14 / 152
第一章 ホールデンにて
メライダ・タゴス
しおりを挟む
それから更に2日が経ち、内出血も薬のおかげでほぼ治り体を捻っても痛むことはなくなった。
城ではあの時の模擬戦の噂が広まっているのか、時たま兵士が肩を叩いて「さすが勇者様」とか「見直した」とか言ってくるようになった。どうやら模擬戦によってシンゴと戦ったことでオレの評価が多少は上がったらしい。嬉しいことだ。
で、その中の一人の兵士が打ち合いをしたいと言ってきた。もちろんウロさんとの約束があるので断ったのだが、しつこいのなんの。一階から塔の上の方にあるオレの部屋にまでついてきて扉越しでも打ち合いの催促をしてくる。
打ち合いなら他の勇者にしてもらいたいのに、その野郎は聞かない。何故だ!?
「と言うことなんですが、ウロさんどうすればいいですか?」
仕方がないので解呪の時にウロに相談をすることにした。
「…うーん、そうですね。その兵士は髪の色が緑ではなかったですか?」
「あ、はいそうです。緑色でした」
「わかりました。恐らくその兵士はタゴスでしょう」
「有名なんですか?」
「別の意味でね」
別の意味?
なんだか嫌な予感がして背中を汗が伝う。別の意味ってなんだ。
「なんといいますか、気に入った奴にはとことん付いてくるので有名なんです。確かノノハラ様に付いて回っていた時にはしつこいと言われ真剣で斬られてましたね。三回ほど」
脳裏にそのイメージが余裕で再生。
短期な女軍師も怖いが、斬られても付いてくるのを止めない変態に血の気が下がっていく。
「……………なんで、オレ?」
「模擬戦で何か彼に惹かれるものがあったのではないでしょうか?しかし、困りましたね…、素直に聞く方なら良かったのですが…」
ウロが腕を組んで考え始めてしまった。そんなに面倒な奴なのか。
「仕方がありません。ウコヨを監視につけますので、許可します。ライハ様にとっても対人の訓練と思って思いっきり殴ってきてください」
「ウロさん最後怖いです」
と言うことで。
「勇者様!お付き合い頂き感謝します!あ、オレはメライダ・タゴスって言います!よろしくお願いいたします!」
ウロが去ると同時に襲来してきた兵士のタゴスに条件付きで打ち合い許可を貰ったことを伝えたら、さっそく打ち合いをしたいと訓練所へと連れてこられた。もちろん条件のひとつであるウコヨ同伴。
「オレはライハ。よろしくタゴスさん」
「はい!ライハ様!」
笑顔が眩しい青年。
見た目は完全体育会系だ。歳はオレとそこまで差はないんじゃないのだろうか。
後で聞けばいいか。
「ウコヨ、頼む」
「はいよ。打ち合い、始め!」
カンカンと乾いた木がぶつかり合う音が周囲に響く。
打ち出され、防ぎ、フェイントを掛け、回避される。
打ち合いと言うよりもチャンバラに近い感じのそれは、ここ最近解呪によって溜まっていたストレス発散にはもってこいのものだった。もちろんタゴスが手加減してくれているのは感じているし、オレが下手くそだって言うこともタゴスは感じているのかもしれないが、タゴスはひたすらに楽しそうに木剣を振るっていた。
楽しい。
久しぶりに心から思った。
気付いたら、笑顔になっていた。
少しずつ打ち合いのスピードが上がるが、それすら楽しさに変わり、ますます打ち合いのスピードが上がっていく。
体が熱くなり、目の前に迫る木剣がやたらのろく感じるようになってきた頃には、この打ち合いに夢中になっていた。
速く、速く、もっと速く!
弧を描いて迫ってきた木剣を跳ね上げるようにして弾き飛ばして相手の喉元に突き付けた。
「うっ…、参った…参りましたー…」
相手、タゴスが両手を挙げて降参宣言をした。途端に辺りの景色が戻り、大量の汗が吹き出す。
お互い激しく息は切れ、立っているのがやっとなほど疲れている。だけど、心地いい疲労だ。楽しかった。
「打ち合い、おわり。お互い、礼」
ウコヨの号令により少しタゴスと距離をとって頭を下げる。
すぐさまタゴスが駆け寄り肩を盛大に叩いた。バシンと良い音がして、かなり痛い。そしてタゴスは素晴らしい程の笑顔だった。
「やっぱりオレの目に狂いはなかった!あんたやっぱり最高だよ!また打ち合わせに付き合ってくれないか?」
何が最高だったのかはよくわからないが、凄く楽しかったから断る理由がない。オレも笑顔を返した。
「ああ、オレも楽しかったです。ありがとう、タゴスさん。またよろしくお願いします」
手を差し出すと、すぐに握り返された。
こうして、この世界で同姓の友達が出来たのだった。
城ではあの時の模擬戦の噂が広まっているのか、時たま兵士が肩を叩いて「さすが勇者様」とか「見直した」とか言ってくるようになった。どうやら模擬戦によってシンゴと戦ったことでオレの評価が多少は上がったらしい。嬉しいことだ。
で、その中の一人の兵士が打ち合いをしたいと言ってきた。もちろんウロさんとの約束があるので断ったのだが、しつこいのなんの。一階から塔の上の方にあるオレの部屋にまでついてきて扉越しでも打ち合いの催促をしてくる。
打ち合いなら他の勇者にしてもらいたいのに、その野郎は聞かない。何故だ!?
「と言うことなんですが、ウロさんどうすればいいですか?」
仕方がないので解呪の時にウロに相談をすることにした。
「…うーん、そうですね。その兵士は髪の色が緑ではなかったですか?」
「あ、はいそうです。緑色でした」
「わかりました。恐らくその兵士はタゴスでしょう」
「有名なんですか?」
「別の意味でね」
別の意味?
なんだか嫌な予感がして背中を汗が伝う。別の意味ってなんだ。
「なんといいますか、気に入った奴にはとことん付いてくるので有名なんです。確かノノハラ様に付いて回っていた時にはしつこいと言われ真剣で斬られてましたね。三回ほど」
脳裏にそのイメージが余裕で再生。
短期な女軍師も怖いが、斬られても付いてくるのを止めない変態に血の気が下がっていく。
「……………なんで、オレ?」
「模擬戦で何か彼に惹かれるものがあったのではないでしょうか?しかし、困りましたね…、素直に聞く方なら良かったのですが…」
ウロが腕を組んで考え始めてしまった。そんなに面倒な奴なのか。
「仕方がありません。ウコヨを監視につけますので、許可します。ライハ様にとっても対人の訓練と思って思いっきり殴ってきてください」
「ウロさん最後怖いです」
と言うことで。
「勇者様!お付き合い頂き感謝します!あ、オレはメライダ・タゴスって言います!よろしくお願いいたします!」
ウロが去ると同時に襲来してきた兵士のタゴスに条件付きで打ち合い許可を貰ったことを伝えたら、さっそく打ち合いをしたいと訓練所へと連れてこられた。もちろん条件のひとつであるウコヨ同伴。
「オレはライハ。よろしくタゴスさん」
「はい!ライハ様!」
笑顔が眩しい青年。
見た目は完全体育会系だ。歳はオレとそこまで差はないんじゃないのだろうか。
後で聞けばいいか。
「ウコヨ、頼む」
「はいよ。打ち合い、始め!」
カンカンと乾いた木がぶつかり合う音が周囲に響く。
打ち出され、防ぎ、フェイントを掛け、回避される。
打ち合いと言うよりもチャンバラに近い感じのそれは、ここ最近解呪によって溜まっていたストレス発散にはもってこいのものだった。もちろんタゴスが手加減してくれているのは感じているし、オレが下手くそだって言うこともタゴスは感じているのかもしれないが、タゴスはひたすらに楽しそうに木剣を振るっていた。
楽しい。
久しぶりに心から思った。
気付いたら、笑顔になっていた。
少しずつ打ち合いのスピードが上がるが、それすら楽しさに変わり、ますます打ち合いのスピードが上がっていく。
体が熱くなり、目の前に迫る木剣がやたらのろく感じるようになってきた頃には、この打ち合いに夢中になっていた。
速く、速く、もっと速く!
弧を描いて迫ってきた木剣を跳ね上げるようにして弾き飛ばして相手の喉元に突き付けた。
「うっ…、参った…参りましたー…」
相手、タゴスが両手を挙げて降参宣言をした。途端に辺りの景色が戻り、大量の汗が吹き出す。
お互い激しく息は切れ、立っているのがやっとなほど疲れている。だけど、心地いい疲労だ。楽しかった。
「打ち合い、おわり。お互い、礼」
ウコヨの号令により少しタゴスと距離をとって頭を下げる。
すぐさまタゴスが駆け寄り肩を盛大に叩いた。バシンと良い音がして、かなり痛い。そしてタゴスは素晴らしい程の笑顔だった。
「やっぱりオレの目に狂いはなかった!あんたやっぱり最高だよ!また打ち合わせに付き合ってくれないか?」
何が最高だったのかはよくわからないが、凄く楽しかったから断る理由がない。オレも笑顔を返した。
「ああ、オレも楽しかったです。ありがとう、タゴスさん。またよろしくお願いします」
手を差し出すと、すぐに握り返された。
こうして、この世界で同姓の友達が出来たのだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
よろしくお願いいたします。
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる