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第二章 動き出す

陽気な隣人

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「夢かと思ったら夢じゃなかった」

目が覚めたらどっかの独房に移動させられていた。
薄暗い中見渡すとコンクリートのような壁に、ポットン便所(木製の蓋付き)、そして水桶。

何かの天罰なんだろうか。それとも今までがイージーモードだったからだろうか。落差か、落差なのか。

「もうやだ、家に帰りたい」

勿論日本のである。

寝かされているムシロの上をゴロゴロ転がっていたら、手錠の鎖を体で踏んで軽く痛い目にあった。
あの血塗れな服は変えられて、今着ているのは簡単な服だ。ゴムやベルトはなく、紐で結ぶ劣化させた甚平タイプ。

もう応急措置セットも使いきっていたから別にいいけどな。ただ、腰の鞄がスマホごと捕られているのは辛いし、アウソも居ないから寂しい。

「なんだ生きてたのか、呼吸の仕方ヤバかったから死んだのかと思ってたぞ」

「ん?」

近くで声がしたのでその方向を向けば、格子の更にもう一つ格子の向こう側に人がいた。浅黒い肌に白い髪の30代後半ぐらいの男だ。

その男は格子にしがみついて嬉しそうにこちらを見ていたので、何となくオレはその男に挨拶をした。

「えーと、はじめまして。オレはライハです」

そんなオレの返答に男は驚いた顔をする。
驚くよな、オレも何言ってんだと思ったし。

「え、あー、はじめまして、俺はダンだ。………って、お前こんな状況で随分余裕だな。慣れているのか?」

「んなわけないじゃないですか。もう色々めんどくさくて。深く考えるの止めよーかなと思い始めている最中なんです」

「なるほど、それは賢明な判断だ」

これは割りとマジな話である。こんな状況で深く考えてたら鬱まっしぐらだ。人生舐めてますくらいの考え方の方が楽なのに気付いたオレはもうだいぶ末期なのは理解している。

(あれ、そういえばオレ結構深手だったような…)

夢であれと思っている記憶を辿り、夢の通りなら腹にエグい傷があるはずだと寝転がりながら服を少し捲って見てみると。

「………なんでやねん」

咬まれたところにポツポツと治り掛けの小さな傷痕が残っているだけであった。自分の体なのに何が起こっているのかよく分からない。

深く考えたら負けなのだ。多分。

「おーい、ライハくん。休憩中、少しいいか?」

「なんですかー?」

「お前は何処から来たのだ?」

「?」

「俺は元ギルドの派遣狩人でな、華宝カホウ国近くのエルガドという町にいたんだ」

「はぁ」

ダンが凄い勢いで話し始めた。

「ある日ギルドから近くの森に変な魔物がいるらしいからどんなもんかと調べてきてくれないかと行ってみたらな、なんか、本当に間抜けな話なんだがとんでもない深さの落とし穴に嵌まってしまって、気付いたら此処に居たんだ」

「そうなんですか」

「んで、俺は元々流れ者だからよく分からないんだが、ここは何なんだ?ずっとおっかねぇ魔物と毎日毎日戦わされて、俺はもう意味わからなくて」

「…………」

もしかして鷲ノ爪とか知らないのだろうか。

「あの、ダンさん。鷲ノ爪って知ってますか?」

「わしのつめ?何かの薬草の呼称か何かか?」

頭に鷹の爪という香辛料が過った。
ああ、確かに知らないとそっち行っちゃうよな。

「簡単に言えば人身売買の組織なんですけど」

ダンは固まった。

「ええええーーー!!!!」

頭を抱えたダンが叫ぶ。
知らなかったようだ。

マジかよ嘘だろー!と天を仰いで絶叫していて自分の事に忙しそうだったので、オレは気を利かせてちょっと寝ることにした。
彼も理解して落ち着く時間が必要だろう。





起きて格子を見ると、下の方に食事が置かれていた。

食事は相変わらずの水と不味いパン。そしてなんと焼いた何かの肉が追加されていた。軽く塩も振ってあった。嬉しい。

「久しぶりの肉超うめー」

「ああ、その肉な、倒したやつの肉らしいぞ」

「………、…ふーん」

不思議とへぇ、そうなのか、としか思わなかった。日本にいた頃に比べたら色々麻痺してきてるな。

(普通に鶏肉の味だ。狼とかライオン混じっていたのに不思議だな)

こういうとき、旅の途中様々な魔物食べていて良かったなと思う。じゃなかったらキメラの肉って知っただけで「おえっ」ってなっていた所だ。

久しぶりの肉を良く味わいながら食べている最中、ダンがまた話し掛けてきた。

「あー、で。さっきの話の続きだけど」

「まだするんすか」

「だって長らく近くの檻に会話できる奴居なかったから嬉しいんだよ」

それは寂しい。

「だからさー、君の話し聞かせてよ。俺の最近の出来事なんかクッソつまんねーから。寝て起きて戦って食って寝ての繰り返しだから」

「……オレは仲間ととある任務を達成するためにサグラマに来ました。その前は…」

そんな感じでダンと外の事や下らない事を話し、だいぶ時間が経った頃、見たことがあるような大男がダンを檻から出した。

「んじゃ、ちょっと魔物やっつけて肉取ってくる」

「あ、はい。行ってらっしゃい」

喋らねえでさっさと歩けと怒られていたが、ダンは笑顔でオレにひらひら手を振ると行ってしまった。

その時に見えたダンのお尻付近から白く長い尻尾が生えていて、その時初めてダンが人種ではなく獣人ガラージャ種だと知った。

「見た感じ猿系?じゃあダンは身軽な戦い方するのかな。ていうか肉を取ってくるって、鋼のメンタルかっての」

是非ともオレもあのメンタルを見習いたいものだ。

しばらくして、ダンが戻ってきた。
何故か湿っている髪。水でもかけられたんだろうか。

「肉取ってきた!凄いぞ、今日は!!鳥と牛が混ざったヤツだったからぜってえ美味いぞ!!」

テンション高い。
両手をバタバタさせながら報告してきた今年37になるらしいダン。

「一口食べさせてやるから俺にもお前が倒したのくれ!」

「良いですよ、食べ比べましょう」

「何話してんだお前ら。次はお前だ、来い」

「へい」

連れていかれる途中、左右に並ぶ牢は空きもあったが、人もそれなりに居た。
殆どが強そうなハンターや、野性味の強い獣人ガラージャ種、そして髪が赤い少女。

前に居た牢より肉が食べれている分痩せている奴はいないが、その代わり傷が至るところにある。

何となく、ローマ帝国時代の拳闘士のようだと思った。

昨日の観客といい、相手のおっかない魔獣、魔獣?かどうかは分からんけど怖い生き物と戦わせて楽しむ感じなんだろう。

にしても、なんでオレなんだろうな。
他にも強いやつたくさん居たのに。

不思議だ。
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