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出会い編・1

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あ、この顔見たことある。
 羽柴亮太。
 いや、ヘルヴィル・フォクライーストは見上げた光景にそう思った。
 目の前には大きなキラキラと光るシャンデリアの下、縦長のテーブル。
 記憶通りならここは食堂だ。
 に座っている三人の男女。
 それをぽかんと見上げていると、鼻の下にぬるりと何かが流れた。
 なんだろうと、ごしりと手の甲でぬぐうとそこにはぷくぷくの小さな手。
 そして甲についた赤い血。
 たった今、顔から転んだのだった。
 ぼんやりそんなことを思いながら、あいもかわらずヘルヴィルは床に転んだまま三人の男女を見上げたままだ。

「何をしているヘルヴィル」

 父親であるグレン・フォクライースト侯爵。
 たしか侯爵だったはずだ。
 食堂に入ったとたん転んだヘルヴィルに、何故かピクリと体を動かしたけれど、黒髪茶色目の美中年は眉根をわずかに寄せただけだった。
 表情筋死んでるのかな、などと失礼なことが頭をよぎる。
 その同じテーブルに座っている二人の男女。
 こちらをチラリともしない兄のリスタース。
 確か八歳で緑の目だったはずだ。
 食事を続けているその姿は八歳ながらピンと背筋を伸ばして、澄ました顔である。
 チラリと一瞬こちらを見た六歳の癖毛の赤髪が特徴的な少女はルードレット。
 姉である。
 当たり前にあるいつもの家族といつもの光景。
 でもヘルヴィルには見慣れた感覚はない。
 当然だ。

「ヘルヴィル、さっさと席につけ」

 硬質なグレンの言葉に、ヘルヴィルはずぴぴと転んだ姿勢のまま鼻をすすった。

「ヘルヴィル様」

 慌ててやってきた十代半ば程の三つ編みに眼鏡姿のメイドが、ヘルヴィルの鼻の下と手の甲をぬぐう。
 たいして強打したわけでもなかったらしい鼻血はすでに止まっていた。
 ヘルヴィル付きのメイドである少女、エイプリルはぼそりと失血死したらどうしようなどと口にしている。
 極度のネガティブな性格がたまに傷な少女なのだ。
 立ち上がらせてもらうと、二歳のヘルヴィルの体はバランスが悪い。
 なんとかしっかり立つと、エイプリルを見上げてにへりと笑った。

「ありあとー」

 活舌は二歳なので許してもらいたいと思う。
 お礼を言われたエイプリルは。

「え!」

 思わずというように声を上げていた。
 よく見れば、父も兄も姉も、なんなら執事や他の使用人も目を丸くしている。
 そうだよなあと、ヘルヴィルはしみじみ思った。

(本当のヘルヴィルは表情も変わらないし、めったに喋らないもんな)

 うむうむと内心納得する。
 でも今、ヘルヴィルはヘルヴィルであってそうじゃない。
 ややこしいけど、そうなのだ。
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