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ぼっちと幼女
幼女と買い物②
しおりを挟む脇に抱えてたシロとミドリを椅子に座らせていると奥から受付嬢が戻ってきた。
隣にヒゲを蓄えた歴戦の猛者のような風貌をした男性を連れている。
「自分じゃ対応できないとメル君に言われて来てみたら若造じゃないか」
「人を見かけで判断すると後悔するぞ、おっさん」
多分、おっさんの500倍は生きてるからな?
椅子に座らせたシロとミドリがいつの間にか俺の膝の上に座っている。
いつ移動したんだ?
「ご忠告感謝しよう。さて、この素材だが何処で手に入れた?」
「何処って……普通に倒しただけだが?」
「くまさんおいしかった!」
ふむ……と小さく唸り考え込んでいるようだ。
そして口を開いた。
「もし、それが本当なら国に報告しないといけない」
「理由を聞かせてもらおう」
「この爪が本物なら国が滅びる危険性があるからだ」
ごめん、理解が追いつかない。
あの熊ごときで国が滅びるとか大げさすぎるだろ。
「聞いた特徴に関しては『カイザーグリズリー』そのものだ。しかも大人のな」
あの熊そんなに仰々しい名前だったのか。
少しかっこいいじゃないか。
「昔その子供が前線都市の生活圏に侵入した時があった。その時でさえ、この前線都市は半壊。ここにいる人間も2割は死んだ」
「それで倒せたのか?」
「もう200年も前の話だがな。勇者様が駆けつけてくれたよ。それがなければここは滅んでた」
やはりまだ勇者の存在はあるのか。
「子供でもそのレベルだ。大人の『カイザーグリズリー』の爪だと? 冗談じゃない。アレは人間の手に負えるものじゃない」
「くまさんつよかった……?」
「そうみたいだ」
「ほへー!」
あの熊がそこまで強かったらあれ以上に強いのが来たら世界滅亡だな。
別に俺には関係ないが。
「それを何も感じない若造が狩れるとでも? 冗談も大概にして欲しいものだ。大方落ちていたのを拾っただけだろう」
「ガイトのおっさん、それマジで言ってんのか?」
なんか増えたぞ。
背中ぐらいまである赤い髪のボインの姉ちゃんだ。強そう。
ビキニアーマーで床に着きそうな長さの大剣を背負っている。
随分と太い大剣だな……俺の腰幅ぐらいあるぞ……?
何か言い争いが始まりそうな雰囲気なのでシロとミドリの頰を突いて遊んでいよう。
「何をだ? 『紅蓮』」
「コイツから何も感じないってことだ」
「ここで冗談を言う必要もなかろう」
「だとしたら耄碌したな、引退してギルドマスターになって正解だ」
言い争いをしている2人の間に火花が散る。
頬を突いてるシロとミドリがにへぇーと笑い、仕返しと言わんばかりに俺の頬を掴んでくる。
倍返しかコヤツら。
「この若造が爪を拾って来たなら元の大人がまだ近辺にいるはすだ。国に報告しなければならない」
「耄碌したジジイには倒したって線は浮かばないんだな、私にはコイツの強さがヤバイほど伝わってくるぞ」
強さの認識って一定ラインを超えると感じなくなるんだよな。
と、なるとこの姉ちゃんはおっさんより強いってことか……?
だとしたら人間の中でも強い部類……だと思う。
「おい、少年」
「ん? 俺か?」
「そうだ。この爪、何処で手に入れた?」
「森の中だ」
間違ってはない。
ってかあの森アホみたいに広いんだな。
半径2000kmってやばいだろ。
「少年、家は何処にある?」
「もりのなか!」
「ん? お嬢ちゃんが答えてくれるのか。どっちの方向の森だい?」
「あっち!」
シロが来た方向の森を指差す。
方向がわかるのか、偉いぞ。
答えたお礼にシロを撫で回す。
「えへへー」
ミドリが羨ましそうな顔で見てるのでついでに撫でておこう。
「『魔の森』の住人か…」
「バカな!あそこに人族は住めないはずだ!」
「でもこの尋常じゃない魔力の濃度を見るとそれしか考えられない」
ん? 少し魔力が漏れてるか?
量が多すぎて完全に抑え込むのはキツイんだよな。
意図的に抑え込んでみるとするか。
「にーに……なんかくるしい」
「ぼくも……」
なんだと……?
この街に入ってから索敵は怠ってないし、2人には魔法反射と物理無効の魔法をかけている。
何かしらの攻撃ではないな。
まさか……魔力欠乏か?
森と比べたら空気中の魔力濃度が非常に薄い。
俺の近くに居たからシロとミドリは魔力欠乏にならずに済んでいたのか?
魔力なら余っているから2人を纏うように魔力で包んでみるか。
「らくになった! にーにのにおい!」
「いいにおい……」
「やっぱりそうか、良かった」
ふと周りを見ると俺を囲むように武器を持っている。
はて、何かしただろうか?
「少年……その魔力は何だ……?」
「あ? ここの魔力が薄くて2人が苦しいって言ったから応急処置だ。何か問題があったのか?」
「敵意は?」
「ない。素材の買い取りはまだか?」
そう、ここに来てから1時間位経つが素材の買い取りが終わらないのだ。
そこが1番の問題だと思う。
「あっはっは!これだけの殺意を向けられて眉ひとつ動かさないか!想定以上の強さだ!」
「死の危険を感じない殺意なんて警戒するだけ無駄だろ」
「若造がそうでもその2人はどうだろうか?」
その瞬間、臨戦態勢に入る。
滲み出る魔力によって髪が逆立つ。
「今なんて言った?」
おっさんが口をパクパクとさせている。
この程度の殺気で声も出なくなるのか、雑魚め。
「こちらの非礼は詫びよう。どうかその魔力と殺気を収めてくれないだろうか」
「この2人に手を出したらこの街を消す。覚えておけ」
そう言って臨戦態勢を解く。
シロとミドリは未だに俺の頬を突いてる。そんなに楽しいのか?
「残念だがジジイが気絶してしまったから素材の買い取りはできない」
「は?」
「ギルドでは…ってことだ。私が個人的に買うぶんには問題ない」
なるほど、そう言うことか。
正直な話、金になればどうでもいい。
「白金貨10枚でどうだ?」
「物価を知らん」
「一般的な家庭なら10年は遊んで暮らせる」
「売った」
よしっ! 金だ!
相場を知らないので買い叩かれても別にいい。
「じゃあ爪はもらってくね」
「ん? 全部で白金貨10じゃないのか?」
「はっ?」
口を開けてこちらを見る。
なるほど、開いた口が塞がらないというのはこう言うことか。
「この素材って…もしかして全部『魔の森』の魔物のか?」
「そうだ。その羽はクソみたいに規模のでかい魔法を使う鳥の羽だ」
「『死鳳凰』…!?」
そう呟いて気絶してしまった。
ここの人間はよく気絶するな。
まあいいや。
金はもらったので街に繰り出すとしよう。
「おかいもの…?」
「ああ、やっとだ」
「おなかへった!」
まずは腹ごしらえからだな。
美味しそうな匂いのする店に入ろう。
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