姫さまを倒せ!

ねね

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21 使い魔たちの魔法……

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 ここはお城の台所。

 姫さまと男の子は、今、自分たちで野菜を直火焼きしているところだ。

 台所の肉や魚も、一緒に焼いている。
 時折、油が火に落ちてジュッと音がする。

 ひたすら煙をあおぐ私は、さながら生きた換気扇。

 ええと……。これ、もう夕飯だよね?

 なし崩しになっちゃってるけど、迷惑になってないかなー。

 まあ、空気は和やかだし、おそらく大丈夫?

 ちと慎重に男の子の様子を伺うも、こちらに好意的な相手の考えはどうにも読み難い。

 密かに困っていると、男の子が口を開いた。

「姫さまも一緒に食べませんか?こっちにお肉がありますよ。」

 お客様に食事を勧められる姫さま。
 すっかり立場が逆転してるよ、はっはっは。

「あ、の。私は、この姿ですので。」

 はいはい。繭のままじゃ食べられないですもんねー。だからさっきから、姫さまは焼いてばかりいる訳で。

 その繭、外します?とジェスチャーすると、ムリ、と姫さまは首を振った。

 仕方のないお方だ。それでも、男の子はめげずに食い下がる。

「ご飯を食べないと、お腹がすきますよ。それに僕は、あなたのお顔が見たいです。」

 さあどうします、姫さまー。

「もう少し、このままでおります。」

 ヘタレだなあ。

 男の子の不満そうな顔に、こっちまで居たたまれない。

「私も、普通にしたいのですが。今は少し、過敏になっていて。

 この姿でいれば、その、多少は落ち着いて、お側に、居られるもので。」

「そこまで隠さないとダメですか?」

「隠して、やっと、お話することができました。」

 うーわー。
 あらためて言葉にすると、情けな~い。

 なのに姫さまは、そこでお笑いになった。

「この衣装を考えてくれたのは、私の使い魔です。別の使い魔は、夜通し私の背中を押してくれました。

 とても、嬉しいです。隠れないとダメと言うより、こうしていると心強くて。

 私の使い魔たちは皆、私に魔法をかけるのがとても上手いのですよ。」

 おおっ。光栄です、姫さまー!

 あー、うちの姫さまはこんなんだけど。どうかドン引きしないであげて。

 ほら、姫さまだってダメなとこばかりじゃないんだよ~。付き合ってみれば、どこか良いとこあると思うよ~?

 そんな気持ちを込めて、私はせっせと煙をあおぐ。

 やがて夜は更けて。使い魔その1が、姫さま方を迎えにやって来た。

「上のお部屋に、食後のお茶の準備ができました。お客様もどうぞ。」

★ ★ ★

 使い魔その1が用意したお部屋は、ボードゲームや楽器のある遊戯室だった。

 大きなソファー、ふかふかのクッションに姫さまが沈み込む。

 すると、男の子も隣に腰掛けて、距離ゼロの位置に収まった。

 うわ。

 『フツーです・当たり前です・何もおかしくありません。』ってな態度で、ニコニコ押してるよ。

 そりゃそうだけど。そうだっけねー?

 誰も突っ込まずにいると、そんな態度は控えめに続行され。

 お茶を飲み終わる頃には、姫さまは肩を抱かれて坊やに寄りかかっていた。

 て言うか、あれ。

 姫さま………スースー寝てないか?

 あー。昨夜はずっと起きてたからね~。姫さまは、ちょっと睡眠不足というか?
 
 疲れて、目を閉じたら眠くなったらしい。

 いや待て。ちょっと待て。
 お客様が来てるのに、眠るってアリなの!?

 ま、まあ、お相手もご機嫌は良さそうなので、これは、まだセーフ、だと思う…?

 仲間たちを見れば、使い魔その1は困り顔。使い魔その2は、天井に目を逸らしている。

 ああもう、姫さまー。

 過剰に恥ずかしがるくらいなら、もっと緊張感を持ちましょうよ!

 しばらく様子を見ていると、やがて男の子は徐に姫さまから身を離した。

 そのまま、ひょいひょいっと器用に姫さまの繭を剥がして行く。……ん?

 そして普通のワンピース姿になった姫さまを、彼は至って満足そうに抱っこし直したのだった。

 ……………………あれ。ちゃっかりしてるなー。

 そういえばこの子、姫さまが好きなんだっけか。好きって、つまりこういう事か。

 むむ。少し、面白くない。

 だって。私たち、使い魔としてずーっと姫さまの面倒を見てきたのに。

 何なら、分厚い取扱い説明書だって書けるのに。

 なんか、この子の方が姫さまの扱い上手くない!?

「「「…………。」」」

 う~~~。
 今、悪魔のささやきが聞こえるんだが。

 あのー。ひょっとして、このまま朝までぐっすり眠れば。それで求婚、オッケーなんじゃ?

 姫さまはこの子がお好きなのだから、問題はないよね。これ以上、ぐずぐずなさる理由も特に無いわけで。

 周りとしては、何かもう、さっさと外堀埋めてしまいたいって言うか~。その、ね。

 ちらりと使い魔その1、その2を見やれば、2匹とも無言で扉を指さした。

 私も扉を指さして、心は同じと伝える。

 使い魔は、主思いだけれども品行方正ではないのである。

 男の子を見ると、ペコリと頭を下げられた。

 うん。3匹と1人の、共謀が成立したな!

 こうして。私たち使い魔3匹は、揃って深ーくお辞儀をすると、風のように素早くお部屋を退出したのであった。
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