四捨五入すれば……?

牧田紗矢乃

文字の大きさ
上 下
1 / 1

四捨五入すれば……?

しおりを挟む
「ワタシの目標はゼロキロになることなの!」

 そう豪語するのは目の前にいる小柄な少女、カノン。
 高校二年生でありながら身長は百四十センチ台後半と小柄ではあるが、目に見えて太っているという印象はない。
 それでいてダイエットをすると息巻いているのだから不思議な話だ。

「カノンは細いでしょ?」
「ううん、最近めっちゃ太ったんだから!!」

 そう言って制服のブラウスをぺろりと捲り上げる。
 それができちゃう時点で痩せてるのよ。
 腹筋こそ割れていないけど、お腹に肉がついているって感じでもないし。

 どちらかというと……――。
 私の視線に気づいたのか、カノンはバッと上半身を抱きすくめるような動きをした。

「カノン、また大きくなった?」

 私の問いかけに、カノンはむっとして口を尖らせる。

「好きででかくしてるわけじゃないもん」

 羨ましい。
 その一言に尽きる。

「見てよこの断崖絶壁! ちょっと分けて欲しいくらいなんだけど!!?」
「ワタシだってあげられるものならあげたいよ! 肩こるしー……」

 ぺたんと机に体重を預けるカノン。
 その姿勢になると余計に胸が強調される。

 羨ましいことに、カノンの胸は机に置けるサイズらしい。

「……で? ゼロキロを目指すってどういうこと?」

 私が尋ねると、カノンは不思議そうな顔をした。

「どういうこともなにも、そのまんまじゃない?
 いまのワタシって四捨五入すると百なわけよ。だから、四捨五入したらゼロになるまで減らしたいの」
「へ? もしかしてカノン、十の位で四捨五入してる?」
「むしろそれ以外になんかある?」

 さも当然のように言ってのけるカノンに返す言葉もなくなる。
 むしろ今までゼロだったのかな?
 それがすごいよ。

「ちなみに、目標まではあとどのくらい?」
「さんびゃく、ぐらむ」

 口ごもるほどの重さじゃないな?
 この贅沢娘めっ!
 カノンを睨みつける真似をした時、彼女はハッとしたように頭を上げた。

麻那まなちゃんのやり方なら五キロだ!」

 走ってくる! とでも言って飛び出して行ってしまいそうなカノンを押さえつけて、目の前にいちごみるくの飴をひとつ置いてみる。

「はっ!!!」

 目が輝き、光の速さで包みを開いて飴を口に放り込むカノン。
 左のほっぺがぷくりと膨らみ、幸せそうな笑顔が溢れる。
 この小動物的な可愛さがたまらないんだよなぁ。

「カノンさぁ、痩せなくてもいいと思うよ?」
「えぇ~?」
「だって、ダイエットするならこういうお菓子も食べれないし、放課後にみんなでアイス食べたりバーガー屋さん行ったりもできないよ?」
「うっ……」

 カノンの顔に明らかな迷いの色が浮かんだ。
 あと一押し! ……かな?

「学生のうちにダイエットするのは体にも良くないって言うしさ?」
「うぅん……そうだね。……あ、そうだ!」

 カノンは名案が思い浮かんだ、というような表情になった。

「みんながもっと太ればいいんだよ。そうすればあたしは相対的に痩せてるってことになるしさ? 体重偏差値三十くらいを目指せるんじゃない!?」

 満面の笑みでなんて恐ろしいことを……。
 てか体重偏差値って!?
 カノンの体重偏差値が三十になる頃には私たちは何キロまで太らされてるの!?

「……ごめん。私もダイエット頑張るからさ、一緒に目指そ? 四捨五入してゼロ」
「ふえ?」
「ほら、飴ぺっして。ダイエット、ダイエット!」

 私の切り替えについてこられないのか、カノンはまだ目を白黒させている。

「とりあえず、もう授業が始まるから席戻るね。次の数学の時間は足をちょっと浮かせて腹筋を鍛えながら授業を受けようかな」
「ねえ、ちょっと! 急にどうしたの!?
 ねえ麻那、ねえってばぁ!!」

 泣きそうな声を上げるカノンを置き去りにして、私は腹筋に力を入れながら自分の席に着いた。
 さあ、先にゼロになるのはどっちかな?
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

苺と彼とあたし

江上蒼羽
青春
お気に入りのジュースとお気に入りの彼の横顔。 女子高生の甘酸っぱい片思いを、ふと思い付いて書いてみました。 短編です。 仕上がりは雑です…(^^;) ハッピーエンドが好きな方にはオススメ出来ません。 暇つぶしにドウゾ H24.8/23 作成 H31.3/20~公開

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夏海の青春

水無瀬 桜
青春
黒い髪に眼鏡の女子高生 荘野夏海はかかりつけの精神科医からの紹介状を持ち、帝都医大 精神科へ そこでの出会いから夏海自身、精神科医を目指すことになる。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

empathy

hana4
青春
超共感体質の私は、朝起きると同じクラスの「佐伯涼君」と『同期』していた……

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

思春期ではすまない変化

こしょ
青春
TS女体化現代青春です。恋愛要素はありません。 自分の身体が一気に別人、モデルかというような美女になってしまった中学生男子が、どうやれば元のような中学男子的生活を送り自分を守ることができるのだろうかっていう話です。 落ちがあっさりすぎるとかお褒めの言葉とかあったら教えて下さい嬉しいのですっごく 初めて挑戦してみます。pixivやカクヨムなどにも投稿しています。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...