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六章・仲睦まじく暮らしまして
『完』
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神域から出口と言われる裂け目を通ると何故かルティケニーマ港町に出て、そこで待ち構えていたらしいオモオット神官を始め多くの人から祝福を受けた。特にその中でもアレスという青年が転びそうになりながらもかけてきて、まだ帰ってなくて良かったと泣きながら日向子に抱き付き、叩かれていた。
うーん。スズとの落差が激しい。
そうして、代替えから早くも一月が経とうとしていた。
一月の間、俺はルティケニーマで治りきっていない傷を癒しながら、家族に宛てての手紙を書いた。こんなに余裕をもって書けたのは日向子さんが一月くらいはスズの女王様としての働きを目に焼き付けておかないと、ということでだ。とてもありがたかった。何せ日本語書くのが久方ぶり過ぎて、練習する時間が欲しかったから。
人間、書かなきゃ忘れるというのは本当である。
まぁ、それだけではなく、さらに言えばアレスの駄々もあったらしい。
俺が見た感じどこぞの貴族みたいな印象の青年は、どうやら日向子の事が好きらしい。だけど、いずれ帰る人だから引き留めてはいけないと踏みとどまってたけど、実際日向子ともう二度と会えないのだと実感を持った瞬間堪えられなくなったらしい。でも、さすがに告白まではしてはいけないと分かっているから、せめてもの我が儘でほんの少しだけまだ一緒にいたいというお願いを聞いてもらっている、というのを、何故かアレス本人から聞かされた。
なんの間違いか、同じ四精獣と旅をした境遇同士プラスに同姓でさらに俺のが年上というのもあって相談相手にされていた。
いや良いけどさ。
そんなこんなであっという間に一月が経ってしまい、ついに日向子が帰る時が来たのだった。
良く晴れた日だった。
日向子は大切に保存していたという学生服に着替えていた。こんなところで学年服なんて違和感しかないが、向こうに戻ったら戻ったでこの服でないと不審者になってしまう。
そんな日向子になんとか書き上げた手紙を手渡した。
「では、よろしくお願いします」
手紙を日向子が受けとる。
「トキナリさん、この手紙を絶対に届けますから!いえ、むしろ私が直接受け渡します!」
「警察沙汰になるかもしれないからやめた方がいいと思う」
「え、なんで?」
俺の反応が予想外だったらしい。
いやいや、冷静に考えてみなさい。
「事情聴衆でややこしくなるじゃないか。ただでさえ記憶喪失作戦でいく気なんだろ?」
「そうでしたー!」
ちょっと抜けている日向子に託して大丈夫だろうかと少しだけ心配になったが、まぁ大丈夫だろうと思い直した。信じよう。どうか直接受け渡しませんように。
忘れ物は無いかと最終確認した日向子は、周りの人達に視線を向けた。
「それでは、皆さん。アレス」
アレスが泣きそうな顔で日向子を見つめている。
「アレス、今までありがとう。想いには答えてあげられなかったけど、私、嬉しかったよ」
「…ヒナ、どうか元の世界でも元気でいてくれ」
「うん。ありがとう。アレスも元気でね」
日向子は最後に空を見上げた。晴れ上がった空に向かって指輪の嵌まった手を翳す。
「そして、スズ。ありがとう。さようなら…」
日向子の体が炎に包まれて消えた。
元の世界へと、帰っていった。
あっという間だった。本当に帰れたのかを確める手段はないけど、帰れたと思う。
しばらく日向子のいたところを見ていれば、ターリャが声をかけてきた。
「トキ、私たちも帰ろう」
「そうだな。帰ろうか」
大声で泣いているアレスの方を向く。
「その前にアレスを慰めてやらないとな」
「そうだね。立ち直れると良いけど」
「それは本人次第だな」
日向子が帰って三日後、アレスは国に帰っていった。無事に任務を完了したことを報告しに行くらしい。
目元を腫らして鼻も赤かったけど、アレスはここでウジウジしてたら二人に笑われてしまうとしゃんと立ち上がった。
お互い旅衣装で最後の挨拶を交わす。
「お世話になりました。お二人も、どうかお気を付けて」
「ありがとう。アレスも道中気をつけてな」
「大丈夫ですよ、スズ様が頑張ってくれてますから、ドラゴンも妖魔もしばらくはおとなしくしてくれていますから」
「盗賊とかは?大人しくないと思うけど」
「ああ、そうだった。ありがとうございますターリャさん。しっかりと気を付けますね」
アレスを見送り、俺達もルティケニーマを後にした。
どんどんと山が小さくなっていく。そうして、遂には見えなくなった。
ルシーとゼウイが足取り軽く歩いていく。この二頭はあの後港町まで逃げていってきちんと保護されていた。賢い奴らだよ本当。
ルシーに跨がったターリャが思い切り伸びをした。
「んーっ!空気が軽いね!空もすごい高い!」
「女王が変わるとこうも違うんだな」
ターリャが治めていた時代は気温が低く、雨や霧が多かった。だけどその代わり水が豊富で、砂漠以外で水に困ったことはなかった。一方スズの治め始めた瞬間、全てが変わった。
気温は上がり、空には大きな入道雲が多く見られるようになり、緑が一気に増えた。
雨の降り方とかヤバイぞ。集中豪雨ばっかだ。
雨はターリャの時代のが良かったな。結構雨の温度冷たかったけど、まぁそれはそれで気持ちが良かった。
「服も変えないとね」
「確かにな。この装備だと暑くてしかたがない」
「トキ結構暑がりだもんねー!」
ターリャは、姿こそ変わらないが中身が大きく変わった。
まず精霊では無くなった。精霊部分は“願い”を叶えた瞬間に消えた。今はほとんど人間と変わり無い。勿論寿命だって人間と同じ速度に固定された。魔力なんかもこれ以上は増えなくなって、ドラゴンを食べることも出来なくなった。その代わり砂漠で謎の消耗をすることもなくなったらしいが。あれ、大変だったからな。
ああ、そうだ。日向子の持っていた弓はスズが女王になった時に消滅したけど、俺のこの盾はそのまま残った。ターリャ曰く、これは私の一部みたいなもので、私が死なない限りトキの元からは消えないよ、とのこと。まぁ、勿論こちらもこれ以上成長はしないみたいだけど、そんなのは些細なことだ。
ターリャが隣にいる、それだけで充分。
そういえば。
「ターリャ、聖域で俺に言い掛けた事があったろ?あれ、なんだ?」
「んー?なんだと思う?」
意地悪そうな笑みを浮かべてターリャが逆に質問してきた。
「なんだろうな。ホットケーキ食べたいとかか?」
「ちーがーうー!!あの状態で言う台詞じゃないでしょ!!」
わざと間違えたらターリャが眉間にシワを寄せて全力で否定してきた。
「じゃあなんだ?」
「もー、仕方ないなぁ。トキは鈍感だから教えてあげる」
ターリャがルシーをゼウイに寄せ、俺の綱を勝手に操作してゼウイを止めた。
なんだ?とされるがままに向き合うと、ターリャが口を開く。
「トキ、私は貴方の事を愛しています。どうかこれからも一緒に居てくれますか?」
風が吹いて、ターリャの髪をさらう。
俺はターリャを見詰め、ふ…、と小さく笑った。
「なに言っているんだ、ターリャ」
そんなの。
「当たり前だろ?俺だってお前の事を愛してるんだから」
だからこそ、俺は元の世界を捨ててこの世界を、ターリャを選んだのだから。
俺の言葉に固まったターリャの顔がみるみる内に真っ赤に染まっていく。ハクハクと小さく唇を動かし、声にならないようだった。
「ぅ……ぅぅ……」
ターリャは唸りながら次第にうつむき、一言。
「トキの癖にそんな言葉言えるなんて聞いてない…」
トキの癖にってどう言うことだよ。
あまりにもターリャの反応が面白くてしばらく眺めていたら、バッと顔をあげて俺の手を取った。顔がまだ赤い。
「精霊の愛は一途でしつこいんだからね!覚悟しておいてよ!!」
「ああ、そうするさ」
「絶対に離してあげないんだから!!」
「そうだな。歳を取って、しわくちゃになってしまったとしても、俺はずっとターリャの側に居よう」
二人でこの世界を生きていくんだ。
「これからもよろしくな、ターリャ」
うーん。スズとの落差が激しい。
そうして、代替えから早くも一月が経とうとしていた。
一月の間、俺はルティケニーマで治りきっていない傷を癒しながら、家族に宛てての手紙を書いた。こんなに余裕をもって書けたのは日向子さんが一月くらいはスズの女王様としての働きを目に焼き付けておかないと、ということでだ。とてもありがたかった。何せ日本語書くのが久方ぶり過ぎて、練習する時間が欲しかったから。
人間、書かなきゃ忘れるというのは本当である。
まぁ、それだけではなく、さらに言えばアレスの駄々もあったらしい。
俺が見た感じどこぞの貴族みたいな印象の青年は、どうやら日向子の事が好きらしい。だけど、いずれ帰る人だから引き留めてはいけないと踏みとどまってたけど、実際日向子ともう二度と会えないのだと実感を持った瞬間堪えられなくなったらしい。でも、さすがに告白まではしてはいけないと分かっているから、せめてもの我が儘でほんの少しだけまだ一緒にいたいというお願いを聞いてもらっている、というのを、何故かアレス本人から聞かされた。
なんの間違いか、同じ四精獣と旅をした境遇同士プラスに同姓でさらに俺のが年上というのもあって相談相手にされていた。
いや良いけどさ。
そんなこんなであっという間に一月が経ってしまい、ついに日向子が帰る時が来たのだった。
良く晴れた日だった。
日向子は大切に保存していたという学生服に着替えていた。こんなところで学年服なんて違和感しかないが、向こうに戻ったら戻ったでこの服でないと不審者になってしまう。
そんな日向子になんとか書き上げた手紙を手渡した。
「では、よろしくお願いします」
手紙を日向子が受けとる。
「トキナリさん、この手紙を絶対に届けますから!いえ、むしろ私が直接受け渡します!」
「警察沙汰になるかもしれないからやめた方がいいと思う」
「え、なんで?」
俺の反応が予想外だったらしい。
いやいや、冷静に考えてみなさい。
「事情聴衆でややこしくなるじゃないか。ただでさえ記憶喪失作戦でいく気なんだろ?」
「そうでしたー!」
ちょっと抜けている日向子に託して大丈夫だろうかと少しだけ心配になったが、まぁ大丈夫だろうと思い直した。信じよう。どうか直接受け渡しませんように。
忘れ物は無いかと最終確認した日向子は、周りの人達に視線を向けた。
「それでは、皆さん。アレス」
アレスが泣きそうな顔で日向子を見つめている。
「アレス、今までありがとう。想いには答えてあげられなかったけど、私、嬉しかったよ」
「…ヒナ、どうか元の世界でも元気でいてくれ」
「うん。ありがとう。アレスも元気でね」
日向子は最後に空を見上げた。晴れ上がった空に向かって指輪の嵌まった手を翳す。
「そして、スズ。ありがとう。さようなら…」
日向子の体が炎に包まれて消えた。
元の世界へと、帰っていった。
あっという間だった。本当に帰れたのかを確める手段はないけど、帰れたと思う。
しばらく日向子のいたところを見ていれば、ターリャが声をかけてきた。
「トキ、私たちも帰ろう」
「そうだな。帰ろうか」
大声で泣いているアレスの方を向く。
「その前にアレスを慰めてやらないとな」
「そうだね。立ち直れると良いけど」
「それは本人次第だな」
日向子が帰って三日後、アレスは国に帰っていった。無事に任務を完了したことを報告しに行くらしい。
目元を腫らして鼻も赤かったけど、アレスはここでウジウジしてたら二人に笑われてしまうとしゃんと立ち上がった。
お互い旅衣装で最後の挨拶を交わす。
「お世話になりました。お二人も、どうかお気を付けて」
「ありがとう。アレスも道中気をつけてな」
「大丈夫ですよ、スズ様が頑張ってくれてますから、ドラゴンも妖魔もしばらくはおとなしくしてくれていますから」
「盗賊とかは?大人しくないと思うけど」
「ああ、そうだった。ありがとうございますターリャさん。しっかりと気を付けますね」
アレスを見送り、俺達もルティケニーマを後にした。
どんどんと山が小さくなっていく。そうして、遂には見えなくなった。
ルシーとゼウイが足取り軽く歩いていく。この二頭はあの後港町まで逃げていってきちんと保護されていた。賢い奴らだよ本当。
ルシーに跨がったターリャが思い切り伸びをした。
「んーっ!空気が軽いね!空もすごい高い!」
「女王が変わるとこうも違うんだな」
ターリャが治めていた時代は気温が低く、雨や霧が多かった。だけどその代わり水が豊富で、砂漠以外で水に困ったことはなかった。一方スズの治め始めた瞬間、全てが変わった。
気温は上がり、空には大きな入道雲が多く見られるようになり、緑が一気に増えた。
雨の降り方とかヤバイぞ。集中豪雨ばっかだ。
雨はターリャの時代のが良かったな。結構雨の温度冷たかったけど、まぁそれはそれで気持ちが良かった。
「服も変えないとね」
「確かにな。この装備だと暑くてしかたがない」
「トキ結構暑がりだもんねー!」
ターリャは、姿こそ変わらないが中身が大きく変わった。
まず精霊では無くなった。精霊部分は“願い”を叶えた瞬間に消えた。今はほとんど人間と変わり無い。勿論寿命だって人間と同じ速度に固定された。魔力なんかもこれ以上は増えなくなって、ドラゴンを食べることも出来なくなった。その代わり砂漠で謎の消耗をすることもなくなったらしいが。あれ、大変だったからな。
ああ、そうだ。日向子の持っていた弓はスズが女王になった時に消滅したけど、俺のこの盾はそのまま残った。ターリャ曰く、これは私の一部みたいなもので、私が死なない限りトキの元からは消えないよ、とのこと。まぁ、勿論こちらもこれ以上成長はしないみたいだけど、そんなのは些細なことだ。
ターリャが隣にいる、それだけで充分。
そういえば。
「ターリャ、聖域で俺に言い掛けた事があったろ?あれ、なんだ?」
「んー?なんだと思う?」
意地悪そうな笑みを浮かべてターリャが逆に質問してきた。
「なんだろうな。ホットケーキ食べたいとかか?」
「ちーがーうー!!あの状態で言う台詞じゃないでしょ!!」
わざと間違えたらターリャが眉間にシワを寄せて全力で否定してきた。
「じゃあなんだ?」
「もー、仕方ないなぁ。トキは鈍感だから教えてあげる」
ターリャがルシーをゼウイに寄せ、俺の綱を勝手に操作してゼウイを止めた。
なんだ?とされるがままに向き合うと、ターリャが口を開く。
「トキ、私は貴方の事を愛しています。どうかこれからも一緒に居てくれますか?」
風が吹いて、ターリャの髪をさらう。
俺はターリャを見詰め、ふ…、と小さく笑った。
「なに言っているんだ、ターリャ」
そんなの。
「当たり前だろ?俺だってお前の事を愛してるんだから」
だからこそ、俺は元の世界を捨ててこの世界を、ターリャを選んだのだから。
俺の言葉に固まったターリャの顔がみるみる内に真っ赤に染まっていく。ハクハクと小さく唇を動かし、声にならないようだった。
「ぅ……ぅぅ……」
ターリャは唸りながら次第にうつむき、一言。
「トキの癖にそんな言葉言えるなんて聞いてない…」
トキの癖にってどう言うことだよ。
あまりにもターリャの反応が面白くてしばらく眺めていたら、バッと顔をあげて俺の手を取った。顔がまだ赤い。
「精霊の愛は一途でしつこいんだからね!覚悟しておいてよ!!」
「ああ、そうするさ」
「絶対に離してあげないんだから!!」
「そうだな。歳を取って、しわくちゃになってしまったとしても、俺はずっとターリャの側に居よう」
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「これからもよろしくな、ターリャ」
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