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軍事編

第19話 side イレーナ2

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最近私はつくづく思う。

私では、どんなに頑張ってもレオルドには勝てないと。



サラージア王国、トリアス教国の連合軍からの侵攻。噂では聞いていたが、まさか本当に攻めてくるとは思わなかった。



だが、ハーンブルク親子は既に予想し、対策を立てていた。

親の方はわかる、エリナ・フォン・ハーンブルク、女傑と呼ばれる彼女の実力は本物だ。だが、息子であるレオルド・フォン・ハーンブルクがこれほどまでに有能で頭が回る人物だとは思わなかった。

そして、探してみればみるほど、彼の凄さがよくわかる。新兵器や新戦術の開拓から経済政策や人口増加政策まで、幅広い分野で彼は活躍した。

税収の倍増や領民の財産の倍増、人口の爆発的な増加など、彼の功績を挙げたらキリがない。

そして、何より凄い点は、その演算力だ。一度、頭の中を覗いてみたいと思うような正確さと速さを兼ね備えた彼の演算能力は、ハーンブルク領に勤める文官全員が合わさっても敵わないだろう。



今回の戦争でも彼はその才能の片鱗をみせた。

戦争が始まる1ヶ月ほど前、私はハーンブルク軍だけで行われた軍議に出席する許可を得たので参加する事にした。

すると、開口1番に、彼はこういった。



「これが、敵の予想進路と予想野営地、予想兵装だ。注目すべきはやはり、敵の食糧事情だな。想定よりもずっと少ない事が予想される。」



彼の用意した地図には、既に味方の防衛ラインなども書いてあった。

私には最初、防衛ラインという考え方も理解できなかったが、彼に説明してもらったため今ならよくわかる。



戦闘地帯はおそらく森の中。森に入り、敵の兵力が分散したところを、新兵器で壊滅させる算段なのだろう。



「だから俺たちは本陣をこの辺、仮拠点をここに構える。そしてここで持久戦だ。」



「作戦はわかりました。ですが、国防軍の連中はどうするのでしょうか?」



「この前にも伝えたが、ゲリラ戦は訓練しないと絶対にできない。だから、彼らには別の仕事をしてもらうつもりだ。」



「と、言いますと・・・・・・」



「敵の背後で好き勝手に暴れてもらう。ハーンブルク軍数千と国防軍1万を各地に分散させながら侵略を行う。国防軍にはサラージア王国内の拠点をいくつか落としてもらい、ハーンブルク軍の方には今後必要になるであろう資源地帯と港を占領してもらう。」



「なるほど、完全に先手を撃ち続ける作戦ですか。確かに勝算は十分ですな。」



シェリングさんに言われて、私もやっと理解できた。まだ実際に戦場を経験した事がない私では、細かい戦術的な事はわからないが、レオルドがやろうとしていた事は理解できた。



だが、やはり心配であった。

彼が示した侵攻の範囲は、サラージア王国のおよそ3分の1、これはハーンブルク領よりも広い。それだけの範囲をたったの1万数千で侵攻できるのかと・・・・・・



だけど・・・・・・




「イレーナ様、予定通り『ジオルターン』が陥落致しました。この地を管理する商人達が話し合いの場を設けたいと言っております。」



「そう、なら直ちに戦闘行為を停止させ、講和会議の席を設けて下さい。」



「はっ!」



イレーナを副リーダーとしたハーンブルク軍の別働隊800名は、サラージア王国最大の港である『ジオルターン』を落とした。

レオルドの母、エリナとともにシュヴェリーンへと帰還したイレーナは、レオルドの指示通りに待機させてあった黒船2隻と800名の戦略予備とともにシュヴェリーンを出発した。



そして、そのまま『ジオルターン』に強襲上陸。

敵はまさかこんな奥地を攻められるとは思っておらず、守備隊はとても少なかった。

敵は、巨大な船である黒船や見たこともない新兵器に翻弄され、まともな戦闘を行わずに降伏した。



『ジオルターン』以外にも、ハーンブルク家の家臣の1人、レズナック率いる別働隊がハーンブルク領から比較的近い位置にある港を3つ、また別の家臣が率いる別働隊の第2軍は4つの資源地帯を占領する事に成功した。



それぞれは、予定通りその土地を永久にハーンブルク家の領地にするために、統制を行った。




そして、レオルドの父、ジルバード率いる国防軍と国防軍の中で唯一ハーンブルク軍に留まる選択をしたシャーブル率いる国防軍は、それぞれ戦場周辺の拠点をいくつも落とした。

多少の守備隊はいたものの、破竹の勢いで連戦戦勝し、支配領域を拡大していった。



ちなみに、国防軍の目的は敵の撹乱であり、占領ではないため、特に整備などはせずに突き進む。

攻撃目標は全て、事前にレオルドに指定されていた。レオルドの目標はサラージア王国内に傀儡政権を樹立させ、裏から支配する事だ。その際に邪魔になりそうな勢力を優先して滅ぼし、平民派の貴族達の拠点は素通りした。




そして実は、ハーンブルクとサラージア王国の国境付近にはわずか4000名ほどの兵士しかいない状態になっていた。

例え講和条約を蹴られ、攻撃されても国境を死守できる最低限の兵力のみを残し、それ以外は全て命令通りにサラージア王国への逆侵攻を行わせた。



レオルドは、ハーンブルク軍の消費は最小限に抑えたいと考えていたが、国防軍は最大限に生かしたいと考えていたからだ。





「それにしてもなんだか可哀想ね、自分たちが攻めていたはずが、いつの間にか自国内の奥の方まで攻め込まれ、最初から最後までレオルドの手のひらの上だなんて。」



イレーナが、思わず同情してしまいそうになるほどサラージア王国は弱体化していた。

そして考える、サラージア王国は果たしてどこで間違えてしまったのだろうか。

戦争を起こした時から?内乱の危機を生み出してから?いや違う、もしかしたらレオルド・フォン・ハーンブルクという存在がこの世に誕生した時からかもしれない。



「あーあ、どうしてレオルドの婚約者は、私じゃなくてヘレナなのかなー」



宰相の娘と王族、普段なら圧倒的な差がつく存在、嫉妬せずにはいられなかった。




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どうでもいい話



楽しんでいただけると嬉しいです
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