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四章・四精獣を知りまして

『ナイスだドラゴン!!』

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「バカじゃねーのかアイツら!!!」

 ルシーを全速力で走らせている。
 理由は後ろの連中だ。

 よりにもよってルシーを移動させているのを見られてしまっていたらしい。
 せっかく恥ずかしい思いして口止めしたのに意味がなかった苛立ちから、ルシーをさらに加速させた。

「トキー。みんなすごい顔してるよ」
「ターリャ!よそ見していないでしっかり掴まっていなさい!」
「はーい」

 俺の体を背もたれに後ろをうかがっていたターリャが姿勢をただした。
 こうなったら仕方がない。
 しばらくはどっかの村にでも身を潜めておこうと思ったんだけど作戦変更だ!

「ちっ、ターリャ、さらに加速するぞ!!」
「お、うん!」

 グンッ!と体にGが掛かる。
 ルシーはガンガン加速していく。

 最近知ったことだが、ルシーは足腰がとても強い馬種だった。
 それが山登りで筋力が上がり、並の馬なんか軽く引き離すくらいの足を手に入れた。
 だが、後ろの連中もなかなかしつこい。
 微妙に引き離されながらもまだ追ってくる。
 こうなったらターリャに頼んで地面を濡らしてもらうか?
 いや、それだと何の罪もない馬が犠牲になる恐れがある。

「あ! トキやばい!上だよ!!」
「!!?」

 ゾワリと変な感覚がして、上を向くと奴と目があった。

 ドラゴンである。
 しかもちょっとデカイ。

 え、なんでこんなタイミング??

 唖然とした俺をよそにドラゴンが急降下してきた。
 おいおいおいおい!嘘だろ止めてくれよ!!
 こんなどうしようもない時に来るんじゃねーよ!!

 頭がフル回転してどう切り抜けるか考えたところでどうにもならないと答えを叩き出してしまった瞬間、ドラゴンが咆哮した。
 その瞬間、後ろから馬の嘶きと悲鳴が上がる。
 ん?もしやこれチャンスか??

 ドラゴンが迫っているのにも関わらず一瞬後ろを見てみたら、後ろの連中が馬から放り出されながらも全力で逃げ出していた。

 前を向く。
 ナイスだドラゴン!!

 低空飛行で迫ってきたドラゴンをルシーが回避する。

 こいつもヤバイよな。
 咆哮にビビる事もなく、更には回避までしてくれる。
 キアハと言い勝負じゃないか??

 後ろで方向転換しているドラゴンを確認しながら進路を確認した。

 どうせあのドラゴンは俺たちを追いかけてくるだろう。
 よし、このまま引き連れて逃げるか!

 グオーグオーとなかなか止まらない俺達に痺れを切らし始めたドラゴンがタンキングを始めた。
 こんな、飛んでいる最中でもいけるのか。

「ターリャ!後ろに水の塊出せるか!?」
「!! 任せてよ!」

 ターリャが手をドラゴンに向けて今までで最大の水の塊を生成した。

 次の瞬間、ドラゴンが炎の塊を吐き出してターリャの水に衝突。
 もうもうと凄まじい水蒸気を生み出した。

「いまだ!!」

 ポケットから万が一にと購入して持っていた対竜種催涙弾(改造済み)を取り出してドラゴンに向かって発砲した。
 手のひらほど収まるくらいの大きさの単発銃の中にある弾にはたっぷりと唐辛子とミントエキスを粉末にしたものが詰まっている。
 殺傷力はほとんどないが、対象や地面にぶつかると衝撃で粉を撒き散らす仕組みになっている。(ガンナー用回復薬弾の仕掛けと同じ)

 俺の撃った弾がうっすらと見える影に直撃し、さらに靄が広がった。
 ドラゴンが聞いたこともない声をあげて転げ回っていた。
 まさか唐辛子も効くとはな、これからこのお手製催涙弾も活用してやる。
 ヒヒヒヒヒ。

「トキの顔怖い」

 ターリャに引かれながらも俺はルンルン気分でルシーを飛ばした。










 ようやく自分の馬に辿り着いたときには、既にクジャーダは疲労困憊だった。
 ふざけんなよあの盾野郎…なんつー機動力してやがんだ……っ。

「フヒィーッ!フヒィーッ!ヒューッッ!」

 くそっ!喉から変な音がしやがる!
 汗も止まらねぇーし足も爆笑してやがる!!

「リーダァァァ……」

 フラフラヨロヨロしながら仲間達がやってきた。
 馬はドラゴンの咆哮で絶えず啼きながら逃げ出そうとしている。
 それを懸命に宥めながら、先ほどの光景を思い返していた。

 まさかこんな首都近くでドラゴンに遭遇するとは思わなかった……。
 遠かったからちゃんと見てないが、かなりでかくなかったか??

 仲間も膝が笑っているらしい。
 歩き方が生まれたての子馬だった。

「おまえら、無事だったか……」

 息切れしたまま仲間が言う。

「見失いましたわぁ……反則ですわあんなん……」
「俺死んだかと思った…」
「…………」

 ドラゴンの咆哮ですっかり戦意が削がれてしまった。
 今さら追いかけたところでもう間に合うまい。
 下手したらまたあのドラゴンに鉢合わせするかもしれない。
 なら、おとなしく首都に戻ってギルドに報告する方が懸命だろう。

「一旦戻って態勢を整えるぞ…」
「「おー……!」」







 森の中でようやくルシーを止めた。
 ああ、癒される。

「しばらくここで休憩??」
「そうだな。さっきの連中の事も気になるし、3日は森の中で過ごそう」
「よーし!獲物捕まえてくるね!」

 ルシーから降りて意気揚々と獲物を探し始めるターリャを見て、俺は思った。
 確実に俺に染まってきてるな。
 良いのかな、これ。
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