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第4章 煙の彼方に忍ぶ影
第25話 マクロスライム
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―――キラーザの関所
ぽちゃん。
水滴の音が暗がりに響く。キラーザの関所地下、暗い土の穴とでも言えるその空間は、血と汗の臭いでむせ返っていた。鉄格子の向こうから幾つもの視線が飛んでくるが、どれも弱々しかった。
ブラコ脱獄を企てた彼の部下たちを全員縄で縛り、彼と同じく牢屋に連れてきたのだった。僕らは今、鉄格子越しにブラコの話を聞いていた。
「へへ、まさかダゴンのやつが坊主に負けるとはな。恐れ入ったよ」
ブラコは気を失ったままの大男の頬をつつきながら僕を見上げる。その男は僕が対峙した斧を担いだ大男、そしてこの部下たちのまとめ役であった。ダゴン・キルヒ、ブラコの右腕だったらしい。
「こいつは本当に真面目なやつで、兄弟で鉱山で働いてた。だけど弟を激務で亡くしてな。弟家族は路頭に迷うことになったが、町長は助けてくれない。結局義妹は女手1つで子供を育てようとして過労死、孤児院に預けられた子供たちもいじめにあって自殺したそうだ」
僕は彼の身の上話に思わず耳を傾けていた。初めて知るキラーザの話。勿論、これは町の1つの側面に過ぎない。
「絶望した彼は仕事を続けられなくなり、失業して荒れていった。彼が家庭を持っていなかったのは幸なのか不幸なのか、彼は一人で路地に行き倒れていた。それを俺が拾ったのさ」
ブラコはダゴンの癖のある髪の毛を軽く弄る。男はぴくりとも反応しなかった。
「なあテオン、そんなに親身になって聞いてやることはないぜ?そりゃこのおっさんは可哀想だとは思うけどよ、この世界じゃそれくらい珍しいことじゃない。自分の身を守れなかったやつが結局は弱かっただけなんだ」
キールはつまらなさそうに胡座をかいているが、それでも僕と一緒に話を聞いているのだった。
「あんた、よくそんなことが言えるな。世の中にはどんなに頑張っても何も守れなかった不幸なやつがごまんといる」
「だから何だってんだ。皆それでも守りたいもん守りたくて必死に足掻いてんだろ?他人の守りたいもんにまで同情していられる暇はねえんだよ」
茶屋から関所までの道でも思ったが、二人はどうにも相性が悪い。僕が二人の間でおろおろとしているとアデルがやって来た。彼はブラコの話に全く興味を示さず、守衛に状況を確認していたのだ。
「盛り上がってるとこ悪いけど、色々と話を聞かせてもらうよ、ブラコさん」
「ん?何だ坊主。俺の部下の大事な話には興味ねえのか?」
「ないよ。まずあなたはスライム使いだそうだね。他に隠しているスライムはいないだろうね」
アデルは淡々と自分の話を進める。その毅然とした態度には感服せざるを得なかった。
「坊主、いい性格してんな。まあいいか。ああ、もう俺のポケットにスライムは残ってねえ。あんたらが倒しちまったからな」
「本当だろうね?」
「なんならポケットの中に手を突っ込んで調べてもいいぜ」
「なるほど、ひとまずそのポケットの中にはもう隠れていないのだろう。信じるよ」
「そりゃどうも」
「ところでこれはただの興味で聞くんだけど、何でスライム使いなんてやってるんだい?スライムなんて殆ど自我もなくて、操るなんて出来ないと言われているのに」
彼は突然そんなことを聞き出した。
「はは、やっぱ気になるかい?確かにスライムってのは普通言うことを聞きゃしない。本能で水と栄養を求めて蠢いているだけだ。でもな、だからこそ操りやすいってものなのさ」
「へえ、どうやってスライムを操っているのか、教えてもらえないかな」
「ああ、いいぜ。こんなにスライムに興味を持ってもらえるなんて光栄だからな。スライムってのは基本的に感情を持たない。だが快不快はあるんだ。坊主、赤いスライムって見たことあるか?」
「赤?スライムは基本的に無色透明か青みがかった色をしているんだろう?」
「ああ、それが通常の状態だ。そういうスライムは人を襲うことはない。だがな、環境が汚染されたりして不快な状態が続くと、スライムは真っ赤に染まるんだ。そうなると人も襲うようになるし、複雑な攻撃もできるようになる」
「へえ、それは初耳だ。ということは、元々スライムには思考することができたってことかい?」
「お、察しがいいな!その通りさ。スライムにはちゃんと思考能力がある。俺はそこに魔力で干渉して命令をしているのさ」
ブラコは得意気に語る。その顔は赤みを増し、興奮していることが伝わる。
「特に俺の場合はスライムの核に直接作用して、いくつかの命令セットとそれを作動させる魔道具を仕込んである。命令を魔道具に記憶させれば、離れていても複雑な命令を実行させることができるのさ」
「まるで帝国の魔導機械みたいだな」
「ああ、その通りさ。スライムには魔導兵器に改造できるほどの可能性がある。俺はこれをマクロスライムと名付けたんだ」
「なるほどな……」
アデルは満足げな笑みを浮かべて頷いている。しかし僕には意味がよく分からなかった。スライムに複雑な命令を覚えさせて、離れたところでも命令通りに動かせるってことか?
魔導機械、魔導兵器とはつまりゴーレムみたいなやつのことだろう。スライムがゴーレムのようになるとは、とても想像がつかない。
「マクロスライムか……。それが今もどこかで動いているんだね。例えば、温泉宿とかで」
「おや、本当に坊主は勘がいいね」
いきなり話の流れが変わった。僕はキールと顔を見合わせる。
「見つけても手を出さないでくれよ?俺のもとを長く離れていると赤くなりやすいんだ」
「つまりそういうことか、アデル?」
キールが首を傾げながらアデルに尋ねる。そういうこと……まさか、それって。
「多分ね。温泉宿での殺人事件、犯人はあなたですね。ブラコさん」
―――温泉宿「かれん」広間
「犯人はブラコ。最初に被害者だと思われていた男、ブラコ・ピンクニーなのよ」
私は遂にその推理を口に出していた。目を見開くオルガノ。
「だからスライムが潜んでいると思ったんですね、師匠!」
メルーが納得した顔で叫ぶ。オルガノはいよいよ訳が分からないという顔で私に視線を向ける。次の言葉を待つことしか出来ないようだ。
ララたちと一緒にポットとリットが女湯に向かったのは、私とレナが声を合わせてスライムには魔法職を連れていくべきだと勧めたからだ。スライムには物理攻撃が効きにくいから。
湯殿に向かう4人を見ながら、オルガノが説明を求めてきた。まだ確証がなかったから後にしてと言ったのだが、押しきられてしまい今に至る。私は皆に自身の推理を明かしていたのだった。
「オルガノ刑事にはまだ言っていなかったかしら。ブラコはスライム使い、窃盗の手段もスライムだったのよ」
「ああ、そういうことか。まったく、僕を置いてけぼりにして二人してスライムだと断言するから何事かと……。でも何故彼が犯人だと言い切れるんだい?」
「いえ、今はまだ言い切れはしないわ。スライムが見つかるまではね。今は可能性が高いというだけ」
「4人が戻ってこないことには分からないってことだね」
オルガノはふうと息をつく。ひとまず今はそれで納得してくれたようだ。私も確かな証拠が出るまではこの先を語るつもりはない。
「ララさんたち、大丈夫でしょうか」
ハニカ……もといシャウラの荷物を整理しているゼルダが、ふと手を止めて湯殿の方を見る。レナ曰く、魔法の威力と言う面では彼女が最も強いらしい。
だが相手はスライム。水中ではシャウラの二の舞になる可能性もあったが、捜査のためにお湯を抜いた今なら彼女でなくても良いだろうという判断だった。
「たかがスライム……されどスライムだ。だがあの4人なら抜かりはない。信じて待とう」
バートンが口を開く。彼の低く落ち着いた声は、周りを安心させる効果があった。私たちは静かに湯殿へと続く渡り廊下を見つめ続けるのだった。
―――温泉宿「かれん」女湯
にゅるん。
アラートボールから展開された結界に反応し、排水口から音もなく赤い影が覗いた。その姿に皆驚いて固まる。私も思わず口を開けていた。
「何よ、これ……」
「えっ!?レナ、魔物の正体に心当たりがあったんじゃなかったのかよ?予想が外れてたのか?」
ポットの顔が不安で歪む。
「いえお姉様。恐らく魔物の種類は当たっています。問題は……色と大きさです」
そう、私たちの目の前に現れたのはスライム。そこまでは予想通りなのだ。しかし、その色は燃えるような赤。大きさは普通の湯船一杯はあろうかというほど。
「こんなスライム見たことない……。倒せるの?」
「ひとまず作戦通りにやってみます!」
リットが私の前に立ち、手に構えるロッドに魔力を込め始める。それを見てララがリットの前に出る。ポットはリットの隣に立って同様にメイスに魔力を込める。やがて。
「行きます!小火!!」
火属性の魔力弾がスライムに向けて放たれる。スライムにとって火属性は弱点。効果は抜群のはずだが。
ぴちゃん!!
まるで小石が水に投げ込まれたように、その魔法はスライムの身体に吸収されてしまった。
「な!?今のは何ですの?効いたの?効いていないの?」
リットが早口で疑問を並べる。スライムは変わらずにゅるりと蠢きながら、徐々にこちらに向かってきている。顔もない、声もない。この魔物に痛みがあるのかどうかも分からない。
私はサポートシステムを展開し、スライムのHPゲージを確認する。
「!?攻撃、来ます!!」
ララが叫ぶ。直後、巨大スライムから通常スライムの大きさの塊が高速で飛び出してくる。分裂自在のスライムは、自身の身体を弾丸のように飛ばして武器代わりにするようだ。
「はあっ!!」
ララが長剣を抜き、一瞬のうちに飛んできたスライムの欠片を十字に切り裂く。勢いを失ったそれはぽちゃんと落ち、ゆるゆると本体の元へ戻っていく。
HPに変化はなし。魔法でのダメージも微々たるもの。これは……。
「やるしかないわね」
私も魔道具を構えるのだった。
ぽちゃん。
水滴の音が暗がりに響く。キラーザの関所地下、暗い土の穴とでも言えるその空間は、血と汗の臭いでむせ返っていた。鉄格子の向こうから幾つもの視線が飛んでくるが、どれも弱々しかった。
ブラコ脱獄を企てた彼の部下たちを全員縄で縛り、彼と同じく牢屋に連れてきたのだった。僕らは今、鉄格子越しにブラコの話を聞いていた。
「へへ、まさかダゴンのやつが坊主に負けるとはな。恐れ入ったよ」
ブラコは気を失ったままの大男の頬をつつきながら僕を見上げる。その男は僕が対峙した斧を担いだ大男、そしてこの部下たちのまとめ役であった。ダゴン・キルヒ、ブラコの右腕だったらしい。
「こいつは本当に真面目なやつで、兄弟で鉱山で働いてた。だけど弟を激務で亡くしてな。弟家族は路頭に迷うことになったが、町長は助けてくれない。結局義妹は女手1つで子供を育てようとして過労死、孤児院に預けられた子供たちもいじめにあって自殺したそうだ」
僕は彼の身の上話に思わず耳を傾けていた。初めて知るキラーザの話。勿論、これは町の1つの側面に過ぎない。
「絶望した彼は仕事を続けられなくなり、失業して荒れていった。彼が家庭を持っていなかったのは幸なのか不幸なのか、彼は一人で路地に行き倒れていた。それを俺が拾ったのさ」
ブラコはダゴンの癖のある髪の毛を軽く弄る。男はぴくりとも反応しなかった。
「なあテオン、そんなに親身になって聞いてやることはないぜ?そりゃこのおっさんは可哀想だとは思うけどよ、この世界じゃそれくらい珍しいことじゃない。自分の身を守れなかったやつが結局は弱かっただけなんだ」
キールはつまらなさそうに胡座をかいているが、それでも僕と一緒に話を聞いているのだった。
「あんた、よくそんなことが言えるな。世の中にはどんなに頑張っても何も守れなかった不幸なやつがごまんといる」
「だから何だってんだ。皆それでも守りたいもん守りたくて必死に足掻いてんだろ?他人の守りたいもんにまで同情していられる暇はねえんだよ」
茶屋から関所までの道でも思ったが、二人はどうにも相性が悪い。僕が二人の間でおろおろとしているとアデルがやって来た。彼はブラコの話に全く興味を示さず、守衛に状況を確認していたのだ。
「盛り上がってるとこ悪いけど、色々と話を聞かせてもらうよ、ブラコさん」
「ん?何だ坊主。俺の部下の大事な話には興味ねえのか?」
「ないよ。まずあなたはスライム使いだそうだね。他に隠しているスライムはいないだろうね」
アデルは淡々と自分の話を進める。その毅然とした態度には感服せざるを得なかった。
「坊主、いい性格してんな。まあいいか。ああ、もう俺のポケットにスライムは残ってねえ。あんたらが倒しちまったからな」
「本当だろうね?」
「なんならポケットの中に手を突っ込んで調べてもいいぜ」
「なるほど、ひとまずそのポケットの中にはもう隠れていないのだろう。信じるよ」
「そりゃどうも」
「ところでこれはただの興味で聞くんだけど、何でスライム使いなんてやってるんだい?スライムなんて殆ど自我もなくて、操るなんて出来ないと言われているのに」
彼は突然そんなことを聞き出した。
「はは、やっぱ気になるかい?確かにスライムってのは普通言うことを聞きゃしない。本能で水と栄養を求めて蠢いているだけだ。でもな、だからこそ操りやすいってものなのさ」
「へえ、どうやってスライムを操っているのか、教えてもらえないかな」
「ああ、いいぜ。こんなにスライムに興味を持ってもらえるなんて光栄だからな。スライムってのは基本的に感情を持たない。だが快不快はあるんだ。坊主、赤いスライムって見たことあるか?」
「赤?スライムは基本的に無色透明か青みがかった色をしているんだろう?」
「ああ、それが通常の状態だ。そういうスライムは人を襲うことはない。だがな、環境が汚染されたりして不快な状態が続くと、スライムは真っ赤に染まるんだ。そうなると人も襲うようになるし、複雑な攻撃もできるようになる」
「へえ、それは初耳だ。ということは、元々スライムには思考することができたってことかい?」
「お、察しがいいな!その通りさ。スライムにはちゃんと思考能力がある。俺はそこに魔力で干渉して命令をしているのさ」
ブラコは得意気に語る。その顔は赤みを増し、興奮していることが伝わる。
「特に俺の場合はスライムの核に直接作用して、いくつかの命令セットとそれを作動させる魔道具を仕込んである。命令を魔道具に記憶させれば、離れていても複雑な命令を実行させることができるのさ」
「まるで帝国の魔導機械みたいだな」
「ああ、その通りさ。スライムには魔導兵器に改造できるほどの可能性がある。俺はこれをマクロスライムと名付けたんだ」
「なるほどな……」
アデルは満足げな笑みを浮かべて頷いている。しかし僕には意味がよく分からなかった。スライムに複雑な命令を覚えさせて、離れたところでも命令通りに動かせるってことか?
魔導機械、魔導兵器とはつまりゴーレムみたいなやつのことだろう。スライムがゴーレムのようになるとは、とても想像がつかない。
「マクロスライムか……。それが今もどこかで動いているんだね。例えば、温泉宿とかで」
「おや、本当に坊主は勘がいいね」
いきなり話の流れが変わった。僕はキールと顔を見合わせる。
「見つけても手を出さないでくれよ?俺のもとを長く離れていると赤くなりやすいんだ」
「つまりそういうことか、アデル?」
キールが首を傾げながらアデルに尋ねる。そういうこと……まさか、それって。
「多分ね。温泉宿での殺人事件、犯人はあなたですね。ブラコさん」
―――温泉宿「かれん」広間
「犯人はブラコ。最初に被害者だと思われていた男、ブラコ・ピンクニーなのよ」
私は遂にその推理を口に出していた。目を見開くオルガノ。
「だからスライムが潜んでいると思ったんですね、師匠!」
メルーが納得した顔で叫ぶ。オルガノはいよいよ訳が分からないという顔で私に視線を向ける。次の言葉を待つことしか出来ないようだ。
ララたちと一緒にポットとリットが女湯に向かったのは、私とレナが声を合わせてスライムには魔法職を連れていくべきだと勧めたからだ。スライムには物理攻撃が効きにくいから。
湯殿に向かう4人を見ながら、オルガノが説明を求めてきた。まだ確証がなかったから後にしてと言ったのだが、押しきられてしまい今に至る。私は皆に自身の推理を明かしていたのだった。
「オルガノ刑事にはまだ言っていなかったかしら。ブラコはスライム使い、窃盗の手段もスライムだったのよ」
「ああ、そういうことか。まったく、僕を置いてけぼりにして二人してスライムだと断言するから何事かと……。でも何故彼が犯人だと言い切れるんだい?」
「いえ、今はまだ言い切れはしないわ。スライムが見つかるまではね。今は可能性が高いというだけ」
「4人が戻ってこないことには分からないってことだね」
オルガノはふうと息をつく。ひとまず今はそれで納得してくれたようだ。私も確かな証拠が出るまではこの先を語るつもりはない。
「ララさんたち、大丈夫でしょうか」
ハニカ……もといシャウラの荷物を整理しているゼルダが、ふと手を止めて湯殿の方を見る。レナ曰く、魔法の威力と言う面では彼女が最も強いらしい。
だが相手はスライム。水中ではシャウラの二の舞になる可能性もあったが、捜査のためにお湯を抜いた今なら彼女でなくても良いだろうという判断だった。
「たかがスライム……されどスライムだ。だがあの4人なら抜かりはない。信じて待とう」
バートンが口を開く。彼の低く落ち着いた声は、周りを安心させる効果があった。私たちは静かに湯殿へと続く渡り廊下を見つめ続けるのだった。
―――温泉宿「かれん」女湯
にゅるん。
アラートボールから展開された結界に反応し、排水口から音もなく赤い影が覗いた。その姿に皆驚いて固まる。私も思わず口を開けていた。
「何よ、これ……」
「えっ!?レナ、魔物の正体に心当たりがあったんじゃなかったのかよ?予想が外れてたのか?」
ポットの顔が不安で歪む。
「いえお姉様。恐らく魔物の種類は当たっています。問題は……色と大きさです」
そう、私たちの目の前に現れたのはスライム。そこまでは予想通りなのだ。しかし、その色は燃えるような赤。大きさは普通の湯船一杯はあろうかというほど。
「こんなスライム見たことない……。倒せるの?」
「ひとまず作戦通りにやってみます!」
リットが私の前に立ち、手に構えるロッドに魔力を込め始める。それを見てララがリットの前に出る。ポットはリットの隣に立って同様にメイスに魔力を込める。やがて。
「行きます!小火!!」
火属性の魔力弾がスライムに向けて放たれる。スライムにとって火属性は弱点。効果は抜群のはずだが。
ぴちゃん!!
まるで小石が水に投げ込まれたように、その魔法はスライムの身体に吸収されてしまった。
「な!?今のは何ですの?効いたの?効いていないの?」
リットが早口で疑問を並べる。スライムは変わらずにゅるりと蠢きながら、徐々にこちらに向かってきている。顔もない、声もない。この魔物に痛みがあるのかどうかも分からない。
私はサポートシステムを展開し、スライムのHPゲージを確認する。
「!?攻撃、来ます!!」
ララが叫ぶ。直後、巨大スライムから通常スライムの大きさの塊が高速で飛び出してくる。分裂自在のスライムは、自身の身体を弾丸のように飛ばして武器代わりにするようだ。
「はあっ!!」
ララが長剣を抜き、一瞬のうちに飛んできたスライムの欠片を十字に切り裂く。勢いを失ったそれはぽちゃんと落ち、ゆるゆると本体の元へ戻っていく。
HPに変化はなし。魔法でのダメージも微々たるもの。これは……。
「やるしかないわね」
私も魔道具を構えるのだった。
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