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退院日。
スマホにリルトから迎えに行くと連絡が入っていたので、緊張しながらロビーに行くと八日ぶりのリルトが立っていた。

「伊織!」

 声の方へ顔を向けるとパッと表情を明るくして大股で近づいてきたリルトに、有無を言わさず抱きしめられた。
 腰と背中に回った腕にすっぽりと包み込まれる。
 久しぶりに感じる体温にドキリと胸が跳ねた。
 安心するのに何だか落ち着かなくて、背中を抱き返すこともできず伊織はリルトの腕の中で硬直していた。

「体調は?気分はどう?ああ、せっかく体重増えてたのに痩せたな」

 体を離すと頬を両手で包まれて上向かされた。
紺碧色の瞳が心配そうにのぞき込んでくる。
それにも胸の奥が跳ねて落ち着かない。
八日ぶりに見ると、こんなに綺麗な瞳だっただろうかと思う。
リルトに対する耐性がなんだか低くなっている気がする。

「えと……」
「帰ろうか」

 どう反応していいか困っていると笑って帰宅を提案されたので頷いた。
 いつも通りに手を引かれて駐車場へ向かう。
 隣を歩く長身を見れなくて、ぐるぐると伊織は言葉にまとまらない思いをくすぶらせていた。

(ごめんっていいたいけど、それってあってる?どうなんだろ)

 リルトの車に到着すると助手席に乗り込んだ。
 シートベルトを引っ張りバックルに止めようとするけれど、悶々と考え事をしているせいか手元がおぼつかずにガチャガチャと上手く止まらない。
焦っているとリルトの手が伸びてきて、ガチャリとバックルに止めてくれた。
覆いかぶさるような体勢に、近くにきた綺麗な顔を見たらいたたまれなくなった。
目線を伏せてリルトの胸元あたりをうろうろさせながら、何とか声を絞り出す。

「あの……俺、ちゃんと出来なくて」
「伊織そんなふうに思わなくていい」
「でも……」

 口ごもると、額が合わされた。
 すぐ目の前に紺碧の眼差しがある。
 その瞳はいつものように真っ直ぐで優しい。
 ベルトを掴んでいた手に力を込めると、その手をやんわりと上からリルトの手に包まれた。

「はじめての発情期は不安定なものだと医者も言ってただろ?とりあえず無事に発情期がきただけでも喜ぼう」
「……そんなことで?」
「そんなことじゃないよ。薬による体への負荷が軽くなってる証拠だ。健康に近づいてるってことだよ」
「そう、なのかな」

 自信なさげに呟くと、鼻の頭にちゅっと小さくキスをされた。

「そうだよ。それに伊織はまだ俺のフェロモンを感じられないから、側にいてもきっと安心できなかったんじゃないかな。負担を軽くしたいって言ったのにごめん」
「そんなことない!」

 リルトの言葉に、弾かれたように伊織は声を上げた。
 それにリルトがわずかに目を見張る。
 伊織はベルトを掴んでいた手を離した。
リルトの手がその動きに合わせて離れたのを、ぎゅっと手に取ると強く握りしめた。

「いっぱい……いっぱい面倒見てくれて、俺めちゃくちゃ迷惑かけたのに」
「迷惑じゃない」

 今度はリルトの言葉に伊織がパチリとまばたいた。
 目の前の綺麗な顔を、何度も信じられないようにまばたきしながら見やる。

「迷惑じゃないよ伊織。側にいれて嬉しかった」

 途端、くしゃりと伊織の顔が泣きそうに歪んだ。

 その目元に唇が何度もキスをしてくる。

「大丈夫、少しずつ改善していくよ」
「……うん」

 キスになだめられて、小さく小さく伊織は頷いた。
 その後はリルトの運転で自宅へと帰路についた。
リルトとの自宅に帰れたのは嬉しかった。
八日ぶりで懐かしいと感じてしまい、ここが自分の場所だと認識しているのだと気づいて何だか恥ずかしい。
帰宅したあと食事の支度を以前のように手伝うと申し出たけれど、体力が落ちているだろうからと止められた。
久しぶりのリルトの食事は美味しかった。
久しぶりなんだから給餌させてくれと言われてしまい、子犬顔に負けてしまった。
あいもかわらずその可愛い顔に弱い。
恥ずかしさに耐えながらの食事は、けれど入院中よりやっぱり量が食べられた。
発情期の準備期間も熱でグズグズになっていたせいで給餌されていたのに、今日は妙に恥ずかしさが際立った。
というか、リルトの傍にいると何だかとてもソワソワして落ち着かなかった。
食後はソファーに並んでまったりと過ごしていた。
伊織は読書でリルトはタブレットを見ている。
時計をチラリと見ればそろそろ風呂に入ってもいい時間だ。
どうしようと思う。

(なんかお風呂恥ずかしい。今までだって一緒だったのに)

 落ち着かなくて、ソワソワしてしまう。
 足先を無意識にモジモジと擦り合わせていることに、伊織は気づいていなかった。
 ぴったり隣にいるリルトの体温が触れている肩から伝わって、それも落ち着かない。
 読書がちっとも進まないと思ったところで、伊織はギクリと身を強張らせた。
 下半身に違和感を感じる。
 まったく普段気にもしていないのに、ほぼ初めてと言っていい反応をしている。
 性器がゆるく勃ち上がっていることに気づいて、伊織は顔色を変えた。
 サッと血の気が引いていく感覚がする。

(なんで?こんな、勃ったりなんてほとんどしたことないのに)

 幸いリルトはまだ気付いていない。
 さりげなく持っていた本で股間を隠すようにするけれど、混乱して目がじわじわと潤んできた。
 どうしよう、どうしたらいいと焦っていると、風呂場からお湯の沸いた知らせが鳴った。
 最悪だ。
 こんな状態で一緒に風呂になんて入れるわけがない。

「沸いたな、風呂に入ろうか」

 リルトがタブレットをソファーの座面に置いたのと、伊織が勢いよく立ち上がったのは同時だった。

「お、俺今日一人で入る!」

 慌てたようにまくし立てると、動揺している手元から本がバサリと落ちた。

「伊織?急にどうしたんだ」

 右腕を取られ、伊織は前に進めなくなった。
 バレる、嫌だ、とそれだけが頭を占める。

「嫌だ!離して、離して!」
「伊織どうして」

 そこで不自然にリルトの言葉が途切れた。
 ハッとその顔を見ると、座ったままのリルトの目線の先に伊織の下半身がある。
 薄い生地のスウェットを着ていたせいで、その形がありありとわかりやすく目立っていた。

「ッ」

 見られた。
 そう思ったら涙がボロリと零れた。
 最悪だ。
 リルトから腕を取り返そうと乱暴に引いたけれど離されることなく、そのままリルトが立ちあがって抱きしめられた。
 ひくりと体が震える。
 そのあいだにソファーへと座らせられ、体を離すとリルトは床に敷いてあるラグに膝をついて伊織と目線を合わせた。

「落ち着いて」
「お、俺、こんな」
「大丈夫、大丈夫だ。これも薬が抜けて健康になってきた証拠だ。いい事だよ」
「でも、こんな、どうしたら」

 ボロボロと後から後から涙が零れてきた。

「こんなのしらない」

 自慰の仕方は一応わかっている。
けれどまともにしたことなんかない。
性器はどんどん固くなっていて、どうしたらいいのか伊織には困惑と不安しかなかった。
違和感のある下半身に、冷静さを取り戻せない。
ひっくとしゃくりあげると、頬を両手で包まれて親指で涙を拭われる。

「伊織、自分で鎮める方法はわかる?」

 リルトの問いかけに、伊織は真っ青になってぎこちなく首を横に振った。

「で、できない」

 知っているやり方が正しいのかもわからないし、そもそも伊織にとっては未知のことだ。
 恐怖が大半を占めている。
リルトは一瞬目を伏せたけれど、伊織の涙を拭いながら口を開いた。

「……伊織これは治療行為と同じだ」
「治療?」

 ぐすんと鼻をすすると、また涙を拭われる。

「今から触るけど、嫌だったら殴っても噛みついてもいい。一度出せば落ち着くから」

 リルトの言葉に何とかしてくれようとしているのだとわかって、ほんの少しだけ安心した。
 唇が震えるままに、微かに頷く。

「いい子」

 なだめるように額に唇が押し当てられた。

「触るよ」

 スウェット越しにそっと性器を撫でられて、ビクリと腰が跳ねた。
 思った以上の刺激に怖くなる。
 カタリと体が震えたのを、リルトが何度も泣いて赤くなった目元にキスをして宥めてくれた。

「ん、ゃあ」

 やわやわと撫でられて、腰に熱が溜まっていく。

「脱がせるよ」

 耳元で囁く声に懸命に頷くと、スウェットがずらされて性器を引き出された。
 ひんやりした外気の感触と、視界に入った性器がすでに濡れそぼっていることに恥ずかしさでまた涙が滲んだ。
 大きな手がそっと性器を握りこみ緩く上下に扱く。
 ビリビリとした感覚に、背筋が震えた。
 亀頭の先を親指でぐりと刺激されて、あまりの快感に頭が茹っていく。

「あ、や、んん」
「痛くない?」
「わか、わかんない、こわい」

 弾む息で何度もこわいと言えば、リルトの手が離された。
 中途半端に高められた体が熱くて仕方がない。
 手を離されて涙目でリルトに目を向けると、頭をひとつ撫でられた。
 それにほっと息を吐いたけれど、すぐにリルトが身をかがめたのに驚いた。
 そして濡れそぼった伊織の性器に、リルトの形のいい唇が口づける。

「ひっ」

 驚いて腰を引こうとしたけれど、リルトに腰をぐっと引き寄せられてかなわなかった。
 次には熱い口内に迎え入れられてしゃぶられた。
 ぬるついた感触と熱さに先ほどの比じゃない快感が腰に走る。
 手をどうしたらいいかわからなくてリルトの金髪を弱弱しく掴むけれど、その指先は震えるばかりだ。

「うそ、まって、や、ああっあ」

 容赦なくじゅうと吸われて、嬌声を上げて伊織はリルトの口に白濁を吐き出した。
 ビクビクと震える性器をリルトが残骸もろとも舐めつくすけれど、伊織は頭が真っ白になりそのままくったりと意識を手放した。
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