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第二章 動き出す

風を読む

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まずは一発。

ホールデンでの訓練で習った通りにつがえ、上に向けて普通に放つ。

矢はしばらくまっすぐとんだ後、すぐに大きく左右に振られ、右に曲がりながら落ちていった。

『へたくそ』

「うるさい。練習だ、練習」

今度はさっきの軌道を踏まえて調整をしてから射る。そしたら左に曲がって森に落ちていった。

「……あれ?風だけでこんなに曲がるもんか?」

もう一発強めに射つと今度は結構まっすぐ飛んだと思ったら山の方に流されて鳥の旋回している横を素通りしていった。

「…………」

オレがヘタクソになったのかと思って近くの木の幹に向かって射つと、ど真ん中とはいかなかったがちゃんと幹に刺さった。
良かった。オレがノーコンって訳じゃなかった。

「風の影響ってすげーな」

普通に射ったんじゃ当たらない。

「どうだ?」

「ザラキさん」

森からザラキが鳥二羽を持って戻ってきた。矢は鳥の急所を一撃で貫いている。

「いやー、もう全然です。凄い曲がります」

「はっはっは!そりゃあ普通に射ったんじゃな。じゃあ次はどうする」

今度は斜めに射ってみた。すると矢はある地点で速度をあげて山の方に向きを変え、左寄りに緩くカーブした。

「んー?」

「どうした?」

「なんか、ちょっと分かりそうな…」

そんな気がする。

「頑張れよ、それより早くしねーと日が暮れるぞ」

言われて気付く。辺りがオレンジに染まりつつあった。やべえ、急がないと。

ザラキは家に入り、ネコがじっと空を見ている。同じようにしばらく鳥を観察していると、あることに気付いた。

「…あ」

鳥達の旋回の仕方が違う。
下の方は左に、真ん中は左右に、上のは右に。

鳥達は高度によって飛んでいく方向が違う。方向を変える時、鳥は体を斜めにしてうまく風を利用したり、翼の大きいものは高度を変えたりしている。

そういえばザラキの矢はあまり振られなかったな。振られても軽くだった。

もう一度空を見ながら、今度はザラキの助言を思い出してみる。純粋の魔力を見るつもりで。
ゆっくり呼吸をしながら集中して空を見る。すると、一瞬不思議なものが見えた。

流れのようなものというか、細かい半透明の泡に似た物質が空を物凄い早さで飛んでいた。
それは場所や高さによって早さを変え、うねり、渦を巻いている。
見たことのないものにビックリした瞬間、その風景は掻き消えた。

「も、もう一回…っ!」

ワンモワ、ワンモワ!!
と必死に唱えつつ、昨日のザラキから教わった純粋の魔力を見やすくする呼吸法を行う。
ゆっくり息を吐き出しなから集中力を上げ、空を見る。先程の風景が通常の風景に重なり現れた。油断すると見失うほど薄いが…。

「まさか、風を読む(物理)とは思わなかった…。てか、これ疲れる。あ、やばい待って待って」

消えた。

「ふうーっ!!ちょー、もうキツいなこれ!!でも何となくわかったぞ、よし、もう一回!!」

今度は矢を番えながら、集中する。

風の流れが見えた瞬間、矢を上に向け鳥の位置を確認。鳥までの流れの違う層は3つ。鳥は上の二つの層の間を旋回しながら体力を温存しているらしい。

「ふっ、ふーっ」

頬を汗が伝う。目が痛い、頭がガンガンしてくる。
風の向きを確認し、頭のなかで矢の軌道をイメージ、鳥に当たるタイミングを見計らい矢を射った。

カンッ。

矢はほぼイメージに近い軌道を描く、しかし少し鳥のタイミングがズレて鳥の去った後を通過した。

「くそっ、もう少し」

『おい、いくつかのトリが気づいてこっち見てるぞ』

「わかってるっ!」

色々時間がない。
集中力が切れる前にもう一度矢を番え、タイミングを計ろうとした時。

「あ」

緊張で出た手汗で滑り、矢が飛んでいった。

失敗したと思った。
だが、矢は風の流れの僅かな隙間を縫ってほぼ真っ直ぐに飛翔し、一番上にいた大きい鳥に命中した。

「へ?」

目の前に落ちてきた鳥。矢は鳥の急所を貫いていた。

『らっきーだな』

「………おう」

何とも言えない気持ちでその鳥を回収した。

日が落ち、ピーヤピーヤと鳥達が向きの変わった風に乗って矢の届かない遥か上空へと上昇していき、雲に紛れて消えた。

紛れ当たりで得た大物。
ネコは喜んでいたが、オレは悔しい気持ちでいっぱいだった。

(明日はちゃんと実力で獲ってやる!!)
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