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第4章 煙の彼方に忍ぶ影
第30話 歌い手マギーの本領
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「オルガノさん、マギーの力が必要よ!今すぐ解放して!!」
私は彼女の解放をオルガノに頼み込む。
「本当にマギーさんならレナさんとララさんを救えると?」
「もちろんです。ね、マギーちゃん?」
「ニャ!?えと、えーと、もちろんニャ!!二人のピンチにじっとはしてられないニャ」
マギーの目が明るく輝き出す。
「いやいや、どう見ても今の感じじゃ勝算ないでしょ。余計な被害者を出すくらいなら、僕は止めるよ」
彼の頑固さは筋金入りだった。
「そんなこと言い合ってる場合じゃねえよ!!レナさんララちゃんが!誰でも良いから何とか出来る奴いねえのかよ!!」
何とか出来る……そうだ、そんな保証の出来る者などこの場にはいない。
「どうせ誰も勝算なんてないわ!でも歌い手の力なら何か出来るかもしれない!!手を尽くさないで2人を見殺しにするなんて、許さないわよ!?」
「な、そんなこと言っても……」
オルガノは未だに否定しているが、それでも押され始めていた。あと一押し、あともう一押しあれば……。
「あ、そっか!アリアが止めてたあれを使えばいいのニャ!!」
突然マギーが叫ぶ。アリア……確か彼女の師匠の名前だっけ?彼女は首を回してオルガノを見る。先程までとは明らかに違う、真っ直ぐな瞳。
「オルガノ、マギー行くニャ。離して欲しいニャ」
「突然どうして?あれって何ですか?」
「説明している暇はないニャ!せめて二人の元へ連れていけニャ!!」
彼女に押しきられ、オルガノは渋々立ち上がる。確かに歌のスキルを使うだけなら、縛ったままでも問題はない。しかし。
しゅるるっ。彼はマギーの手を縛っていた縄を解く。
「救えるものを救えなくするわけにはいかないからね。魔物の元に向かうからには、邪魔な縄を付けさせるわけにはいかないよ」
そして彼はマギーの背中を押す。
「必ず生きて戻ってくるんだよ」
「任せるニャ!!」
マギーは満面の笑みを残し、湯殿への廊下を駆けていった。
「さ、私たちも行きましょう!!出来ることがあるかもしれない」
「レナ!ララ!まだ生きてるかニャ!?」
マギーが勢いよく浴室に飛び込む。
「マ、マギーさん!!」
ゼルダが涙目で彼女を見る。手はスライムに向けられ、風魔法が放たれている。だがスライムはその全てを吸収していた。
その赤い体の中にはレナとララが抱き合って息を堪えている。レナの苦しそうな顔は、もう余裕のないことを示していた。
「マギー、さっき言っていたあれって何なの?」
後ろから少女の声が飛ぶ。
「ルーミ!?何で来たニャ!!」
「マギーが行くなら私も行く!何か出来るかもしれないもん!!」
「ニャ……。ユカリ、ルーミを頼むニャ」
「わ、分かったわ。ルーミちゃん、何かあったら私が守るから、私の傍を離れないでね!」
そう言う声が震える。何しろあのララが敵わない相手なのだ。私にどうにか出来ようもない。不安を圧し殺すように、ぎゅっとルーミを抱き締める。
「二人ともあと少しの辛抱ニャ!!アリア、ごめん……!!」
そう叫ぶとマギーは静かに目を閉じる。
「「!?」」
途端に空気が変わった。魔力がみるみるうちに高まるのが分かる。
ごくり。ルーミが唾を飲み込む音が響く。
ぽちゃん。天井から水滴が落ちてタイルを叩く。
ゼルダが魔法を放つ手を止めた。何が起ころうとしているのか、そんな目でマギーを見る。
「こんなマギー、初めて……」
ルーミの声がぼそっと溢れるや否や、彼女が目を開いた。迸る魔力で彼女の短い髪がばさばさと揺れる。
「こっちで歌を歌うのは、何年ぶりかな……」
「え……?夜マギー?」
さっきまでと明らかに声のトーンが違う。やがて柔らかな歌声が浴室に響き始める。
「燃え落ちよ夕の花 赤く赤く 誰が為に
舞い踊れ湯の花 高く高く 胸に響く囃子のままに……」
静かに始まった彼女の歌は、しかし強烈な魔力を乗せて部屋中を駆け回った。それはスライムに向かうでなく、全方位に流れ出している。
これは……歌い手のスキル?いや、違う。これはもっと、根源的な何か……。私はいつもの通り思案を巡らせようとするが、次第に頭の働きが鈍ってくるのを感じる。
「ゆらり水面 きらり蓮の葉を
横切ってふわり 風に舞ってふわり」
「マギー、いつもと全然違う……。凄い……。夜マギーで歌を歌うなんて。気持ちが乗らなくて歌えないって言ってたのに」
ルーミが呟く。その目は髪を激しく逆立てながらも、静かな佇まいで歌う彼女に釘付けになっていた。
「そうか。マギーさんの2つの人格は演技とかではなかったんだ。よくは分からないけれど、この眠れる力の為のものだったのか……」
いつの間にかオルガノが後ろに立っていた。驚かさないでよと思って振り返ろうとし、さらにぎょっとする。
オルガノは目に涙を浮かべていた。
「あれ、おかしいな。悲しいことなんて何もないのに。普段から涙なんて流さないのに。どうして、どうしたというのだ……」
「この歌は、多分マギーの魔法です。直接心に響いて、奥の方まで染み込んでくるみたい。何か……ずるい」
ルーミはそう言いながらも柔らかな笑顔を浮かべ、とても幸せそうな顔をしていた。
は!!レナとララは?スライムは!?
見ると、赤いスライムは依然レナたちを包み込んだまま動かない。だが中のレナの苦しそうな顔が落ち着いている。ということはスライムの内部まで声が届いているということ。
「からん ころん
水の中へお行き 揺られ揺られてお眠り
赤い花びら 泡になってふわり」
眠気を誘うような優しい音律が、すっかり浴室を支配して寝っ転がっていた。やがて。
「あ!スライムの色が……青に変わっていきます!!」
「まさか!?今の歌でスライムの気を鎮めたというの?」
「驚いた……。スライムって、歌が分かるんですね」
「いや……音に乗った彼女の魔力が、直接スライムの心に働きかけたんだわ!」
そんなことが可能だなんて。青色になったスライムは溶けるように落ちて床に広がり、徐々にレナとララの頭が外に出始める。感嘆と安堵の声があちこちから漏れる。
マギーの歌の力は想像以上だった。歌い手のスキルとは、精々状態異常を引き起こす程度ではなかったのか。あれは最早デバフなどではない。心理状態の書き換えとでも言うべきものだった。
「マギーちゃん、一体何者なの……」
スライムから完全に解放されたレナとララは、そのままふらふらと倒れる。ケインとファムが駆け寄って、二人の体を抱き止める。
ばたん!!
「え、マギー!?」
代わりに歌い終えたマギーがその場に倒れてしまった。慌ててルーミが駆け寄る。どうやらとんでも効果の歌にはそれなりの代償があったらしい。
ともあれ暴走スライムによる絶体絶命の事態は、マギーの本気の歌声によってどうにか解決したのだった。
―――キラーザの関所
「いや、やってみるよ。毒の浄化!!」
僕は思いきってそれを宣言する。アデルがぎょっとした顔で僕を見る。何言ってんだこいつ、というような目でブラコの弟子が僕を見る。
「何!?テオン、お前治療も出来るのか?流石だな!!」
キールだけは明るい反応を返してくれた。
「待て待て!テオン君、君は治癒魔法まで使えたのかい?」
「いえ、使うのはさっきスライムを倒した光の力です」
「まさか闇を祓う浄化の力とか、そういうことかい?」
正直僕にもよく分かってはいない。
『ごめん、僕も彼の言っていることが分からない』
いや、それは流石に分かるけど。ひとまずそんなところだと言って誤魔化す。やると決めたら、しっかり気持ちを落ち着けなければ。
『為すべきことを見据えよ』
レオールの声が蘇る。今やるべきはブラコを救うこと。毒を浄化すること。だがどうやって浄化するのか、まるで分からない。
『さっきみたいに光が発動する直前でブラコさんの体に触れて。そして意識を彼の体内に向けるんだ。毒の浄化を見据えていれば、そのうち毒が見つかるはずだよ。あとはそれに光を当てるだけさ』
(えっ?ちょっと待って、何それ?意識をブラコの体内に?そんなこと出来るの?)
『そういうことも出来た人はいたみたいだよ』
全然イメージは湧かないが、ライトが言うのならそうなのだろう。僕は再び手に熱を集めていく。
「テオン君、本気!?仮に君が浄化できても、何だってこんな奴を救おうとするんだ?シャウラを殺した犯人なんだぞ?」
アデルは怖い目付きで僕に迫る。さっき高まった怒りが、そのまま僕の方を向いてしまったのか。
「目の前で苦しんでる人がいて、救いたいと思っている人がいる。僕が救えるかもしれないのなら、手を尽くすのは当然です」
返しながらも集中は切らさない。熱を帯び始めた右手をブラコの腕に触れさせる。そしてその状態をしばらくキープ……。
「小僧……。若ぇのに立派なもんだな。若ぇからこそってのもあるのかね」
男が感心する。
「へっ、当たり前だ。テオンはすげえんだからな!」
キールは何故か嬉しそうにしている。ブラコを消してしまうかもしれないなんて、今更言えそうにない。絶対に成功させるしか、ない!
『もっと集中して。変なこと考えないで』
ライトの声にううと唸り、大きく息を吸う。頭が重い。思ったように空気が肺に溜まらない。僕は激しく緊張していた。
集中、集中……!!ブラコを救う、毒を見つける……!!
僕の緊張が伝わったのか、キールが唾を飲み込む。アデルも口を噤む……。ダメだ、意識が直ぐに周りに向いてしまう。もっと、もっと集中!!
「うぅ。ごほっ!」
ブラコの顔が苦しそうに歪む。不意にアルタイル戦での暴走が頭を過る。
『テオン!それだけはダメ!!』
ライトの叫ぶ声。あのときも叫んでいた。泣き腫らした顔のリット。目の前を覆う眩しい光。寝転がったままのトット。無様に倒れた草原。泣き疲れた顔で門の向こうを見つめるハナ……。
『ダメ!ブラコを救う、毒を浄化する!!ねえ、テオン!!』
拒絶すればするほど、暴走した光が頭の中で点滅を繰り返すのだった……。
私は彼女の解放をオルガノに頼み込む。
「本当にマギーさんならレナさんとララさんを救えると?」
「もちろんです。ね、マギーちゃん?」
「ニャ!?えと、えーと、もちろんニャ!!二人のピンチにじっとはしてられないニャ」
マギーの目が明るく輝き出す。
「いやいや、どう見ても今の感じじゃ勝算ないでしょ。余計な被害者を出すくらいなら、僕は止めるよ」
彼の頑固さは筋金入りだった。
「そんなこと言い合ってる場合じゃねえよ!!レナさんララちゃんが!誰でも良いから何とか出来る奴いねえのかよ!!」
何とか出来る……そうだ、そんな保証の出来る者などこの場にはいない。
「どうせ誰も勝算なんてないわ!でも歌い手の力なら何か出来るかもしれない!!手を尽くさないで2人を見殺しにするなんて、許さないわよ!?」
「な、そんなこと言っても……」
オルガノは未だに否定しているが、それでも押され始めていた。あと一押し、あともう一押しあれば……。
「あ、そっか!アリアが止めてたあれを使えばいいのニャ!!」
突然マギーが叫ぶ。アリア……確か彼女の師匠の名前だっけ?彼女は首を回してオルガノを見る。先程までとは明らかに違う、真っ直ぐな瞳。
「オルガノ、マギー行くニャ。離して欲しいニャ」
「突然どうして?あれって何ですか?」
「説明している暇はないニャ!せめて二人の元へ連れていけニャ!!」
彼女に押しきられ、オルガノは渋々立ち上がる。確かに歌のスキルを使うだけなら、縛ったままでも問題はない。しかし。
しゅるるっ。彼はマギーの手を縛っていた縄を解く。
「救えるものを救えなくするわけにはいかないからね。魔物の元に向かうからには、邪魔な縄を付けさせるわけにはいかないよ」
そして彼はマギーの背中を押す。
「必ず生きて戻ってくるんだよ」
「任せるニャ!!」
マギーは満面の笑みを残し、湯殿への廊下を駆けていった。
「さ、私たちも行きましょう!!出来ることがあるかもしれない」
「レナ!ララ!まだ生きてるかニャ!?」
マギーが勢いよく浴室に飛び込む。
「マ、マギーさん!!」
ゼルダが涙目で彼女を見る。手はスライムに向けられ、風魔法が放たれている。だがスライムはその全てを吸収していた。
その赤い体の中にはレナとララが抱き合って息を堪えている。レナの苦しそうな顔は、もう余裕のないことを示していた。
「マギー、さっき言っていたあれって何なの?」
後ろから少女の声が飛ぶ。
「ルーミ!?何で来たニャ!!」
「マギーが行くなら私も行く!何か出来るかもしれないもん!!」
「ニャ……。ユカリ、ルーミを頼むニャ」
「わ、分かったわ。ルーミちゃん、何かあったら私が守るから、私の傍を離れないでね!」
そう言う声が震える。何しろあのララが敵わない相手なのだ。私にどうにか出来ようもない。不安を圧し殺すように、ぎゅっとルーミを抱き締める。
「二人ともあと少しの辛抱ニャ!!アリア、ごめん……!!」
そう叫ぶとマギーは静かに目を閉じる。
「「!?」」
途端に空気が変わった。魔力がみるみるうちに高まるのが分かる。
ごくり。ルーミが唾を飲み込む音が響く。
ぽちゃん。天井から水滴が落ちてタイルを叩く。
ゼルダが魔法を放つ手を止めた。何が起ころうとしているのか、そんな目でマギーを見る。
「こんなマギー、初めて……」
ルーミの声がぼそっと溢れるや否や、彼女が目を開いた。迸る魔力で彼女の短い髪がばさばさと揺れる。
「こっちで歌を歌うのは、何年ぶりかな……」
「え……?夜マギー?」
さっきまでと明らかに声のトーンが違う。やがて柔らかな歌声が浴室に響き始める。
「燃え落ちよ夕の花 赤く赤く 誰が為に
舞い踊れ湯の花 高く高く 胸に響く囃子のままに……」
静かに始まった彼女の歌は、しかし強烈な魔力を乗せて部屋中を駆け回った。それはスライムに向かうでなく、全方位に流れ出している。
これは……歌い手のスキル?いや、違う。これはもっと、根源的な何か……。私はいつもの通り思案を巡らせようとするが、次第に頭の働きが鈍ってくるのを感じる。
「ゆらり水面 きらり蓮の葉を
横切ってふわり 風に舞ってふわり」
「マギー、いつもと全然違う……。凄い……。夜マギーで歌を歌うなんて。気持ちが乗らなくて歌えないって言ってたのに」
ルーミが呟く。その目は髪を激しく逆立てながらも、静かな佇まいで歌う彼女に釘付けになっていた。
「そうか。マギーさんの2つの人格は演技とかではなかったんだ。よくは分からないけれど、この眠れる力の為のものだったのか……」
いつの間にかオルガノが後ろに立っていた。驚かさないでよと思って振り返ろうとし、さらにぎょっとする。
オルガノは目に涙を浮かべていた。
「あれ、おかしいな。悲しいことなんて何もないのに。普段から涙なんて流さないのに。どうして、どうしたというのだ……」
「この歌は、多分マギーの魔法です。直接心に響いて、奥の方まで染み込んでくるみたい。何か……ずるい」
ルーミはそう言いながらも柔らかな笑顔を浮かべ、とても幸せそうな顔をしていた。
は!!レナとララは?スライムは!?
見ると、赤いスライムは依然レナたちを包み込んだまま動かない。だが中のレナの苦しそうな顔が落ち着いている。ということはスライムの内部まで声が届いているということ。
「からん ころん
水の中へお行き 揺られ揺られてお眠り
赤い花びら 泡になってふわり」
眠気を誘うような優しい音律が、すっかり浴室を支配して寝っ転がっていた。やがて。
「あ!スライムの色が……青に変わっていきます!!」
「まさか!?今の歌でスライムの気を鎮めたというの?」
「驚いた……。スライムって、歌が分かるんですね」
「いや……音に乗った彼女の魔力が、直接スライムの心に働きかけたんだわ!」
そんなことが可能だなんて。青色になったスライムは溶けるように落ちて床に広がり、徐々にレナとララの頭が外に出始める。感嘆と安堵の声があちこちから漏れる。
マギーの歌の力は想像以上だった。歌い手のスキルとは、精々状態異常を引き起こす程度ではなかったのか。あれは最早デバフなどではない。心理状態の書き換えとでも言うべきものだった。
「マギーちゃん、一体何者なの……」
スライムから完全に解放されたレナとララは、そのままふらふらと倒れる。ケインとファムが駆け寄って、二人の体を抱き止める。
ばたん!!
「え、マギー!?」
代わりに歌い終えたマギーがその場に倒れてしまった。慌ててルーミが駆け寄る。どうやらとんでも効果の歌にはそれなりの代償があったらしい。
ともあれ暴走スライムによる絶体絶命の事態は、マギーの本気の歌声によってどうにか解決したのだった。
―――キラーザの関所
「いや、やってみるよ。毒の浄化!!」
僕は思いきってそれを宣言する。アデルがぎょっとした顔で僕を見る。何言ってんだこいつ、というような目でブラコの弟子が僕を見る。
「何!?テオン、お前治療も出来るのか?流石だな!!」
キールだけは明るい反応を返してくれた。
「待て待て!テオン君、君は治癒魔法まで使えたのかい?」
「いえ、使うのはさっきスライムを倒した光の力です」
「まさか闇を祓う浄化の力とか、そういうことかい?」
正直僕にもよく分かってはいない。
『ごめん、僕も彼の言っていることが分からない』
いや、それは流石に分かるけど。ひとまずそんなところだと言って誤魔化す。やると決めたら、しっかり気持ちを落ち着けなければ。
『為すべきことを見据えよ』
レオールの声が蘇る。今やるべきはブラコを救うこと。毒を浄化すること。だがどうやって浄化するのか、まるで分からない。
『さっきみたいに光が発動する直前でブラコさんの体に触れて。そして意識を彼の体内に向けるんだ。毒の浄化を見据えていれば、そのうち毒が見つかるはずだよ。あとはそれに光を当てるだけさ』
(えっ?ちょっと待って、何それ?意識をブラコの体内に?そんなこと出来るの?)
『そういうことも出来た人はいたみたいだよ』
全然イメージは湧かないが、ライトが言うのならそうなのだろう。僕は再び手に熱を集めていく。
「テオン君、本気!?仮に君が浄化できても、何だってこんな奴を救おうとするんだ?シャウラを殺した犯人なんだぞ?」
アデルは怖い目付きで僕に迫る。さっき高まった怒りが、そのまま僕の方を向いてしまったのか。
「目の前で苦しんでる人がいて、救いたいと思っている人がいる。僕が救えるかもしれないのなら、手を尽くすのは当然です」
返しながらも集中は切らさない。熱を帯び始めた右手をブラコの腕に触れさせる。そしてその状態をしばらくキープ……。
「小僧……。若ぇのに立派なもんだな。若ぇからこそってのもあるのかね」
男が感心する。
「へっ、当たり前だ。テオンはすげえんだからな!」
キールは何故か嬉しそうにしている。ブラコを消してしまうかもしれないなんて、今更言えそうにない。絶対に成功させるしか、ない!
『もっと集中して。変なこと考えないで』
ライトの声にううと唸り、大きく息を吸う。頭が重い。思ったように空気が肺に溜まらない。僕は激しく緊張していた。
集中、集中……!!ブラコを救う、毒を見つける……!!
僕の緊張が伝わったのか、キールが唾を飲み込む。アデルも口を噤む……。ダメだ、意識が直ぐに周りに向いてしまう。もっと、もっと集中!!
「うぅ。ごほっ!」
ブラコの顔が苦しそうに歪む。不意にアルタイル戦での暴走が頭を過る。
『テオン!それだけはダメ!!』
ライトの叫ぶ声。あのときも叫んでいた。泣き腫らした顔のリット。目の前を覆う眩しい光。寝転がったままのトット。無様に倒れた草原。泣き疲れた顔で門の向こうを見つめるハナ……。
『ダメ!ブラコを救う、毒を浄化する!!ねえ、テオン!!』
拒絶すればするほど、暴走した光が頭の中で点滅を繰り返すのだった……。
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