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20 繭玉の奮闘
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本日の姫さまの装いは、もっちりした白い布。
それを、ぼすっと上から被せている。頭から爪先まですっぽり隠すように。
外から見えるのは目だけだ。背中の大きな赤いリボンがアクセント。
ああ、丸っこくて本当に可愛い。
姫さまも、鏡を眺めてしみじみ仰った。
「物凄く安心します……。」
「ふっふっふっ。
そうでしょう、そうでしょう。」
いや~、考えたんだよね。私も何か姫さまを後押ししたいなって。
そうして誕生したのがこちら、布シールド!
恥ずかしがりやの姫さまへ贈る、秘密兵器なのだ。
あの子の顔を見るのが恥ずかしい?
大丈夫、相手に自分が見えてなければ、案外気にならないもんですよ~。
どうか心おきなく、ドーンと行っちゃって下さいな。
私は仕上げに、姫さまのお好きな林檎の香水を振りかけた。
★ ★ ★
「あのお召し物は…。」
「うん。可愛いでしょ。」
「いや可愛いけどさ。アレ、本人確認できないお姿よ?」
「そりゃ、本人確認できなくしたからねえ。」
ここはいつものお庭。私と使い魔その2は、姫さまから少し距離をとり、藪の陰に控えている。
姫さまは木の下を歩いているところだ。そのお姿はリボンの付いた白い繭。
行く手にはいつもの男の子が、首を傾げて待っていた。
『何だろう?』って顔だな。果たして彼は、姫さまを識別出来ているんだろうか。
まあ、分からなくても良いんだ。今日の目的は姫さまを慣らすことだから。
見ていたまえ。
今日の姫さまは、きっと一味違うはず。
おっ。白い繭がつつーっと、男の子の方へ歩いて行く。
あの繭、ちゃんと効いてるよ。
行け~、姫さま!
いつしか私と使い魔その2は手を取り合い、固唾を呑んで成り行きを見守っていた。
姫さまのお声は、やや裏返っていつもより音が高い。
「あの。一緒にお庭を歩きませんか?」
まともなお誘いに、涙が出た。
★ ★ ★
夏のたそがれ時。
お庭にはリョウブの花が咲き、芋の葉が翻る。姫さまたちはオクラや茄子の辺りを徘徊中。
……ええと、食人鬼は野菜を食べないけれど。姫さまは野菜の匂いがお好きなんだな。
さっきから茄子をもいでいるのは、あれか、彼氏に貢いでいるのか?
流石に芋は掘らないで下さいよ、姫さま~。
あー、キュウリも取ってる。素手はかぶれちゃいますよー。いや姫さまなら大丈夫?
う~ん。清々しくも情緒がない。
お相手も楽しそうだから、まあ良いか。
やがて男の子の腕がお野菜でいっぱいになると、姫さまは後ろに回ってひょいと男の子を持ち上げた。
「取れたてを焼いてもらいましょう!」
顔が見えなくてもわかる。
きっと今、良い笑顔だ。
姫さまがそのポーズでそのセリフだと、まるで坊やを焼いてしまうように聞こえるんだが。
本人たちは気にしてないので、これはセーフってことにしておこう。
その時、視界の端に、猛スピードで台所へ駆けていく使い魔その2が見えた。
………先回りして、何を焼くのか伝えるんだろうな。
それを、ぼすっと上から被せている。頭から爪先まですっぽり隠すように。
外から見えるのは目だけだ。背中の大きな赤いリボンがアクセント。
ああ、丸っこくて本当に可愛い。
姫さまも、鏡を眺めてしみじみ仰った。
「物凄く安心します……。」
「ふっふっふっ。
そうでしょう、そうでしょう。」
いや~、考えたんだよね。私も何か姫さまを後押ししたいなって。
そうして誕生したのがこちら、布シールド!
恥ずかしがりやの姫さまへ贈る、秘密兵器なのだ。
あの子の顔を見るのが恥ずかしい?
大丈夫、相手に自分が見えてなければ、案外気にならないもんですよ~。
どうか心おきなく、ドーンと行っちゃって下さいな。
私は仕上げに、姫さまのお好きな林檎の香水を振りかけた。
★ ★ ★
「あのお召し物は…。」
「うん。可愛いでしょ。」
「いや可愛いけどさ。アレ、本人確認できないお姿よ?」
「そりゃ、本人確認できなくしたからねえ。」
ここはいつものお庭。私と使い魔その2は、姫さまから少し距離をとり、藪の陰に控えている。
姫さまは木の下を歩いているところだ。そのお姿はリボンの付いた白い繭。
行く手にはいつもの男の子が、首を傾げて待っていた。
『何だろう?』って顔だな。果たして彼は、姫さまを識別出来ているんだろうか。
まあ、分からなくても良いんだ。今日の目的は姫さまを慣らすことだから。
見ていたまえ。
今日の姫さまは、きっと一味違うはず。
おっ。白い繭がつつーっと、男の子の方へ歩いて行く。
あの繭、ちゃんと効いてるよ。
行け~、姫さま!
いつしか私と使い魔その2は手を取り合い、固唾を呑んで成り行きを見守っていた。
姫さまのお声は、やや裏返っていつもより音が高い。
「あの。一緒にお庭を歩きませんか?」
まともなお誘いに、涙が出た。
★ ★ ★
夏のたそがれ時。
お庭にはリョウブの花が咲き、芋の葉が翻る。姫さまたちはオクラや茄子の辺りを徘徊中。
……ええと、食人鬼は野菜を食べないけれど。姫さまは野菜の匂いがお好きなんだな。
さっきから茄子をもいでいるのは、あれか、彼氏に貢いでいるのか?
流石に芋は掘らないで下さいよ、姫さま~。
あー、キュウリも取ってる。素手はかぶれちゃいますよー。いや姫さまなら大丈夫?
う~ん。清々しくも情緒がない。
お相手も楽しそうだから、まあ良いか。
やがて男の子の腕がお野菜でいっぱいになると、姫さまは後ろに回ってひょいと男の子を持ち上げた。
「取れたてを焼いてもらいましょう!」
顔が見えなくてもわかる。
きっと今、良い笑顔だ。
姫さまがそのポーズでそのセリフだと、まるで坊やを焼いてしまうように聞こえるんだが。
本人たちは気にしてないので、これはセーフってことにしておこう。
その時、視界の端に、猛スピードで台所へ駆けていく使い魔その2が見えた。
………先回りして、何を焼くのか伝えるんだろうな。
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