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11章 呪い

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儀式が終わり、ギルドに戻ったアリアとイアン。街はいつもと変わらぬ平穏を取り戻していたが、二人の間には静かな緊張感が漂っていた。

ギルドホールでユーゴが、静かな声で二人に告げた。

「封印術が成功したのはいいが、あのローブの男が何者なのかが問題だ。」

アリアは疲れた様子で椅子に腰を下ろしながら剣を見つめた。

「確かに……あの人、選ばれし刃を狙ってたみたいだった。」

「そうだな。そして、奴の魔力は尋常ではなかった。イアン、君は奴の正体に何か心当たりはないか?」

ユーゴがイアンを鋭く見据える。

「……正確なことは分からない。しかし、奴が放っていた魔力には、私の中に眠るものと似た性質を感じた。」

イアンが言葉を選ぶようにして答えた。

「魔族の気配、ということか?」

ユーゴが眉をひそめる。

イアンは短く頷いた。

「おそらくは。そして、あの剣――選ばれし刃にも、魔族の技術が関わっている可能性がある。」

その言葉に、アリアは驚きの表情を浮かべた。

「剣に魔族の技術……?でも、この剣って魔力を断つ力があるんでしょ?魔族にとって不利なんじゃないの?」

「表向きはそうかもしれない。しかし、魔力を断つという特性が、何か別の目的に繋がっていると考えれば……話は違ってくる。」

イアンが静かに言葉を続ける。

「例えば、その剣の力を逆手に取れば、強大な魔力を制御するための鍵として使えるかもしれない。」

「強大な魔力……。」

アリアが剣をじっと見つめる。

「それなら、ローブの男が狙ってきた理由も分かるな。」
ユーゴが重々しい声で言った。

「つまり、この剣を利用して何か恐ろしいことをしようとしている可能性が高いということだ。」

アリアは剣を握りしめ、真剣な顔で口を開いた。

「でも、この剣はもう私のものだよ。どんな理由があっても、あんな人たちには絶対渡さない。」

「君のその覚悟が、剣を本当の意味で使いこなす鍵になるだろう。」
イアンが静かに言った。

「ただし、その代償も忘れるな。君が剣を使い続ける限り、体は確実に蝕まれる。」

イアンの言葉にアリアは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに力強く頷いた。

「分かってる。だからこそ、この剣を守り抜くし、自分の力で戦い抜くよ。」

その決意に、イアンも小さく頷く。

夜、アリアはギルドの庭で剣を手にしていた。

月明かりの下で剣を見つめる彼女の表情には、どこか不安の色が混じっている。

(この剣が狙われる理由……私にはまだ分からない。でも、私が弱気になったら、それこそ誰も守れない。)

剣が青白い光を放ち、微かな振動を伝える。それはまるで、剣自体が彼女に何かを伝えようとしているかのようだった。

「私を選んだんだから、ちゃんと応えてよね……。」

アリアが剣を握りしめたその瞬間、彼女の中に何かが閃いた。

(あの剣の力を引き出すには、もっと私自身が強くならなきゃいけない。それが、私の使命なんだ。)

彼女は決意を新たにし、剣を腰に収めた。

一方、イアンはギルドの書庫にいた。

「剣と私の呪い……この二つが共鳴する理由は何なのか。」

独り言を呟きながら、彼は塔から持ち帰った本のページをめくる。

その中にあった古い記述が、彼の目を引いた。

「『魔族の技術で生み出された選定の剣は、持ち主の血を受け入れることで真の力を発揮する』……。」

イアンの表情が僅かに強張る。

「血……まさか……。」

彼の心には新たな疑念が浮かび上がった。アリアの持つ剣が彼の魔族の血と関わりを持つ可能性が示唆されたからだ。

「この剣が持つ真の意味……アリアにはまだ伝えられない。」

イアンは書物を閉じ、窓の外に広がる夜空を見上げた。
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