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第二章 動き出す

見送り見送られて

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ニックと別れて帰る途中、忘れないようにと腰鞄からスマホを取り出してメモ帳にメモる。ついでに充電も少なくなっていたので右手だけ超微弱帯電させて充電させた。

何それぬーやが?」

「スマホ、色々便利なんよ」

「すまふぉ?」

「スマホ」

「すまほ」

へー、石にガラスが付いてるみたいだなと覗き込んでくるアウソにホールデンでの双子を思い出す。

そういえば、漫画置きっぱにしちゃったな。

多分今頃読まれ過ぎて擦り切れているだろう。まぁ、もうあげる気満々だったから別に良いけど。

しばらく歩き、広場へと戻ると赤毛の鱗馬、朱麗馬に跨がる二人を見付けた。朱麗馬の体に鞍と荷物が装着されていて本当にギリギリだったらしい。

「おー、また会ったな」

こちらに気が付いたノルベルトが朱麗馬ごと旋回しやって来た。

「良かった、間に合いました」

「間に合った?」

どういうことだとノルベルトが不思議そうな顔をしていると、隣にいたガルネットと呼ばれていた青年がノルベルトに近付く。

「ノル、もしかして見送りに来てくれたんじゃん?」

「うえ!?まじで?お前ほんと良いやつだなぁ!」

見送りだけでここまで嬉しそうな顔をされるとは。

「先日は助けてくれて、ありがとうございました」

グルァシアスかセンキ・ユウのどっちでお礼を言えば良いのか迷ったが、そのままオレがいつもやっているように『ありがとうございました』の言葉と頭を下げた。
誤解される挨拶と言われたけど、本当に心から有り難く思った時にはこれじゃないと違和感がある。日本人の血か。

そんなオレを見てアウソが少し顎を掻きながら何か考えているようにしていたが、小さくまぁ良いかと言う言葉が聞こえた。

「いやいや、いいよそんなん。うちの副リーダー助けて貰ったんだからお互い様だ。しかし、うん、やっぱお礼をされるってのは結構良いな」

「だから言ったろ?良いことすれば良いことが返ってくるって。あ、そういや名前言ってなかったね、ガルネットと申します。以後よろしく」

朱麗馬の上から手が伸ばされ、握手をする。

「ライハです」

そしてカリアから順にそれぞれ握手をすると二人は手綱を持ち直した。

「お前らいつまで此処にいるんだ?」

「もう昼過ぎには出るよ」

オレの代わりにカリアが答えた。

「そうか、じゃあお祈りしとく」

ノルベルトが何かの印を切ると。
どこの言葉か分からないがオレらに向かって何かを唱えてくれた。

「あちらの祝詞ね、ありがたく受け取っておくよ」

そして、二人は手を振りつつ行ってしまった。
ニックのパーティーは一人も来なかったけど、もう見送った後だったのかな。








出発の準備に取りかかろうとした所でふとある事を思い出した。

「あ」

「ん?」

「そういえば、レーニォさんにあの後会ってない」

そうオレが言うと三人の表情が少し暗くなった。どうする?と三人が目で相談し、アウソが言いにくそうに口を開いた。

「その、実はレーニォさんの弟さんな……間に合わなかったんだ…」

「………そう、か」

間に合わなかったのか。
今にして思えば、拘束具を外す時、反応が暗かった人がちらほらいた。何でだろうと思っていたが、そういうことだったのか。

「今、レーニォさんは?」

「家に引きこもってるわ、…行ってみる?」

「行ってみます」

カリアが村長の所に行って説明をすると、村長が丁寧に場所を教えてくれた。お礼を言い、去ろうとしたところで村長が慰めてやってくれと言ったが、オレ達はそれに返すことが出来なかった。

レーニォの家へ行くとしんと静まり返っていた。

留守だろうか、アウソと目配せし、言い出しっぺのオレが家の戸を叩いてみた。すると中から微かに物音が。

「レーニォさん、ライハです」

「………」

返事はない。けれど扉の向こうに気配を感じるから近くにはいるはずだ。

「レーニォさん、その、………」

次の言葉を紡ごうとして開けた口を閉ざした。オレは、レーニォになんて言うつもりだ?

残念でした?
元気だしてください?

「…………」

どれもこれも陳腐すぎてヘドのでるテンプレな言葉。今、この人はこれを言われて何を思うだろう。

オレも二人弟がいる。
可愛くはないが、大切な奴ら。
もしそいつらが今回みたいな感じに拉致され、売り飛ばされていたとしたら。

言えない、こんな安い言葉は。

「……………レーニォさん、弟さんの名前を教えてください」

気付けばそう言っていた。

意図して言ったわけではない。ほとんど無意識で、あっと思った時にはもう言い終えた後だった。

しばらく無言が続き、どうしようと思ったとき中から小さな音が。

「…ラヴィーノ」

「ラヴィーノさん、ですね」

だからあの時ラビラビ叫んでいたのかと納得する。
オレは少し深呼吸すると戸に向かって言う。

「レーニォさん、諦めないでください」

無責任な言葉かもしれない。けれども、これだけは言っておかないといけないと思った。

「勝手な言葉なのは分かってます。でも、きっとラヴィーノさんも諦めていないはずです、なのにレーニォさんが諦めてしまったら、動ける人が立ち止まってしまったら、それっきりなんです」

中からは返事は無かったが、その代わり身動ぎをするような音が聞こえてきた。

「………、じゃあ、オレ達行きますね」

扉から離れ、皆の元へと戻る。

「もう、良いの?」

「………うん」

歯痒いが、今のオレに出来ることはこれだけだった。
もし、この先ラヴィーノさんの情報があれば、出来る限りの手伝いをしようと思う。




そうして昼過ぎ、出発の準備が整いそろそろ行こうとした時、おーいと声を掛けられた。

カリアが振り返り、表情を明るくした。釣られて見れば、昨日の幼さが残った黒髪の青年がニックと一緒にこちらへと歩いてきていた。
こちらが気が付いたところで青年がペコリとお辞儀をした。

「頭下げた…」

思わず呟いたら青年がにっこりと笑い。

「シラギクです。ニックからライハさんという方が私と同じように頭を下げる仕草をしたと聞いて、私も祖国でする挨拶をさせていただきました」

と言った。

と、すると、このシラギクは前に聞いた頭を下げる習慣のあるコーワの人なのだろう。

既に面識のあったカリア以外のキリコ、アウソ、オレの順に自己紹介をするとシラギクがカリアに何かの縁ですのでと小さい木の板を渡していた。何だろう。

「それでは、『良い旅を』お気を付けて」

「ありがたい、感謝するよ」

カリアが木の板を少し持ち上げお礼を言い、何故かこちらへとまた小さく頭を下げて笑うので、こちらもついお辞儀をしてしまった。

うーん、このお辞儀されてら釣られるのはやはり血なのかと改めて思った。





「さあ、出発!」

馬に乗り、出発する。
二人はギリギリまで見送ってくれた。
というか、ニック来たのに最後は一言も喋らなかったな。でもその前に喋ったから良いか。
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