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第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
第16話 悲劇、再び
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―――宿屋内
「ファムから定期通信が入りました。少し静かにしていてください」
ミミの言葉に部屋の者は皆口を噤む。ようやく外の様子が分かる。その緊張感に思わず唾を飲み込んだメルー。その音にすら彼女は反応し、鋭い視線を向ける。祈りながら戦いの終結を待つことしかできないルーミたちは、不安と緊張で汗だくになっていた。
「ふう。もういいです」
ミミが顔を上げる。堅い面持ちでルーミとメルーの二人が次の言葉を待つ。
「第1作戦は成功、敵の8割が流砂で身動きのとれない状態になりました。ゼルダちゃんは魔力を使い果たして眠ってしまったようです。第2作戦、レナさんサイドは概ね良好、ただしレオールの実力が想定以上だそうで。ララちゃんサイドも目的の3人は落としたと……」
「あの、テオンさんサイドは……?」
ルーミが恐る恐る口を開く。
「『状況不明。敵船に潜入したのは確認したが、その船は今ララちゃんに向かって動き出した』とのことです」
「テオンさんは制圧に失敗したということでしょうか」
メルーの言葉にルーミの顔が青ざめていく。敵船に一人で乗り込んで制圧に失敗……。嫌な想像が浮かぶ。捕まったか、最悪既に命も……。
「まだそうと決まったわけではありません。信じましょう」
ミミは尚も頭上の音に耳を澄ましている。ルーミとメルーは再び手を組んで祈り続けるのだった。
―――レナサイド
「よくもマギーちゃんを……覚悟なさい!私ももう、出し惜しみはしない!!」
私はきっとレオールを睨み付ける。彼はレイピアを胸の前に立て、左手を腰の後ろに回して礼をした。あれは……。
「何のつもり……?それはメラン王国騎士隊の決闘のときの作法。何故あなたがそれを知っているの?」
「ん?ああ別に決闘のつもりはない。癖になっているだけだ」
「癖……?まさかあなた、元メラン騎士だと言うんじゃないでしょうね」
レオールはにっと笑って右に歩き出す。私も右に回りながら、常に間に粘着罠が位置するようにする。直線で攻められれば私では対処が間に合わないだろう。
ベルトのポーチに手を入れる。普段使っているポケットの隣、いざというときの為の取っておきの魔道具たちだ。
「何故、アウルム帝国に付いてるの?」
「答える義理はねえな」
レオールはそういうと罠を突っ切って走り出した。私にはもう大まかな範囲でしか把握できていない罠の位置を、的確に避けて足を出している。それも視線は私を捉えたままで。
罠の近くじゃ……寧ろ不利か。
後ろに飛び退りながら魔道具を取り出し、地面に叩きつける。エアボム。圧縮した空気の爆弾で瞬間的に突風を生み出す。あわよくばこれでふらついて罠に掛かってくれたら……。
「浅はかな」
レオールは少し速度を緩めて難なく風を耐えた。もう罠地帯を抜ける。だが風に乗るように後退した私との間に、大きな距離が開いている。この間合いが欲しかったのだ。
さあ、行くわよ。
いよいよ取っておきの魔道具を投げる。ぼんと音がして煙から現れたのは機械兵。右手には長剣、左手にはボウガンを装着している。どんな場所でも移動できるように、足は6本ある。
動力である魔力を大量に注入し続けなければならないため、並みの道具魔術師には使いこなせない。だが大型の魔物ですら簡単に屠ることができる。こいつが私の最後の切り札、どんでん返しの機械仕掛けの神だ。
「頼んだわよ、デウスエクスマキナ!!」
鉄仮面の奥で赤い光が妖しげに煌めき、レオールを捉えて動き出した。
―――ララサイド
砂丘の起伏に潜んでいたララは、死角から近付いてくるマザーモービルにまだ気付いていなかった。
「大群の指揮官、気配察知、それに怪しい感じのする人、すべて仕留めた。これでもまだ宿屋に向かおうとするなら、先頭から足を止めなくちゃ」
尚も暗闇に目を凝らし、砂に浮かぶ20隻前後のモービルの動きを追っていた。彼らは指揮官を射抜かれたことに動揺して進行を止めている。だがモービルの向きを変えようとは誰もしていなかった。
ちかっ!!
彼女の脳裡に謎の光が点く。気配察知スキルが反応したのだ。光は6つ。マザーモービルである。
(うそ……。こっちに向かってる。何で……?)
段取りとは異なる展開に焦るララ。だがすぐさま思考を切り替える。
(どうせこっちが片付いたら様子を見に行く予定だったんだもん。好都合。テオンに何かあったら容赦しないんだから)
手に握る弓、腰の長剣、背中の矢筒……。ララは自らの武器を一通り撫でて安心を得る。そして一本矢をつがえて、集中……。しばらくしてその矢はビュッと放たれた。
―――一方その頃、マザーモービル内
「うぐっ……」
腹を思いっきり蹴られる。ティップは目を血走らせて怒りを露にしていた。
「この野蛮人どもめ!またしても俺の優秀な部下をああも簡単に……。命をなんだと思っていやがる!!」
それをお前が言うのか……と思うが麻痺のせいで全く口が動かない。さっきから僕は一方的にティップの蹴りを受けていたのだった。
それにしても怒りが沸く。命をなんだと、だと?そう思うならお前は何故ペトラを滅ぼしたのか。何故ミミの家族を殺したのか。自分の部下以外は命とも思っていないとでも言うのか……。
「ティップ様、そいつにはまだ利用価値があります。それ以上蹴って動かなくなったら損害です」
「はあ、はあ……。ああ、分かってる。だがもう一発、もう一発だけ……」
「ティップ様……!!」
マイクがティップを羽交い締めにして止める。彼は肩を上下させて息を荒げているが、マイクの宥める声に少しずつ平静を取り戻しつつあった。
「すまん、マイク。ところで小娘はまだか?」
「そろそろ目視できる頃かと。覗き窓からご覧になりますか?」
彼は頷くと壁に開いた丸い窓に顔を貼り付けて、真っ暗な外の闇に目を凝らした。そのとき。
ずどんっ!!!!
「ぐわああっ!!」
その窓に鋭い衝撃が響いた。驚いたティップが盛大に尻餅をつく。見ると、窓には小さく皹が入っていた。矢……間違いない、ララの矢だ!
「ティップ様!!大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。驚いただけだ。しかしもうあの娘の射程範囲なのか」
「何ということでしょうか。外に張ってある障壁を破り、更に魔法で強化されたガラスに皹を入れるなど……。想定以上の威力です。命中精度も人の域を越えております」
「おのれ、忌々しい!!」
「ぐふっ!!」
再び蹴られた。身体を丸める。いつの間にか麻痺が消えて少し身体を動かせるようになっていた。
「弓の娘!!隠れているのは分かっている。出てこい!!」
「弓を引くのは慎重になさいませ。こちらには人質がいます。無闇に射ると人質の命は保証できませんよ」
ティップたちは船の中から声を上げる。やがて長剣を握りしめたララが砂の中から現れた。
「あん?弓だけじゃなく剣も使うのか。つくづく危ねえ女だな」
ティップはそういうと船の後ろのドアを開く。荷台から乗降できるようになっているらしい。
「よう、よくも俺の部下を何人も殺してくれたな」
「…………」
ララは一瞬驚いて目を見開いたが、声に応えることはなかった。
「おっと、早まるなよ。こっちにはこんなのがいるんだ」
彼はプルース三兄妹の長男トットの後ろ襟を掴むと、その顔をぐいっと彼女に向けた。
彼女はまたも驚くが応えない。腰を落として長剣を握る手に力がこもる。
「何だ?野蛮人は人質なんてお構いなしか?それともお前とこいつらの間には面識がなかったか?」
彼はさらにポットとリットの顔も起こすと、二人を盾にするようにして砂地に降りた。
だが彼女は二人には目もくれずティップに飛びかかった。
「おっと!本当に来やがった!!」
彼は筒で剣を受け止める。咄嗟のことで二人を地面に落としてしまった。逆に安全は確保できたようだ。
「ティップ様!!なるほど、あなたはプルース三兄妹の命などどうでもよかったのですか。しかし、この者ならどうですか?」
マイクは僕の首を後ろから掴み持ち上げた。感覚が戻りつつある足を踏ん張って転ぶのを防ぐ。
今だ……!!
ここで光のナイフを発動し縄を切る。こいつを抑えてしまえば、ララがティップに負けるなどあり得ない。マイクは僕が古代スキルを有していることを知らない。これで逆転できる……。
マイクに気付かれないように右手に意識を集中し、素早くナイフを……。
あれ……?光が発動しない……。どうして?どれだけ意識を集中しても、光の力は応えてはくれなかった。
『いいか、テオン。高位のスキルだからといって、必ずしも低位のスキルより強いとは限らないのじゃ。大事なのは鍛練と熟練じゃぞ』
いつかの村長の声が蘇る。僕のスキルは未熟過ぎて、低位スキルであるマイクの拘束に敵わないというのか……。いや、ここで発動させなきゃ、ララが危ない!!
「テオンっ!!」
ララが大きく動揺している。ティップがさっと後ろに退きながら筒を向ける。
「やっと人間らしい顔になったな。そのままにさせてやろう」
だんっ!!
ララはまともに魔力弾を受けてしまった。僕が撃たれたのと同じ麻痺弾だ。
「テ、テオン……」
どさっ。ララが倒れる。マイクがにやにやしながら近付いていく。ティップが不気味に笑みをこぼす。こいつら……。
(くそ……!ララが危ないのに……おい、光の力!古代のすごいスキルなんだろ!?こんな拘束破れるんだろ!?早く……早く発動しろよ!早く……あいつらぶっ倒せよ!!)
『ダメ!落ち着いて、冷静になって!それ以上は……』
今の……声は……?
右手に熱が集まる。魔力が高まるのを感じる。何かが壊れるのを感じる。そして……。
かっ!!ぴかー……っ!!
光が漏れる。身体全体が光る。膨らんでいく。広がっていく。この感覚は……やばい!でももう、止められない……!!
あの日、草原を覆い尽くした光が再び目の前を覆い尽くしていく。まただ。切り札になるはずの光の力は、再び悲劇を招こうとしていた……。
「ファムから定期通信が入りました。少し静かにしていてください」
ミミの言葉に部屋の者は皆口を噤む。ようやく外の様子が分かる。その緊張感に思わず唾を飲み込んだメルー。その音にすら彼女は反応し、鋭い視線を向ける。祈りながら戦いの終結を待つことしかできないルーミたちは、不安と緊張で汗だくになっていた。
「ふう。もういいです」
ミミが顔を上げる。堅い面持ちでルーミとメルーの二人が次の言葉を待つ。
「第1作戦は成功、敵の8割が流砂で身動きのとれない状態になりました。ゼルダちゃんは魔力を使い果たして眠ってしまったようです。第2作戦、レナさんサイドは概ね良好、ただしレオールの実力が想定以上だそうで。ララちゃんサイドも目的の3人は落としたと……」
「あの、テオンさんサイドは……?」
ルーミが恐る恐る口を開く。
「『状況不明。敵船に潜入したのは確認したが、その船は今ララちゃんに向かって動き出した』とのことです」
「テオンさんは制圧に失敗したということでしょうか」
メルーの言葉にルーミの顔が青ざめていく。敵船に一人で乗り込んで制圧に失敗……。嫌な想像が浮かぶ。捕まったか、最悪既に命も……。
「まだそうと決まったわけではありません。信じましょう」
ミミは尚も頭上の音に耳を澄ましている。ルーミとメルーは再び手を組んで祈り続けるのだった。
―――レナサイド
「よくもマギーちゃんを……覚悟なさい!私ももう、出し惜しみはしない!!」
私はきっとレオールを睨み付ける。彼はレイピアを胸の前に立て、左手を腰の後ろに回して礼をした。あれは……。
「何のつもり……?それはメラン王国騎士隊の決闘のときの作法。何故あなたがそれを知っているの?」
「ん?ああ別に決闘のつもりはない。癖になっているだけだ」
「癖……?まさかあなた、元メラン騎士だと言うんじゃないでしょうね」
レオールはにっと笑って右に歩き出す。私も右に回りながら、常に間に粘着罠が位置するようにする。直線で攻められれば私では対処が間に合わないだろう。
ベルトのポーチに手を入れる。普段使っているポケットの隣、いざというときの為の取っておきの魔道具たちだ。
「何故、アウルム帝国に付いてるの?」
「答える義理はねえな」
レオールはそういうと罠を突っ切って走り出した。私にはもう大まかな範囲でしか把握できていない罠の位置を、的確に避けて足を出している。それも視線は私を捉えたままで。
罠の近くじゃ……寧ろ不利か。
後ろに飛び退りながら魔道具を取り出し、地面に叩きつける。エアボム。圧縮した空気の爆弾で瞬間的に突風を生み出す。あわよくばこれでふらついて罠に掛かってくれたら……。
「浅はかな」
レオールは少し速度を緩めて難なく風を耐えた。もう罠地帯を抜ける。だが風に乗るように後退した私との間に、大きな距離が開いている。この間合いが欲しかったのだ。
さあ、行くわよ。
いよいよ取っておきの魔道具を投げる。ぼんと音がして煙から現れたのは機械兵。右手には長剣、左手にはボウガンを装着している。どんな場所でも移動できるように、足は6本ある。
動力である魔力を大量に注入し続けなければならないため、並みの道具魔術師には使いこなせない。だが大型の魔物ですら簡単に屠ることができる。こいつが私の最後の切り札、どんでん返しの機械仕掛けの神だ。
「頼んだわよ、デウスエクスマキナ!!」
鉄仮面の奥で赤い光が妖しげに煌めき、レオールを捉えて動き出した。
―――ララサイド
砂丘の起伏に潜んでいたララは、死角から近付いてくるマザーモービルにまだ気付いていなかった。
「大群の指揮官、気配察知、それに怪しい感じのする人、すべて仕留めた。これでもまだ宿屋に向かおうとするなら、先頭から足を止めなくちゃ」
尚も暗闇に目を凝らし、砂に浮かぶ20隻前後のモービルの動きを追っていた。彼らは指揮官を射抜かれたことに動揺して進行を止めている。だがモービルの向きを変えようとは誰もしていなかった。
ちかっ!!
彼女の脳裡に謎の光が点く。気配察知スキルが反応したのだ。光は6つ。マザーモービルである。
(うそ……。こっちに向かってる。何で……?)
段取りとは異なる展開に焦るララ。だがすぐさま思考を切り替える。
(どうせこっちが片付いたら様子を見に行く予定だったんだもん。好都合。テオンに何かあったら容赦しないんだから)
手に握る弓、腰の長剣、背中の矢筒……。ララは自らの武器を一通り撫でて安心を得る。そして一本矢をつがえて、集中……。しばらくしてその矢はビュッと放たれた。
―――一方その頃、マザーモービル内
「うぐっ……」
腹を思いっきり蹴られる。ティップは目を血走らせて怒りを露にしていた。
「この野蛮人どもめ!またしても俺の優秀な部下をああも簡単に……。命をなんだと思っていやがる!!」
それをお前が言うのか……と思うが麻痺のせいで全く口が動かない。さっきから僕は一方的にティップの蹴りを受けていたのだった。
それにしても怒りが沸く。命をなんだと、だと?そう思うならお前は何故ペトラを滅ぼしたのか。何故ミミの家族を殺したのか。自分の部下以外は命とも思っていないとでも言うのか……。
「ティップ様、そいつにはまだ利用価値があります。それ以上蹴って動かなくなったら損害です」
「はあ、はあ……。ああ、分かってる。だがもう一発、もう一発だけ……」
「ティップ様……!!」
マイクがティップを羽交い締めにして止める。彼は肩を上下させて息を荒げているが、マイクの宥める声に少しずつ平静を取り戻しつつあった。
「すまん、マイク。ところで小娘はまだか?」
「そろそろ目視できる頃かと。覗き窓からご覧になりますか?」
彼は頷くと壁に開いた丸い窓に顔を貼り付けて、真っ暗な外の闇に目を凝らした。そのとき。
ずどんっ!!!!
「ぐわああっ!!」
その窓に鋭い衝撃が響いた。驚いたティップが盛大に尻餅をつく。見ると、窓には小さく皹が入っていた。矢……間違いない、ララの矢だ!
「ティップ様!!大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。驚いただけだ。しかしもうあの娘の射程範囲なのか」
「何ということでしょうか。外に張ってある障壁を破り、更に魔法で強化されたガラスに皹を入れるなど……。想定以上の威力です。命中精度も人の域を越えております」
「おのれ、忌々しい!!」
「ぐふっ!!」
再び蹴られた。身体を丸める。いつの間にか麻痺が消えて少し身体を動かせるようになっていた。
「弓の娘!!隠れているのは分かっている。出てこい!!」
「弓を引くのは慎重になさいませ。こちらには人質がいます。無闇に射ると人質の命は保証できませんよ」
ティップたちは船の中から声を上げる。やがて長剣を握りしめたララが砂の中から現れた。
「あん?弓だけじゃなく剣も使うのか。つくづく危ねえ女だな」
ティップはそういうと船の後ろのドアを開く。荷台から乗降できるようになっているらしい。
「よう、よくも俺の部下を何人も殺してくれたな」
「…………」
ララは一瞬驚いて目を見開いたが、声に応えることはなかった。
「おっと、早まるなよ。こっちにはこんなのがいるんだ」
彼はプルース三兄妹の長男トットの後ろ襟を掴むと、その顔をぐいっと彼女に向けた。
彼女はまたも驚くが応えない。腰を落として長剣を握る手に力がこもる。
「何だ?野蛮人は人質なんてお構いなしか?それともお前とこいつらの間には面識がなかったか?」
彼はさらにポットとリットの顔も起こすと、二人を盾にするようにして砂地に降りた。
だが彼女は二人には目もくれずティップに飛びかかった。
「おっと!本当に来やがった!!」
彼は筒で剣を受け止める。咄嗟のことで二人を地面に落としてしまった。逆に安全は確保できたようだ。
「ティップ様!!なるほど、あなたはプルース三兄妹の命などどうでもよかったのですか。しかし、この者ならどうですか?」
マイクは僕の首を後ろから掴み持ち上げた。感覚が戻りつつある足を踏ん張って転ぶのを防ぐ。
今だ……!!
ここで光のナイフを発動し縄を切る。こいつを抑えてしまえば、ララがティップに負けるなどあり得ない。マイクは僕が古代スキルを有していることを知らない。これで逆転できる……。
マイクに気付かれないように右手に意識を集中し、素早くナイフを……。
あれ……?光が発動しない……。どうして?どれだけ意識を集中しても、光の力は応えてはくれなかった。
『いいか、テオン。高位のスキルだからといって、必ずしも低位のスキルより強いとは限らないのじゃ。大事なのは鍛練と熟練じゃぞ』
いつかの村長の声が蘇る。僕のスキルは未熟過ぎて、低位スキルであるマイクの拘束に敵わないというのか……。いや、ここで発動させなきゃ、ララが危ない!!
「テオンっ!!」
ララが大きく動揺している。ティップがさっと後ろに退きながら筒を向ける。
「やっと人間らしい顔になったな。そのままにさせてやろう」
だんっ!!
ララはまともに魔力弾を受けてしまった。僕が撃たれたのと同じ麻痺弾だ。
「テ、テオン……」
どさっ。ララが倒れる。マイクがにやにやしながら近付いていく。ティップが不気味に笑みをこぼす。こいつら……。
(くそ……!ララが危ないのに……おい、光の力!古代のすごいスキルなんだろ!?こんな拘束破れるんだろ!?早く……早く発動しろよ!早く……あいつらぶっ倒せよ!!)
『ダメ!落ち着いて、冷静になって!それ以上は……』
今の……声は……?
右手に熱が集まる。魔力が高まるのを感じる。何かが壊れるのを感じる。そして……。
かっ!!ぴかー……っ!!
光が漏れる。身体全体が光る。膨らんでいく。広がっていく。この感覚は……やばい!でももう、止められない……!!
あの日、草原を覆い尽くした光が再び目の前を覆い尽くしていく。まただ。切り札になるはずの光の力は、再び悲劇を招こうとしていた……。
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