暖炉が好きなシンデレラ

ねね

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4 灰女、シンデレラ

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 働き始めたその日から、女の子のお部屋は屋根裏部屋になりました。

 女中さん用の大部屋は、満員で入れなかったのです。

 屋根裏部屋は天井が低く、あらかた物置きでした。いつでもネズミが出ますし、夜には天窓から星明かりが入ります。

 女の子はこの部屋を、賑やかですてきな所だと思いました。そして夏の間じゅう、それは楽しく過ごしました。

 ところが。冬が来て気温が下がり始めると、状況は一気に悪くなります。

 このお部屋には、冬に必要なもの-――暖炉が、ありませんでした。

☆ ☆ ☆

「さぶっ……さぶっっ。
 ………ダメだ、もう眠れない。」

 ある夜のこと。ついに女の子は掛け布団にくるまったまま、お部屋を抜け出しました。

 石作りの建物の冷たさときたら、シャレになりません。このままでは朝までに凍死しそうです。

「暖かいところ、暖かいところ。私が入れる、暖かいところ……っ。」

 女の子は暗い階段を中腰で降り、かじかむ足で台所を目指します。

 壁づたいに奥へ、奥へ。

 探しているのは、台所の大きな暖炉です。

 もちろん、もう火は消えています。最後にきちんと消す決まりですから、そこは仕方がありません。

 台所の空気もすっかり冷えています。

 しか~し。
 ぱふっと片足を暖炉の灰に突っ込めば。

「おお、やった。あったかーい!!」

 暖炉は石作りで、火が消えても中の石はよく暖まっていました。

 女の子はすぐさま暖炉に体をねじこんで、ごろんと丸まります。

 ぬくぬくです。ぽかぽかです。灰や掛け布団がなければ、少し熱いくらいです。

 女の子はぐっすり眠りました。

 この日以来、暖炉が彼女の寝床となりました。彼女には、灰まみれの女、すなわち“シンデレラ”とあだ名が付きました。

 そうして、十年の月日が流れて行ったのです。

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