。舞踏会で舐められたくないでしょう?」

 継姉たちの前には、おっっっそろしくスッキリした真紅のロングドレス。

 ラインが美しい、艶やかな逸品です。

(うお、どシンプル………っっ。)

 シンデレラはよろめきました。

(こういう服はな、立派なお肉がガッツリ付いた女性を待っているんだよ!)

 ぽっちゃりぜい肉が付いた下の継姉は引きつり、ペラーンとした薄い体の上の継姉は、この世の終わりのような顔をしています。

 しかし継母は引きません。

「口紅は赤!髪型はアップ!さあ、どんどん靴を持って来てちょうだい!!」

(ええい、せめて被害を押さえよう。)

 シンデレラはタオルを引っ張り出して、上の継姉の胴体に巻きました。

「何やってるの?」

「サラシじゃありませんよ。モコモコにして、体の厚みを出すんです。ドレスを押し返す肉の変わりです!
 胸だけにパットを入れてもボリューム足りないですからね!!」

 やれやれ何が悲しゅうて、姉妹で補正しまくってパーティーに行くのだか。

 ぎゅうぎゅう。タオルを紐で縛りながら、シンデレラは王子さまのことを思いました。

(今日で舞踏会は最後かー。次はいつ会えるかなあ。………ぐすっ、もう会えなかったらどうしよう。あああ、そんなの嫌ー!!)

 ええと。それは普通に、王子さまと連絡先を伝え合えば良いと思うのですが。

(住まいが暖炉とか言って引かれちゃうのも嫌……。)

 シンデレラはシンデレラで、しょうもないことを悩んでいたのです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

怪異・おもらししないと出られない部屋

紫藤百零
大衆娯楽
「怪異・おもらししないと出られない部屋」に閉じ込められた3人の少女。 ギャルのマリン、部活少女湊、知的眼鏡の凪沙。 こんな条件飲めるわけがない! だけど、これ以外に脱出方法は見つからなくて……。 強固なルールに支配された領域で、我慢比べが始まる。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...