姫さまを倒せ!

ねね

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3 想定外の障害

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 さかのぼること数日前、お城の大広間で。

 姫さまと求婚者たちの面通しは、ごく非公式な形で行われた。

 ひとりずつお会いするには多すぎるし。
 順番とかうるさそうだし。
 まとめて済ますと揉めそうだし。

 諸々の配慮の結果、大広間に求婚者たちを集めて、姫さまが物陰から様子を伺うスタイルになったのだ。

★ ★ ★

「あの方、素敵ですね。」

 隠し小部屋から広間を覗く姫さまが指し示したのは……ええと、どこのチンピラだろう。

 思わず二度見した。顔が悪すぎる。

 あの、その、顔だちの問題ではない。顔つきがよろしくないのだ。

 針のような目付きに、ふてぶてしい態度。暴力臭がモロに表に出ちゃっている感じ。

 なんであんなのを。
 ウケ狙いですかー?姫さま。

 うろたえる私を尻目に、使い魔その1は鮮やかな采配を見せてくれた。

「そうですか。では、彼の身元や素行を確認し、問題がないか精査します。ほかに気になる方はいらっしゃいますか?」

 ああ、なんて見事な仕事人っぷり。
 使い魔その1、ナイス!

 そうだよね、調べて素行に問題があったら振るい落とせば良いんだよ!

 内心で喝采を贈るこちらの気も知らず、姫さまはさらなる追い打ちを掛けてきた。

「あの方も気になります。」

 指し示されたその先には……ええと、前科何犯の脱獄囚?

 顔つき、異常じゃん。血の匂いするじゃん。鉄の匂いするじゃん…。

 姫さま目が悪いの?鼻も悪いの?

 使い魔その2がすかさず突っ込む。

「姫さま。他に女を作りそうな男ばかり選んではなりません。お姫さまが袖にされる姿など、女性の夢を壊します。」

 おい、そんな突っ込みか。

 使い魔その2にはあいつら、女癖悪そうに見えるのかね。
 
 でも、彼らモテそうには見えないよ?ああ、姫さまとは別のタイプの女を必要としてそうだってことなのかな。

 ………夢が壊れるというか、何か疲れた。

 若干、引き始めた私たち。
 ひんやり冷えた場に姫さまのお声が響く。

「お付き合いする前から浮気の心配なんて、失礼ですよ。もしかしたら真面目で一途な方かもしれません。あの方たちとぜひ、一度お話してみたいです。」

 目の前にはキラキラした汚れのない笑顔。

 ああダメだ。これはもう、どこかにすっこんで出直さないと。

 3匹の使い魔は天を仰いだ。

★ ★ ★

「お嬢さま育ちは悪い男に弱いって言うけどさー。あれは程度が限度を越えてない?」

「なにしろ、姫さまご本人がお強いからね。ちょっと本能的なブレーキが壊れてんじゃないの。」

 暫くの後。私と使い魔その2は、姫さまがご指名された求婚者に関する調査の報告書を、使い魔その1に提出した。

 調査の結果?言う必要あるのかな。

 予想通り、真っ黒アウトだよ。
 権力者だから捕まってないだけ~。

 これは、王さまが娘を箱入りにした弊害だろう。姫さまはあまりに世間知らずというか、人を見る目が無さすぎる。

「困りましたね。まさか犯罪者を姫さまの夫にするわけにもいきません。このようなことでは、姫さまご本人のご意見をあまり参考に出来ないわ。」

 なんてこった。私たちの中で一番しっかりしている使い魔その1が、迷い始めてる。

 これはいよいよ先行きが危うい、せめて彼女には気力を保ってもらわなくちゃ。

 よし、ここは一発、ご機嫌な提案を披露しようじゃないか。

「いっそ牢獄でお見合いパーティーとかどうかな?ほら、どうせ姫さまに振られたらお肉になっちゃうんだし。

 死刑囚限定で参加させれば、案外、楽しいパーティーになるかもよ。姫さまも幸せ、死刑囚もラッキー、私たちも眺めて面白そうじゃない?」

 我ながら冴えてると思ったのだが、使い魔その2からじとりと睨まれる。

「あんたそれ、あの大広間の求婚者たちに言ってみなさいよ。王公貴族の皆さまに!」

 ちぇ、ダメなのか。世の中って難しい。

★ ★ ★

 そんなこんなで、結局。

 姫さまが、多少はマトモそうな人を選んでくれるまで、姫さまの婿試しのお相手は、私たちが適当に選んで行くことになった。

 うちの姫さまは、もっといろんな男性とお話して経験を積んだ方が良さそうだしね。

 お話して食べられる求婚者の方は、たまったもんじゃないだろうけど。そこはそういう前提の下で集まって頂いた方々なので、もうしょうがないだろう。

 そして、使い魔その1がため息まじりに言ったひとことで、運命は決まった。

「仕方ありません。お一人目は、遊牧民の族長の息子さんにしましょう。」

 げ、私の推薦がそのまま通っちゃったよ。
 やだなー。

 何しろ、姫さまの婿試しはもうすぐだ。いよいよ最初の惨事が始まってしまう。

 私たちは、最初の求婚者は生け贄と思っている。

 姫さまがどうなさるのか、食人鬼の現実を認識した他の求婚者たちがどう反応するのか。その情報を集める為の犠牲となって頂く。

 よって私たちは最初は積極的に介入しないつもりだ。どれだけ生け贄が哀れでも。

 あーあ。全ては自分の意思でここへ来た、求婚者ご本人の責任だと思うけど。

 見捨てるようで、ちょっぴり後ろめたい気分だな。

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