上 下
104 / 116
五章・五ツ星を目指しまして

『イクラート』

しおりを挟む
 リーンとスーグを見送って約一月をここで過ごし、ドラゴンを三体ほど狩るとこの辺りにはドラゴンの依頼が無くなってしまった。
 狩り尽くしたのか、危険を察知して移動してしまったのかは分からないが、それならもうここにいる理由もないので俺達も旅立つ事にした。

 ターリャの意見を交えて馬具の装飾が増えた。
 何でも、これから向かうイクラートで流行っているものらしい。

「この、鳥の羽が?」
「うん。鳥の羽が」

 見た目、インディアンなんだが。頭の飾りに羽がなくて良かったと思うべきか。
 まぁ、あんだけ熱心に勉強していたターリャだ。間違いは無いだろう。

 馬を走らせ二日ほどで国境へと辿り着いた。
 アイリスでは考えられないほどに国境の壁が低い。もはや塀だろうと突っ込みたくなるが、ウンドラとイイクラートは元々仲が良い。本来国境の壁すらも要らない程であるが、あくまでも形式的に設置しているに過ぎないのだと言う。
 羨ましいこって。

 国境を守る門番に冒険者カードを提示すればすぐに通される。
 僅かにだけど、空気が変わったような感じがした。

「最初の街は何処にいく?」
「そうだな。できるだけ最短距離をと考えているから、そのまま西の方に行こう」
「じゃあこのローカークニ?」
「そうだな」

 ターリャが広げるパンフレットをゼウイをルシーに寄せて覗き込むと、こちらもびっしり書き込みが。
 目が痛い。

「スーグのおすすめはこのあっさりヨーグルトだって」
「? 喧嘩する前の話しか?」
「この書き込み、リーンさんとスーグの二人でやってるの。こっちの可愛い文字がリーンさん。で、このちょっと汚い走り書きみたいなのがスーグ」
「……性格が出てるな」
「私これ見て文字綺麗にする練習してるの。人に見せるなら綺麗な文字のが良い」
「なるほど」

 道理で最近ターリャが床にペンほどの小枝で書き取り練習してたのか。てっきり魔法陣描く練習しているのかと思った。
 そういえば俺の文字は普通だと思ってたんだけど、いざ見返してみたら癖があるかもな。
 直してみるか。

 馬を歩かせ半日、森が見えてきた。
 ウンドラでは乾燥地帯が多いために砂漠や岩場、草原などが殆どだったが、ここ、イクラートは雨が多いからか森が多い。ジャングルまではいかないけれど、それなりに鬱蒼と繁っていた。
 思えばアイリスは乾燥しているけど霧が多いからウンドラよりは緑が多かったな。
 なんだろうなこの差。

「他には何があるんだ?」
「うーん、ミカンとかレモンとか、イチゴもある」
「果実系だな」
「凄い楽しみ。プリンあるかな?」
「ヨーグルトあるんだから、プリンくらいあるんじゃないか?」
「あったら良いな」

 プリンか。最近食べてないな。
 もし入ったお店にあったら俺も注文しよう。

 森の中にある整備された道を歩いていると、分かれ道。そこに看板が立っていた。

「この先真っ直ぐ『ローカークニ』。右は海、か。親切だな」
「親切だね」

 看板の案内通りに進んでいくと、木々の中に人工物が覗き見えてきた。
 木の枝には細長く裂かれた布が結び付けられていて、それが風で揺れている。なんだこれ。

「トキ、見えてきたよ」

 小川に掛けられた橋を渡り、すぐに街が見えてきた。

 石垣に囲まれた街だ。
 これがローカークニ街か。

 入口らしき所には鳥居に似た建造物が立っていて、七色に光る貝殻がたくさん下げられていた。

「門番の姿がないね」
「だな」

 ターリャが辺りを探しても門番らしき人の姿がない。
 しかも俺達と同じ旅人みたいな人が、何の手続きもしないまま中に入っていくのを見て、思わずターリャと顔を合わせた。

「もしかして門番いないのかな」
「見た感じそうみたいだけど、警備は大丈夫なのか?」

 他人事なのに心配になってくる。

「面白いね!もし違ったら素直に怒られよう」
「すごい前向きだな」

 ターリャに引っ張られるようにして門に向かい、そのままくぐる。
 何の問題もなく、すんなりと街の中に入れてしまった。

「おお…っ」

 街の様子を見て俺は思わず感動してしまった。
 見渡す限りほぼ獣人。しかも犬猫狐にたまにタヌキも混じっている毛者族と呼ばれる獣人達だった。
 そんな獣人達が寄ってらっしゃい見てらっしゃいと景気良く商いに励んでいた。

「毛色違うスーグに似たのもいる」
「虎毛の猫の獣人かな。さすがに爬虫類系はいないか」
「よし!先に宿見つけて、プリン探しにいこ!お腹すいた!」
「そうだな。まずは腹ごしらえだ」






 プリンは無かったが、プリンに似た蒸し卵を見つけた。

 蒸し卵とヨーグルトをペロリと平らげて満足したらしいターリャがお腹を撫でながら「はー、満足満足」と幸せそうな顔で言っていた。
 改めてもう一度観察してみるが、やはり獣人が多い。八割獣人だ。
 なるほど、ウンドラとイクラートが仲が良いわけだ。

 アイリスとは絶対に反りが合わないだろうな。確実にまた戦争が起きる。

「次に何処にいく?」
「まずはギルドを確認したい。そっから滞在するかを考える」

 小さいなら補充で止めて、大きいもう少し大きい街に行く。
 これは経験談だけど、規模の大きいギルドはやはり大きな街にあるし、そのギルドの方がドラゴンの依頼が多く受けられる。

「そうだね!そうしよう!」

 果実水を飲み干し、店を出た。

 通りは人の通りが多い。はぐれないようにしないとな。
 近くの露店の人にギルドの場所を教えてもらい、ギルドへ向かう。目印は大きな鐘のある塔らしい。
 上を指差されながら説明され、言われた通りに上を見上げるとすぐに塔らしきものが見付かった。
 見た感じ大きそうで期待が高まる。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
 事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。  そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。 「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」  神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。  露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。  やりたいことをやって好き勝手に生きていく。  なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。  人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。

拝啓、無人島でスローライフはじめました

うみ
ファンタジー
病弱な青年ビャクヤは点滴を受けに病院にいたはず……だった。 突然、砂浜に転移した彼は混乱するものの、自分が健康体になっていることが分かる。 ここは絶海の孤島で、小屋と井戸があったが他には三冊の本と竹竿、寝そべるカピバラしかいなかった。 喰うに困らぬ採集と釣りの特性、ささやかな道具が手に入るデイリーガチャ、ちょっとしたものが自作できるクラフトの力を使い島で生活をしていくビャクヤ。 強烈なチートもなく、たった一人であるが、ビャクヤは無人島生活を満喫していた。 そんな折、釣りをしていると貝殻に紐を通した人工物を発見する。 自分だけじゃなく、他にも人間がいるかもしれない! と喜んだ彼だったが、貝殻は人魚のブラジャーだった。 地味ながらも着々と島での生活を整えていくのんびりとした物語。実は島に秘密があり――。 ※ざまあ展開、ストレス展開はありません。 ※全部で31話と短めで完結いたします。完結まで書けておりますので完結保障です。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

処理中です...