僕が私になる頃は。

馳 影輝

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第3話 迷ってます。正直凄く迷ってる。

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ご両親との対面で少しづつ理解できた事がある。
和樹くんがご両親から間違いなく愛されていた事。
それだけはすごく伝わって来た。

「美咲ちゃん。
私達と一緒に暮らさない?
帰る家はあると思うけど。
私は一人にして置くのが心配だし、血の繋がりがなくても親子のように暮らしている家族は沢山あると思うの。
少し考えてみて。」

「はい。
ありがとうございます。
正直迷ってます。
本当に甘えて良いのかなって。
迷惑なんじゃないかなぁって。」
和樹くんのご両親にどんな風に迎えられるのか、話をする迄は悪い事ばかり考えてしまってた。
今話をしてみて、心配されて居るのを感じられるのは嬉しい。

「今は夏休みでしょ。
少し考える時間も取れるんじゃないかしら。」

「和樹がどうとか。
考えなくて良いから。
俺たちは迎えたいと思ってる。
そうで無ければここには来ていないから。」

お二人の想いは伝わってくる。
入院していろいろ考えては居たけど、少し笑顔を見せられた。

私の事を聞かれて教えておかなければいけない事や学校の事、両親の事。
2時間くらい話をしてご両親は帰られた。

それから病室に戻るとスマホにゆかりからメールが届いていた。

メールには退院したらクラスの友達とカラオケでも行かないかって書かれている。
私は嬉しくて、素直に行くと返信した。

暫くぼんやりと外を眺めていると、清々しい風が部屋を吹き抜ける。
外では蝉が鳴き、今日は少し曇りがちでそれ程暑さを感じない。
8月9日の天気は晴れ。
ちょっと外を散歩してみようと思ったら、自然とベットから降りて病室を出ていた。

病院には芝生の広場とベンチや大きな木も沢山植えられている。
私は木陰になるベンチに腰掛けた。

「こんにちは。」
ぼんやりとしていると男性の声が聞こえる。
横を振り向くと20代くらいの背の高い男性が立っている。

「こんにちは。」
私は自然と軽く会釈をした。

「意識が戻ったんだね。
ずっと眠ったままの可愛い女子高生が居るって聞いてたから一度だけ見に行った事があるんだ。
とても可愛いらしいのにこのまま寝たきりになったら人生勿体無いなぁ~って思ったよ。」

「可愛いなんて、ありがとうございます。
スッキリと目覚めました。
来週には退院です。
お名前はなんておっしゃるんですか?
私は美咲って言います。」

「ああ、ごめんね。
名乗らずに話を進めてしまった。
僕は神崎守って言うんだ。
もう3年もここに入院しててね。
来週退院か。
羨ましい。」

「3年も。
長いですね。」

「ああ、心臓が弱くてね。
時々発作が起きるんだ。」

「そうなんですね。
じゃあ、私なんて多分健康だから早く退院して人生楽しまないとですね。」

「そうだよ。
まだ高校生だろう。
恋愛も友情も挫折も勉強も楽しまないと。」

「挫折も楽しむんですか?」

「そうだよ。
挫折は人を豊かにする。
何かの歌の歌詞であっただろう。
悲しみが多いほど人は優しくできるって。」

「そうなんですね。
その歌は知らないですけど。」

「僕も実はあまり知らないんだけどね。」

「ふふふ、そうなんですね。」
私と神崎さんの間を風が吹き抜けると、私の長い髪型ゆらゆらと靡いた。

「何か考え事してたの?」

「ああ、そうなんですけど。
部屋にいたら風が気持ちよく吹き抜けたから外に出てみようと思って。」

「今日は少し暑さも控えめだからね。」

「うん。
少し曇りがちだし。」

「ここは考え事するには良い場所だよね。」

「………。私交通事故で意識不明だったんです。
もう多分意識は戻らない筈だったんですけど。
同じように交通事故で運ばれた同い年の男の子から脳波紋っていうものを移植してもらって意識が戻ったんです。
でも、現実は交通事故で両親は死んでしまって、男の子のご両親が今日来て私を娘として迎えてくれるって仰ってくれて。
嬉しいんですけど。
本当にそれで良いのかなって。」

「悩むね。
そのご両親も凄く悩んだと思うよ。
だから、美咲ちゃんも沢山悩んで決めたら良いよ。」

「そうですね。
悩んでみます。」

「じゃあ、僕は病室に戻るよ。
また会えたら話を聞かせてね。」

「うん。
悩んだ末の答えを教えますね。」
神崎さんは手を振って去っていった。
私はもう暫く一人でぼんやりとするつもりだ。

ふと学校の事を考えていた。
クラスの皆んなは元気にしているのだろうか?
私が学校に行ったら皆んなびっくりするのかな?

「美咲ちゃん。
先生が呼んでるわよ。」
成美さんが呼ぶ声がする。
私はよく先生に呼ばれる。
患者さんってみんなこんなに呼ばれるものなのだろうか?

「成美さん。
今日って雨降るかな?」

成美さんに連れられて先生の部屋にやってきた。
ノックをして入ると、いつものように机に向かって椅子に座っている。

「美咲ちゃん、来たね。
退院の日が決まったよ。
13日の土曜日。」

「うん。
その日は親友のゆかりが迎えに来てくれる事になってるの。
家に戻ろうと思います。
そこでこれからの事を考えます。」

「そうか。
タクシーの手配だけして置くね。」

「お願いします。」

話が終わって私は病室に向かっていると、見た事のある人達が私の病室の前に集まっていた。
それは1年2組のクラスメイト達だった。

「あ、美咲ちゃん!」
その中の誰かが私を見つけた。

「良かったね。」
「心配したよ。」
「良かったな。」
「本当に復活したんだな。」
いろいろな声がいっぺんに沢山通路に響く。

「皆んなで来てくれたんだ。
ありがとう。」
嬉しくて涙が止まらなかった。
皆んなも同じように泣いていた。
まだ、一緒のクラスになって大した時間も過ごしていないけど、それでも私の事をこんなに心配してくれる人達が居る。
私は幸せ者だ。

「ゆかりちゃんから聞いてさ。」
「皆んなで行こうって。」

1時間近く女の子たち何人かは残ってくれて、学校の事や勉強の事。
沢山の事を教えてくれた。
最後の数人が帰るのを部屋の外から手を振って見送った。
早く学校に行きたいと素直に思った。

そして、土曜日。
退院の日を迎えた。

ゆかりは朝早くから病室に現れた。

「おはよう美咲。」

明るい笑顔で現れた。
彼女はショートヘアーで少し細身の目がとても可愛い。
背は私より少し低い。
それに関しては少しコンプレックスがあるようで、背の低い事をディスると怒る。

私は着替えがなかったので、ゆかりにお願いして私の部屋から見繕って持って来てもらう事になっていた。

「持って来たよ。
はい。
家の鍵。」
鍵を渡して部屋に入ってもらった。
何度か家には来た事があるので、ゆかりには頼みやすかった。

「ありがとう。
助かる。」

「ワンピ持って来たよ。
後はTシャツとスカートを何着かと、下着も持ってきた。」

「ありがとう。
ごめんね。
面倒な事頼んで。」

「良いよ。
美咲の部屋はよく知ってるし。
私が居て助かったでしょ。」

「うん。
助かった。」

「美咲。
髪伸びたね。」
確か肩くらいまでしかなかった髪が、目覚めたら背中まで伸びていた。
これはこれでいいかと思っている。
時間を見てヘアーサロンに行って少し整えてもらおう。

ゆかりが持って来てくれた下着に履き替えて、服はTシャツに膝上ミニ丈のプリーツスカートに着替えた。

「美咲ちゃん。
退院おめでとう。」

「あ、成美さん。
ありがとう。」
花束を持って来てくれた。
色とりどりの綺麗な花束を貰うのは初めてだ。

「美咲ちゃん。
1ヶ月に一回定期検診には来てね。」
先生も見送りに来てくれた。

「うん。
よろしくお願いします。」

大した荷物は無いが、一つのバックに纏まり、それを持って病院の入り口から外に出た。

タクシー乗り込んで、病院の先生や成美さん、看護師の皆さんに手を振って病院を後にした。

運転手さんに行き先を告げてタクシーは走って行く。
交通事故で運ばれて意識不明でこんな日が来る事が出来た事に感謝します。

タクシーが自宅前に到着した。
料金を払ってゆかりと一緒に家に入っていく。
鍵を開けて中に入ると、物音ひとつしない。

パパとママがいた時のことを走馬灯のように思い出す。
私が帰るといつもママが出迎えてくれた。

「美咲。
大丈夫?」

「うん。
大丈夫だよ。」
私はぼんやりと立ち尽くしていてゆかりが心配そうに覗き込んできた。

「今日は私も泊まってくよ。
お母さんには事情話したし。」

「え?
良いの?」

「一人じゃ心配でほっとけないって。」

「ありがとう。」

「明日は帰るからね。
後は頑張りなさいよ。」

「うん。」

それから2人で買い物して夕飯を作った。
料理はママから教わっていたので、楽しく作る事ができた。
これからの事をゆかりと話した。
どうするのが良いのか。
ゆかりは和樹くんの両親が迎えてくれるなら甘えたらって言っている。
私もその方が良いとは思っている。

2人で一緒のベットで寝る事にした。
どちらかと言うと寝るのが、少しだけ怖かった。
もしかしたら目が覚めずに、なんて事も考えてしまう。

「初めまして。
田村和樹と言います。」

あれ?
夢を見ている。

「初めまして。」
白い世界に1人の顔もわからない男の子が目の前に立っている。

「君が意識を取り戻せて良かった。
父さんも母さんも喜んでた。」

「あなたは私の中に居るの?」

「そうなんだけど。
僕の意識はもう直ぐ消えてしまうんだ。
たがら、こうして会いに来たよ。
伝えたい事があるんだ。」

「そうなんだ。
ごめんね。
私の為にあなたを犠牲にしてしまった。」

「そんな事ないよ。
気にしないで。
それよりお願いがあるんだ。
父さんと母さんをよろしくお願いします。
もう僕にはどうする事も出来ないから。
お願いするしか無いんだ。」

「うん。
わかったわ。
任せて。」

「良かった。
そうだ。
君に贈り物があるんだ。
僕の意識と重なった時に生まれた力。
きっとこの先君を助けてくれるよ。」

「力?」

「うん。
直ぐわかるよ。
じゃあね。
さようならだ。」
男の子は姿が薄くなり消えていった。
と同時に目が覚めた。
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