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ヒリキなぼくと授業参観と光岡
ツークールって、さ
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梅雨のど真ん中だけど、雨は降っていなかった。かなりむし暑い。空はどんよりとくもっていた。ジメジメしている。
おしゃべりマシンガン、光岡も今はだまったまま。二人で校門を出た。そういえば、女子と一緒に帰るなんて、人生初かも。
「佐伯くんのお父さん、変な感じだったね」と、光岡が、間をおいてから言った。
あの時は、ちらっと見ただけだから、怖そうな人という印象しかない。警察官っていうより、やくざって感じ。警察官に全然見えなかった。ぽつぽつと光岡が話し始めた。
「怖かった…。保健室の前でどなっていたの。胸ぐらをつかんで、『何やってるんだ。それでもおれの息子か』って。あれ、何なの? 子どもに暴力をふるう人を初めて見たよ。教頭先生も、最初手を出せずにいたら、他の先生もやってきて…」
光岡の声はふるえて、とまどっているようにも見えた。佐伯は暴力をふるわれているのか…。ぼんやりとした。でも、確信のような答えが頭の中のぼんやり浮かんだけど、それ以上考えるのをとりあえずやめた。
「いつも佐伯くんって、クールでかっこいいのに、全然違ってた。意外っていうか…」
淡々としていて、他人に踏みこまない。いや、踏みこませない。一匹オオカミという感じの佐伯…。
光岡は、ぼくの言葉を待っていたようだったが、何も言わなかった。言えなかったというのが正解かも。軽いはずのかばんが、不思議と重く感じた。
「渋谷くんが、佐伯くんと仲良くし始めた時、クラス中でびっくりしてたんだよ」
仲がいいのかな。そっか。自分自身も意外だったんだけど、まわりもそう見えたんだ。
「仲なんて、良くないよ。作文は教えたけど、さ。クラスで浮いていたから、単に目立っていただけなんじゃないかな」
「そう見えなかったけど。渋谷くんって、おれすごいから寄ってくんなオーラあるから」
ハブられて、どうしていいのかわからなくなって、誰とも話せなくなった単なる小心者なんです…。
「いや~、出崎から嫌われて、男子から総スカンをくらってただけ」
「嘘でしょ。だって、いつも堂々としてるじゃない」
背筋を曲げて、うつむいていたら、ますます状況は悪くなる。絶対イジメられる。イジメられたくなかっただけなんだ。
だから、できるだけ虚勢はっていただけなんですけど。他人からすると、そんなふうに見えるんだ。
「そうしないと、怖いもん」
自分で自分が言った言葉に驚いてしまった。そっか、ぼくは怖かったから、話さなくなったんだ。これが答えなんだ。
「へえ、そうなんだ。いい学校確定だから、公立小学校の生徒なんて目じゃないって感じだと思ってた。そうウワサしてたよ」
ウワサなんて、妬みとからかいと、あてずっぽの推理だけでできている。
クラスメイトは、ぼくを完全に無視しているんだと思ってた。なじめないのではなく、なじまなかっただけなのかな。
「渋谷くんや佐伯くんと話したがってる人、多いと思うけどなあ」
佐伯は、女子が話したいと思っているかもしれないけど…。ぼくはどうなのかな。それに…。
「出崎が目を光らせているから、無理じゃないかな」
孤立するようになったのは、出崎があちこち言いふらしていたからだ。
「出崎? え~、あいつ、そんなにクラスの中で権力ないって。芸人のギャグをマネしてるだけで面白くないし、言っていることとやっていること違うし。女子から、見かけだおしって言われてるんだよ。たぶん渋谷くんが普通に話すようになったら、けっこう人気が出るんじゃないかな。男子も話しかけたい子もけっこういるはず」
目が点になった。へっ、今まで自分がクラスで浮いていると思って、アクションを起こしてこなかったけど、そうじゃないのか。
「ただ渋谷くんの場合、勉強できるだろっていうのが、鼻につくって人もいるけどね。だから、私に勉強教えて。そうしたら、クラスの誤解をとくようにしてあげるから、ね」
光岡って、策士? 初めて気がついた。自分が思う自分と他人から見える自分は違うってことに。ヒリキで、勉強だけして、息苦しい世界にいる自分。けれど、クラスメイトから見ると、「頭いいだろ。関係ないね」オーラを出し、クールだと思われている。それが他人から見える自分なのだ。その差にくらくらした。差がありすぎだろ。
「勉強できるのに自慢しないし、いやなことをしたり、からかったりしないじゃない? 我関せずで。佐伯くんも同じ。二人ともイケメンだし、クールキャラで有名なんだよ、ツークールって言われてるの、知らない?」
光岡は、少しぼくの機嫌をとるように付け加えた。
イケメン? うそだろ。それに、そんなコンビ名は知らん。クールキャラって? クールじゃないぞ、自分は。勉強はちょっとできるかもしれないけど、それ以外は何もできない、単なる一小学生だ。佐伯とコンビに思われている? このごろ話すようになっただけで、実際、佐伯のことは何も知らない。似ているとすれば、他人に立ち入らせない部分があるくらいか。
勉強を教えるという返事は、とりあえず保留にしておいた。けど、きっとぼくは、勉強を教えるだろうな。だって、光岡、押しが強くて、ちょっと怖いんだもん。
校門を右に曲がって、2本目の角を左に行くと、古い5階建てのマンションが3棟並んでいる。ああここか。少し先に江村橋第2公園がある。小さい頃はここでよく遊んだ。
佐伯の家は、案外家から近いんだ。同じ学校だから、当たり前っちゃあ、当たり前だけど。
「ここ。佐伯くんの家は、たぶん2号棟の1階だと思う」
なぜそんなにくわしいんだ。お前はシャーロックホームズか。不審な目で見てみた。
「『家の場所を知ってる』って言ったら、佐伯くんを好きな子が『一緒に部屋も探してくれ』って、表札チェックに付き合ったことがあるの。彼、めちゃくちゃモテるんだよ」
と、あわてて言った。
知ってる。ぼくとは違って、スポーツができるイケメンは、最強だ。本当は少しヘタレな部分があるけど…。武士の情けだ。誰にも言わないでいてあげよう。
おしゃべりマシンガン、光岡も今はだまったまま。二人で校門を出た。そういえば、女子と一緒に帰るなんて、人生初かも。
「佐伯くんのお父さん、変な感じだったね」と、光岡が、間をおいてから言った。
あの時は、ちらっと見ただけだから、怖そうな人という印象しかない。警察官っていうより、やくざって感じ。警察官に全然見えなかった。ぽつぽつと光岡が話し始めた。
「怖かった…。保健室の前でどなっていたの。胸ぐらをつかんで、『何やってるんだ。それでもおれの息子か』って。あれ、何なの? 子どもに暴力をふるう人を初めて見たよ。教頭先生も、最初手を出せずにいたら、他の先生もやってきて…」
光岡の声はふるえて、とまどっているようにも見えた。佐伯は暴力をふるわれているのか…。ぼんやりとした。でも、確信のような答えが頭の中のぼんやり浮かんだけど、それ以上考えるのをとりあえずやめた。
「いつも佐伯くんって、クールでかっこいいのに、全然違ってた。意外っていうか…」
淡々としていて、他人に踏みこまない。いや、踏みこませない。一匹オオカミという感じの佐伯…。
光岡は、ぼくの言葉を待っていたようだったが、何も言わなかった。言えなかったというのが正解かも。軽いはずのかばんが、不思議と重く感じた。
「渋谷くんが、佐伯くんと仲良くし始めた時、クラス中でびっくりしてたんだよ」
仲がいいのかな。そっか。自分自身も意外だったんだけど、まわりもそう見えたんだ。
「仲なんて、良くないよ。作文は教えたけど、さ。クラスで浮いていたから、単に目立っていただけなんじゃないかな」
「そう見えなかったけど。渋谷くんって、おれすごいから寄ってくんなオーラあるから」
ハブられて、どうしていいのかわからなくなって、誰とも話せなくなった単なる小心者なんです…。
「いや~、出崎から嫌われて、男子から総スカンをくらってただけ」
「嘘でしょ。だって、いつも堂々としてるじゃない」
背筋を曲げて、うつむいていたら、ますます状況は悪くなる。絶対イジメられる。イジメられたくなかっただけなんだ。
だから、できるだけ虚勢はっていただけなんですけど。他人からすると、そんなふうに見えるんだ。
「そうしないと、怖いもん」
自分で自分が言った言葉に驚いてしまった。そっか、ぼくは怖かったから、話さなくなったんだ。これが答えなんだ。
「へえ、そうなんだ。いい学校確定だから、公立小学校の生徒なんて目じゃないって感じだと思ってた。そうウワサしてたよ」
ウワサなんて、妬みとからかいと、あてずっぽの推理だけでできている。
クラスメイトは、ぼくを完全に無視しているんだと思ってた。なじめないのではなく、なじまなかっただけなのかな。
「渋谷くんや佐伯くんと話したがってる人、多いと思うけどなあ」
佐伯は、女子が話したいと思っているかもしれないけど…。ぼくはどうなのかな。それに…。
「出崎が目を光らせているから、無理じゃないかな」
孤立するようになったのは、出崎があちこち言いふらしていたからだ。
「出崎? え~、あいつ、そんなにクラスの中で権力ないって。芸人のギャグをマネしてるだけで面白くないし、言っていることとやっていること違うし。女子から、見かけだおしって言われてるんだよ。たぶん渋谷くんが普通に話すようになったら、けっこう人気が出るんじゃないかな。男子も話しかけたい子もけっこういるはず」
目が点になった。へっ、今まで自分がクラスで浮いていると思って、アクションを起こしてこなかったけど、そうじゃないのか。
「ただ渋谷くんの場合、勉強できるだろっていうのが、鼻につくって人もいるけどね。だから、私に勉強教えて。そうしたら、クラスの誤解をとくようにしてあげるから、ね」
光岡って、策士? 初めて気がついた。自分が思う自分と他人から見える自分は違うってことに。ヒリキで、勉強だけして、息苦しい世界にいる自分。けれど、クラスメイトから見ると、「頭いいだろ。関係ないね」オーラを出し、クールだと思われている。それが他人から見える自分なのだ。その差にくらくらした。差がありすぎだろ。
「勉強できるのに自慢しないし、いやなことをしたり、からかったりしないじゃない? 我関せずで。佐伯くんも同じ。二人ともイケメンだし、クールキャラで有名なんだよ、ツークールって言われてるの、知らない?」
光岡は、少しぼくの機嫌をとるように付け加えた。
イケメン? うそだろ。それに、そんなコンビ名は知らん。クールキャラって? クールじゃないぞ、自分は。勉強はちょっとできるかもしれないけど、それ以外は何もできない、単なる一小学生だ。佐伯とコンビに思われている? このごろ話すようになっただけで、実際、佐伯のことは何も知らない。似ているとすれば、他人に立ち入らせない部分があるくらいか。
勉強を教えるという返事は、とりあえず保留にしておいた。けど、きっとぼくは、勉強を教えるだろうな。だって、光岡、押しが強くて、ちょっと怖いんだもん。
校門を右に曲がって、2本目の角を左に行くと、古い5階建てのマンションが3棟並んでいる。ああここか。少し先に江村橋第2公園がある。小さい頃はここでよく遊んだ。
佐伯の家は、案外家から近いんだ。同じ学校だから、当たり前っちゃあ、当たり前だけど。
「ここ。佐伯くんの家は、たぶん2号棟の1階だと思う」
なぜそんなにくわしいんだ。お前はシャーロックホームズか。不審な目で見てみた。
「『家の場所を知ってる』って言ったら、佐伯くんを好きな子が『一緒に部屋も探してくれ』って、表札チェックに付き合ったことがあるの。彼、めちゃくちゃモテるんだよ」
と、あわてて言った。
知ってる。ぼくとは違って、スポーツができるイケメンは、最強だ。本当は少しヘタレな部分があるけど…。武士の情けだ。誰にも言わないでいてあげよう。
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