106 / 152
第二章 動き出す
失敗を足掛けにして
しおりを挟む
持ってきた鳥を見てザラキが驚いていた。
それもそうだろう。なんせ、一番上にいたリーダー的なやつを仕留めてしまったんだから。
ザラキは誉めようとしたのだろう。でもオレの浮かない顔をしているのを見て口を閉ざした。
「どうした?あまり嬉しそうじゃないな」
「これ、紛れ当たりで仕留めたやつなんです」
正直に話した。
狙って仕留めたものではなく、汗で滑り、なんのタイミングも計らず飛んでいった矢が奇跡的に上まで真っ直ぐに飛んで、偶然通り掛かった鳥の急所を貫いただけである。と。
「実力ではありません。だから、なんか悔しいんです」
「…そうか」
オレの話を静かに聞いていたザラキが肩に手を置く。
「ちなみにその時の感覚は覚えているか?」
「え」
「矢を手から離したときの感覚。矢が弓を滑り、解き放たれる感覚。力の抜け具合。姿勢。どうだ?覚えているか?」
「お、覚えています」
あの時は汗で滑って、タイミングも計れず、なんの準備も出来ないまま矢が飛んでいった。
姿勢は良かったと思う。矢の滑っていくのも、解き放たれる感覚も、今思えば凄く良かった。
力は全く入っていなかったように思う。なんせ、疲れていたし、あっと思った時には矢は飛んでいっていたから、完全に無防備な状態でどこも力を入れられていなかった。
「じゃあ、飛んでいった矢は最後までちゃんと見てたか?振れ方や音まで感じながら観察したか?」
「はい。間違って放ったから失敗すると思ったので、せめてどんな風に揺れて落ちるかを見ていようとしたんですけど。矢は風の流れの隙間を縫って、真っ直ぐに飛んでいきました。振れは小さく、風の粒子にもそこまでぶつかっていなかったような…」
そういえば、あの矢は見えた風の影響が殆ど無かったようにも見えた。例えるならば、透明の細長い布と布の間を綺麗に通過したような感じだった。
ポンと頭の上にザラキの手が乗る、そしてグリグリと乱暴に髪を乱された。
「そこまで見てたなら上等!!その感覚を覚えていろよ、しっかり記憶していたなら明日は更に上手く矢が真っ直ぐ飛んで、今度こそ実力で猟れるはずだ!!」
にっと歯を出して笑顔を浮かべたザラキ。
唖然としたオレの頭から手が離れ、紛れ当たりの鳥をオレの手から受け取った。
「さぁ、早く食事の支度をしよう!お前の言う風の粒子とやらが見えたのなら、今夜こそ純粋の魔力を見付けられるかもな!」
「はい!」
鳥を三羽使った贅沢な食事を済ませ、オレ達は再び山を登った。昨日とは違う険しい方の道だが、今日の山式シャトルランで何度も駆け上がった道だから暗くても楽に進めた。
『ふぃー、まんぷくだぜ。こんだけ食べれば山の上でも今日はイケそうなきがする』
「昨日みたいな勢いで縮んだら、今夜中に黒豆と化すもんな、お前」
『お前こそ今夜なにも見えなかったら岩の上にあるコケとおなじだからな』
「おい、下の二人。崖登ってるときは口を閉じてないと舌を噛んでも知らんぞ」
「すんません」
『へーい』
山頂につき、昨日はあまりのしんどさに見上げられなかった空を眺める。一面ラメを散らしたかのような素晴らしい星空が広がり、ずっと眺めていると重力が消えていくような錯覚に囚われる。
「昨日よりはマシか?」
「なんでか呼吸が少しだけ楽です」
息切れはするが、頭は痛くない。
「ネコは?」
『呼吸はマシ。呼吸だけマシ。体は辛い』
「呼吸だけマシと言ってます」
「よし、いい感じに慣れてきてるな。さて、修行を始めようか!」
ネコは岩の横でボヤけ始めた体を必死に呼吸して留め、オレは岩の上でゆっくり長く呼吸をして体の力を抜いた。
コツは心を空にして、自然と同調しようとする事。
そうすることによって、魔力の波長を合わせる。
ザラキ曰く、魔力には属性によって波長が違い、近い波長を持つものに集まる傾向がある。
例えば神聖属性は心を落ち着かせた状態の時に集まりやすく、混沌属性は心が荒れた状態の時に集まりやすい。
他の属性なんかも同じで、その土地の環境、考え方、より触れ合う物によって得意とする属性が決まる。例えばの話。オレの場合は常に生活に電気や電波に溢れた所で育ったために電撃属性になったらしい。確かに日本において電気と駆け離れた所なんてほぼ無いに等しいもんな。
そんなわけで、色のない、均衡のとれた純粋の魔力をこの山頂で見るためには、出来るだけ静かな心を保ち、同調させて集めるしかないのだ。
「………」
そうして、時間もわからず待ち続け。
「…おはようございます。朝です…」
朝が来た。
それもそうだろう。なんせ、一番上にいたリーダー的なやつを仕留めてしまったんだから。
ザラキは誉めようとしたのだろう。でもオレの浮かない顔をしているのを見て口を閉ざした。
「どうした?あまり嬉しそうじゃないな」
「これ、紛れ当たりで仕留めたやつなんです」
正直に話した。
狙って仕留めたものではなく、汗で滑り、なんのタイミングも計らず飛んでいった矢が奇跡的に上まで真っ直ぐに飛んで、偶然通り掛かった鳥の急所を貫いただけである。と。
「実力ではありません。だから、なんか悔しいんです」
「…そうか」
オレの話を静かに聞いていたザラキが肩に手を置く。
「ちなみにその時の感覚は覚えているか?」
「え」
「矢を手から離したときの感覚。矢が弓を滑り、解き放たれる感覚。力の抜け具合。姿勢。どうだ?覚えているか?」
「お、覚えています」
あの時は汗で滑って、タイミングも計れず、なんの準備も出来ないまま矢が飛んでいった。
姿勢は良かったと思う。矢の滑っていくのも、解き放たれる感覚も、今思えば凄く良かった。
力は全く入っていなかったように思う。なんせ、疲れていたし、あっと思った時には矢は飛んでいっていたから、完全に無防備な状態でどこも力を入れられていなかった。
「じゃあ、飛んでいった矢は最後までちゃんと見てたか?振れ方や音まで感じながら観察したか?」
「はい。間違って放ったから失敗すると思ったので、せめてどんな風に揺れて落ちるかを見ていようとしたんですけど。矢は風の流れの隙間を縫って、真っ直ぐに飛んでいきました。振れは小さく、風の粒子にもそこまでぶつかっていなかったような…」
そういえば、あの矢は見えた風の影響が殆ど無かったようにも見えた。例えるならば、透明の細長い布と布の間を綺麗に通過したような感じだった。
ポンと頭の上にザラキの手が乗る、そしてグリグリと乱暴に髪を乱された。
「そこまで見てたなら上等!!その感覚を覚えていろよ、しっかり記憶していたなら明日は更に上手く矢が真っ直ぐ飛んで、今度こそ実力で猟れるはずだ!!」
にっと歯を出して笑顔を浮かべたザラキ。
唖然としたオレの頭から手が離れ、紛れ当たりの鳥をオレの手から受け取った。
「さぁ、早く食事の支度をしよう!お前の言う風の粒子とやらが見えたのなら、今夜こそ純粋の魔力を見付けられるかもな!」
「はい!」
鳥を三羽使った贅沢な食事を済ませ、オレ達は再び山を登った。昨日とは違う険しい方の道だが、今日の山式シャトルランで何度も駆け上がった道だから暗くても楽に進めた。
『ふぃー、まんぷくだぜ。こんだけ食べれば山の上でも今日はイケそうなきがする』
「昨日みたいな勢いで縮んだら、今夜中に黒豆と化すもんな、お前」
『お前こそ今夜なにも見えなかったら岩の上にあるコケとおなじだからな』
「おい、下の二人。崖登ってるときは口を閉じてないと舌を噛んでも知らんぞ」
「すんません」
『へーい』
山頂につき、昨日はあまりのしんどさに見上げられなかった空を眺める。一面ラメを散らしたかのような素晴らしい星空が広がり、ずっと眺めていると重力が消えていくような錯覚に囚われる。
「昨日よりはマシか?」
「なんでか呼吸が少しだけ楽です」
息切れはするが、頭は痛くない。
「ネコは?」
『呼吸はマシ。呼吸だけマシ。体は辛い』
「呼吸だけマシと言ってます」
「よし、いい感じに慣れてきてるな。さて、修行を始めようか!」
ネコは岩の横でボヤけ始めた体を必死に呼吸して留め、オレは岩の上でゆっくり長く呼吸をして体の力を抜いた。
コツは心を空にして、自然と同調しようとする事。
そうすることによって、魔力の波長を合わせる。
ザラキ曰く、魔力には属性によって波長が違い、近い波長を持つものに集まる傾向がある。
例えば神聖属性は心を落ち着かせた状態の時に集まりやすく、混沌属性は心が荒れた状態の時に集まりやすい。
他の属性なんかも同じで、その土地の環境、考え方、より触れ合う物によって得意とする属性が決まる。例えばの話。オレの場合は常に生活に電気や電波に溢れた所で育ったために電撃属性になったらしい。確かに日本において電気と駆け離れた所なんてほぼ無いに等しいもんな。
そんなわけで、色のない、均衡のとれた純粋の魔力をこの山頂で見るためには、出来るだけ静かな心を保ち、同調させて集めるしかないのだ。
「………」
そうして、時間もわからず待ち続け。
「…おはようございます。朝です…」
朝が来た。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる