84 / 100
五章 聖地の守護者
85話
しおりを挟む
日の出。暗い夜が明けて地平線の向こう側から太陽が昇り始める。
そして、それと同時にエルグランドの街も目覚めを迎える。
街中の教会の鐘が鳴り響き、朝焼けの空に美しい音色を奏でるのだ。
敬虔な信者達は鐘の音と共に目覚め、そしてすぐに支度を整えると二度目の鐘が鳴る前に教会へと足を運ぶ。
その人混みの中、すぐ隣を歩く黒髪の少女――変装したビャクヤは自分の姿を眺めてから、首を傾げた。
「いくら我輩でも分かるぞ。 目立っていないか?」
「まぁ、この街の人間からしたらすぐによそ者だって分かるだろうな。 服装だけはそれっぽくしたが……。」
魔素の入った盃を発見した翌日、俺達はこの街で流通している衣服に袖を通してレノシア教会へ再び足を運んでいた。
目的は当然、信者たちの集会に紛れ込むこと。
いや、紛れ込むことだったと言うべきだろうか。
「どう見ても浮いてるわよ。 無駄な抵抗はやめて、集会に集中しなさい」
俺達は見事なほどに周囲に溶け込むことに失敗していた。
黒髪のビャクヤに金髪のアリアは否が応でも目を引く。
双方ともに美しい相貌も、注目を集める原因となっているのだろう。
どうしても目を引く二人を連れているお陰で、密かに集会に入り込むという作戦は失敗した。
唐突に異国の情緒溢れる二人組が集会に参加すれば目立つことになる。
この後の作戦を考えれば、ここで目立つマネはどうしても避けるべきだろ。
結局、俺達は教会の外から内部の集会の様子を窺うにとどまった。
とは言え全面の扉を開けているため教会内部を見るには不便はない。
道の向かい側で集会の様子を見ていたが、特に変わった様子もなかった。
そして二つ目の鐘の音が街中に響き渡り、祈りの時間が始まった。
街中が静まり返り、そして神への祈りを捧げる。
その瞬間だけは、神が本当に存在するのではないか。
そんなことを考えさせるだけの神聖性が、街を覆いつくしていた。
◆
祈りの時間が終わり、神官の話が終わると、集会が終わり信者たちは帰路へ付く。
三つ目の鐘の音が響く頃には、集会は拍子抜けなほどなにもなく終わりを告げた。
中の様子を窺っていた限りでは、まったくと言っていいほど違和感は感じなかった。
以前、聖女ティエレと共に訪れた聖道教会の集会とさほど変わらない。
帰路につく人々の表情も晴れやかだ。
「至って普通の集会だったな。 神官も、見た感じは普通の神職者だ」
「それに結局、あの盃は使わなかったわね」
「だがあの場所に魔素があった事は確実。 確かめない訳にもいくまい。 アリア、人形はどうなっている?」
「準備万端よ。 逃げられそうな通路や窓は全て守らせてるわ」
「なら行くとするか」
集会が終わり、人気がなくなった教会へと足を踏み入れる。
先ほどまで灯されていたロウソクからは煙が立ち上り、室内には未だ信者たちの熱気が籠っているように感じた。
周囲を見渡せば奥の部屋へ入っていく神官の後姿が目に入る。
怪しまれない程度の速度でそれに続いていけば、神官は例の地下室へと入っていった。
視線を合わせてビャクヤとアリアに目くばせをすると、時間を空けて地下室の扉を叩く。
「すまない。 ここの教会の関係者に話を伺いたいんだが」
「誰だ?」
「流れの冒険者だ。 エルグランドの教義を聞いて興味を持ってな。 できれば詳しく話を聞きたいんだ」
即興にしては相当に筋の通った理由、のはずだ
いや、露骨過ぎたか。
少しばかり不安になって視線を背後に向ける。
「さすがに白々しいか?」
「いえ、感心したわ。 そんなすらすらと嘘が出てくるなんて、詐欺師の才能があるわね」
褒めているのか貶しているのか。恐らくは両方だろう。
再び視線を扉へ向けるが、開く気配は全く持ってしない。
それどころか先ほどの神官の声すら返ってこない。
もう一度だけ扉をノックしようとして、それをビャクヤが制止した。
「待つのだ。 中で物音がする」
そう言ってビャクヤは扉に耳を押し当てる。
角が扉にあたって相当な音を立てているが、そこは目を瞑ろう。
数秒の後、ビャクヤは背中に背負っていた薙刀を片手に、扉に足を押し当てた。
「それも、複数人の足音だ! 武装しているぞ!」
「ビャクヤ、扉を破れ!」
その瞬間、ビャクヤの一撃で木と鉄で出来た扉が弾け飛んだ。
凄まじい勢いで扉が吹き飛び、続けざまにビャクヤも中へ飛び込む。
「全員、動くな! 我輩の薙刀は手加減を知らぬぞ!」
昨日見た限り、地下室は余り広い空間ではない。
相手を制圧するのであれば、ビャクヤが入るのが最も適している。
俺も部屋の入口で剣を抜いて室内を見渡す。
するとそこには――
「どうも神職者の集会って訳じゃなさそうだな」
重武装をした兵士達が、武器を抜き放って待ち構えていた。
明らかに神に使える者という風貌ではない。
神官の男はと言えば、俺達が来ることを知っていたかのように、兵士達に守られていた。
「情報にあった、俺達を嗅ぎまわってる冒険者だ。 三人とも殺せ」
神官の言葉と同時に、兵士達が一斉に動き出す。
しかし部屋に飛び込んだビャクヤはそれを望んでいたかのように、あえて兵士の中へ突っ込む。
もはや相手は袋のネズミだ。手加減をしないと決めたのか、ビャクヤは魔道具を解除して、本来の姿を表す。
「ほう、我輩を殺すか? 面白い! やって見せるといい!」
そして、それと同時にエルグランドの街も目覚めを迎える。
街中の教会の鐘が鳴り響き、朝焼けの空に美しい音色を奏でるのだ。
敬虔な信者達は鐘の音と共に目覚め、そしてすぐに支度を整えると二度目の鐘が鳴る前に教会へと足を運ぶ。
その人混みの中、すぐ隣を歩く黒髪の少女――変装したビャクヤは自分の姿を眺めてから、首を傾げた。
「いくら我輩でも分かるぞ。 目立っていないか?」
「まぁ、この街の人間からしたらすぐによそ者だって分かるだろうな。 服装だけはそれっぽくしたが……。」
魔素の入った盃を発見した翌日、俺達はこの街で流通している衣服に袖を通してレノシア教会へ再び足を運んでいた。
目的は当然、信者たちの集会に紛れ込むこと。
いや、紛れ込むことだったと言うべきだろうか。
「どう見ても浮いてるわよ。 無駄な抵抗はやめて、集会に集中しなさい」
俺達は見事なほどに周囲に溶け込むことに失敗していた。
黒髪のビャクヤに金髪のアリアは否が応でも目を引く。
双方ともに美しい相貌も、注目を集める原因となっているのだろう。
どうしても目を引く二人を連れているお陰で、密かに集会に入り込むという作戦は失敗した。
唐突に異国の情緒溢れる二人組が集会に参加すれば目立つことになる。
この後の作戦を考えれば、ここで目立つマネはどうしても避けるべきだろ。
結局、俺達は教会の外から内部の集会の様子を窺うにとどまった。
とは言え全面の扉を開けているため教会内部を見るには不便はない。
道の向かい側で集会の様子を見ていたが、特に変わった様子もなかった。
そして二つ目の鐘の音が街中に響き渡り、祈りの時間が始まった。
街中が静まり返り、そして神への祈りを捧げる。
その瞬間だけは、神が本当に存在するのではないか。
そんなことを考えさせるだけの神聖性が、街を覆いつくしていた。
◆
祈りの時間が終わり、神官の話が終わると、集会が終わり信者たちは帰路へ付く。
三つ目の鐘の音が響く頃には、集会は拍子抜けなほどなにもなく終わりを告げた。
中の様子を窺っていた限りでは、まったくと言っていいほど違和感は感じなかった。
以前、聖女ティエレと共に訪れた聖道教会の集会とさほど変わらない。
帰路につく人々の表情も晴れやかだ。
「至って普通の集会だったな。 神官も、見た感じは普通の神職者だ」
「それに結局、あの盃は使わなかったわね」
「だがあの場所に魔素があった事は確実。 確かめない訳にもいくまい。 アリア、人形はどうなっている?」
「準備万端よ。 逃げられそうな通路や窓は全て守らせてるわ」
「なら行くとするか」
集会が終わり、人気がなくなった教会へと足を踏み入れる。
先ほどまで灯されていたロウソクからは煙が立ち上り、室内には未だ信者たちの熱気が籠っているように感じた。
周囲を見渡せば奥の部屋へ入っていく神官の後姿が目に入る。
怪しまれない程度の速度でそれに続いていけば、神官は例の地下室へと入っていった。
視線を合わせてビャクヤとアリアに目くばせをすると、時間を空けて地下室の扉を叩く。
「すまない。 ここの教会の関係者に話を伺いたいんだが」
「誰だ?」
「流れの冒険者だ。 エルグランドの教義を聞いて興味を持ってな。 できれば詳しく話を聞きたいんだ」
即興にしては相当に筋の通った理由、のはずだ
いや、露骨過ぎたか。
少しばかり不安になって視線を背後に向ける。
「さすがに白々しいか?」
「いえ、感心したわ。 そんなすらすらと嘘が出てくるなんて、詐欺師の才能があるわね」
褒めているのか貶しているのか。恐らくは両方だろう。
再び視線を扉へ向けるが、開く気配は全く持ってしない。
それどころか先ほどの神官の声すら返ってこない。
もう一度だけ扉をノックしようとして、それをビャクヤが制止した。
「待つのだ。 中で物音がする」
そう言ってビャクヤは扉に耳を押し当てる。
角が扉にあたって相当な音を立てているが、そこは目を瞑ろう。
数秒の後、ビャクヤは背中に背負っていた薙刀を片手に、扉に足を押し当てた。
「それも、複数人の足音だ! 武装しているぞ!」
「ビャクヤ、扉を破れ!」
その瞬間、ビャクヤの一撃で木と鉄で出来た扉が弾け飛んだ。
凄まじい勢いで扉が吹き飛び、続けざまにビャクヤも中へ飛び込む。
「全員、動くな! 我輩の薙刀は手加減を知らぬぞ!」
昨日見た限り、地下室は余り広い空間ではない。
相手を制圧するのであれば、ビャクヤが入るのが最も適している。
俺も部屋の入口で剣を抜いて室内を見渡す。
するとそこには――
「どうも神職者の集会って訳じゃなさそうだな」
重武装をした兵士達が、武器を抜き放って待ち構えていた。
明らかに神に使える者という風貌ではない。
神官の男はと言えば、俺達が来ることを知っていたかのように、兵士達に守られていた。
「情報にあった、俺達を嗅ぎまわってる冒険者だ。 三人とも殺せ」
神官の言葉と同時に、兵士達が一斉に動き出す。
しかし部屋に飛び込んだビャクヤはそれを望んでいたかのように、あえて兵士の中へ突っ込む。
もはや相手は袋のネズミだ。手加減をしないと決めたのか、ビャクヤは魔道具を解除して、本来の姿を表す。
「ほう、我輩を殺すか? 面白い! やって見せるといい!」
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる