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第4章 煙の彼方に忍ぶ影
第15話 赤紫の髪の女
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「「いい加減な仕事しやがって!!」」
ユバとフバの声が宿の広間に響き渡る。
「まあまあ、お二人とも少し落ち着いてください。少し状況を整理してみましょう。私たちも一緒に考えますわ」
リットが穏やかに話しかける。
「ああ、そうしようか。ユバと話していても埒が明かないからね」
「話を聞こうとしないのはフバの方じゃないか。あたしゃね、夜の時間の番頭で、人がいなくなった深夜のうちにお風呂の掃除もするんだよ。昨日の夜もひとりで掃除をしてたのさ」
ユバは淡々と話し始める。森から帰ってきたレナたちは、囲炉裏の周りに座って火に当たりながら聞いていた。
「掃除をしている間にね、湯殿に人が入ってきたんだ。何でも大層綺麗好きな人でね、前の日の夜も掃除が終わるのを待って、一番にお風呂に入りに来たのさ。昨日もそれであの時間に来たんだと思って、あたしゃ特に声を掛けなかった。お客さんはロッカーに荷物を置いて、渡り廊下で時間を潰していたよ」
「ちょっと待って、ユバさん。お風呂場で掃除していたのなら、暖簾の外にあるロッカーは見えないんじゃない?」
レナが口を挟む。なるほど確かにそうだ。
「ああ、だからそのお客さんはわざわざ報告してくれたのさ。勝手にロッカーを使ったよって。律儀な人なんだねぇ。あたしゃロッカーの管理にはちょっと煩いからね。そこら辺を考えてくれたんだろうさ」
「なるほどね、わざわざロッカー使った報告を……」
「レナさんならそんなこと面倒くさくてしなさそうだね!」
ミミが不要なことを口走る。キールとケインがぷっと吹き出した。
「ちょっとミミちゃん、どういうことよ」
ユバは気にせず続ける。
「あたしは女湯の掃除を終えてすぐお湯を溜め始めた。お客さんがなるべく早く入れるようにね。そのあと男湯の掃除を始めたんだけど、その間にお客さんは女湯へ入ったようだね。掃除を終えて番頭台に戻ったときには、湯殿にはもう誰もいなかったよ」
「ほら、見なさい。ユバ、あんたそのお客さんが女湯に入ったところは見てないんじゃない」
「そりゃあ見てないよ。お風呂にのんびりしに来たってのに、本当に入っているか番頭にわざわざ確認されて喜ぶお客さんがいるもんかね」
「ふん、何を偉そうにしてるんだか。そのおかげで女湯で男が見つかるなんて大失態になったんでしょうが」
どうやらフバとユバにとって、死体が見つかったことより男が女湯に入っていたことの方が重大らしい。
「まあいいわ。そのあとね?あたしがあんたから番頭を引き継いだのは」
「ああ、そうだね。空が白み始めてあんたが来て、お客さんが1人女湯に入っていてロッカーを1つ使っていると伝えて、あたしは本館に戻った。日報書いたりしてからさっさと寝て、起こされたと思ったらこの騒ぎだよ」
ユバは心底うんざりしたような顔で肩を竦める。
「はあ、ひとまずはそのお客さんが赤紫の髪の人だとしておこうかね。日の出からはあたしが番頭台にいた。しばらくしてそこの明るいアイルーロスの子が来たわね。そして赤紫の彼女より先に出ていった。それから二人くらいお客さんが来たけどどっちも男湯だったね」
「待ってください」
今度はリットが口を開いた。
「日の出後はマギーさんが最初のお客さんだったのですね?」
「みたいニャ。朝起きてすぐお風呂に行ったのニャ。誰もいなくて広かったのニャー」
「誰も?」
マギーが入ったとき、女湯にはもう赤紫の女はいなかった?そうだとすれば事件を解く大きな手がかりになる。
「多分誰もいなかったと思うニャ。マギーは目も良いし鼻も良いのニャ。ちょっとやそっとじゃ見落とさないのニャ!」
「そのときには既に女湯は空だったのですね……」
「逆に言えば死体もそのときにはまだ無かったということね?」
「死体は臭いから、多分気付くニャ」
「ちょっとちょっと!でもあたしは誰か出てきたのを見てないよ?やっぱりユバ、あんたが勘違いしたんじゃないのかい?赤紫の女なんて始めから風呂に入ってないんだよ」
「あ!でもその女の人なら見たニャ」
「「え!?」」
マギーの一言にみんなずっこけそうになる。誰もいなかったんじゃないのか?
「ちょっとマギー、これは大事な話なんですよ?ふざけている場合ではありません。女湯には誰もいなかったんでしょう?」
ルーミがきつめの口調で彼女を責める。
「そんなに怒らないでニャ。女湯には誰もいなかったニャ。でもその人なら見たのニャ」
「どういうこと?」
「マギーは昨日の夜にも一人でお風呂に来たのニャ。でもそのときはお風呂の掃除をしていて入れなかったのニャ。お風呂の前に立ってた人が、掃除中だって教えてくれたのニャ」
なんだ、そういうことか。マギーは昨日の夜に赤紫の女と会ったのだ。
「良い匂いがしたから覚えてるのニャ。お花の匂いで、何となく懐かしい感じがしたのニャ」
「その匂いは女湯からはしなかったのですね?」
「そうニャ。したら気付くのニャ」
マギーの話にレナが納得といった顔で頷く。
「なるほどね。これでユバさんの話の裏付けがとれたわね。確かに赤紫の女は夜のうちに女湯に来た。しかしユバもフバも気付かないうちに出ていった」
「そんなことあり得るのかい?」
「現にその人はいないし、女湯には代わりに男が入っていた。番頭台からは気付けない方法で出入りできたと考えるのが自然でしょうね」
「フバさん、ちなみにそのあとはどうなのでしょうか?」
リットが再びフバに尋ねる。
「ああ、朝食の時間を過ぎた頃にその子達が入ってきたね。それからその二人。そして悲鳴さ」
フバはルーミたち、そして僕とララを指しながら溜め息をつく。
「遺体発見時の様子はもう少しはっきりさせてえな」
囲炉裏に当たっていたキールがいつの間にか傍に来ていた。
「えーと、ルーミちゃんとマギーちゃんだっけね。それからもう二人の女の子が4人で女湯へ。一緒に来た刑事さんが男湯へ入っていったね。次にそこのお似合いのお二人さんが来て、別々に分かれて入っていった」
お、お似合いとかそんな……。ララを見ると顔を背けている。どんな表情をしているかここからでは分からない。ふと、こちらを見ているキールのいたずらっぽい顔が目に映る。
「それからしばらくして悲鳴が聞こえて、何事かと番頭台を下りたらそこの男の子が」
「えっ!そこまで話すの!?」
「まあ、詳しい状況が必要だって言うからね。彼が女湯に飛び込んでいったのさ」
「ほう……。テオンが堂々とねえ」
にやにやとしたキールの目つきが僕を舐め回す。やめろ、やめてくれ……。
「それでテオンとララ、変な空気になってんのか」
バウアーも納得した顔で頷いている。先程同じ顔をしていたレナは、何とも言えない残念そうな顔で僕を見ていた。やめろ、やめてくれ……。
「あたしもバスタオルを持って女湯に入ったけど、あれはなかなか修羅場だったねえ」
フバまでにやにやと……。早く事件の話に戻そう。
「そ、それで死体の方は?僕はよく見えなかったんだけど、フバさんは見ましたか?」
「そうねえ。坊やは他のものに目が釘付けになっていたからねえ。ああ、そういえばあたしも死体はよく見てないね。湯気が邪魔で男か女かも分からなかった」
フバの言葉を今度はララが継ぐ。
「私もよくは見えませんでした。がっしりした背中と短髪の頭が見えて何となく男かなと思っただけ。オルガノさんがちゃんと調べるまでは誰も近寄って確認しなかったし」
「ねえ」
今度はレナがララに尋ねる。
「遺体はうつ伏せにお湯に浮いていたの?」
「ええ、湯船の奥の方で。手前の方からでは湯気で全然分からなかったんだけど」
「それじゃ近付いて初めて死んでいると?」
「私はそもそも気配察知で、そこに生きてる人がいないことは分かっていたので……」
そうか、それでよく確認しなくても死体だと分かったわけか……。
「ところで……」
レナが次の質問をしようとしたとき。
どたどたどた。
客室へ続く廊下から女将のカレンが駆けてきた。
「皆さんどうしよう!?お客様がひとり、返事をしてくれないの!!」
肩で息をするカレンにゼルダが駆け寄り、背中をさする。
「女将さん、落ち着いてください。どういうことでしょうか?」
「は、はい。ただいまお客様に簡単な事情の説明と、しばらく部屋から出ないようにと話して回っていたのですが、一室返事のない部屋がありまして……」
そこでレナが思い付いたように顔を上げて尋ねる。
「そのお客さん、もしかして赤紫の髪の人だったりするかしら?」
女将は驚いて目を見開く。
「ええ。赤紫の髪の、ハニカ・ジュバさんとおっしゃいます。どうしてそれを?」
「その人、もしかしたらこの事件の重要な関係者かもしれません」
重要な関係者……。確かにお風呂場から誰にも気付かれずにいなくなったのは気にかかるが、レナはどうやらそれ以上に考えているようだった。
「女将さん、その部屋のマスターキーなどはありますか?」
アデルが聞く。
「逆にその人も犯人に命を狙われたということもあり得ます。これは緊急性を要する場合と言って良いでしょう。オルガノ刑事からは広間から動かないよう言われていますが、僕は捜査に協力するためいくらか裁量を与えられています。僕が許可致しますので、その方の部屋へ突入しましょう」
アデルの提案にカレンは少し戸惑った様子を見せるが、すぐに頷いた。
「僕も行きます」「私も」
僕やレナが声を上げ、さらにアデルとキールが同行することになった。
「ゼルダ、悪いけど広間にいる皆を見ていてくれないか。この場合はあまり部外者を信用しちゃいけないんだけど、僕にとって君は特別だ。この場は任せるよ」
「特別……。ええ、分かったわ。任された」
「それじゃ行こうか」
「はい、ハニカ・ジュバさんはお一人で2階の部屋にお泊まりです」
こうして僕らは女将の先導のもと、赤紫の髪の女、ハニカ・ジュバの部屋へ向かったのだった。
ユバとフバの声が宿の広間に響き渡る。
「まあまあ、お二人とも少し落ち着いてください。少し状況を整理してみましょう。私たちも一緒に考えますわ」
リットが穏やかに話しかける。
「ああ、そうしようか。ユバと話していても埒が明かないからね」
「話を聞こうとしないのはフバの方じゃないか。あたしゃね、夜の時間の番頭で、人がいなくなった深夜のうちにお風呂の掃除もするんだよ。昨日の夜もひとりで掃除をしてたのさ」
ユバは淡々と話し始める。森から帰ってきたレナたちは、囲炉裏の周りに座って火に当たりながら聞いていた。
「掃除をしている間にね、湯殿に人が入ってきたんだ。何でも大層綺麗好きな人でね、前の日の夜も掃除が終わるのを待って、一番にお風呂に入りに来たのさ。昨日もそれであの時間に来たんだと思って、あたしゃ特に声を掛けなかった。お客さんはロッカーに荷物を置いて、渡り廊下で時間を潰していたよ」
「ちょっと待って、ユバさん。お風呂場で掃除していたのなら、暖簾の外にあるロッカーは見えないんじゃない?」
レナが口を挟む。なるほど確かにそうだ。
「ああ、だからそのお客さんはわざわざ報告してくれたのさ。勝手にロッカーを使ったよって。律儀な人なんだねぇ。あたしゃロッカーの管理にはちょっと煩いからね。そこら辺を考えてくれたんだろうさ」
「なるほどね、わざわざロッカー使った報告を……」
「レナさんならそんなこと面倒くさくてしなさそうだね!」
ミミが不要なことを口走る。キールとケインがぷっと吹き出した。
「ちょっとミミちゃん、どういうことよ」
ユバは気にせず続ける。
「あたしは女湯の掃除を終えてすぐお湯を溜め始めた。お客さんがなるべく早く入れるようにね。そのあと男湯の掃除を始めたんだけど、その間にお客さんは女湯へ入ったようだね。掃除を終えて番頭台に戻ったときには、湯殿にはもう誰もいなかったよ」
「ほら、見なさい。ユバ、あんたそのお客さんが女湯に入ったところは見てないんじゃない」
「そりゃあ見てないよ。お風呂にのんびりしに来たってのに、本当に入っているか番頭にわざわざ確認されて喜ぶお客さんがいるもんかね」
「ふん、何を偉そうにしてるんだか。そのおかげで女湯で男が見つかるなんて大失態になったんでしょうが」
どうやらフバとユバにとって、死体が見つかったことより男が女湯に入っていたことの方が重大らしい。
「まあいいわ。そのあとね?あたしがあんたから番頭を引き継いだのは」
「ああ、そうだね。空が白み始めてあんたが来て、お客さんが1人女湯に入っていてロッカーを1つ使っていると伝えて、あたしは本館に戻った。日報書いたりしてからさっさと寝て、起こされたと思ったらこの騒ぎだよ」
ユバは心底うんざりしたような顔で肩を竦める。
「はあ、ひとまずはそのお客さんが赤紫の髪の人だとしておこうかね。日の出からはあたしが番頭台にいた。しばらくしてそこの明るいアイルーロスの子が来たわね。そして赤紫の彼女より先に出ていった。それから二人くらいお客さんが来たけどどっちも男湯だったね」
「待ってください」
今度はリットが口を開いた。
「日の出後はマギーさんが最初のお客さんだったのですね?」
「みたいニャ。朝起きてすぐお風呂に行ったのニャ。誰もいなくて広かったのニャー」
「誰も?」
マギーが入ったとき、女湯にはもう赤紫の女はいなかった?そうだとすれば事件を解く大きな手がかりになる。
「多分誰もいなかったと思うニャ。マギーは目も良いし鼻も良いのニャ。ちょっとやそっとじゃ見落とさないのニャ!」
「そのときには既に女湯は空だったのですね……」
「逆に言えば死体もそのときにはまだ無かったということね?」
「死体は臭いから、多分気付くニャ」
「ちょっとちょっと!でもあたしは誰か出てきたのを見てないよ?やっぱりユバ、あんたが勘違いしたんじゃないのかい?赤紫の女なんて始めから風呂に入ってないんだよ」
「あ!でもその女の人なら見たニャ」
「「え!?」」
マギーの一言にみんなずっこけそうになる。誰もいなかったんじゃないのか?
「ちょっとマギー、これは大事な話なんですよ?ふざけている場合ではありません。女湯には誰もいなかったんでしょう?」
ルーミがきつめの口調で彼女を責める。
「そんなに怒らないでニャ。女湯には誰もいなかったニャ。でもその人なら見たのニャ」
「どういうこと?」
「マギーは昨日の夜にも一人でお風呂に来たのニャ。でもそのときはお風呂の掃除をしていて入れなかったのニャ。お風呂の前に立ってた人が、掃除中だって教えてくれたのニャ」
なんだ、そういうことか。マギーは昨日の夜に赤紫の女と会ったのだ。
「良い匂いがしたから覚えてるのニャ。お花の匂いで、何となく懐かしい感じがしたのニャ」
「その匂いは女湯からはしなかったのですね?」
「そうニャ。したら気付くのニャ」
マギーの話にレナが納得といった顔で頷く。
「なるほどね。これでユバさんの話の裏付けがとれたわね。確かに赤紫の女は夜のうちに女湯に来た。しかしユバもフバも気付かないうちに出ていった」
「そんなことあり得るのかい?」
「現にその人はいないし、女湯には代わりに男が入っていた。番頭台からは気付けない方法で出入りできたと考えるのが自然でしょうね」
「フバさん、ちなみにそのあとはどうなのでしょうか?」
リットが再びフバに尋ねる。
「ああ、朝食の時間を過ぎた頃にその子達が入ってきたね。それからその二人。そして悲鳴さ」
フバはルーミたち、そして僕とララを指しながら溜め息をつく。
「遺体発見時の様子はもう少しはっきりさせてえな」
囲炉裏に当たっていたキールがいつの間にか傍に来ていた。
「えーと、ルーミちゃんとマギーちゃんだっけね。それからもう二人の女の子が4人で女湯へ。一緒に来た刑事さんが男湯へ入っていったね。次にそこのお似合いのお二人さんが来て、別々に分かれて入っていった」
お、お似合いとかそんな……。ララを見ると顔を背けている。どんな表情をしているかここからでは分からない。ふと、こちらを見ているキールのいたずらっぽい顔が目に映る。
「それからしばらくして悲鳴が聞こえて、何事かと番頭台を下りたらそこの男の子が」
「えっ!そこまで話すの!?」
「まあ、詳しい状況が必要だって言うからね。彼が女湯に飛び込んでいったのさ」
「ほう……。テオンが堂々とねえ」
にやにやとしたキールの目つきが僕を舐め回す。やめろ、やめてくれ……。
「それでテオンとララ、変な空気になってんのか」
バウアーも納得した顔で頷いている。先程同じ顔をしていたレナは、何とも言えない残念そうな顔で僕を見ていた。やめろ、やめてくれ……。
「あたしもバスタオルを持って女湯に入ったけど、あれはなかなか修羅場だったねえ」
フバまでにやにやと……。早く事件の話に戻そう。
「そ、それで死体の方は?僕はよく見えなかったんだけど、フバさんは見ましたか?」
「そうねえ。坊やは他のものに目が釘付けになっていたからねえ。ああ、そういえばあたしも死体はよく見てないね。湯気が邪魔で男か女かも分からなかった」
フバの言葉を今度はララが継ぐ。
「私もよくは見えませんでした。がっしりした背中と短髪の頭が見えて何となく男かなと思っただけ。オルガノさんがちゃんと調べるまでは誰も近寄って確認しなかったし」
「ねえ」
今度はレナがララに尋ねる。
「遺体はうつ伏せにお湯に浮いていたの?」
「ええ、湯船の奥の方で。手前の方からでは湯気で全然分からなかったんだけど」
「それじゃ近付いて初めて死んでいると?」
「私はそもそも気配察知で、そこに生きてる人がいないことは分かっていたので……」
そうか、それでよく確認しなくても死体だと分かったわけか……。
「ところで……」
レナが次の質問をしようとしたとき。
どたどたどた。
客室へ続く廊下から女将のカレンが駆けてきた。
「皆さんどうしよう!?お客様がひとり、返事をしてくれないの!!」
肩で息をするカレンにゼルダが駆け寄り、背中をさする。
「女将さん、落ち着いてください。どういうことでしょうか?」
「は、はい。ただいまお客様に簡単な事情の説明と、しばらく部屋から出ないようにと話して回っていたのですが、一室返事のない部屋がありまして……」
そこでレナが思い付いたように顔を上げて尋ねる。
「そのお客さん、もしかして赤紫の髪の人だったりするかしら?」
女将は驚いて目を見開く。
「ええ。赤紫の髪の、ハニカ・ジュバさんとおっしゃいます。どうしてそれを?」
「その人、もしかしたらこの事件の重要な関係者かもしれません」
重要な関係者……。確かにお風呂場から誰にも気付かれずにいなくなったのは気にかかるが、レナはどうやらそれ以上に考えているようだった。
「女将さん、その部屋のマスターキーなどはありますか?」
アデルが聞く。
「逆にその人も犯人に命を狙われたということもあり得ます。これは緊急性を要する場合と言って良いでしょう。オルガノ刑事からは広間から動かないよう言われていますが、僕は捜査に協力するためいくらか裁量を与えられています。僕が許可致しますので、その方の部屋へ突入しましょう」
アデルの提案にカレンは少し戸惑った様子を見せるが、すぐに頷いた。
「僕も行きます」「私も」
僕やレナが声を上げ、さらにアデルとキールが同行することになった。
「ゼルダ、悪いけど広間にいる皆を見ていてくれないか。この場合はあまり部外者を信用しちゃいけないんだけど、僕にとって君は特別だ。この場は任せるよ」
「特別……。ええ、分かったわ。任された」
「それじゃ行こうか」
「はい、ハニカ・ジュバさんはお一人で2階の部屋にお泊まりです」
こうして僕らは女将の先導のもと、赤紫の髪の女、ハニカ・ジュバの部屋へ向かったのだった。
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