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第3章 旅は道連れ、よは明けやらで
第14話 マザーモービル
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―――作戦会議中
「いいですか?アルタイルには少なくとも二人、注意すべき人物がいます。赤い短髪の男レオールと会長マイクです。マイクはどちらかというと後方支援タイプの魔導士ですが、相手を束縛するタイプの魔法を使ってきます。レオールはがっつり戦闘タイプで、彼と戦った者たちはアルタイルの猟犬と言って恐れていました」
「レオールとマイクか……。今まで砂漠の魔物と戦うあたしたちを見て、誰なら誰に勝てそうとかって分かる?」
「テオンさんとララさんの二人がかりならレオールに勝てるかもしれません。夜マギーさんとララさんでもいいかもしれませんね。そういえばレナさんはお強いんですか?」
「そういえばレナさん、砂漠に入ってから全く戦ってないよね。Aランクの道具魔術士ですから僕より強いですよ」
「ちょっ!!テオン君ここでそれを言ったら……」
「そうですか!!それならお一人で強敵を相手にできるかもしれませんね!」
「ではテオンさんとララさんにはマイクを、レナさんとマギーさんにはレオールを任せましょう。他にも強敵がいるかもしれませんが、先程の作戦である程度減らせるでしょうから残りのメンバーで何とかしましょう。私も魔力を少し残して砂嵐を止めるので、多少は戦えます」
「テオンさんならマイクに苦戦することはないでしょう。早めに倒して他に加勢してもらうのが得策かと思います」
「いや、僕はまだまだ戦闘経験は浅いです。期待に応えられるとは……」
「特訓では私の剣を片手で捌くのです。そんな謙遜は無用ですよ。頼りにしていますね」
ファムは爽やかな笑顔で僕に微笑んだ。
―――現在、マギーサイド
砂嵐と流砂の罠によって動きを封じられたアルタイルは撤退を始めていた。しかし8割ほどは流砂に飲まれている。
乗り物に乗ったまま浮遊を続けていたものは無事だったが、仲間を助けようとして機体を砂に触れさせてしまい、浮遊の魔法が乱れて逆に流砂に取り込まれてしまった。
「救助は諦めろ!!動けるものはモービルに乗って一時退却!」
指揮官の声に皆仲間を残して引き下がっていったのだ。
「これで作戦第一段階、分断と足止め完了ニャ」
「奴ら、一旦マザーの周りに退却とのことです」
アルタイルの声を遠くの喧騒の中から拾い上げるのはファムだ。顔を引き締めて音に集中している。彼らから聞き取れるだけの情報をマギーに伝えるのがファムの役目だった。
「マザーというのはあの大きな乗り物のことかニャ?大将が乗っていそうな立派なやつニャ。この状況で動きを見せないのが不気味ニャね……」
「あとは私が砂嵐を保てる間に、テオンさんたちとレナさんたちが敵の指揮系統を破壊できれば……」
ゼルダがこの砂嵐を発生させていられる時間には限りがあった。
「レナはもうレオールと戦い始めているニャね」
レナは魔道具から炎を出してレオールの動きを抑えようとしているようだが、レオールはものともせずに距離を詰める。遠距離からの攻撃が主な彼女とは相性が悪そうだとマギーは見ていた。
「私はあっちに加勢に行くニャ。ファム、ここは一人で大丈夫ニャ?」
「ええ、ゼルダ様のことは私が必ず!!」
ファムの力強い言葉にマギーは頷き、レナの元へ走るのだった。
―――敵船「マザーモービル」内
「くくく。ははははは!!不意打ちを仕掛けたこちら側がこの様か!面白い、面白いぞ!!」
「申し訳ありません、ティップ様!!まさか我々に気付いて罠を仕掛けているとは思わず……」
アルタイルの大群の後ろ、一番大きな箱形の乗り物――マザーモービルの中では、上品な出で立ちの恰幅のいい男に向かって、中肉中背の髭面の男が頭を下げていた。髭面の方は腕に黄色いスカーフを巻いている。
「いやいいさ。お前たちは軍隊じゃない、ただの狩猟同好会だ。寧ろ精々10匹ちょっとの獲物に、その10倍の狩人を翻弄する術があったことに驚いているのさ。砂嵐の方はキツネの仕業だろうが、流砂の方は逃げ出した奴隷がやったことだ」
「なんと!!しかし彼らに大規模な魔法を使う魔力など……」
「だから面白いのさ。さて、笑ってばかりもいられんよ。奴らの罠の目的はただの足止めだと思うか、会長?宿に乗り込んだ奴らも苦労しているようだ。一人の婆さんに半分が眠らされちまった。既に包囲を縮めて加勢するよう要求してやがる」
ティップは会長と呼ばれた男に拡声器を渡す。
「こちらの状況を宿屋に伝えつつ、まずは交渉してみろ」
会長はぎゅっと拡声器を握る。その手は汗で濡れていた。
―――テオンサイド
「あ、ようやく誰か出てきたね。あれが敵のリーダー?」
ララが見据える大型のモービルの上から男が顔を出した。ここからだと男の後頭部が丸見えだ。彼女ならいつでも狙撃できるだろう。
「いやはや見事!!これほどの大規模魔法にお目にかかれるとは、感服いたしました。すっかり足を止められてしまいましたよ。まずは賞賛と、そして大人数で押し掛けて驚かせてしまったことを詫びましょう。
私の名前はアルタイル狩猟同好会会長、マイク・アルシャイン。そちらの代表者の方と対話がしたいのです」
男は拡声器を通じて大声を上げる。だがこちらが対話要求に応じる義理はない。宿の方で大きな閃光が起きる。レナの合図だ。敵の先遣隊を一人を除き制圧した合図。次は僕らの番だ。
「じゃあララ、行ってくるよ」
僕は岩影を飛び出して敵将の母船に接近する。出入り口は横にあるらしいが、今なら上から侵入できる。ララは気配察知でいつでも僕の動きが分かる。僕は母船に飛び乗った。
マイクが僕の接近に気付く前に、その肩を矢が貫く。ララの狙撃だ。その男ごと車内に押し込むようにして、僕は敵将の乗る車に入り込んだのだった。
「おっと、交渉の余地なくこちらに乗り込むか。なるほど、一筋縄ではいかない相手だ」
車内にいた大柄の男はそう言いながら、既にこちらに魔力弾の筒を向けていた。車内は薄暗く、カーテンで前後に仕切ってある。カーテンの後ろは荷台といったところだろうか。
「あれ、このマイクってやつは会長だと名乗っていたが、あんたの方が偉そうだな?何者だ?」
「ふん、名前を聞く前に名乗るものだよ。まあいい。俺はティップ、しがない商人だ。ああいいよ、名乗らなくて」
ティップは後ろのカーテンを開け、荷台を露にする。
「お前はすぐにこうするから」
「なっ!!」
ティップが開けたカーテンの向こうにいたのは、手足を縛られて眠らされたプルース三兄妹だった。教会でちらっと会ったくらいだが、知った顔が敵に捕まっているのは面白くない。
「まあこの至近距離で銃口を向けられて、言うことを聞かない馬鹿はいねえだろうけどな。おいマイク、動けるか?」
「ええ、やられたのは肩だけですから。バリア越しで貫通されたのは驚きましたが」
「バリア越し?何でそれで射抜かれてんだよ」
どうやらあの『気を張った』感じをバリアと言っているらしい。見たところ男の気はかなり密に張られているが、肩の辺り、脇腹の辺りなどいくつか揺らいでいるところがある。彼らはそれに気付いていないのだろうか。
「まあいい、早くそいつを縛れ。そのあとで宿屋ごと潰してキツネ狩りだ」
「しかし砂嵐が……」
「馬鹿野郎。あんな大魔法ずっと保てるわけねえだろ。こうして時間を潰していればそのうち消える」
こちらの弱点も相手にばれているようだ。うかうかしてはいられない。
ティップが銃と言ったあの筒から出る魔力弾は一度見ている。確かに速いが弓矢ほどじゃない。集中できればかわすことは容易だろう。問題は二人を相手に立ち回れるかというところか。
マイクが縄を持って近付く。右脇腹の気が弱まる。ティップの筒はまだ魔力を放つ兆しがない。いける!!
ゆっくりとマイクを向きながらも予備動作を隠し、間合いに入ったと見るや、左足で彼の脇腹に回し蹴りを入れる。同時に右足を浮かせて反動で大きく左へ跳びながら、右回りに回転してティップに正対する。
驚いた彼は、咄嗟に銃口を左に動かして魔力弾を放つが、ぶれてまともにこちらを向いていない。間合いを詰めながら、さっと剣に手を掛け鞘から抜く勢いで切りつけようとする。
「くっ!!」
かんっ!!
ティップは銃で剣を打ち落とす。
「それは悪手じゃないか?」
僕はそのまま銃を左手で押さえて体当たりする。動揺からかティップの気は銃を握る手の辺りに集中してしまっていた。これならまともにダメージも入るだろう。
彼は大きく吹き飛んで尻餅をつく。車体が大きく揺れる。その手は銃を離してしまっていた。
マイクも脇腹を押さえて床に転がっている。格闘術は修めていないから大した威力ではないはずだが、動く様子もないので今はティップを拘束するのを優先しよう。
僕は彼に向き直り剣を構える。左手に握ったままの銃には興味があるが、使えないものを持っていても仕方がない。二人から離れたところに捨てようとした、そのとき。
だん!!
胸に鋭い衝撃が走った。全身から力が抜けて膝から崩れ落ちる。一体何が……。
「はははっ!!随分間抜けな顔で驚いているな。どうやら銃のことをよく知らないらしいな。教えてやろうか?魔力のパスが通っていて充填されていれば、魔力が発散しきるまでは手を離れても発砲できるんだよ。メランの野蛮人どもには分からないだろうけどな」
身体に力が入らない。あの魔力弾、麻痺の効果もあるのか……。未知の武器を扱う相手の敵船に、情報不足のまま一人で乗り込んだのが軽率だった。
マイクが近付いて僕の脇腹に蹴りを入れる。
「全く面倒をかけてくれます。結構痛かったんですよ。この肩をやってくれた娘にも仕返ししなくてはなりませんね。あなた、大人しく協力してくださいね?」
僕はそのままプルース三兄妹と同様に手足を縛られてしまうのだった……。
「いいですか?アルタイルには少なくとも二人、注意すべき人物がいます。赤い短髪の男レオールと会長マイクです。マイクはどちらかというと後方支援タイプの魔導士ですが、相手を束縛するタイプの魔法を使ってきます。レオールはがっつり戦闘タイプで、彼と戦った者たちはアルタイルの猟犬と言って恐れていました」
「レオールとマイクか……。今まで砂漠の魔物と戦うあたしたちを見て、誰なら誰に勝てそうとかって分かる?」
「テオンさんとララさんの二人がかりならレオールに勝てるかもしれません。夜マギーさんとララさんでもいいかもしれませんね。そういえばレナさんはお強いんですか?」
「そういえばレナさん、砂漠に入ってから全く戦ってないよね。Aランクの道具魔術士ですから僕より強いですよ」
「ちょっ!!テオン君ここでそれを言ったら……」
「そうですか!!それならお一人で強敵を相手にできるかもしれませんね!」
「ではテオンさんとララさんにはマイクを、レナさんとマギーさんにはレオールを任せましょう。他にも強敵がいるかもしれませんが、先程の作戦である程度減らせるでしょうから残りのメンバーで何とかしましょう。私も魔力を少し残して砂嵐を止めるので、多少は戦えます」
「テオンさんならマイクに苦戦することはないでしょう。早めに倒して他に加勢してもらうのが得策かと思います」
「いや、僕はまだまだ戦闘経験は浅いです。期待に応えられるとは……」
「特訓では私の剣を片手で捌くのです。そんな謙遜は無用ですよ。頼りにしていますね」
ファムは爽やかな笑顔で僕に微笑んだ。
―――現在、マギーサイド
砂嵐と流砂の罠によって動きを封じられたアルタイルは撤退を始めていた。しかし8割ほどは流砂に飲まれている。
乗り物に乗ったまま浮遊を続けていたものは無事だったが、仲間を助けようとして機体を砂に触れさせてしまい、浮遊の魔法が乱れて逆に流砂に取り込まれてしまった。
「救助は諦めろ!!動けるものはモービルに乗って一時退却!」
指揮官の声に皆仲間を残して引き下がっていったのだ。
「これで作戦第一段階、分断と足止め完了ニャ」
「奴ら、一旦マザーの周りに退却とのことです」
アルタイルの声を遠くの喧騒の中から拾い上げるのはファムだ。顔を引き締めて音に集中している。彼らから聞き取れるだけの情報をマギーに伝えるのがファムの役目だった。
「マザーというのはあの大きな乗り物のことかニャ?大将が乗っていそうな立派なやつニャ。この状況で動きを見せないのが不気味ニャね……」
「あとは私が砂嵐を保てる間に、テオンさんたちとレナさんたちが敵の指揮系統を破壊できれば……」
ゼルダがこの砂嵐を発生させていられる時間には限りがあった。
「レナはもうレオールと戦い始めているニャね」
レナは魔道具から炎を出してレオールの動きを抑えようとしているようだが、レオールはものともせずに距離を詰める。遠距離からの攻撃が主な彼女とは相性が悪そうだとマギーは見ていた。
「私はあっちに加勢に行くニャ。ファム、ここは一人で大丈夫ニャ?」
「ええ、ゼルダ様のことは私が必ず!!」
ファムの力強い言葉にマギーは頷き、レナの元へ走るのだった。
―――敵船「マザーモービル」内
「くくく。ははははは!!不意打ちを仕掛けたこちら側がこの様か!面白い、面白いぞ!!」
「申し訳ありません、ティップ様!!まさか我々に気付いて罠を仕掛けているとは思わず……」
アルタイルの大群の後ろ、一番大きな箱形の乗り物――マザーモービルの中では、上品な出で立ちの恰幅のいい男に向かって、中肉中背の髭面の男が頭を下げていた。髭面の方は腕に黄色いスカーフを巻いている。
「いやいいさ。お前たちは軍隊じゃない、ただの狩猟同好会だ。寧ろ精々10匹ちょっとの獲物に、その10倍の狩人を翻弄する術があったことに驚いているのさ。砂嵐の方はキツネの仕業だろうが、流砂の方は逃げ出した奴隷がやったことだ」
「なんと!!しかし彼らに大規模な魔法を使う魔力など……」
「だから面白いのさ。さて、笑ってばかりもいられんよ。奴らの罠の目的はただの足止めだと思うか、会長?宿に乗り込んだ奴らも苦労しているようだ。一人の婆さんに半分が眠らされちまった。既に包囲を縮めて加勢するよう要求してやがる」
ティップは会長と呼ばれた男に拡声器を渡す。
「こちらの状況を宿屋に伝えつつ、まずは交渉してみろ」
会長はぎゅっと拡声器を握る。その手は汗で濡れていた。
―――テオンサイド
「あ、ようやく誰か出てきたね。あれが敵のリーダー?」
ララが見据える大型のモービルの上から男が顔を出した。ここからだと男の後頭部が丸見えだ。彼女ならいつでも狙撃できるだろう。
「いやはや見事!!これほどの大規模魔法にお目にかかれるとは、感服いたしました。すっかり足を止められてしまいましたよ。まずは賞賛と、そして大人数で押し掛けて驚かせてしまったことを詫びましょう。
私の名前はアルタイル狩猟同好会会長、マイク・アルシャイン。そちらの代表者の方と対話がしたいのです」
男は拡声器を通じて大声を上げる。だがこちらが対話要求に応じる義理はない。宿の方で大きな閃光が起きる。レナの合図だ。敵の先遣隊を一人を除き制圧した合図。次は僕らの番だ。
「じゃあララ、行ってくるよ」
僕は岩影を飛び出して敵将の母船に接近する。出入り口は横にあるらしいが、今なら上から侵入できる。ララは気配察知でいつでも僕の動きが分かる。僕は母船に飛び乗った。
マイクが僕の接近に気付く前に、その肩を矢が貫く。ララの狙撃だ。その男ごと車内に押し込むようにして、僕は敵将の乗る車に入り込んだのだった。
「おっと、交渉の余地なくこちらに乗り込むか。なるほど、一筋縄ではいかない相手だ」
車内にいた大柄の男はそう言いながら、既にこちらに魔力弾の筒を向けていた。車内は薄暗く、カーテンで前後に仕切ってある。カーテンの後ろは荷台といったところだろうか。
「あれ、このマイクってやつは会長だと名乗っていたが、あんたの方が偉そうだな?何者だ?」
「ふん、名前を聞く前に名乗るものだよ。まあいい。俺はティップ、しがない商人だ。ああいいよ、名乗らなくて」
ティップは後ろのカーテンを開け、荷台を露にする。
「お前はすぐにこうするから」
「なっ!!」
ティップが開けたカーテンの向こうにいたのは、手足を縛られて眠らされたプルース三兄妹だった。教会でちらっと会ったくらいだが、知った顔が敵に捕まっているのは面白くない。
「まあこの至近距離で銃口を向けられて、言うことを聞かない馬鹿はいねえだろうけどな。おいマイク、動けるか?」
「ええ、やられたのは肩だけですから。バリア越しで貫通されたのは驚きましたが」
「バリア越し?何でそれで射抜かれてんだよ」
どうやらあの『気を張った』感じをバリアと言っているらしい。見たところ男の気はかなり密に張られているが、肩の辺り、脇腹の辺りなどいくつか揺らいでいるところがある。彼らはそれに気付いていないのだろうか。
「まあいい、早くそいつを縛れ。そのあとで宿屋ごと潰してキツネ狩りだ」
「しかし砂嵐が……」
「馬鹿野郎。あんな大魔法ずっと保てるわけねえだろ。こうして時間を潰していればそのうち消える」
こちらの弱点も相手にばれているようだ。うかうかしてはいられない。
ティップが銃と言ったあの筒から出る魔力弾は一度見ている。確かに速いが弓矢ほどじゃない。集中できればかわすことは容易だろう。問題は二人を相手に立ち回れるかというところか。
マイクが縄を持って近付く。右脇腹の気が弱まる。ティップの筒はまだ魔力を放つ兆しがない。いける!!
ゆっくりとマイクを向きながらも予備動作を隠し、間合いに入ったと見るや、左足で彼の脇腹に回し蹴りを入れる。同時に右足を浮かせて反動で大きく左へ跳びながら、右回りに回転してティップに正対する。
驚いた彼は、咄嗟に銃口を左に動かして魔力弾を放つが、ぶれてまともにこちらを向いていない。間合いを詰めながら、さっと剣に手を掛け鞘から抜く勢いで切りつけようとする。
「くっ!!」
かんっ!!
ティップは銃で剣を打ち落とす。
「それは悪手じゃないか?」
僕はそのまま銃を左手で押さえて体当たりする。動揺からかティップの気は銃を握る手の辺りに集中してしまっていた。これならまともにダメージも入るだろう。
彼は大きく吹き飛んで尻餅をつく。車体が大きく揺れる。その手は銃を離してしまっていた。
マイクも脇腹を押さえて床に転がっている。格闘術は修めていないから大した威力ではないはずだが、動く様子もないので今はティップを拘束するのを優先しよう。
僕は彼に向き直り剣を構える。左手に握ったままの銃には興味があるが、使えないものを持っていても仕方がない。二人から離れたところに捨てようとした、そのとき。
だん!!
胸に鋭い衝撃が走った。全身から力が抜けて膝から崩れ落ちる。一体何が……。
「はははっ!!随分間抜けな顔で驚いているな。どうやら銃のことをよく知らないらしいな。教えてやろうか?魔力のパスが通っていて充填されていれば、魔力が発散しきるまでは手を離れても発砲できるんだよ。メランの野蛮人どもには分からないだろうけどな」
身体に力が入らない。あの魔力弾、麻痺の効果もあるのか……。未知の武器を扱う相手の敵船に、情報不足のまま一人で乗り込んだのが軽率だった。
マイクが近付いて僕の脇腹に蹴りを入れる。
「全く面倒をかけてくれます。結構痛かったんですよ。この肩をやってくれた娘にも仕返ししなくてはなりませんね。あなた、大人しく協力してくださいね?」
僕はそのままプルース三兄妹と同様に手足を縛られてしまうのだった……。
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