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二章・二人旅といきまして

『ターリャとトキと』

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 ポツリポツリと雨が降って来ていた。

「~♪」

 心地よい雨の音を聞きながらトキから借りた本で勉強をする。
 三日間一人なのは寂しいけど、子供じゃないんだから一人でも大丈夫。
 お菓子もまだあるし、本を読んでいれば時間なんてすぐに経っちゃう。

「帰ってきたときに驚かせてやるんだー」

 全部の音文字を書けるようになって、お店のメニューを一人で読めるようになったら、きっとビックリするはず。
 現にもう少しで全部スラスラ読めるようになる。

「ふふふっ」

 通り雨はもうすぐ上がる。
 そうしたら空気の入れ換えをして、早めに眠ろう。
 トキが朝早い方が頭に入るって言ってたから、その為に早く寝るんだ。

 ── コンコン

「!」

 ノックが聞こえた。

 聞き間違えかなと、音が聞こえた扉の方に目を向けると、またコンコンと音。

「……」

 トキが帰ってくるのは明日の昼だ。
 それに、トキが帰ってきたのなら声を掛けるはず。

 誰だろう。
 宿主さんかも。
 でも、今はトキがいないから開けちゃダメ。

 息を殺していなくなるのを待つ。

 大丈夫。
 怖い妖魔に遭遇したときと同じようにすれば大丈夫。

 扉の前でボソボソ話す声が聞こえる。
 何を話しているのかは分からないけど、絶対にトキの声じゃないのは分かった。

 ──ィィィィ……ンン……

「?」

 耳鳴りが。

 ガチャンと、鍵が勝手に開いた。

「!!」

 え!?なんで!!?なんで!!??
 混乱しながら立ち上がった。

 どうしようと、頭が真っ白になりながら隠れなきゃと視線をベッドに滑らせると、扉が開き男が現れた。
 黒ずくめの長身の男。フードを目深く被りカラスのマスクまでしている。

「ひっ…!」

 怖い!!!

 体が勝手に震え出して立ち竦む。
 逃げなきゃ、逃げなきゃ逃げなきゃ!!!

 手が何かに当たって、地面に落ちた。
 ばさりと、本が地面に落ちた。

 その音で我に返り、窓から外に逃げようと男に背を向けようとした瞬間、窓からも別の男が入り込んできた。

「!!!」

 慌てて方向転換して、どうにか廊下に出られないかと逃げ回っている最中、腕を掴まれた。

「離して!!!離してええ!!!むぐっ!?」

 あっという間に拘束されて、目の前にオレンジ色に光る石を垂らされる。
 良い匂いのするその石がだんだんボヤけて…。
 視界は暗く染まっていく…。








 アウレロがすぐさま馬の貸し出しの手続きをしてくれた。
 おまけに内密に捜索依頼も。
 警備隊ではなく、ギルドの方で申請し、かつそれをアウレロ達が引き受けた。
 これで宿主の家族に被害は行かないだろうし、アウレロも捜索に参加して貰えることになった。

「一応、僕たちは街中のそれらしい所を回ってみます。トキさんは単独…ですよね」

 頷く。

 あまり大勢で動くと目立つし、向こうは俺の顔を知っている可能性が高い。

「では、こちらを貸します」
「これは?」

 見た目は太めの指輪。

「これはパーティー内の通信機になってまして、こう、人差し指を耳に当てると通話できます。特定の人に電話することはできないですけど、便利ですよ」
「要は無線か。……便利だな」

 元の世界の無線もこれがよかったな。
 人差し指に嵌めると、自動的に大きさを調整してくれた。
 便利だな!

「トキさァん!馬の準備出来ましたよ!!」

 ウージョンカが入口から呼び掛けてくれた。
 その頃には少し落ち着いていて、やるべき事を理解した。
 いまだに怒り狂ってはいるが。

 アウレロにお礼を言ってからウージョンカの元へ急いだ。

 移動の最中、装備を変えた。
 最近新しく仕立てたマントに変え、フードを深く被った。
 盾も小さくして隠し、代わりにターリャとの訓練で使っていた模造剣を腰に差しておく。
 これで、初擊はいけるはず。

「おお…」

 馬具を装備された立派な馬だった。

「すごいですね、トキさん。馬も乗れるなんて」
「乗れない」
「え」

 ウージョンカが固まった。

 手綱を片手に、アブミに足を引っ掛ける。

「けど、乗らないと間に合わない」
「????」

 意味不明と頭上にはてなを飛ばしているウージョンカを無視して、一気に騎乗した。

「え!?乗れない!??ちょっ!それじゃ危な──」
「ヤッ!!」

 馬の腹を軽く蹴る。
 嘶きと共に竿立ちになった馬は、着地の勢いを使って一気に駆け出した。

「ト、トキさァァァんんん!!!!」






■■■





「ぐふっ、ぐふふっ」
 
 小太りの男が含み笑う。
 
「遂に手に入れたぞ…、ぶふっ、ぐふふっ」
 
 部屋の中には黒髪の少女の姿が写っていた。
 そのどれもが水着姿のものばかり。
 海を背景に笑顔を見せる少女は可憐で愛くるしかった。
 だけど、その少女には一つ、秘密があった。
 
 小さく手触りの良さそうなお尻から伸びる蛇のような尻尾。
 そして、つるんとシミ一つ無いおでこには鱗。
 
 そう、写真の少女は獣人だった。
 それも希少な爬虫類系の獣人。
 
 もちろん爬虫類系の獣人はいないことはない。
 例えばリザードマン。
 あれは良くない。
 人間味が足りない。
 
 ならばドラゴニュートはどうだ?
 
 いいや、あいつらは地上に降りてこない。
 
 だがあれはどうだ?
 愛らしい少女の姿に爬虫類要素は素晴らしい!
 近くにいるゴミを始末して手に入れる策は有りはしたが。
 
「……」
 
 まぁ、無理だろうな。
 ゴードヴォンド一人で止めたし。
 しかも吹っ飛ばしたし。
 精々写真の奴をナイフで切り裂くくらいしか出来ん。
 
 だが、なんということだろう!
 好機はこちらに回ってきた!
 
 ウナンズから追ってこのシーラへやってきて、下僕どもに張り付かせていたら、3日も少女から離れるというじゃないか!
 すぐさま奴隷商人と交渉して拐い屋を雇った。
 あいつらはプロだ。
 失敗などするわけ無い。
 
 任務成功の届けが来た時なんか興奮して一人で何度も致したもんだ。
 今だって興奮が収まったわけでもない。
 
「素敵な部屋も明日には完成するし、後は馬車で運んで、密航で……、ぐふっ。よだれが止まらん……」
 
 もし、万が一に野郎が追ってきたとしても問題はない。
 盾職一人、殺し屋のプロを数人雇っておいた。
 
 ワインを目の前の写真に掲げる。
 
「さぁ、早く来たまえ…。ワシのかわいい蜥蜴ちゃん…っ!」
 
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