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第5章 不穏の幕開け

第12話 王都のギルドへ

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 「テオン君、紹介するよ。彼がうちの稼ぎ頭、王都でも指折りのSランク冒険者の一人。『竜殺し』アスト・ミリオーネだ」

 ハロルドの目線の先には見覚えのある美男子、10年前にアルト村を飛び出して冒険者になったアストがいたのだった。

 「バーサク状態のラストドンを瞬殺したって男は君かい?早速街で話題になってるよ……ん?」

 目の前までやって来て、アストは僕の顔を覗き込む。5歳のとき以来だから流石に気付かれないかと思ったのだが、もしかして……。

 「お前確か……」「あーーーっ!!!」

 そのときアデルの声が響いてきた。見ると店の入り口で突っ立っていたララの横をすり抜け、彼が駆け出していた。

 「アストさん!!お久しぶりです!アストさんだ!アストさんだ!!」

 彼は興奮に任せて叫び飛び回っていた。

 「ん?お前はあのときの坊主か?全然変わってねえな」

 「だから僕は坊主じゃありません!!……えへへ。まさかまたこのやり取りが出来るなんて」

 アデルの顔はすっかりでれでれになって緩みきっていた。

 「アデル、アストと知り合いだったn」「アスト!?アストさんのことを呼び捨てにするなんて、失礼だよテオン!!」

 食い気味に怒られた。

 「やっぱりお前テオンか!いやあ大きくなったなあ。俺のこと覚えてるか?」

 「勿論だよ!全然連絡なかったから皆心配してたんだよ?」

 「ああ……それは悪かったよ。アルト村まで帰るの面倒だし、それなりに噂でも流れてるかなあと思ってたんだ」

 「アストって有名人なんだよね?」

 昔、初めてキューがアルト村に来たときを思い出す。冒険者として活躍するアストの話を、胸を高鳴らせて聞いた覚えがある。あの頃は……いや、考えるのはよそう。

 「有名人なんてものじゃないよ!アストさんはS級冒険者。英雄級と認められた凄い人なんだから!!あの長剣に憧れて僕は何年も武者修行をしてきたんだよ」

 アデルの興奮は未だに収まらない。

 「ねえねえ、私は?」

 ララも歩み寄ってくる。

 「お、よくハナと遊んでたララだろ?お前も村を出てきたのか。ああ、剛弓のお嬢ちゃんってお前か!!あはは、二人揃って早くも有名冒険者の仲間入りだな」

 「えっ!?私のことも噂になってるの?剣は使ってないから目立たないかと思ったのに……」

 「お二人ともアストさんと同じ村出身だなんて、羨ましい限りだよ」

 アデルの溜め息。それと重ねるようにしてハロルドも溜め息をつく。

 「アストが来るとあっという間に俺の存在感が消えちまうな。それで?俺らのパーティに入りたくはないか?そっちのお嬢ちゃんも歓迎だぜ?」

 「な!?テオンまさか『竜頭龍尾』に誘われてたのか?何て羨ましい……。僕が代わりにOKします!是非二人をアストさんのような立派な冒険者に鍛え上げて下さい」

 「いや何でアデルが答えてんの!しかも私まで!!私、冒険者じゃないんだけど」

 「え!?何で?」

 「何でって言われても……私は冒険者にならなくても狩りで生きていけるし」

 「お嬢ちゃん……まじか……」

 ララの言葉にハロルドが引いている。平野の真っ只中で文明的な暮らしをしている王都の者には、森の中での狩猟採集生活というのは想像がつかないのかもしれない。

 「そうか……そもそも冒険者じゃねえのか。ここで登録してってもいいけど、強制するもんじゃねえからな。それより時間がないんだ。テオン、その気があるなら一緒に来てくれ」

 正直まだどうしようか決まらないが、アストのパーティに入るのはありだ。ポエトロの町のエミルの顔が過る。彼は冒険者パーティ『花園の妖精ガーデンフェアリー』の若きリーダーである。パーティとしての誇りを大切にしている奴だった。

 「ところで『竜頭龍尾』って何人くらいいるの?」

 タメ口が抜けない。小さい頃に会った記憶が蘇って、子供のような口調になってしまう。

 「今12人だ。花形のパーティとしては少ない方だな」

 『花園の妖精ガーデンフェアリー』は2人だけ。規模の違いを感じてしまう。

 「それだけいると合わない人もいるかもなあ。1度会ってみてから決めたいや」

 人見知りな方ではないが、ずっと所属していくことを考えたら、やはり慎重に決めるべきだと思うのだ。

 「そうか。それならまずギルドで挨拶しねえとな。今すぐ行けるか?」

 「え、今すぐ?後でギルドに行く予定なんだけど、そのときじゃダメ?」

 今はフィリップの時計復活が気になっているところ。それにレナとも合流しなくては。勝手に動くわけにもいかない。でも……。

 『王都の冒険者ギルドかあ……。どんなところなのかな?大きいかな?凄い冒険者たくさんいるんだろうね。強い人いるかなー?そんなことを考えてるんでしょ?』

 頭の中でライトがからかってくる。こいつに顔があれば、ニヤニヤして覗き込んできているに違いない。

 「ふふふ。テオン、気になるんでしょ?早くギルドに行きたいって顔してるよ?」

 「えっ!?」

 ララがニヤニヤして覗き込んできていた。そんなに顔に出ていたのか。

 「いいよ。レナには私が伝えておくから、行っておいでよ!」

 「ララ……。ありがとう、僕行ってくるよ!」

 「じゃあルーミの用事が終わったらみんなギルドに向かうね!」

 「話は纏まったか?レナって道具魔術師アイテムマジシャンのレナだよな?それなら場所は大丈夫だな。よし、テオン行こうか」

 アストはそう言うと住宅街の方へと歩き出した。

 「あれ?表通りに戻るんじゃないの?アストも向こうから来てたよね?」

 「こっちの方が近道なんだ」

 「あの!……僕も付いていっていいですか?」

 アデルがアストの背中に問いかける。

 「おう、勝手にしなよ坊主。修行したって剣の腕も少し見てやろうじゃねえか」

 「やったー!アストさん、これからも付いていきます!!」

 こうして僕らは王都の冒険者ギルドへと向かうことになったのだった。

 そのすぐ後、表通りから新たな足音がクレイス修理店を訪れるとは夢にも思っていなかった。




 「システム補助スキル?」

 「ああ、スキルと一口に言ってもな。世の中には大きく分けて二種類のスキルがあると言われているんだ」

 僕らはクレイス修理店を出た後、真っ直ぐ東へ向かっていた。先頭を歩くアスト。その後ろを僕とハロルド。そしてアデルとヒルディスが続いていた。

 ヒルディスは子供が好きらしく、少年のような見た目のアデルを気に入ったらしい。彼は僕より10個も上なのだが……ということは、アデルがアストと出会ったのも大体僕と同じくらいの歳だったのだろうか。

 「お前が使っているような、レベルシステムの補助がなくても発動するスキルをオリジナルスキルという。実践で使えるレベルになるのはほんの一握りしかいないから、一般的にはおまけの才能のように扱われている」

 オリジナルスキル……。レベルシステムが無くても存在していた、元々のスキルと言うことだろうか。

 「一方でサポートシステムによって獲得し、経験値を得て強くなっていくスキルがシステム補助スキル。王国の戦力を底上げすることになった革新的なスキルだ。努力の継続で確実に誰もが強くなれ、その限界は無いと言われている。今時、これを鍛えない冒険者はいないくらいだ」

 努力で強くなるスキル……それは普通そうなのではないか?僕の光の力もそうだ。獲得してから今まで、前世も現世も合わせてずっと鍛えてきた。

 「ああ、お前今こう思ったろう。オリスキルだって鍛えられる、と。それはそもそも伸び代があるスキルに限ったことなんだ。だけど補助スキルは違う。誰にでも平等に、無限の可能性が与えられているんだ。誰だって必ず強くなれる。強いスキルを使いこなす英雄になれる。それがこの時代なのさ」

 ハロルドの話はサポートシステムを讃えるような内容だ。だが、どこか暗いものを感じる。

 「俺はずっとそう信じてきた。そう信じ込まされて育ってきたんだ。だけどな、出会っちまったんだ。本物にな……」

 彼の顔が上がり、前を歩くアストの背中を捉える。

 「なあ、お前が俺の矛盾撞着コントラストライクを破った技、何て言うんだ?」

 「え?」

 「技の名前だよ。名前」

 「いや、そんなものは考えてないけど……」

 そう答えた途端、彼は溜め息を吐いて首を横に振る。

 「ほら出たよ」

 「どういうこと?」

 「補助スキルはな、必ずその名前と一緒に獲得するものなんだ。その名前を言うか言わないかが詠唱無詠唱の違いであって、そもそも名前がないなんてことは無いんだよ」

 えっ!?そうなの?

 「ああ、安心しろテオン。俺も技に名前なんてない。アルト村は全員オリスキルしか持ってねえよ」

 「そうなんだ。良かった……」

 「はあ。アストに聞いたときは驚いたが、本当にオリスキルだけを鍛え続けてる村なんてあるんだな。それも最新の技術なんて及びもしない強者ばかり」

 「へっ。新しいものばかりに食いついてるから、そういう本当の力ってやつを見失っちまうんだよ」

 本当の力……そんな大それた物だとは思えないが、システムのことを忘れて剣を振るようになったキールやバウアーのことを考えると、分からないでもない。アデルはそれを型破りとか型を捨てるとか呼んでいた。

 「まあ自分の身を守れるのは最後は自分の腕だけだ。テオン、他の奴らの言葉なんて気にせず、俺らは俺らで自分を鍛えていけばいい」

 かつ。

 路地の出口でアストは立ち止まる。突然開けて明るくなったその先は、僕らが通ってきた南門から王都の中央へと伸びる、とても大きな通りだった。

 「あれ!アストさん、そんなところからどうしたんですか?」

 通りから彼を呼ぶ声がする。3人組の冒険者。その最後尾の男の声だった。

 「ようボブ!お前に後輩が出来るかも知れねえぞ」

 「まじすか!!遂に俺も下っ端卒業かー。長かったなあ」

 「じゃ、お前の最後の下っ端仕事だ。案内頼むぞ」

 「へい!!」

 そして彼らと共に僕らは大きな扉を開く。石レンガの立派な大屋敷。王都の冒険者ギルドだった。
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