5 / 10
4章
しおりを挟む
鏡の中の世界は、不思議な場所だった。
空は漆黒で、どこか遠くで青白い光が揺らめいている。地面は固く冷たく、瓦礫や古びた柱が乱雑に散らばっている。澪は周囲を見回しながら、一歩一歩慎重に進んだ。
「ここが、呪いの核……?」
「そうだ。」
陸の声が背後から響いた。彼は澪のすぐ隣に立ち、警戒するようにあたりを見回していた。その表情には緊張と覚悟が滲んでいる。
「ここには、俺の記憶が眠っている。この場所に触れれば、君は俺が抱えている全てを見ることになる。それでも、行く覚悟はあるか?」
「ある。」
澪は即答した。迷いはなかった。陸の抱える悲しみの核心に触れなければ、彼を救うことも、この呪いを解くこともできない。それがわかっていたからだ。
陸は澪の目をじっと見つめた。彼女の決意を感じ取り、小さく頷く。
「ついて来い。」
陸が先導し、二人は暗い空間を進み始めた。奇妙な音が時折響く。風の音のようでもあり、囁き声のようでもある。不気味な感覚が澪の肌を刺すようだった。
やがて、地面に奇怪な模様が描かれた広場のような場所にたどり着いた。中央には黒い石柱がそびえ立ち、その表面には無数の傷や文字が刻まれている。まるで誰かが何度もそれを削り、壊そうとした痕跡のようだった。
「これは……?」
「俺の縛られている場所だ。」
陸は苦々しげに呟いた。
「この石柱が、俺の魂をここに繋ぎ止めている。20年前の儀式の失敗によって、この柱が呪いの中心になったんだ。」
澪は石柱に近づき、表面をじっと見つめた。指で触れると、冷たさが骨の芯まで染み込むようだった。そして、次の瞬間──
記憶が流れ込んできた。
澪の目の前に、20年前の光景が鮮やかに広がる。石柱の前で跪く少年──陸の姿。彼は呪文のような言葉を繰り返す大人たちに囲まれている。その顔には恐怖と絶望が刻まれていた。
「止めて……やめてくれ……!」
少年の叫び声が響くが、大人たちは耳を貸さない。彼らの目は狂気に満ちており、ただ儀式を完成させることだけに執着している。
「俺は、この儀式の生贄だった。」
澪の隣で、陸が呟く。その声には苦しみが滲んでいた。
「名家の人間たちは、自分たちの命を永遠に繋ぎ止めるために俺を捧げたんだ。俺は、ただそれだけのために殺された。」
澪は言葉を失った。目の前の少年──陸が、命を奪われる瞬間がまざまざと記憶の中に映し出されている。そのあまりの理不尽さに、澪の胸は怒りと悲しみで締め付けられた。
「そんな……どうして……」
澪が震える声で呟くと、陸は小さく首を振った。
「どうしてかなんて、俺にもわからない。ただ、彼らは欲望のままに動いていた。それだけだ。」
その時、突然空間が激しく揺れた。石柱の傷口から黒い霧が立ち上り、二人を取り囲むように渦を巻き始めた。
「気をつけろ!」
陸が澪の腕を引き、彼女を守るように立ちはだかる。その霧は意思を持つように動き、陸に向かって勢いよく襲いかかってきた。
「これは……!」
「俺をここに縛りつけている呪いそのものだ!」
陸が叫ぶ。霧が彼の体に絡みつき、引き裂こうとするように激しく動く。陸の顔が苦痛に歪むのを見て、澪の胸は張り裂けそうになった。
「止めて……止めてよ!」
澪が叫びながら陸に駆け寄ると、霧が彼女にも襲いかかろうとした。しかしその瞬間、澪の中から強い光が放たれた。それは彼女自身にも理解できない力だった。
「澪……?」
陸が驚いたように澪を見つめる。光が霧を弾き飛ばし、二人を包み込む。
「私は……あなたを助けたい。それだけなのに!」
澪の強い声が響き渡る。その思いが、呪いに打ち勝つ力となっていた。霧は次第に薄れ、やがて完全に消え去った。
「これは……どういうことだ……」
陸が呆然と呟く。澪は彼の手を強く握りしめ、決意に満ちた目で言った。
「わからない。でも、私は絶対にあなたをここから連れ出す。どんなことをしてでも。」
陸は澪を見つめ、やがてわずかに微笑んだ。その笑みは、これまでに見たどの表情よりも温かく、どこか救われたようなものだった。
「ありがとう……」
澪と陸は、再び石柱の前に立ち、その核心に挑む準備を整える。二人は互いを信じ、呪いの真実に立ち向かうことを誓った。
空は漆黒で、どこか遠くで青白い光が揺らめいている。地面は固く冷たく、瓦礫や古びた柱が乱雑に散らばっている。澪は周囲を見回しながら、一歩一歩慎重に進んだ。
「ここが、呪いの核……?」
「そうだ。」
陸の声が背後から響いた。彼は澪のすぐ隣に立ち、警戒するようにあたりを見回していた。その表情には緊張と覚悟が滲んでいる。
「ここには、俺の記憶が眠っている。この場所に触れれば、君は俺が抱えている全てを見ることになる。それでも、行く覚悟はあるか?」
「ある。」
澪は即答した。迷いはなかった。陸の抱える悲しみの核心に触れなければ、彼を救うことも、この呪いを解くこともできない。それがわかっていたからだ。
陸は澪の目をじっと見つめた。彼女の決意を感じ取り、小さく頷く。
「ついて来い。」
陸が先導し、二人は暗い空間を進み始めた。奇妙な音が時折響く。風の音のようでもあり、囁き声のようでもある。不気味な感覚が澪の肌を刺すようだった。
やがて、地面に奇怪な模様が描かれた広場のような場所にたどり着いた。中央には黒い石柱がそびえ立ち、その表面には無数の傷や文字が刻まれている。まるで誰かが何度もそれを削り、壊そうとした痕跡のようだった。
「これは……?」
「俺の縛られている場所だ。」
陸は苦々しげに呟いた。
「この石柱が、俺の魂をここに繋ぎ止めている。20年前の儀式の失敗によって、この柱が呪いの中心になったんだ。」
澪は石柱に近づき、表面をじっと見つめた。指で触れると、冷たさが骨の芯まで染み込むようだった。そして、次の瞬間──
記憶が流れ込んできた。
澪の目の前に、20年前の光景が鮮やかに広がる。石柱の前で跪く少年──陸の姿。彼は呪文のような言葉を繰り返す大人たちに囲まれている。その顔には恐怖と絶望が刻まれていた。
「止めて……やめてくれ……!」
少年の叫び声が響くが、大人たちは耳を貸さない。彼らの目は狂気に満ちており、ただ儀式を完成させることだけに執着している。
「俺は、この儀式の生贄だった。」
澪の隣で、陸が呟く。その声には苦しみが滲んでいた。
「名家の人間たちは、自分たちの命を永遠に繋ぎ止めるために俺を捧げたんだ。俺は、ただそれだけのために殺された。」
澪は言葉を失った。目の前の少年──陸が、命を奪われる瞬間がまざまざと記憶の中に映し出されている。そのあまりの理不尽さに、澪の胸は怒りと悲しみで締め付けられた。
「そんな……どうして……」
澪が震える声で呟くと、陸は小さく首を振った。
「どうしてかなんて、俺にもわからない。ただ、彼らは欲望のままに動いていた。それだけだ。」
その時、突然空間が激しく揺れた。石柱の傷口から黒い霧が立ち上り、二人を取り囲むように渦を巻き始めた。
「気をつけろ!」
陸が澪の腕を引き、彼女を守るように立ちはだかる。その霧は意思を持つように動き、陸に向かって勢いよく襲いかかってきた。
「これは……!」
「俺をここに縛りつけている呪いそのものだ!」
陸が叫ぶ。霧が彼の体に絡みつき、引き裂こうとするように激しく動く。陸の顔が苦痛に歪むのを見て、澪の胸は張り裂けそうになった。
「止めて……止めてよ!」
澪が叫びながら陸に駆け寄ると、霧が彼女にも襲いかかろうとした。しかしその瞬間、澪の中から強い光が放たれた。それは彼女自身にも理解できない力だった。
「澪……?」
陸が驚いたように澪を見つめる。光が霧を弾き飛ばし、二人を包み込む。
「私は……あなたを助けたい。それだけなのに!」
澪の強い声が響き渡る。その思いが、呪いに打ち勝つ力となっていた。霧は次第に薄れ、やがて完全に消え去った。
「これは……どういうことだ……」
陸が呆然と呟く。澪は彼の手を強く握りしめ、決意に満ちた目で言った。
「わからない。でも、私は絶対にあなたをここから連れ出す。どんなことをしてでも。」
陸は澪を見つめ、やがてわずかに微笑んだ。その笑みは、これまでに見たどの表情よりも温かく、どこか救われたようなものだった。
「ありがとう……」
澪と陸は、再び石柱の前に立ち、その核心に挑む準備を整える。二人は互いを信じ、呪いの真実に立ち向かうことを誓った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】
その子四十路
ホラー
しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。
幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話……
日常に潜む、胸をざわめかせる怪異──
作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集。

おばあちゃん
ゴーヤーチャンプルー
ホラー
両親が共働きだったため、小さい頃はおばあちゃんによく世話をしてもらっていたらしい。しかし、その記憶はほとんど残っていない。おばあちゃんは、俺が小学生になる前に亡くなったからだ。
中学生になったある日、帰り道で懐かしい後ろ姿を見つける。振り向いたのは、間違いなく俺のおばあちゃんだった。俺は嬉しくなり、それから毎日、おばあちゃんと一緒に過ごすようになる。
けれど、ある日アルバムを見返して、衝撃の事実に気づく...
ill〜怪異特務課事件簿〜
錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。
ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。
とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。

百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる