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10章 旧王都

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翌朝、アリアとイアンは再びギルドで次の冒険の準備を進めていた。塔での成果を報告した後、ユーゴが新たな情報を提供していた。

「『選ばれし刃』を解放する鍵は、この剣が最初に作られた場所にあるようだ。」
ユーゴが広げた地図を指しながら説明する。

「その場所ってどこ?」
アリアが地図を覗き込む。

「『魔族の旧王都』と呼ばれる廃墟だ。この地は、かつて魔族の文明が栄えた中心地だった。しかし、魔王が封印されて以降、廃れ果てている。」

「旧王都……またすごいところだね。」
アリアが剣を見ながらつぶやく。

「そこには剣を鍛えた鍛冶師の工房跡が残されている。その場所で剣が真の力を得るための試練が待っているだろう。」
ユーゴの言葉には、試練の厳しさを想起させる重みがあった。

「試練か……いいよ、受けて立つ!」
アリアが力強く答える。

「ただし、注意しろ。旧王都周辺には未だに魔族が潜んでいる可能性が高い。この剣を狙う者もいるかもしれない。」
ユーゴが鋭い視線をイアンに向けた。

「彼女を守る。それが私の役割です。」イアンが即答した。

二人は装備を整え、街を後にした。旧王都までは二日の道のり。途中、森や荒れ地を越える必要がある。

「いやー、久しぶりの旅って感じだね。なんだかワクワクする!」
アリアが荷物を背負いながら笑う。

「君のその楽観的な態度には感心するが、油断は禁物だ。」
イアンが杖を軽く握り直しながら言う。

「分かってるよ。でも、こういう旅が冒険者っぽくて好きなんだよね。」
アリアは剣を軽く叩きながら足取りも軽やかだった。

道中、森の中を抜けるとき、鳥のさえずりや風の音が心地よく響いていた。そんな平和な時間が続く中、アリアがふと口を開いた。

「ねえイアン、あの剣がもっと強くなったら、私たちもっと楽に冒険できるのかな?」

「そう簡単な話ではないだろう。その力が代償と引き換えに得られる以上、使い方を誤れば君自身を危険に晒す。」
イアンが静かに答える。

「分かってる。でも、それでも強くなりたいんだよね。」
アリアが遠くを見つめる。

「それが君の強さだ。ただ、君が自分を犠牲にする道を選んだとき、私はそれを止めなければならない。」
イアンの言葉には、彼自身の決意が込められていた。

そのとき、周囲の空気が突然変わった。森の静けさが一転し、どこからか獣の低い唸り声が聞こえてきた。

「来るぞ……!」

イアンが杖を構え、周囲を警戒する。

茂みから現れたのは、黒い毛並みを持つ巨大な狼型の魔物だった。その赤い瞳が二人をじっと睨みつけている。

「うわ、また厄介そうなのが出たね!」

アリアが剣を抜きながら身構える。

「これは普通の狼ではない。魔力を帯びた『魔狼』だ。群れで行動している可能性が高い。」イアンが冷静に答える。

魔狼が低く唸り声を上げ、突然鋭い爪で地面を蹴った。アリアに向かって猛スピードで襲いかかってくる。

「速い!」

アリアが剣を構え、ギリギリのところで爪を受け止めた。しかし、衝撃の重さに後退させられる。

「こいつ、力も半端ない……!」

アリアが息を整える間もなく、別の方向からもう一体の魔狼が現れた。

「群れでの襲撃か。厄介だな……。」

イアンがすかさず杖を振り、氷の槍を放つ。槍は二体目の魔狼の足元を貫き、その動きを鈍らせた。

「さすが!でも、まだ油断できないよ!」

アリアが剣を握り直し、光を放つ「選ばれし刃」を振り抜いた。剣の光が最初の魔狼の体を切り裂き、魔力の煙に変える。

だが、剣を振るうたびに彼女の体力が削られていく。顔に汗が滲み、呼吸も荒くなってきた。

「アリア、剣の使用を抑えろ。その疲労では次の攻撃に耐えられない!」

イアンが警告する。

「分かってる……でも、これを使わないと倒せないんだ!」

アリアは必死に剣を振るい、次の魔狼に向かって突進する。

残った魔狼が最後の突進を仕掛ける直前、イアンの氷の壁が立ち塞がった。魔狼が壁に衝突した瞬間、アリアの剣が鋭く振り下ろされ、二体目の魔狼も崩れ去った。

アリアはその場に膝をつき、剣を地面に突き刺して息を整えた。

「ふぅ……なんとか倒せた……。」

「君の力と剣の性能がなければ、突破は不可能だった。だが、その代償が大きいことを忘れるな。」

イアンが彼女を支えながら静かに言う。

「分かってる。でも、進まなきゃね。」

アリアは疲労を押し隠すように微笑んだ。

イアンは何も言わず、ただ彼女を支える手に力を込めた。その先には、さらなる困難が待ち受けていることを、二人とも理解していた。
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