魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

文字の大きさ
上 下
104 / 191
20章 街の地下遺跡

閑話

しおりを挟む
街の結界を守る役目を果たした後、アリアとイアンはしばらくギルドの依頼を休み、街中を見回ることにした。新たな冒険に向けて街を観察し、同時に人々の様子を確かめる時間でもあった。

「さあ、今日はのんびり街を回ろうよ。」

アリアが剣を背負いながら歩き出すと、イアンも杖を手に静かについてきた。広場では露店が立ち並び、活気のある声が飛び交っている。

「……にぎやかだな。」

イアンが呟くと、アリアが振り返って笑った。

「そりゃそうだよ!この街はみんなが助け合って生きてるから、こんなに賑やかなんだよ。」

その時、広場で遊ぶ子どもたちがアリアに駆け寄ってきた。

「アリアお姉ちゃん!帰ってきたんだね!」

「また魔物をやっつけたの?」

「みんなが言ってたよ!アリアお姉ちゃんと、その……」

一人の子どもがイアンを指差して言葉を詰まらせる。イアンは少し居心地悪そうに視線をそらしたが、アリアはにこやかにフォローした。

「イアンだよ。この人は私の大事な仲間!一緒に街を守ってくれてるの。」

「そ、そうなんだ……!」

子どもたちは少し緊張した面持ちでイアンを見つめたが、その様子に気づいたアリアがイアンの方を指差して声を張り上げた。

「イアン、怖くないよ!ほら、挨拶してみて?」

イアンは一瞬だけ迷ったものの、小さく頷いて子どもたちに向き直った。

「……よろしく。」

それだけの短い言葉だったが、意外にも子どもたちはすぐに顔をほころばせた。

「なんか怖そうだけど、いい人だね!」

「アリアお姉ちゃんが言うなら信じる!」

その純粋な反応に、イアンは少しだけ微笑み、再び杖を握り直した。

街を歩いていると、アリアがふと足を止めた。

「イアン、ちょっと魔道具屋さんに寄っていこうよ。」

二人が店に入ると、店主の中年男性が笑顔で迎えた。

「おお、アリアにイアン!いつもありがとうな。あんたらのおかげで街が守られてるよ。」

「どういたしまして!でも、私たちだけじゃなくて、みんなのおかげだよ。」

アリアが明るく答えると、店主はイアンの方を見て笑った。

「しかし、イアンさんもすっかり街に馴染んできたな。最初は無口で近寄りがたい感じだったが、アリアと一緒にいるおかげで少しずつ柔らかくなったんじゃないか?」

その言葉に、イアンは少しだけ困ったような表情を浮かべた。

「……俺は、ただ街を守るためにここにいるだけだ。」

「それが立派なんだよ。人間も魔族も関係ない。あんたは街を救った立派な英雄さ。」

店主の真っ直ぐな言葉に、イアンは短く頷き、感謝の意を込めて小さく微笑んだ。

さらに歩いていると、道端で商売をしている女性たちがイアンに声をかけた。

「あら、イアンさん。少しお菓子でもどう?」

「ありがとう……だが、触れることはできない。」

イアンが断ると、女性たちは少し寂しそうにしながらも微笑んだ。

「分かってるわよ。でも、いつも感謝してるの。気持ちだけ受け取ってね。」

その言葉に、イアンは丁寧に頭を下げた。近づくことも触れることもできないが、人々がイアンの存在を認め、感謝を示してくれる。それが彼にとってどれほど救いになったかは、表情には出さなかったが、アリアはそばでそれを感じ取っていた。

日が沈む頃、二人は広場に腰を下ろし、灯されたランタンの光を眺めていた。街のざわめきが心地よく耳に届く。

「イアン、街の人たち……本当に君を受け入れてくれてるね。」

アリアが優しく微笑みながら言うと、イアンは静かに頷いた。

「俺がここで生きているのは、君のおかげだ。君がいなければ、この街にも居場所はなかった。」

その言葉に、アリアは少し驚いた表情を浮かべた。

「私が……?」

「君が俺を信じてくれたから、街の人々も俺を信じてくれた。それだけのことだ。」

イアンの静かな言葉に、アリアは胸が温かくなるのを感じた。そして、彼の横顔を見つめながらそっと呟いた。

「……じゃあ、これからも私が君の居場所になるよ。」

その言葉にイアンは驚いたようにアリアを見つめたが、すぐに視線をそらし、小さく微笑んだ。

「……ありがとう。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

死ぬ予定なので、後悔しないようにします。

千羊
恋愛
4年間、なんの助けもなくスラムで生きてきた名もなき少女。その命も途絶えそうになった時、少女は青年に助けてもらった。青年を見た時、少女は思い出す。この人は前世でやった乙女ゲームの登場人物だ、と。 前世の記憶を辿ると、自分はまさかの悪役令嬢であり、ヒロインの双子の姉のティファニア!?それってハッピーエンドもバッドエンドも悪役令嬢は死ぬよね? 前世では後悔して死んだのだから、今世では後悔なく生きぬきたい!! じゃあ、まずは前世知識でお金を貯めてスラムを救おう!! ん?攻略者とはどうするかって?もちろんそれも対策しますよ。なんせ、あんな性格の悪そうな女に渡せませんからね。 なろうでも同じ作品を公開しています。

何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること

大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。 それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。 幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。 誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。 貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか? 前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...