月影の約束

藤原遊

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6章

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澪と陸を包んでいた温かい光が次第に収まると、石柱の表面がひび割れ、黒い霧が完全に消え去った。二人はその場に立ち尽くし、ただ目の前で起きたことを見つめていた。

「……呪いが弱まっている。」

陸が静かに呟いた。彼の表情には、わずかな安堵が浮かんでいる。しかし、澪はその視線の先にある鏡を見つめていた。石柱の変化とともに、鏡の表面が再び揺らぎ始め、奥に暗い空間が広がっているのが見えた。

「まだ終わっていないみたいね。」

澪が陸の顔を見上げる。彼は鏡をじっと見つめ、深く息を吐いた。

「そうだ。この鏡の奥にある“核”を破壊しない限り、俺は自由になれない。」

「じゃあ、行きましょう。一緒に。」

澪がためらいなく言葉を発すると、陸は彼女をじっと見つめた。その目には、微かに驚きと躊躇が混じっていた。

「澪、お前は……」

「私は行くって決めたの。」

彼の言葉を遮るように言い切る。その瞳に宿る決意を見て、陸は小さく頷いた。

「ありがとう……」

その一言に澪の胸が温かくなった。陸が誰かに感謝の言葉を向けるのは、きっと長い間なかったのだろう。

二人は鏡の中に足を踏み入れた。先ほどの鏡の世界とは異なり、そこは完全な闇だった。周囲には何も見えず、ただ彼らの足音だけが空間に響いている。

「ここは……どこ?」

「俺の魂が囚われている最も深い場所だ。」

陸の声が闇の中で低く響いた。その声に含まれる重さに、澪は胸を締め付けられるような思いをした。

やがて、闇の中に一つの光が浮かび上がった。それは、黒い鎖に縛られた巨大な鏡だった。鏡の中には陸が映っていたが、それは彼自身ではなく、冷たい笑みを浮かべた別の存在だった。

「……お前が呪いの核か。」

陸がその存在に向かって低く問いかけると、鏡の中の陸は不敵な笑みを浮かべて答えた。

「そうだ。そしてお前自身でもある。俺は、お前の中にある憎しみ、絶望、諦め……それらすべてだ。」

「……そんなものに縛られるつもりはない。」

陸の声は静かだが、揺るぎない決意が込められていた。彼は鏡に向かって一歩を踏み出した。

「陸!」

澪が咄嗟に手を伸ばそうとしたが、彼は振り返って小さく首を振った。

「これは俺の戦いだ。でも……」

彼は澪に微笑みかけた。その笑みは、これまでに見たことのないほど優しく穏やかだった。

「お前がいてくれるから、俺は負けない。」

その言葉に、澪の目が熱くなった。彼の決意に応えるように、彼女も静かに頷いた。

「絶対に、あなたを取り戻すから。」

陸が鏡に向かうと、鏡の中の「もう一人の陸」が手を伸ばし、現実の陸を引き込もうとする。その瞬間、鏡が激しく揺れ、暗闇が二人を包み込んだ。

「お前に俺を超えられるものか!」

鏡の中の陸が叫び、周囲に黒い霧が広がる。陸はその霧に飲み込まれそうになりながらも、必死に抵抗していた。

「俺は、お前に負けない!」

陸が叫ぶたびに、彼の体から光が放たれる。それは、彼が長い間抑え込んできた希望や未来への想いが解き放たれたものだった。

澪はその光景を見ながら、胸の奥に湧き上がる感情を抑えきれなかった。

「あなたは一人じゃない!」

澪が陸に向かって叫んだ瞬間、彼女の体からも眩しい光が放たれた。その光が黒い霧を弾き飛ばし、鏡の中の「もう一人の陸」を包み込む。

「これは……!」

鏡の中の陸が苦しげに叫ぶ。その姿は次第に薄れ、やがて完全に消えていった。

光が収まると、鏡はひび割れ、粉々に砕け散った。同時に、黒い鎖も崩れ落ちる。陸がゆっくりと振り返ると、そこには澪が立っていた。

「澪……」

彼の目には驚きと感謝が混じっていた。澪は笑顔を浮かべ、静かに言った。

「あなたを助けるって決めたの。それだけ。」

陸はその言葉に答えず、ただ彼女の手を取った。その手の温かさが、二人を現実へと引き戻した。
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