21 / 22
21 使い魔たちの魔法……
しおりを挟む
ここはお城の台所。
姫さまと男の子は、今、自分たちで野菜を直火焼きしているところだ。
台所の肉や魚も、一緒に焼いている。
時折、油が火に落ちてジュッと音がする。
ひたすら煙をあおぐ私は、さながら生きた換気扇。
ええと……。これ、もう夕飯だよね?
なし崩しになっちゃってるけど、迷惑になってないかなー。
まあ、空気は和やかだし、おそらく大丈夫?
ちと慎重に男の子の様子を伺うも、こちらに好意的な相手の考えはどうにも読み難い。
密かに困っていると、男の子が口を開いた。
「姫さまも一緒に食べませんか?こっちにお肉がありますよ。」
お客様に食事を勧められる姫さま。
すっかり立場が逆転してるよ、はっはっは。
「あ、の。私は、この姿ですので。」
はいはい。繭のままじゃ食べられないですもんねー。だからさっきから、姫さまは焼いてばかりいる訳で。
その繭、外します?とジェスチャーすると、ムリ、と姫さまは首を振った。
仕方のないお方だ。それでも、男の子はめげずに食い下がる。
「ご飯を食べないと、お腹がすきますよ。それに僕は、あなたのお顔が見たいです。」
さあどうします、姫さまー。
「もう少し、このままでおります。」
ヘタレだなあ。
男の子の不満そうな顔に、こっちまで居たたまれない。
「私も、普通にしたいのですが。今は少し、過敏になっていて。
この姿でいれば、その、多少は落ち着いて、お側に、居られるもので。」
「そこまで隠さないとダメですか?」
「隠して、やっと、お話することができました。」
うーわー。
あらためて言葉にすると、情けな~い。
なのに姫さまは、そこでお笑いになった。
「この衣装を考えてくれたのは、私の使い魔です。別の使い魔は、夜通し私の背中を押してくれました。
とても、嬉しいです。隠れないとダメと言うより、こうしていると心強くて。
私の使い魔たちは皆、私に魔法をかけるのがとても上手いのですよ。」
おおっ。光栄です、姫さまー!
あー、うちの姫さまはこんなんだけど。どうかドン引きしないであげて。
ほら、姫さまだってダメなとこばかりじゃないんだよ~。付き合ってみれば、どこか良いとこあると思うよ~?
そんな気持ちを込めて、私はせっせと煙をあおぐ。
やがて夜は更けて。使い魔その1が、姫さま方を迎えにやって来た。
「上のお部屋に、食後のお茶の準備ができました。お客様もどうぞ。」
★ ★ ★
使い魔その1が用意したお部屋は、ボードゲームや楽器のある遊戯室だった。
大きなソファー、ふかふかのクッションに姫さまが沈み込む。
すると、男の子も隣に腰掛けて、距離ゼロの位置に収まった。
うわ。
『フツーです・当たり前です・何もおかしくありません。』ってな態度で、ニコニコ押してるよ。
そりゃそうだけど。そうだっけねー?
誰も突っ込まずにいると、そんな態度は控えめに続行され。
お茶を飲み終わる頃には、姫さまは肩を抱かれて坊やに寄りかかっていた。
て言うか、あれ。
姫さま………スースー寝てないか?
あー。昨夜はずっと起きてたからね~。姫さまは、ちょっと睡眠不足というか?
疲れて、目を閉じたら眠くなったらしい。
いや待て。ちょっと待て。
お客様が来てるのに、眠るってアリなの!?
ま、まあ、お相手もご機嫌は良さそうなので、これは、まだセーフ、だと思う…?
仲間たちを見れば、使い魔その1は困り顔。使い魔その2は、天井に目を逸らしている。
ああもう、姫さまー。
過剰に恥ずかしがるくらいなら、もっと緊張感を持ちましょうよ!
しばらく様子を見ていると、やがて男の子は徐に姫さまから身を離した。
そのまま、ひょいひょいっと器用に姫さまの繭を剥がして行く。……ん?
そして普通のワンピース姿になった姫さまを、彼は至って満足そうに抱っこし直したのだった。
……………………あれ。ちゃっかりしてるなー。
そういえばこの子、姫さまが好きなんだっけか。好きって、つまりこういう事か。
むむ。少し、面白くない。
だって。私たち、使い魔としてずーっと姫さまの面倒を見てきたのに。
何なら、分厚い取扱い説明書だって書けるのに。
なんか、この子の方が姫さまの扱い上手くない!?
「「「…………。」」」
う~~~。
今、悪魔のささやきが聞こえるんだが。
あのー。ひょっとして、このまま朝までぐっすり眠れば。それで求婚、オッケーなんじゃ?
姫さまはこの子がお好きなのだから、問題はないよね。これ以上、ぐずぐずなさる理由も特に無いわけで。
周りとしては、何かもう、さっさと外堀埋めてしまいたいって言うか~。その、ね。
ちらりと使い魔その1、その2を見やれば、2匹とも無言で扉を指さした。
私も扉を指さして、心は同じと伝える。
使い魔は、主思いだけれども品行方正ではないのである。
男の子を見ると、ペコリと頭を下げられた。
うん。3匹と1人の、共謀が成立したな!
こうして。私たち使い魔3匹は、揃って深ーくお辞儀をすると、風のように素早くお部屋を退出したのであった。
姫さまと男の子は、今、自分たちで野菜を直火焼きしているところだ。
台所の肉や魚も、一緒に焼いている。
時折、油が火に落ちてジュッと音がする。
ひたすら煙をあおぐ私は、さながら生きた換気扇。
ええと……。これ、もう夕飯だよね?
なし崩しになっちゃってるけど、迷惑になってないかなー。
まあ、空気は和やかだし、おそらく大丈夫?
ちと慎重に男の子の様子を伺うも、こちらに好意的な相手の考えはどうにも読み難い。
密かに困っていると、男の子が口を開いた。
「姫さまも一緒に食べませんか?こっちにお肉がありますよ。」
お客様に食事を勧められる姫さま。
すっかり立場が逆転してるよ、はっはっは。
「あ、の。私は、この姿ですので。」
はいはい。繭のままじゃ食べられないですもんねー。だからさっきから、姫さまは焼いてばかりいる訳で。
その繭、外します?とジェスチャーすると、ムリ、と姫さまは首を振った。
仕方のないお方だ。それでも、男の子はめげずに食い下がる。
「ご飯を食べないと、お腹がすきますよ。それに僕は、あなたのお顔が見たいです。」
さあどうします、姫さまー。
「もう少し、このままでおります。」
ヘタレだなあ。
男の子の不満そうな顔に、こっちまで居たたまれない。
「私も、普通にしたいのですが。今は少し、過敏になっていて。
この姿でいれば、その、多少は落ち着いて、お側に、居られるもので。」
「そこまで隠さないとダメですか?」
「隠して、やっと、お話することができました。」
うーわー。
あらためて言葉にすると、情けな~い。
なのに姫さまは、そこでお笑いになった。
「この衣装を考えてくれたのは、私の使い魔です。別の使い魔は、夜通し私の背中を押してくれました。
とても、嬉しいです。隠れないとダメと言うより、こうしていると心強くて。
私の使い魔たちは皆、私に魔法をかけるのがとても上手いのですよ。」
おおっ。光栄です、姫さまー!
あー、うちの姫さまはこんなんだけど。どうかドン引きしないであげて。
ほら、姫さまだってダメなとこばかりじゃないんだよ~。付き合ってみれば、どこか良いとこあると思うよ~?
そんな気持ちを込めて、私はせっせと煙をあおぐ。
やがて夜は更けて。使い魔その1が、姫さま方を迎えにやって来た。
「上のお部屋に、食後のお茶の準備ができました。お客様もどうぞ。」
★ ★ ★
使い魔その1が用意したお部屋は、ボードゲームや楽器のある遊戯室だった。
大きなソファー、ふかふかのクッションに姫さまが沈み込む。
すると、男の子も隣に腰掛けて、距離ゼロの位置に収まった。
うわ。
『フツーです・当たり前です・何もおかしくありません。』ってな態度で、ニコニコ押してるよ。
そりゃそうだけど。そうだっけねー?
誰も突っ込まずにいると、そんな態度は控えめに続行され。
お茶を飲み終わる頃には、姫さまは肩を抱かれて坊やに寄りかかっていた。
て言うか、あれ。
姫さま………スースー寝てないか?
あー。昨夜はずっと起きてたからね~。姫さまは、ちょっと睡眠不足というか?
疲れて、目を閉じたら眠くなったらしい。
いや待て。ちょっと待て。
お客様が来てるのに、眠るってアリなの!?
ま、まあ、お相手もご機嫌は良さそうなので、これは、まだセーフ、だと思う…?
仲間たちを見れば、使い魔その1は困り顔。使い魔その2は、天井に目を逸らしている。
ああもう、姫さまー。
過剰に恥ずかしがるくらいなら、もっと緊張感を持ちましょうよ!
しばらく様子を見ていると、やがて男の子は徐に姫さまから身を離した。
そのまま、ひょいひょいっと器用に姫さまの繭を剥がして行く。……ん?
そして普通のワンピース姿になった姫さまを、彼は至って満足そうに抱っこし直したのだった。
……………………あれ。ちゃっかりしてるなー。
そういえばこの子、姫さまが好きなんだっけか。好きって、つまりこういう事か。
むむ。少し、面白くない。
だって。私たち、使い魔としてずーっと姫さまの面倒を見てきたのに。
何なら、分厚い取扱い説明書だって書けるのに。
なんか、この子の方が姫さまの扱い上手くない!?
「「「…………。」」」
う~~~。
今、悪魔のささやきが聞こえるんだが。
あのー。ひょっとして、このまま朝までぐっすり眠れば。それで求婚、オッケーなんじゃ?
姫さまはこの子がお好きなのだから、問題はないよね。これ以上、ぐずぐずなさる理由も特に無いわけで。
周りとしては、何かもう、さっさと外堀埋めてしまいたいって言うか~。その、ね。
ちらりと使い魔その1、その2を見やれば、2匹とも無言で扉を指さした。
私も扉を指さして、心は同じと伝える。
使い魔は、主思いだけれども品行方正ではないのである。
男の子を見ると、ペコリと頭を下げられた。
うん。3匹と1人の、共謀が成立したな!
こうして。私たち使い魔3匹は、揃って深ーくお辞儀をすると、風のように素早くお部屋を退出したのであった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる