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4.目覚める性癖(※)
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「うぅっ、くっ、んあぁっ、あーーっ♡」
俺は、射精してしまったのだった。
その事実が信じられなくて、ただ呆然としていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
すごい、気持ちいい。なんだろう、これは。まるで新しい扉が開けたかのような、このまま知らない方が良かった感覚。
すると、
「イーデン様、こちらを…」
マルセルがそっと濡れたおしぼりを手渡してくれたが、驚きと恥ずかしさで、俺はまったく動けなかった。
やばい、恥ずかしい。一体どうなってるんだ?
しばらく固まっていると、マルセルが静かに一歩前に出て、「イーデン様、失礼いたします」と言いながら、俺の部屋着を丁寧に脱がせ、下着も手際よく下ろす。彼の手が俺の肌に触れるたび、冷静さを取り戻そうとする心が逆に揺れ動く。
「洗浄!」
彼は淡々と洗浄魔法をかけて、事態を処理してくれた。
ああ、うん。
ふと、マルセルに直接あそこを拭かれるのではないかと、ぎょっとしたが、彼は一切手を汚すことなく、すべてを魔法で片付けた。
一瞬で済んでホッとしたよ。生きながら心が死にそうになったが……。いや、でも。洗浄だったら、服を脱がさなくても、そのままかけることができるはずだよね?
恥ずかしくて、どうしてもマルセルと目を合わせられない。でも、彼はしっかり俺を見つめてくるんだ。
まっすぐに、逃げ場がないくらいに。
俺の好きな、あの射貫くような瞳で。
そして、ホッとするのは早すぎた。
なんと、俺の愚息ちゃんは、またもむくむくと立派にいきり立ったのだ。
「え、え、え、え?」
俺、一体どうしちゃったんだ? 自分でも淡白な方だと思っていたのに。
こ、これ、どうしよう? 愚息ちゃん、なんとか治まってくれないかな?
扉の向こうでは、再び二人が絡み合っている声が聞こえている。
見たい、見たいんだけど……。
今はそれどころじゃない。心臓が高鳴る。視線が重い。マルセルが俺を凝視しているのがわかる。
まるで心の奥まで覗き込んでいるようなその瞳に、俺は完全に動けなくなってしまった。
「イーデン様……」
「な、な、な、なに?」
なんでこのタイミングで話しかけるの?
恥ずかしいんだってば、従者だったら空気を読んでよぉぉぉっ!
「イーデン様、こちら、使われますか?」
「へ、はへ?」
「そのままでは、大切なところが摩擦で赤く擦れてしまいます」
「…へ?」
そういって差し出されたのは、きれいな細工瓶に入れられた、おそらく香油?だった。
俺はどうしたらいいか分からなかったので、屹立を強く握りしめたままだったのだ。
「よろしければ、私がお塗り致しましょう……」
そしてマルセルは俺の屹立に触れ、それを塗り始めた。
「んっ……」
マルセルの手の冷たさに、思わず声が漏れる。
「痛かったですか?」
慌てて首を振ると、彼はほっとしたように微笑む。
でもその微笑みはいつもの鋭い光ではなくて、とろけそうな笑顔だった。
え?え?マルセルってこんな顔で笑えるの?
それになんだか……すごく気持ちいいんだけど?なんで?
しかも俺の愚息ちゃんはさっきから萎える気配すらない。むしろ先走り液が溢れてて、ますます暴発状態だ。
だけど、ほんの少しだけど、なにかが違う。ことばにできないこの違和感はなんだろう?
「もう少し、塗りましょう」
さらに塗り進めようとするその手を掴んだ俺は、
「もういい、マルセル」彼の動きを遮った。
「イーデン様…」
「自分でやる」
「……はい」
「自分でやるから、だから、だから――」
俺は瓶を受け取ると掌に中身をまぶす。
「だから、マルセルは、そこで…」
「…………」
「そこで、俺を、見て」
「…………」
「お、俺を、見ていて」
マルセルはふっと笑い、頷いた。
俺はマルセルに見えるように長椅子の上で脚を開くと、自分の逸物にさらに香油をくちゅくちゅと音を立てて、塗りたくった。
ああ、恥ずかしい! でもそれ以上に気持ちいい……っ!
「ふっ……あっ」
そういえば、俺は今世では一度も自慰をしたことがなかったのを思い出す。なのに今、彼の目の前でしているこれは、明らかに自慰だろう、そう思うと背筋に甘い痺れが走るのだ。
ああ、なんだかすごくいけないことをしている気がする。
でもそれ以上に興奮してしまうんだ。だってきっとずっとこうしたかったから。
マルセルが見てる前で……自分のモノを扱くなんて。
ああ、見られている。すごい、すごいよ。
「マルセル…」
「はい」
「あぁ、見られてるぅ」
「はい」
「マルセルにぃ、すっごく、俺の恥ずかしい姿を、見られてるぅ♡」
「はい」
「ああ、マルセルぅ」
「はい」
「もっとぉ、見てぇ♡」
「はい、イーデン様」
俺は夢中で自分のモノをしごいた。先走り液が溢れて止まらない。
ぐちゅぐちゅといやらしい音がクローゼット内に響き渡る。でも止められないんだ。だって気持ちいいんだもん。
それに……それに……
「あぁ、マルセルの視線を感じる…。ああん♡もっと見てほしいぃ♡見ていてほしいよぉ♡」
そうだ。公爵家の居城に来てからの三年間、俺は毎日マルセルの視線を感じてきた。
まるで射抜かれるような、けれど不思議と安心感のある鋭い視線だった。それは決して敵意ではなく、護衛対象を守るための、鋭利で研ぎ澄まされた目つきだ。
捕食者が獲物を狙うというよりも、常に周囲を警戒しながら、俺を見守っているような優しい鋭さで――。
優れた護衛である彼の瞳には、確かな責任感と深い忠誠心が滲んでいて、俺を包み込むかのように、その鋭さが絶え間なく注がれていた。
そして、俺はその視線を意識せずにはいられなかった。
じわじわとじっくりと育て上げるかのように、3年かけてそれは性的興奮へと変わっていった。
「み、見られてるぅ♡すごい、すごいよぉぉ♡」
えええ、俺ってこんな変態だったの? でも今は、そんなことどうでもいいくらいに気持ちいい。
「あぁぁぁん♡見てぇ♡もっとぉ、見てぇ♡あぁん♡マルセルの目の前で自慰しちゃうぅぅっ!♡俺をぉ♡」
「はい。イーデン様」
「もっとぉ、もっとぉ♡ま、まるせるのぉ、視線でぇ♡気持ちぃく、なっちゃうぅぅ♡」
「イーデン様……お可愛いです」
マルセルが情欲でぎらぎらした瞳で俺を見詰めてくる。
「もっとぉ♡見てぇ♡俺をぉ、射貫いてぇぇっ♡」
「イーデン様、私は。いついかなる時も……」
もっと見て、俺を……。
「貴方様だけを、見ておりました」
「あっ♡イクっ、いくっ♡ま、まる、せるにぃ、見られ…ながらぁ、イっちゃうぅぅうっ!♡」
「これからも、ずっと…」
「ん、ん♡で、でちゃうぅ♡射精るぅ、からぁぁ、あーっあぁーっ♡」
俺は呆気なく達してしまった。白濁液が飛び散る。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す俺の前に、マルセルが跪く。
そして彼は俺の股間に顔を埋めると、飛び散った精液を丁寧に舐め取ったのだ。
ああ、今度は洗浄を使わないんだな。
その舌の動きに、俺はまた感じてしまう。
「イーデン様……」
「はぁ……はぁ……マルセルぅ」
マルセルは俺を見上げると微笑んだ。その笑顔にドキリとする。
いつもの鋭い双眸が、今は甘くとろけるような眼差しになっている。
ああ、こんな表情もできるんだ……堪らない。
俺の中で激しく熱いものが込み上げてきた。
「あぁぁぁぁん! も、もっと舐めてぇ♡舐めてぇ、ここぉ、きれいきれいぃ、してぇ♡」
俺はマルセルの頭を掴み、股間に押し付けた。
「あぁん♡気持ちぃ、よぉっ!」
マルセルは俺のモノを口に含み、じゅぷじゅぷと音を立ててしゃぶる。そしてゆっくりと根元まで飲み込むと、喉の奥で締め付けてきた。
「ひぃぃっ、それぇ、凄ひぃぃ♡」
頭が真っ白になるような快感だ。
彼の舌使いは巧みで、的確に俺の弱いところを攻めてくる。
「あっ♡あっ♡だめぇっ!また射精ちゃうぅぅっ!」
俺は呆気なく達してしまい、彼は俺が出したものを全部飲んでしまった。その喉の動きにも感じてしまう俺は、本当に変態かもしれない。
「はぁ……マルセル……」
「イーデン様……」
「もっとぉ……してぇ♡」
マルセルは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにいつもの無表情に戻る。だがその瞳には確かに情欲の色が見えた気がする。
俺は再び彼の頭を掴み、股間に押し付け、前世でも今世でも初めての激しい強制口淫に耽った。
「んぶっ! んぐっ!」
マルセルは苦しそうな声を上げているが、俺のモノは萎えない。
むしろさらに大きくなっている気さえする。
「んっ……ちゅぶ、ぢゅっ……ちゅ、んんッ……ふぅ……」
大きな水音をたてながら、マルセルは俺のモノを、しゃぶって、舐めて、喉で締め付けて、厚い唇で扱いていく。
ああ、気持ちいい。このまま死んでしまいそうなくらい幸せだ。
「むぐっ……う、……ちゅ、あむっ……」
「はぁ、すごいぃぃ、しゅごいぃぃ♡しゅごぃよぉぉ♡」
俺は夢中になってマルセルの頭を前後させ、同時に腰を振り続ける。
「はむ……ちゅ……んぐっ、ちゅ……れろ……」
「は、ぁ……や、だ……舌、そんな、絡めたら……♡」
どこまでも快感が昇り詰めていく。
「はむ、ん……ちゅぷ……んん……」
「あっ、だめ、ぇ、出ちゃうぅ、またぁ♡あぁーっ、あぁぁっ♡」
どくんっ、どくんっ、と大量に吐き出される白濁液を、彼はゴクリと飲み干す。
「はぁ……はぁ……」
ずるりと逸物を引き抜くと、彼が突然咳き込み、俺は思わず「大丈夫?」と声をかけた。
少しの間、呼吸を整えるようにしてから、彼は静かに俺の方を見て、コクリと頷く。その仕草に無理がないか確認したかったが、言葉は飲み込んだ。
彼の表情を見る限り、本当に大丈夫そうで、むしろ嬉しそうにも見えたのだ。
扉の向こうでは、まだ話し声が聞こえる。多分、ピロートークというものだろう。何を話しているのかは、残念ながら聞こえない。
閣下とライアンは抱き合っている。そのまま動かない。
そしてしばらくすると、静かな寝息が聞こえてきた。
あれだけやれば、それは深い眠りにつけることだろう。
俺は目を凝らした。……全裸の二人が、まだ下半身が繋がったままで寝ている。アレンの顔には、さっきの余韻が残っているのか、幸せそうな表情だ。ライアンの身体には、無数のキスマークがついている。
なんだかよくは分からないが、俺は幸福な気分になった。
二人が幸せなら、それでいい。
「イーデン様」
不意に背後から声がかかり、思わずハッとして振り返った。そこには、いつもの無表情のマルセルが立っている。だが、どこか彼の目にはいつもと違う陰が漂っていて、思い詰めたような気配があった。
「あ、あの、私は……」
マルセルが何か言いかけたが、その言葉は途中で止まり、静かに口を閉ざした。
……なんだ? いったい何を言おうとしたんだ?気になるじゃないか。心の中で問いかけながらも、彼の視線を追いかけたが、マルセルはそのまま黙り込んでしまった。
やむなく俺は話題を切り替えるしかなく、少し間を置いて口を開いた。
「……あのさ」
「はい」
「さっき言ってた『お可愛い』ってどういう意味?」
マルセルは少しの間、沈黙していたがやがて口を開く。
「……そのままの意味です」
「そのままって……?」
可愛いって、男に向ける誉め言葉としてはどうなんだろうな。
前世でもそうだった。男を「可愛い」って言うのが、どうにも引っかかってた。どこかバカにされてる気がして、気分のいいものじゃなかったんだ。たまに言われたりしたけど、正直、全然嬉しくはなかった。
「……イーデン様は、とてもお可愛らしい方です」
マルセルのその言葉を聞いて、一瞬戸惑ったけど、多分、この世界では、それはちゃんとした誉め言葉なんだろう。だって、彼の表情を見ればわかる。俺に対しての悪意なんて微塵も感じられないから。
そう思ったら、自然と笑顔がこぼれた。
するとマルセルが一瞬驚いたような顔をする。俺が笑ったのがそんなに意外だったのか?
「そっかぁ」
「はい」
そして、ふと静かになったその瞬間。
長い沈黙の中で、俺はようやく気付いたんだ。重大な事実に――。
そうだ!俺は!なんてことを……マルセルに対して……!
「お、おれ、なんてことを…!お、俺ぇぇぇ、マルセルにぃぃっ……!」
「……イーデン様?」
「ま、マルセルに……せ、性的な嫌がらせをしてしまった!……ど、どうしよう。どうしたらいい?!……マルセルは俺のこと、嫌いになっちゃうよね……そうだよね……」
絶望が胸に押し寄せ、俺はその場で打ちひしがれる。せっかく、ようやく彼との距離が縮まったというのに……。
嫌われたら、俺は一体どうすればいいんだ?
従者に対してセクハラだなんて、最低じゃないか?
自分よりも立場の弱い者に、強制口淫をするなんて、俺はなんて愚かなんだろう。前世でも、今世でも、セクハラとは無縁で生きてきたのに……!
「いいえ、問題ございません」
「……へ?」
「全く何の問題もございません」
「ふへ?」
「嫌がらせだなんて、とんでもない」
「でも、」と言いかけた俺の言葉を遮るように、マルセルはゆっくりと首を横に振った。
どこか穏やかで、まるで取り乱す俺を冷静に見守っているような表情だ。
「イーデン様になら何をされても構いません」
「ほ、本当?!」
「はい」
「それでも、ご、ごめんなさい!」
「……」
「本当に、心から、ごめんなさい! ごめんなさい!」
俺は完全に頭を垂れ、土下座する勢いで謝罪の言葉を吐き出していた。謝っても、許されることじゃないのは分かっている。それでも、何かしら形にしないとこの罪悪感が俺を飲み込んでしまいそうだ。
慰謝料ってどうすればいいんだろう。示談とかも考えた方がいいのかな? 今の俺の全財産で足りるだろうか? 焦りで頭がぐるぐる回る。
そんな俺に、マルセルは穏やかに微笑みながら言った。
「イーデン様、私は本当に大丈夫です。……むしろ、ご褒美だと感じております。」
「本当に?」
俺は驚きと疑念が入り混じったまま問い返す。
「はい、嘘偽りは一切ございません。」
彼は真剣な顔で、断固としてそう言い切る。
「本当に?」
俺はもう一度確認した。信じたいけれど、どうしても信じられないような気がして。
「はい。とても…」
「……?」
「とても、嬉しゅうございました。」
もしかして、彼はああいうプレイが好きなのだろうか。
うん、きっとマルセルは本当にそう思ってくれているのだろう。
それなら、よかった。心の奥からホッとしたら、緊張がほどけたのか、急に眠気が襲ってきた。俺は大きな欠伸をひとつ。
「ふぁーあ……」
気付けば、クローゼットの中でそのまま深い眠りに落ちてしまっていた。まるで子供のように、安心しきったまま。
こうして、俺たちの激動の夜は更けていった。
俺は、射精してしまったのだった。
その事実が信じられなくて、ただ呆然としていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
すごい、気持ちいい。なんだろう、これは。まるで新しい扉が開けたかのような、このまま知らない方が良かった感覚。
すると、
「イーデン様、こちらを…」
マルセルがそっと濡れたおしぼりを手渡してくれたが、驚きと恥ずかしさで、俺はまったく動けなかった。
やばい、恥ずかしい。一体どうなってるんだ?
しばらく固まっていると、マルセルが静かに一歩前に出て、「イーデン様、失礼いたします」と言いながら、俺の部屋着を丁寧に脱がせ、下着も手際よく下ろす。彼の手が俺の肌に触れるたび、冷静さを取り戻そうとする心が逆に揺れ動く。
「洗浄!」
彼は淡々と洗浄魔法をかけて、事態を処理してくれた。
ああ、うん。
ふと、マルセルに直接あそこを拭かれるのではないかと、ぎょっとしたが、彼は一切手を汚すことなく、すべてを魔法で片付けた。
一瞬で済んでホッとしたよ。生きながら心が死にそうになったが……。いや、でも。洗浄だったら、服を脱がさなくても、そのままかけることができるはずだよね?
恥ずかしくて、どうしてもマルセルと目を合わせられない。でも、彼はしっかり俺を見つめてくるんだ。
まっすぐに、逃げ場がないくらいに。
俺の好きな、あの射貫くような瞳で。
そして、ホッとするのは早すぎた。
なんと、俺の愚息ちゃんは、またもむくむくと立派にいきり立ったのだ。
「え、え、え、え?」
俺、一体どうしちゃったんだ? 自分でも淡白な方だと思っていたのに。
こ、これ、どうしよう? 愚息ちゃん、なんとか治まってくれないかな?
扉の向こうでは、再び二人が絡み合っている声が聞こえている。
見たい、見たいんだけど……。
今はそれどころじゃない。心臓が高鳴る。視線が重い。マルセルが俺を凝視しているのがわかる。
まるで心の奥まで覗き込んでいるようなその瞳に、俺は完全に動けなくなってしまった。
「イーデン様……」
「な、な、な、なに?」
なんでこのタイミングで話しかけるの?
恥ずかしいんだってば、従者だったら空気を読んでよぉぉぉっ!
「イーデン様、こちら、使われますか?」
「へ、はへ?」
「そのままでは、大切なところが摩擦で赤く擦れてしまいます」
「…へ?」
そういって差し出されたのは、きれいな細工瓶に入れられた、おそらく香油?だった。
俺はどうしたらいいか分からなかったので、屹立を強く握りしめたままだったのだ。
「よろしければ、私がお塗り致しましょう……」
そしてマルセルは俺の屹立に触れ、それを塗り始めた。
「んっ……」
マルセルの手の冷たさに、思わず声が漏れる。
「痛かったですか?」
慌てて首を振ると、彼はほっとしたように微笑む。
でもその微笑みはいつもの鋭い光ではなくて、とろけそうな笑顔だった。
え?え?マルセルってこんな顔で笑えるの?
それになんだか……すごく気持ちいいんだけど?なんで?
しかも俺の愚息ちゃんはさっきから萎える気配すらない。むしろ先走り液が溢れてて、ますます暴発状態だ。
だけど、ほんの少しだけど、なにかが違う。ことばにできないこの違和感はなんだろう?
「もう少し、塗りましょう」
さらに塗り進めようとするその手を掴んだ俺は、
「もういい、マルセル」彼の動きを遮った。
「イーデン様…」
「自分でやる」
「……はい」
「自分でやるから、だから、だから――」
俺は瓶を受け取ると掌に中身をまぶす。
「だから、マルセルは、そこで…」
「…………」
「そこで、俺を、見て」
「…………」
「お、俺を、見ていて」
マルセルはふっと笑い、頷いた。
俺はマルセルに見えるように長椅子の上で脚を開くと、自分の逸物にさらに香油をくちゅくちゅと音を立てて、塗りたくった。
ああ、恥ずかしい! でもそれ以上に気持ちいい……っ!
「ふっ……あっ」
そういえば、俺は今世では一度も自慰をしたことがなかったのを思い出す。なのに今、彼の目の前でしているこれは、明らかに自慰だろう、そう思うと背筋に甘い痺れが走るのだ。
ああ、なんだかすごくいけないことをしている気がする。
でもそれ以上に興奮してしまうんだ。だってきっとずっとこうしたかったから。
マルセルが見てる前で……自分のモノを扱くなんて。
ああ、見られている。すごい、すごいよ。
「マルセル…」
「はい」
「あぁ、見られてるぅ」
「はい」
「マルセルにぃ、すっごく、俺の恥ずかしい姿を、見られてるぅ♡」
「はい」
「ああ、マルセルぅ」
「はい」
「もっとぉ、見てぇ♡」
「はい、イーデン様」
俺は夢中で自分のモノをしごいた。先走り液が溢れて止まらない。
ぐちゅぐちゅといやらしい音がクローゼット内に響き渡る。でも止められないんだ。だって気持ちいいんだもん。
それに……それに……
「あぁ、マルセルの視線を感じる…。ああん♡もっと見てほしいぃ♡見ていてほしいよぉ♡」
そうだ。公爵家の居城に来てからの三年間、俺は毎日マルセルの視線を感じてきた。
まるで射抜かれるような、けれど不思議と安心感のある鋭い視線だった。それは決して敵意ではなく、護衛対象を守るための、鋭利で研ぎ澄まされた目つきだ。
捕食者が獲物を狙うというよりも、常に周囲を警戒しながら、俺を見守っているような優しい鋭さで――。
優れた護衛である彼の瞳には、確かな責任感と深い忠誠心が滲んでいて、俺を包み込むかのように、その鋭さが絶え間なく注がれていた。
そして、俺はその視線を意識せずにはいられなかった。
じわじわとじっくりと育て上げるかのように、3年かけてそれは性的興奮へと変わっていった。
「み、見られてるぅ♡すごい、すごいよぉぉ♡」
えええ、俺ってこんな変態だったの? でも今は、そんなことどうでもいいくらいに気持ちいい。
「あぁぁぁん♡見てぇ♡もっとぉ、見てぇ♡あぁん♡マルセルの目の前で自慰しちゃうぅぅっ!♡俺をぉ♡」
「はい。イーデン様」
「もっとぉ、もっとぉ♡ま、まるせるのぉ、視線でぇ♡気持ちぃく、なっちゃうぅぅ♡」
「イーデン様……お可愛いです」
マルセルが情欲でぎらぎらした瞳で俺を見詰めてくる。
「もっとぉ♡見てぇ♡俺をぉ、射貫いてぇぇっ♡」
「イーデン様、私は。いついかなる時も……」
もっと見て、俺を……。
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「あっ♡イクっ、いくっ♡ま、まる、せるにぃ、見られ…ながらぁ、イっちゃうぅぅうっ!♡」
「これからも、ずっと…」
「ん、ん♡で、でちゃうぅ♡射精るぅ、からぁぁ、あーっあぁーっ♡」
俺は呆気なく達してしまった。白濁液が飛び散る。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す俺の前に、マルセルが跪く。
そして彼は俺の股間に顔を埋めると、飛び散った精液を丁寧に舐め取ったのだ。
ああ、今度は洗浄を使わないんだな。
その舌の動きに、俺はまた感じてしまう。
「イーデン様……」
「はぁ……はぁ……マルセルぅ」
マルセルは俺を見上げると微笑んだ。その笑顔にドキリとする。
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「あぁぁぁぁん! も、もっと舐めてぇ♡舐めてぇ、ここぉ、きれいきれいぃ、してぇ♡」
俺はマルセルの頭を掴み、股間に押し付けた。
「あぁん♡気持ちぃ、よぉっ!」
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「はぁ……マルセル……」
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むしろさらに大きくなっている気さえする。
「んっ……ちゅぶ、ぢゅっ……ちゅ、んんッ……ふぅ……」
大きな水音をたてながら、マルセルは俺のモノを、しゃぶって、舐めて、喉で締め付けて、厚い唇で扱いていく。
ああ、気持ちいい。このまま死んでしまいそうなくらい幸せだ。
「むぐっ……う、……ちゅ、あむっ……」
「はぁ、すごいぃぃ、しゅごいぃぃ♡しゅごぃよぉぉ♡」
俺は夢中になってマルセルの頭を前後させ、同時に腰を振り続ける。
「はむ……ちゅ……んぐっ、ちゅ……れろ……」
「は、ぁ……や、だ……舌、そんな、絡めたら……♡」
どこまでも快感が昇り詰めていく。
「はむ、ん……ちゅぷ……んん……」
「あっ、だめ、ぇ、出ちゃうぅ、またぁ♡あぁーっ、あぁぁっ♡」
どくんっ、どくんっ、と大量に吐き出される白濁液を、彼はゴクリと飲み干す。
「はぁ……はぁ……」
ずるりと逸物を引き抜くと、彼が突然咳き込み、俺は思わず「大丈夫?」と声をかけた。
少しの間、呼吸を整えるようにしてから、彼は静かに俺の方を見て、コクリと頷く。その仕草に無理がないか確認したかったが、言葉は飲み込んだ。
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そしてしばらくすると、静かな寝息が聞こえてきた。
あれだけやれば、それは深い眠りにつけることだろう。
俺は目を凝らした。……全裸の二人が、まだ下半身が繋がったままで寝ている。アレンの顔には、さっきの余韻が残っているのか、幸せそうな表情だ。ライアンの身体には、無数のキスマークがついている。
なんだかよくは分からないが、俺は幸福な気分になった。
二人が幸せなら、それでいい。
「イーデン様」
不意に背後から声がかかり、思わずハッとして振り返った。そこには、いつもの無表情のマルセルが立っている。だが、どこか彼の目にはいつもと違う陰が漂っていて、思い詰めたような気配があった。
「あ、あの、私は……」
マルセルが何か言いかけたが、その言葉は途中で止まり、静かに口を閉ざした。
……なんだ? いったい何を言おうとしたんだ?気になるじゃないか。心の中で問いかけながらも、彼の視線を追いかけたが、マルセルはそのまま黙り込んでしまった。
やむなく俺は話題を切り替えるしかなく、少し間を置いて口を開いた。
「……あのさ」
「はい」
「さっき言ってた『お可愛い』ってどういう意味?」
マルセルは少しの間、沈黙していたがやがて口を開く。
「……そのままの意味です」
「そのままって……?」
可愛いって、男に向ける誉め言葉としてはどうなんだろうな。
前世でもそうだった。男を「可愛い」って言うのが、どうにも引っかかってた。どこかバカにされてる気がして、気分のいいものじゃなかったんだ。たまに言われたりしたけど、正直、全然嬉しくはなかった。
「……イーデン様は、とてもお可愛らしい方です」
マルセルのその言葉を聞いて、一瞬戸惑ったけど、多分、この世界では、それはちゃんとした誉め言葉なんだろう。だって、彼の表情を見ればわかる。俺に対しての悪意なんて微塵も感じられないから。
そう思ったら、自然と笑顔がこぼれた。
するとマルセルが一瞬驚いたような顔をする。俺が笑ったのがそんなに意外だったのか?
「そっかぁ」
「はい」
そして、ふと静かになったその瞬間。
長い沈黙の中で、俺はようやく気付いたんだ。重大な事実に――。
そうだ!俺は!なんてことを……マルセルに対して……!
「お、おれ、なんてことを…!お、俺ぇぇぇ、マルセルにぃぃっ……!」
「……イーデン様?」
「ま、マルセルに……せ、性的な嫌がらせをしてしまった!……ど、どうしよう。どうしたらいい?!……マルセルは俺のこと、嫌いになっちゃうよね……そうだよね……」
絶望が胸に押し寄せ、俺はその場で打ちひしがれる。せっかく、ようやく彼との距離が縮まったというのに……。
嫌われたら、俺は一体どうすればいいんだ?
従者に対してセクハラだなんて、最低じゃないか?
自分よりも立場の弱い者に、強制口淫をするなんて、俺はなんて愚かなんだろう。前世でも、今世でも、セクハラとは無縁で生きてきたのに……!
「いいえ、問題ございません」
「……へ?」
「全く何の問題もございません」
「ふへ?」
「嫌がらせだなんて、とんでもない」
「でも、」と言いかけた俺の言葉を遮るように、マルセルはゆっくりと首を横に振った。
どこか穏やかで、まるで取り乱す俺を冷静に見守っているような表情だ。
「イーデン様になら何をされても構いません」
「ほ、本当?!」
「はい」
「それでも、ご、ごめんなさい!」
「……」
「本当に、心から、ごめんなさい! ごめんなさい!」
俺は完全に頭を垂れ、土下座する勢いで謝罪の言葉を吐き出していた。謝っても、許されることじゃないのは分かっている。それでも、何かしら形にしないとこの罪悪感が俺を飲み込んでしまいそうだ。
慰謝料ってどうすればいいんだろう。示談とかも考えた方がいいのかな? 今の俺の全財産で足りるだろうか? 焦りで頭がぐるぐる回る。
そんな俺に、マルセルは穏やかに微笑みながら言った。
「イーデン様、私は本当に大丈夫です。……むしろ、ご褒美だと感じております。」
「本当に?」
俺は驚きと疑念が入り混じったまま問い返す。
「はい、嘘偽りは一切ございません。」
彼は真剣な顔で、断固としてそう言い切る。
「本当に?」
俺はもう一度確認した。信じたいけれど、どうしても信じられないような気がして。
「はい。とても…」
「……?」
「とても、嬉しゅうございました。」
もしかして、彼はああいうプレイが好きなのだろうか。
うん、きっとマルセルは本当にそう思ってくれているのだろう。
それなら、よかった。心の奥からホッとしたら、緊張がほどけたのか、急に眠気が襲ってきた。俺は大きな欠伸をひとつ。
「ふぁーあ……」
気付けば、クローゼットの中でそのまま深い眠りに落ちてしまっていた。まるで子供のように、安心しきったまま。
こうして、俺たちの激動の夜は更けていった。
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そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。
【完】姉の仇討ちのハズだったのに(改)全7話
325号室の住人
BL
姉が婚約破棄された。
僕は、姉の仇討ちのつもりで姉の元婚約者に会いに行ったのに……
初出 2021/10/27
2023/12/31 お直し投稿
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