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第一章 ホールデンにて

村へ到着

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早朝。

「肩痛い……」

竜車の椅子の上で丸まるようにして寝ていたので身体中が痛い。特に肩。
おかしいな、あちらにいたときはよく椅子の上で寝ててもここまで痛くならなかったのに、やはり環境の変化なのか。

体をボキボキ鳴らしつつ外に出ると空気をたくさん吸い込む。清々しい土の臭いがした。

まだ薄暗いというのに従者の人達はすでに起きて朝食の準備に取りかかっていたのかあちらこちら忙しそうに動き回っている。それを見ながら邪魔にならないくらいの所で日課である筋トレを始めた。

「…おはようございます」

「…………ああ…」

30分ほど経ったとき腕立てをしていると目の前に影が落ちた。顔をあげると寝巻き姿、いつもの服じゃなく白い長めのワンピースのノノハラがこちらをボーッと見詰めていた。いや、見下ろしていた。眉間にシワが寄り不機嫌そうだったからな、オレなんかしたっけ。

「……ちっ」

舌打ちされた。
オレ何した?何舌打ちされるような事した?

記憶を探っても該当するものがなかったので様子を見ていたら目の前に座り込んだ。そしてオレの顔を覗き込んできた。そして再び舌打ち。

「小さくなってなんかしてるからコノンだと思ったじゃないか何だよもぉ~~……」

「ええぇー……」

自分が人違いしたくせに怒ってたの!?

その後も何かゴニョゴニョ言っていたが聞き取れず、そのままコロンと横になり寝始めた。

ちょっと困るんだけどノノハラさん!!ここで寝ないで!!

「ノノハラさーん」

「!」

その時だ、救いの女神が現れたのは。

「…あ、ノノハラさん!」

こちらに気が付いたコノンが慌ててやって来た。ていうかコノンの大きな声始めて聞いたな。

「コノン、おはようございます」

「お…は…ようございます…」

腕立て姿勢からのご挨拶でごめんなさい。

「昨日の…ラコだっけ、ありがとう。美味しかったよ」

「へっ…!あ、えと、その…ど…どういたしまして…?」

ワタワタしながら何故か語尾にはてなを付けながら頭を下げるコノン。

「ノノハラもコノンの事探していたみたいなんだけど、なんかそのまま寝ちゃってさ…困ってたんだ」

「ほんと…ですか。すみません…」

「いやいや。でさ、運ぼうと思ったんだけど良かったら手伝ってくれないかな?」

一人で運んでいる途中でノノハラの目が覚めて変な誤解でもされたら嫌だからな。
腕立てを中断して起き上がるとノノハラの隣に膝を着き、腕をオレの首に回して固定する。

「あ…、はい!手伝います」

コノンがノノハラの服を叩いて付着していた砂を落とし、ノノハラの胴に腕を回して安定させると立ち上がる。ちょっとふらついたがなんとかなって良かった。寝ている人の体は力が完全に抜けている分すごく重い。スクワットもしていて良かった。

移動の最中ノノハラの足を引き摺っていたが、これは仕方ない。横抱きすれば良かったとも思ったが、腕の筋肉不足でノノハラ程の高身長の女性を抱き上げるのはまだ無理だった。

「ノノハラって朝弱いの?」

隣を歩くコノンに訊いてみた。

「はい…、なんでもテーケツアツという病気みたいで朝うまく体が動かない…とか…」

「なるほど」

低血圧か。
友達にもいたな、修学旅行の時無理矢理起こそうとしたらケータイ投げられた上に思いっきり殴られたっけ。
……痛かったなぁ、あれ…。

「ノノハラさんは、わ、わたしのこと妹みたいに思ってくれてて、多分…朝いなかったわたしを探していたんだと思います…」

「そうなのか、だから人違いと分かった時に舌打ちされたのか…」

「し…っ、舌打ちされたんですか!ごめんなさい!」

「いや、いいって。気にしてないし」

あの中二野郎みたいに襲い掛かってこなければなんでも許します。

その後スイに見付かるまでコノンと他愛もない話をし、スイに回収されたノノハラは頭からお湯を掛けられて強制覚醒させられていた。

だんだんスイの猫の皮が外れてきているのを見て、他の勇者達がスイを恐れている風な空気の意味を理解したのであった。

 太陽が上がりきった頃に朝食を軽く済ませてクローズの森へと出発。

ガタゴトと整備されてない道を行くので車が良く揺れる。
いや、これでも一応歩けるようにと整備されているのは分かっている、ある程度均されているし生えている草も少ないしね。コンクリートの道が良いなんてワガママは言いません。
言いません、けども。

「………きもちわるい」

車酔いが酷い。

昨日車酔いが無かったのは恐らく周りが草原だっからだろう。現在竜車は林の中を走行中であり、落ちてる枝や石、根っこなんかで悪路になっている。

「呪いさえなければ回復魔法掛けられるんですけどね…」

と、スイが言う。

回復魔法ってすごいね、何でも治るよ。
是非ともその恩恵を受けたい!一度だけでも!!

「仕方ありません。気合いで頑張ってください」

「気合いで頑張ります」

という感じで本当に気合いだけで耐えること半日。前方に聳える山脈と、その下に広がる森を確認した。

右から左と視線を移動させるが一面ずーっと景色は変わらず。ちなみに山脈は霞がかり、上の方は雪で白く染まっていた。

そのどこまでも聳え立つ巨大な山脈が横たわる龍に見えることからここらの地域でリューセ山脈と呼ばれ、崇められている。

そしてその麓に広がる森は山脈によって留められた魔素を多く含む雨が良く降るため木や草が異常に育ち、それらを食べた動物は魔力を溜め込み魔獣へと進化したので一般人立ち入り禁止区域に指定されているとか。

怖いわ。
見た目完全にアマゾンじゃないか。

「後少しで村に着きます。ただ少し村人達が苛立っているようなので気を付けてください」

ああ、度重なる畑への襲撃でか。
刺激しないように気を付けないとな。

更に一時間程進んだところで目的のウズルマ村へ到着。

「………村…ですよね」

「村ですよ」

「籠城戦でもやってるような雰囲気ですね」

「あながち間違ってないからな」

「この辺の村は大体こんな作りをしてますよ。森から来る魔獣は多種多様で強いですので、こうでもしなければ生き残れません」

「すっげぇ!!カッコいい!!」

シンゴが目をキラキラさせていた。
気に食わない奴だがこれだけは共感できた。
うん。分かるよ。
この村の形状は男のロマンを擽るよな。

森に対して高く高く作られた柵の下部から無数の木の刺が突き出し、柵のすぐ外側に深い堀が掘られている。村の家自体も丈夫な石で建てられており、村の中央辺りに見張り台だろうか、大木を丸々削り出したような塔が建っていた。

ここまで来ると芸術的だと思います。

竜車は速度を下ろして村へ近付く、村周辺は堀で囲まれて村へ入れないので入り口付近で待機していると、こちらの姿を確認した塔の上の人が一定間隔で鐘を打鳴らす。

すると入り口の扉がこちらへせり出すように下りてくるとそのまま橋へとなった。

そこを竜車がゆっくり渡り始めた。
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