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第一部 地球編
16 揺れる心 (オールロード目線)
しおりを挟む「戦いを交えるに当たっては、その唯一の目的が平和にあることを忘れてはならない」
ウィリアム・シェイクスピア
タンクが特攻してエイリアンを倒した。いつもそうだ、彼の戦い方は。仲間を守るためなら、どんな犠牲も厭わない。それがたとえ自分でも。俺は嫌いだ。そんな戦いが、だが救わないといけない。だから助けた。おっさんをお姫様抱っこしたのは、ちょっと気分悪いが。欲を言えばそんな事したかった相手はスノーメロディーやレッドマジシャンみたいな美女が良かった。まぁ恩を売っとけばいいか
「大丈夫ですかー?」
陸地でタンクを横に寝させながら言った。だが
「『チャージ』」
タンクが鉄球を一つ取り出して、こっちに威嚇してきた
「動けないはずなのに。僕とコールドアイ二人を相手にするつもり?それよりエイリアンは?」
「ビル街と郊外に一人ずつ。郊外にはトリックスターが向かった」
「オーケー」
「お前らどうしてここにいる?なぜ助けた」
「助けたのはあなたを見殺しにするつもりはないからさ。CAの目的は復讐とその先にある統治であり、A.C.T とやりあう気はないよ。邪魔するなら別だけど」
「なぜここに来てるかというと、あなたを見張ってた」
「コールドアイ!」
タンクがさらに険しい顔になった
「見張ってたって何だ!」
「僕らがエイリアン倒してくるから、じゃあこれで」
俺とコールドアイは逆方向を向いて足早に駆けていった。背中からタンクがゴニョゴニョ言ってるのが聞こえる。だが鉄球は撃ってこなかった
ビル街に到着すると各地で炎が上がってた。兵士隊の人達を見つけることができたので状況把握の為、両手を挙げたまま喋りかけた
「おいA.C.T !状況は?」
「お前らは!」
兵士達は俺らが何者かに気付き、全員が銃口を向けてきた。
「お前らと戦う気はない!」
「シドニー襲撃にお前らも関わってるのか?」
「いや」
「エイリアンとは」
「組んでない!」
「僕たち元A.C.T の戦士が一緒に戦えば勝てる!俺らもエイリアンを倒しに来たんだ」
「証明しろ!」
「港でタンクさんを助け、エイリアンを一緒に倒した」
「タンクは今どうしてるんだ?」
「能力の反動で動けないから、今港で横にさせてある。タンクの位置を衛星で確認して助けにいってくれ」
「その間、お前らの事は拘束する」
俺らはその場に膝立ちにさせられ、急所に銃口を突きつけられた。数分後、兵士隊に連絡が入った
「タンクから事情を聞けた。俺らは信頼してないが、俺らだけではエイリアンを倒すことができない。協力を頼むとしよう」
「状況を教えてくれ」
「エイリアンの能力は恐らく地雷の設置」
「しかもカモフラージュがされており、普通の地面と思って踏んでも爆発するかもしれん。標的は南東」
「避難はどれくらい済んでいますか?」
「勇戦班と修繕班が今やってる。ケガした人達は医班が診てる」
兵士隊の一人が、通信機とゴーグルを渡してきた。ゴーグルを着けると、風景に赤い線が現れた
「これは?」
「新機軸開発班が最近作ったコンピューターと連動してるゴーグルで、サーモカメラ機能やズーム機能等といった様々事が出来る。今の機能は敵までの最短ルートを出してくれてます」
すると次はブラスターを渡してきた。この装備類、まさに俺向けだ!コスチュームも武器も無かったから、まじで助かった。貰えなかったコールドアイが羨ましそうにこっち見てる
「じゃあお前ら。武器は提供したから、これで倒せるよな!」
俺には圧がかかってるようにしか聞こえなかった
「いいな~パイセン!」
その時、銃声が鳴り。コールドアイが俺にぐったり寄りかかってきた。コールドアイの背後をすぐに見ると、大勢の市民達が武器を持って歩いてきてみんなで
「A.C.T は敵だ!祖国を守れ!」
と復唱しながら行進してきてる
「コールドアイ!急いで再生しろ!」
「あなたはエイリアンを急いで討ちに行って下さい!」
俺は市民の方をちらっと見た
「大丈夫!私達が鎮圧します」
「ありがとう。だけど」
「心配しなくても殺しませんよ」
兵士達は人間には効かないのでブラスターをしまった
「コンピューター!対人戦闘プログラム起動」
兵士達が着ている鎧の籠手に電気が流れ始めた
「死ぬなよ」
「一般人相手に戦闘のプロが負けるわけないでしょ!僕らはA.C.T に入れるほどのエリートなんだから。あなたもお気をつけて」
「コールドアイ。お前は兵士隊を手伝ってやれ」
俺はそう言うと走り始めた。恐らく兵士達の数人は死ぬかもしれない。振り返るな!前だけ見て走れ!誰もいないビル街をコンピューターが出してくれてる最短ルート通りに走った。地雷に気を付けながら走ってるつもりだったが甘かった。いきなり爆発し吹っ飛ばされた。悶絶するほど痛い!再生はできるが痛みは普通に感じる。訓練生の時に痛みに対する訓練は受けてきたが、めっちゃ痛い。両足の膝から下が失くなっていた。早く再生しろ!再生してこの痛みを消せ!両足が再生していった。能力を結構使う再生は、いい戦いとは言えないと、みんなよく言う。再生するということは、苦戦か劣勢だからだ。戦えば戦うほど目的というものを人は見えなくなってしまう。だから、短期決戦をしないといけない。安泰な世を創るため
「『無重走破』」
俺は特殊技はこの一本でやってきた。恵まれた能力を持つことができなかったから。だがいい能力だった。そして特殊技ではなく能力による力の増強の方が得意だった。地面に触れないように、空中を走れ!能力は対峙するまで残しておきたかったが仕方ない。走れ!最短ルートで!赤い線の上を忠実に走る。建物の破片や人の体の一部が一帯に散乱してる。もう人かどうかも分からない。キツいないつ見てもこんな光景。あと2ブロック先を曲がれば標的だ。走れもっと速く。あと1ブロック。次右に曲がれ!右に曲がった瞬間に女性が立っていた。目があった。結構美人な人だ。こんな人がさっきの光景を引き起こしたなんて。女性はこちらに気付いて驚いている
「飛んでる!」
そりゃそうだよな。地球人が空中から現れるなんて、誰も想像出来ないだろう。女性が動く前にブラスターで攻撃した。走りながらの攻撃、空中での攻撃は本当に難しい。感覚が乱れるからだ。心臓と頭を狙ったはずの攻撃は肩と腹に当たった。女性は撃たれながらも崩落しかけのビルに転がり込んだ。俺も後を追う。急いでビルに入ったが、女性を見失った。しかし、血のあとを辿る事ができた。女性は再生していないのか、床や壁が血だらけだ。相当痛いはずなのに凄いな、強い女性だ。やがて足音と荒い息づかいが、すぐ近くに聞こえた。俺は地面に触れないように空中を注意しつつ進む。やがて女性を見つけた。ブラスターを向けて撃とうとした瞬間にその悲しいそうな顔、苦しそうな息遣いが俺の心に響いてしまった。そんなことが起きないように感情を殺してきたのに
「何か言いたいことありますか?」
何でそんなこと聞いたんだ?だが女性は笑いながら
「あんた嫌い」
と言ってきやがった。何故だろうこの人の雰囲気がメロディーに似ている。気が強い女性なんだろう
「同感だ」
お互いに冗談を言い合えた。初めてエイリアンと分かり合えた気がする。この人と同じ星、同じ時を過ごせたら楽しかったのかもしれない。だが、殺さないといけない。ブラスターで撃ち殺そうとしたら
「一人では死なない!道連れよ!」
危険を察知した。急いで窓を突き破って外に出ないと。そう直感で思い走った。女性が指を鳴らすと、俺と女性が通った道のりにあった床や柱が爆発し始めた。そして自らも。再生しなかったのは、こっちに能力を使ったからか。爆風に巻き込まれた時に、女性の事を考えてしまっていた。死に際まで相手を倒すことだけ考えていたなんて、俺にそんなこと出来るだろうか?爆風で俺の体は外に投げ出された。危機を事前に察して窓の近くまで多少走っていたから、爆発で死ぬほどの威力を受けなかった。しかし、俺の体は勢いで外に投げ出された。体の痛みよりも、心が痛くなった。今まで、エイリアンを殺しても、人を殺しても何も感じなかったのに。そのまま地面に体が叩きつけられた。再生しないと。残ってる能力全て使っても、完全に回復できないな。能力を全て注ぎ込み再生したが、骨が数本折れてる状態になった。エイリアンは死んだから喜べるはずなのに。報告しないと。あいつらどうなったかな?一般人を制圧できたのか?急いで戻れ!痛みを殺せ。折れてても行け!俺は立ち上がって歩き始めた
悲惨な光景だった。さっきまで話してた兵士隊の人達は倒れており、一般人もさっき見たときと同じくらいの人が死んでおり、その人達によってできた血の海と死体の山の中心にコールドアイがポツンと立っていた。天を見上げ真っ赤に染まった顔は泣いていた。何があったか考えないことにした。コールドアイがこっちに気づいた
「帰ろうか」
その一言で歩き始めた。一人は骨折してヨロヨロと歩き、もう一人は虚無の顔でゆっくり歩きながら。ゴーグルと通信機は道に捨てられた
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