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  あいかわらずヘマをしては殴られたりしているリッカの顔も体も腫れや痣だらけだ。
 娼館の裏手の軒下で身を丸くして、くうくうと眠っていると。

「リッカ!てめえ何しやがった」
「ふえっ?」

 裏口から出てきた店主が怒鳴り散らし、リッカは慌てて体を起こした。
 固い地面に寝ていたので体中がギシギシするが、それはいつものことだ。

「とにかく来い!」

 ぐいと細い腕を掴まれ引きずられて店の中へと入った。
 なにが起きているのかわからずに、リッカは目を白黒させておぼつかない足取りで店主へとついて行く。
 店の表入口の方へ来ると。

「あっ」

 ピアスを渡した藍色の瞳の男が、そこに立っていた。
 その耳にはリッカが渡した赤い石が光っている。

「セルフィルト様、お探しはこいつですか?何をやらかしたのでしょうか」

 店主のへりくだる後ろ姿をぽんやり眺めていると、セルフィルトと呼ばれた男がリッカへと視線を向けた。
 その恐ろしく整った顔と長身に、思わずびくつく。

「セルフィルトさまあ、そんな奴より私と楽しい事しませんか?」
「あら、私よぅ」

 店で人気の二人の女がセルフィルトにしなだれかかろうと甘い声を出したが。

「悪いが触らないでくれるか。お前たちに用はない」

 きっぱりと突き放されて女二人はセルフィルトが見やるリッカを、キリキリと睨みつける。
 けれどそれを遮るようにセルフィルトがリッカの前に進み出た。
 おずおずと長身を見上げれば、口元に笑みを浮かべてセルフィルトが少し腰をかがめた。
 目線がリッカに近くなる。

「ピアスの礼をしに来たんだ。諦めきれなくて探してた、ありがとう」

 柔らかな声で告げられて、リッカは慌ててぱっと俯き両手の指をもじもじさせた。
 お礼なんて言われたのは初めてで、微かに頬が紅潮する。
 小さく、ふやりと口元を緩めたら。

「何かお礼がしたいんだが、何かないかな?」

 リッカがキョトンと灰褐色の目を丸くすると。

「それなら、ぜひぜひウチで遊んでいってください!」

店主がリッカを押しのけてにやついた笑みを向けたが、セルフィルトは不愉快そうに眉根を寄せた。

「悪いがこの子にお礼をしに来たのであって、店に金を落としに来たわけではない」

 バッサリと店主の言葉を切り捨てる。
 それを見上げながら、リッカはふるふると首を振った。
 肩までのパサついた茶色い髪が左右に揺れる。

「な、何も。お礼とか、いらないよ」
「おい!」

 つっかえながら喋るのはリッカの癖だ。
 たどたどしく答えれば、店主が声を上げた。
 それにびくりと肩が跳ねる。
 リッカの様子を見たセルフィルトは、店主を冷たく一瞥して口を開いた。

「二人きりで話す」

 言われてしまえば従わざるを得ず、店主は納得のいかなそうな顔をしながらも普段リッカが客を取っている部屋へと案内した。
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