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15章 嘆きの沼

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神殿の中に足を踏み入れると、二人はその内部の壮大さに圧倒された。高い天井には魔族の紋章が刻まれ、壁面には古代文字が連なっている。かすかな青白い光が空間を満たし、不気味ながらも神秘的な雰囲気を醸し出していた。

「思ってたより広いね……。」

アリアが周囲を見渡しながら剣を握りしめる。

「この空間そのものが魔族の魔力で満たされている。足を踏み入れるたびにその圧力を感じるだろう。」

イアンが杖を掲げ、静かに呟く。

「たしかに……息苦しい感じがする。でも、進むしかないよね。」

「そうだ。この中に鍵があるはずだ。油断するな。」

二人が進むと、道が次第に入り組み始めた。廊下がいくつにも分岐し、どの道も同じように見える。壁には奇妙な紋様が浮かび上がり、足元には細かい魔法陣が刻まれていた。

「これ、迷路みたいだね……どっちに進めばいいの?」

「おそらく、この迷路自体が試練の一部だ。焦らず、周囲を観察することが重要だ。」

イアンが壁の紋様に触れ、目を細める。

「この紋様……何かに対応している。部屋ごとに魔法の流れが異なるようだ。正しい道を選べば、鍵に近づけるはずだ。」

「じゃあ間違えたら?」

「最悪の場合、魔物が出るか、空間そのものに捕らわれるかだろう。」

「……迷いたくないね。イアン、頼りにしてるから!」

アリアは剣を握り直し、イアンの後ろにぴたりとついた。

イアンが古代文字を読み取りながら進む中、アリアは背後の警戒を怠らなかった。何度か道を引き返しながら、二人は迷路の奥へと進んでいく。

突然、道の先から低い唸り声が聞こえた。

「来る……!」

アリアが剣を構えると、壁から黒い影が浮かび上がり、魔物が形を成した。それは巨大な狼のような姿で、赤い瞳が二人を睨んでいる。

「守護者か……!」

イアンが杖を構え、魔法陣を展開する。

「私が引きつける!イアンは後ろから援護して!」

「分かった。君を守る。」

アリアは剣を振りかざし、魔物に向かって突進した。鋭い爪をかわしながら一撃を加え、再び距離を取る。イアンは冷気の魔法を放ち、魔物の動きを鈍らせた。

「今だ、アリア!」

イアンの声に応じ、アリアは剣を振り下ろして魔物を一撃で仕留めた。

迷路を抜けた先にあったのは、広大な部屋だった。壁面には数多くの鏡が並び、それぞれが微かに光を放っている。

「これは……何だろう?」

アリアが近づくと、一枚の鏡に映ったのは幼い頃の自分の姿だった。彼女は驚きの声を上げる。

「これ、私……子供の頃の……。」

「この部屋は記憶を映し出す力を持っているのかもしれない。」

イアンが鏡を見つめながら答える。

「でも、なんでこんなことを?」

「おそらく、試練の一部だ。鏡を通じて、自分自身を見つめ直す必要があるのだろう。」

アリアが一歩進むと、別の鏡には彼女の両親の姿が映し出された。彼らが冒険者として戦う姿、そしてアリアを守ろうとする姿が次々に現れる。

「……お父さん……お母さん……。」

アリアの声が震える。

「彼らは君にとって大きな存在だろう。しかし、この部屋はその記憶を利用して、君の心を試しているのだ。」

「……分かってる。でも、これ以上は見たくない!」

アリアが剣を振り上げ、鏡を割ろうとする。

「待て、アリア!鏡を壊してはならない。」

イアンがその腕を掴む。

「自分の過去に向き合うことも、この試練の一部だ。逃げては次に進めない。」

アリアはしばらく剣を握り締めていたが、やがて力を緩めた。

「……そうだよね。逃げないって決めたんだから。」

彼女がもう一度鏡を見つめると、両親の姿は次第に消え、代わりに彼女自身が剣を振るう姿が映し出された。

「これは……未来の私?」

「その可能性もある。君がどう選択するかで、未来は変わるだろう。」

アリアは深く息を吸い、鏡に向かって静かに頭を下げた。

「ありがとう。進むよ。」

その言葉と共に、部屋の中央に新たな道が現れた。
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