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第二章 動き出す

捜しビト

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登録も終え、後はカリアの帰りを待つだけだが、予想よりもだいぶ遅れている。

暇だ。

「アウソ、あっち向いてホイしよう」

「いいぜー」

あまりにも暇なので前教えた日本式ジャンケンとあっち向いてホイで遊ぶ。
キリコはちらりとこちらを見てまたやってんのかみたいな顔をした。暇なんですよ。
ちなみにキリコはこれ強すぎるからやらない。反射神経良すぎるせいだ。

だいぶヒートアップし始めた辺りでキリコが顔を上げカリアが去っていった方を見たのでつられて見ると、疲れた顔をしたカリアが戻ってきた。

「お帰り師匠」

「お帰りなさい」

「なんか珍しく疲れてるさ。また職員が泥酔してたんすか?」

「うん、職員は大丈夫だったよ、ただ、ちょっと混み合いすぎて時間かかった…」

近くの木製の椅子に腰掛けたカリアが水筒から水を一口飲んで息を吐いた。
キリコやアウソと目配(めくば)せし、オレ達も近くの椅子を引き寄せて座る。

「でもこの時期混み合うって、珍しいこともあるのね。厄介なのは酔っ払いだけなのに」

キリコが言う。

カリアは乱れた髪を手櫛で整えながら小さく溜め息。

「どうやら、マテラ全体で異変が起きている。北と西からマヌムンが集団《ファミリア》を作りながらあちらこちらの村や町に現れては混乱を引き起こしているらしいんよ。南はまだだけど、東側も見たことないマヌムンが現れて被害が出ていて、その報告を持ってきたハンターでごった返してて、もう、職員数足りないから全然終わんないし、職員疲れでキレてるし、酔っ払いに絡まれるし。はぁー、やっぱ受けんければ良かったよ」

「……お疲れさまです。もう、本当に」

職員の気持ちもわかる気がするが、逆ギレはどうなんだろうか。てか酔っ払いいい加減にしろ。

「でもこれでしばらくはゆっくり出来るわぁ!」

目一杯伸びをして勢い良く立ち上がったカリアが「さて」とこちらを見た。

「今日は正式に弟子入り果たした祝いと任務達成の祝いも兼ねて、夜は楽しむよ!!」

「っしゃあ!!」

「今まで我慢した分飲み食いするぞー!」

「ほどほどにしてくださいねーー!!」

ウキウキとオレ達四人は素材を高値で売っ払い、そのお金で酒にツマミに肉と好きなだけ買い漁って宿へと戻る。潰れるまで飲むならば、やはり安全なところに越したことはない。そう言うことだ。

「この時期はお酒やツマミが安く買えるから本当に遊びに来るだけなら最高ね!!」

プハーとカリアが葡萄酒片手に頬を紅く染めながら言う。それに対してうんうんと頷く鴨肉を頬張るキリコと新たに酒を追加したアウソ。そしてツマミが美味すぎる事だけ同感なオレ。

こんなに多様な肉が普段の三分の一のお値段で買えるとは、初め良くない印象だった豊作祭が一気に好感度MAXへと心の秤が傾いた。確かにこれは遊びに来る分には良い祭りだ。

ただちょっと、酔っ払いと柄の悪いのと馬鹿が邪魔なくらいで。

さっきも品揃えがどうとかお金の渡し方がどうとか、後ろが並んでいるのに店員に説教し始めた酔っ払いがいたが、後ろにいたハンターが『そんなのは後にしろ、邪魔だ』と押し退け、追い出された酔っ払いが喚きながら辺りの人に当たり散らしたり物に手を出したりした為、各エリアにいる責任者と自警隊がやって来て営業妨害だと連行されていった。

ああいうのは、良いのと悪いのがいて、良いのは一言助言で終わらすのだが、悪いのはイチャモン付けて店を妨害するからそく連行して然るべき所でお話をするのだそうだ。もちろん良い助言は参考にしている。

流石商人で栄えている国。
どこまでも等価交換で成り立っている。

まぁ、それは置いといて。


「ご飯がうめぇーー!!!」


今は任務完了の達成感とご飯の美味しさを噛み締めよう。



朝、死屍累々だが良い朝だ。
昨日の後半で勢いで飲まされた酒が良い酒だったからか頭痛もない。みんなも一応各自ベッドに収まっているし猫も何故かオレの服の中で丸く収まっているが、まぁ平和だ。

猫を布団に移してら軽く伸び。そしてカーテンと窓とを勢い良く開け放って朝日を部屋に招き入れる。
超晴れてる、雨上がりの良い匂いが清々しい。

後ろで急に入れられた日光に悲鳴を上げているのが約3名程いるが、オレはこの酒臭い部屋の空気を換気するために全力でタオルを振り回して空気を循環させていた。

「悪魔かよお前」

「炎で攻撃された夢見たわ」

「目がやられたと思ったよ…」

モソモソと身支度を整え、近くの湯屋に寄ってからご飯を食べる。

豊作祭《ハーレーン》だからか頼むもの全て安いのに大盛りだ。ついでに猫の肉も小皿に山盛り。
ウマウマ言いながらがっついていた。

「今日の予定はどうする?」

もくもくとご飯を食べながらカリアが切り出す。それにキリコがうーんと少し考えた。

「ゆっくりするのも良いけど、アタシ服を見に行きたいわ。これから南下するし、暑くなるからそれようの格好に変えなくちゃ」

「俺は特にないさ」

と、アウソ。オレも無いと言おうとしたところであることを思い出す。

「あ、そうだオレ探さないといけない人がいたんでした」

「え、誰?」

「チクセで共闘したニックさんからの助言で、えっと………リ…、リベルターって人です」

言い終えてから一応メモ確認。良かった、合ってた。

「あー、あのギリスの魔術師の」

「そういえばサグラマに行くなら探せってアンタに言ってたわね。忘れてたわ」

「俺ひまだから付いていっていい?」

「むしろ助かりますわ」

「じゃあ、今日の予定はこんなもんね。日が暮れる前に戻ること、そしてこれはいつも言ってると思うけど何かあったらすぐに逃げること。いい?」

「了解です」

「分かってますって」

食事を終えてそれぞれ行動。
必要最低限の持ち物、ナイフとかお金とか、ついでにリベルターに会った後に売ろうと思う魔宝石だけを持ち、後のは宿屋に置いた。

カバンの中に猫が収まったのを確認してから出発。

と、ここで早速問題発生。

「リベルターさんの事、何も知らないわオレ」

「知ってるの名前だけだな」

「もっとニックさんから情報聞いておけば良かった!!どこにいるとか、どういう人なのか分からなかったら探しようがねーじゃん!!」

「まーな。でも仕方ねーさ、訊かなかったものは訊かなかったんだから」

何となくニックと同じような魔法関係なのかと思うけど、でもそれは多分居場所に関係ない。

「初っぱな詰んだわどうしよう」

考え込むがどうも良い案が浮かばない。
聞き込みするか?この酔っ払いだらけの街で?
その時、アウソがハッと顔を上げた。

「なぁ、もしここの住人で職業登録してたらギルドに言えば教えてもらえるかもしれんさ」

「それだ!」

アウソ。グッドアイデアだわ。


そうと決まればすぐに移動。
幸いなことに朝早かったからか、ギルドに居る人達は昨日に比べると、とても少なかった。これならスムーズにいけるかもしれない。

「すみません、この街に住んでいる人を探しているのですが。リベルターという名前の人なんですが」

「リベルターですね。少々お待ちください」

受付の人はそう言うと裏に下がり、分厚い本を持ってきた。パラパラと捲り、とあるページで止まる。

「一件あります」

「それを教えて貰えませんか?」

「失礼ですが関係を教えてもらってもよろしいですか?」

関係。しばし考え、ニックの事を話すことにした。

「知人にサグラマに行くならこの人を探せと言われたのですが」

「なるほど。了解いたしました。お店を経営されておりますね」

「その場所を教えて下さい」

「情報料が発生いたしますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「では、こちらの紙に地図を写しますので少々お待ちください」

しばし待つこと約5分。
受付の人から手渡された手のひら程の紙には店の名前と住所、そして地図に印が付いていた。

「……マドゥフロ区?」

サグラマには細かい区に分かれている。
山は勿論サグラマ区。ここ、ギルドと宿のあるのはオゥティナ区だ。

「俺何回もサグラマ来てるけど知らん所だ」

何回も来ているアウソが知らないとなると、そのマドゥフロ区は遠いのだろうか。

「ちょっと訳有りの所でして、裏通りにあります。道が複雑に入り組んでいるので迷子になりやすいことで有名です。よろしければその周辺の地図を売ってますよ?」

ウフフと笑う受付の人。
これは迷子になりたくなかったら買うことをオススメしますって顔だ。

地図は高いが、迷子になりたくはない。

アウソにどうする?と相談すると、買った方が何かと良いと言われたので買った。ついでに地図を入れる小さな筒もくれた。
本当に商売のチャンスを逃さないな。


マドゥフロ区はオゥティナ区から歩いて行ける距離だった。

地図に従い、住宅地の更に奥へ奥へと人通りの少ない小路をずっと進んでいくと、表の華やかさとは打って変わり、胡散臭い店なようなものがちょこちょこ建っている怪しい通りに出た。

たまに見掛ける人は、何となくマテラ人っぽくない。もしかしたら流れて来た人が集まって出来た所なのかもしれない。

「あれじゃね?」

肩を叩かれ振り返ると、アウソがとある建物を指差していた。看板にはリベルター占い屋、扉の前に水滴に波紋が融合したマークが風で揺れていた。
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