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第二章 動き出す

思い出した

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次の相手はなんだかビラビラした膜がたくさんついている約三メートル程はある大蠍オオサソリ

それでも渡された武器は短剣のみで、刺されたらとんでもなく気持ちの悪くなる毒付きの尻尾を振り回し、鋏で手足をちょんぎろうとするソイツを頑張って、それこそ蠍の体をよじ登り地道に関節の隙間を攻撃して攻撃して攻撃しまくって何とか勝った。

勿論体は傷だらけの血塗れだし、勝った安心感からか気が抜けて、毒の気持ち悪さが発症してその場で嘔吐したりしたが、今回ようやく決闘場ーといっていいのかは分からないがーを観察することが出来た。

円形の会場の壁は頑丈な鉄製で、ある程度の高さからフェンスの様なものに変わっている。その奥に人がわんさかとこちらを見ながらゲラゲラと笑っていたり怒鳴り付けていたりしていた。ただ、その人達の格好が天井の明るすぎる光のせいで確認できなかったのが残念である。

「あの化け物と戦わせて賭けでもしてんですか?」

血糊を落とす為に鎖で繋がれているオレを奴隷姿の子供がせっせと水を頭から被せ体を擦っている。それを監視している人に訊いてみた。

「だったらどうした?」

「いや確認だけです」

「あいつらはお前が食われる方に賭けてたからな、当てが外れてお陰でこっちは大儲けだ」

「そーすか」

監視の人がとても嬉しそうな顔をしているので相当儲かったのだろう、良いことだ。
いや、良くない。こっちに利益は全く来ないしそもそもなんか良くわからなくなってきているな。そうだ、なんかめんどくさくなって考えないようにしてたけど、そろそろ此処から脱出したい。

(今カリアさん達何処にいるんだろうなー)

適当に拭かれ、乾いている服を着せられながらふとそう思う。ていうか、本当に助けに来てくれているのかも怪しく思い始めている。

もし、猫がカリアさん達と合流できていなかったら、と。そんな悪い考えがよぎるのだ。

「ライハくん。ライハくん。今日の肉(マヌムン)なんだった?」

自分の檻に戻ると、ダンが檻にしがみつきながら訊いてくる。
この人はいつも元気だ。こんな状態なのに。

「なんか、ビラビラがついた大蠍でしたよ。めっちゃ刺されました」

「え!大丈夫なのかい?毒とかは?」

「刺されると気持ち悪くなったんですけど、吐いたらスッキリしたので大丈夫です」

「うーん、何て言うか、君あれだね。見た目よりも頑丈なんだね!」

「ほんと、この体には感謝してますわ」

主に意味の分からない回復能力に、だが。

「蠍って、美味いんですかね」

「うーん、俺もあんまり食べないからなぁ。海老みたいな味はしそうだよな」

「そうですね」

今は取り合えず生き残る事だけを考えよう。










そうして、寝て起きて戦って食って寝てを繰り返す生活が始まって、ちょっとした頃だろうか。

同じ夢を見るようになった。

森の中を茂みを掻き分けながら進んでいく。ときたま木によじ登って遠くを眺め、獲物を見付ければ襲い掛かって喰い漁る。

オレは人の姿ではなく、何かの獣の姿で、今と同じような生活をしていた。違うところといえば、枷がなく閉じ込められていない所か。

夢の最後は決まって自分よりも大きい体をした化け物と戦い、傷だらけになりながらもソイツをバラバラに引き裂く。


そして、何故かシンゴがオレに向かって大剣を笑いながら振り下ろす場面だった。




「………なんでシンゴ」



起きてから毎回この台詞を言っている気がする。本当に意味が分からないのだ。関連性がないだろ。

「んー?」

でも夢のシンゴを思い出そうとすると決まって剣ではなく箱をこちらに向かって突き出している姿が出てくる。
一体あれは何なのだろう。
夢の中では喋っているらしい声が何故か聴こえないからなんなのかも分からない。

「何うーうー唸っているのだ?腹でも減っているのか?」

「お腹は空いているけど。何か変な夢を見ているんですよ、人じゃなくて動物のオレが何故か知り合いに刺される夢。でも思い出そうとすると一部違う感じで出てくる」

「動物かぁ、動物…。前世の記憶でも見てるんじゃねーか?それにいくつかの記憶が混ざってて、思い出そうとすると違和感で記憶が修正されるとか」

「そうなんですかねぇ?」

「知らんけど。後は思い出したくない記憶が夢の中で出てきているとかな」

「思い出したくない記憶」

そういえば、マテラに辿り着くまでの記憶がないが、もしかしてそれに関係があるのか。
寝転がりながら一つずつ、初めてルツァを退治した日の事を思い出す。

「確か、帰る途中…、そうだスイさんが煙の臭いがすると言って、ユイさんと行ってしまったんだ。それから…」

軽い頭痛と共にシンゴと森の奥に向かう光景が流れる。

「…話しがあるとか、そんな感じで森の奥へ付いていった」

そこからはスルスルと絡まった糸がほどけていくように記憶が次々にと甦っていった。
記憶の中のシンゴと言い争いをし、箱を向けられる。とある言葉を言われ、オレは…。



「う…っ、おえ!」

「え!ちょっと大丈夫か!?」



思わず吐きそうになってしまった。

あの時の痛みと苦しみは耐えられない程で、すぐに意識を飛ばしたのだった。だが、その意識を飛ばす瞬間、カチンと何かのスイッチが切り替わったように体の感覚が全て変わったのを覚えている。

意識は飛んでいなかった。

いや、切り替わったと言うべきか。

体から何かがオレの代わりに起き上がり、意識はそこに移動する。オレは地面に前肢を着き、目の前にいる生き物の武器を根元から切り落とした。

鳴き声を上げるソレを尾で薙ぎ払い、逃げ出したソレを獲物として追い掛けた。体内にあった熱の塊を放てば、獲物はあっさりと仕留められた。

体が異様に軽かった。
頭はぼんやりしていたが、大した問題ではない。

「ライハ!」
「だめウコヨ!呑まれてる!」

そして、また違う生き物が来て、なんだか同類の感覚がしたから倒そうとした。だけど、そいつらの方が強くて、黒色のものに呑み込まれた。

水の中にいるような浮遊感、様々な流れがあって、その中の一つに捕まってまた呑まれて。
夢の中の森の中に横たわっていた。

そこからは夢のまま、あてもなくさ迷い、獲物を狩っては喰い漁り生き延びた。

「ひっ!黒い化けもんだ!!」

そういえば、森に二本足の生き物がいたな。
あれは人間だったのか。

満腹だったから見逃したが、よかった。じゃなかったら、食っているところだった。
そこからは森の主だったのと何度か衝突し、最終的には勝ったけど。こっちも酷い怪我を負って、動けなくなっていた。

流石にもうダメだと思っていたら、体のスイッチがまた切り替わり、体が二つに裂けた感覚がして。





「気付いたらカリアさん達に拾われていた…と。うん、意味わかんない」

突っ込みどころ満載過ぎて何一つとして謎が解決しなかったのは予想外だった。あの箱も何なのか分かんないし。

「ん?いやまてよ?あの箱を向けられてオレは変になったんだよな」

詠唱は覚えてないが、その前にシンゴがオレに向かって魔物だとか悪魔だとか言っていたのを思い出した。今でもムカつくな。
もしかしてあの箱が原因なんじゃないのか?もしやあの箱は人を動物に変える魔法具だった可能性もある。

そして剣を向けていた事から推測するに、もしやあの野郎、動物に変えたオレを殺そうとしていたんじゃないのか!?

「あ、これあれだわ。ホールデン戻る理由無くなったわ」

今までずっとホールデンに戻らなきゃという思いがあった。だが、その思いは消えた。それはもう綺麗さっぱりに。

「スッキリしたらなんか眠くなってきたので、もう一回寝ます」

「おお、そりゃー良かった」

こうしてオレは記憶を取り戻し清々しい気分で眠ることが出来るようになったのだった。
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