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第二章 動き出す

失敗を足掛けにして

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持ってきた鳥を見てザラキが驚いていた。

それもそうだろう。なんせ、一番上にいたリーダー的なやつを仕留めてしまったんだから。
ザラキは誉めようとしたのだろう。でもオレの浮かない顔をしているのを見て口を閉ざした。

「どうした?あまり嬉しそうじゃないな」

「これ、紛れ当たりで仕留めたやつなんです」

正直に話した。
狙って仕留めたものではなく、汗で滑り、なんのタイミングも計らず飛んでいった矢が奇跡的に上まで真っ直ぐに飛んで、偶然通り掛かった鳥の急所を貫いただけである。と。

「実力ではありません。だから、なんか悔しいんです」

「…そうか」

オレの話を静かに聞いていたザラキが肩に手を置く。

「ちなみにその時の感覚は覚えているか?」

「え」

「矢を手から離したときの感覚。矢が弓を滑り、解き放たれる感覚。力の抜け具合。姿勢。どうだ?覚えているか?」

「お、覚えています」

あの時は汗で滑って、タイミングも計れず、なんの準備も出来ないまま矢が飛んでいった。
姿勢は良かったと思う。矢の滑っていくのも、解き放たれる感覚も、今思えば凄く良かった。
力は全く入っていなかったように思う。なんせ、疲れていたし、あっと思った時には矢は飛んでいっていたから、完全に無防備な状態でどこも力を入れられていなかった。

「じゃあ、飛んでいった矢は最後までちゃんと見てたか?振れ方や音まで感じながら観察したか?」

「はい。間違って放ったから失敗すると思ったので、せめてどんな風に揺れて落ちるかを見ていようとしたんですけど。矢は風の流れの隙間を縫って、真っ直ぐに飛んでいきました。振れは小さく、風の粒子にもそこまでぶつかっていなかったような…」

そういえば、あの矢は見えた風の影響が殆ど無かったようにも見えた。例えるならば、透明の細長い布と布の間を綺麗に通過したような感じだった。

ポンと頭の上にザラキの手が乗る、そしてグリグリと乱暴に髪を乱された。

「そこまで見てたなら上等!!その感覚を覚えていろよ、しっかり記憶していたなら明日は更に上手く矢が真っ直ぐ飛んで、今度こそ実力で猟れるはずだ!!」

にっと歯を出して笑顔を浮かべたザラキ。
唖然としたオレの頭から手が離れ、紛れ当たりの鳥をオレの手から受け取った。

「さぁ、早く食事の支度をしよう!お前の言う風の粒子とやらが見えたのなら、今夜こそ純粋の魔力を見付けられるかもな!」

「はい!」







鳥を三羽使った贅沢な食事を済ませ、オレ達は再び山を登った。昨日とは違う険しい方の道だが、今日の山式シャトルランで何度も駆け上がった道だから暗くても楽に進めた。

『ふぃー、まんぷくだぜ。こんだけ食べれば山の上でも今日はイケそうなきがする』

「昨日みたいな勢いで縮んだら、今夜中に黒豆と化すもんな、お前」

『お前こそ今夜なにも見えなかったら岩の上にあるコケとおなじだからな』

「おい、下の二人。崖登ってるときは口を閉じてないと舌を噛んでも知らんぞ」

「すんません」

『へーい』


山頂につき、昨日はあまりのしんどさに見上げられなかった空を眺める。一面ラメを散らしたかのような素晴らしい星空が広がり、ずっと眺めていると重力が消えていくような錯覚に囚われる。

「昨日よりはマシか?」

「なんでか呼吸が少しだけ楽です」

息切れはするが、頭は痛くない。

「ネコは?」

『呼吸はマシ。呼吸だけマシ。体は辛い』

「呼吸だけマシと言ってます」

「よし、いい感じに慣れてきてるな。さて、修行を始めようか!」

ネコは岩の横でボヤけ始めた体を必死に呼吸して留め、オレは岩の上でゆっくり長く呼吸をして体の力を抜いた。

コツは心を空にして、自然と同調しようとする事。

そうすることによって、魔力の波長を合わせる。

ザラキ曰く、魔力には属性によって波長が違い、近い波長を持つものに集まる傾向がある。
例えば神聖属性は心を落ち着かせた状態の時に集まりやすく、混沌属性は心が荒れた状態の時に集まりやすい。

他の属性なんかも同じで、その土地の環境、考え方、より触れ合う物によって得意とする属性が決まる。例えばの話。オレの場合は常に生活に電気や電波に溢れた所で育ったために電撃属性になったらしい。確かに日本において電気と駆け離れた所なんてほぼ無いに等しいもんな。

そんなわけで、色のない、均衡のとれた純粋の魔力をこの山頂で見るためには、出来るだけ静かな心を保ち、同調させて集めるしかないのだ。

「………」

そうして、時間もわからず待ち続け。





「…おはようございます。朝です…」






朝が来た。
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